[携帯モード] [URL送信]
タピオカミルクティーの憂鬱




小鳥のさえずりが聞こえる。青空には悠々と浮かぶ雲。大広間の天井はさわやかな朝を演出していて、食事をするのはとても気分が良い。

「せ、せんぱ・・・!か、かかカ・・・!」

・・・さっきまでは。


タピオカミルクティーの憂欝


由緒正しいスリザリン(なんて聞こえは良い)のテーブルから、不釣り合いな悲鳴が上がる。今まさにコーヒーを飲もうとカップに口をつけたレギュラスの手は動きを止め、その目は右隣に座る生徒を睨む。
その視線の先には自分の腕に縋りついてくる必死の形相のエルザがいた。口をパクパクさせているエルザを見て、そういえば東の方の国のキンギョって魚はこんな感じだったかな、と思考を飛ばそうと試みたが失敗した(非常に残念だ)


「うるさい落ち着け離せ(ボスッ)」

「もごー!」


レギュラスはエルザの口にミニクロワッサンをつっこんで黙らせ、こくりとコーヒーを飲む。口に広がる程よい苦さと香りにふっと眉間のシワがなくなるが、口にパンをつっこまれても尚もごもごと何かを言うエルザ(しかも器用なことにパンも同時進行で食べている)によって再び元に戻ってしまった。あ、パン食べ切った。


「先輩いきなり何ですか!?食べさせてもらうほど子供じゃないですよ私は!」

「で、どうしたの?朝から騒いで。」

「(あれ、これ無視されたよね?)」

「もう一個パン食べたいって?」


またクロワッサンに手を伸ばした(しかもさっきより大きい)レギュラスにあわててキルスティンは自分の口をふさいいで早口で答えた。


「わわ、私のミルクティーに、かかカエルの卵が、う、あんまりだー!」


そしてわっと泣きだした。
周りの人の視線が痛い。僕が泣かしたわけじゃないのに、僕への非難を感じる(なんて理不尽な!)

レギュラスは痛む頭を押さえて考える。冷静を装っているが内心焦りとか戸惑いとか苛立ちとかで胃がキリキリする。


「・・・エルザ、何に何が入ってるって?」

「わ、私のミルク、ミルクティーに、か、カエルのた、卵が・・・」


そこで一段とひっくとしゃくり声をあげる。エルザの顔はクシャクシャで目も鼻も赤くなっている。
ハァ、とため息をこぼすと彼女の肩がギュッと縮まる。この子はなんて泣き虫なんだ。


「エルザ、多分それタピオカだよ。」

「・・・え?」

「タピオカ。キャッサバから作るデンプンで作られるんだ。弾力があって、スイーツによく用いられる。これはタピオカミルクティーだよ。」

「タピオカ・・・?」


涙で濡れた目がレギュラスをとらえる。その様子だとタピオカを知らないみたいだ。レギュラスはハンカチをポケットから取り出して、エルザの涙を拭ってやる。鼻を押さえると見事に鼻をかんだ(色気の欠片もない)。幼稚園児を相手にしているような錯覚を覚える。あ、目眩がする。
まだぐずぐず鼻をすすっているエルザは、ミルクティーに浮かぶタピオカが食べれるということにまだ疑いをもっているらしく、じっと見ているが何も変わりはしない。論より証拠、説明するより早いだろうと、レギュラスはスプーンを持つと、ミルクティーをタピオカごとすくって口にする。あっと声を上げたエルザの視線を右顔に感じつつ、タピオカを噛んで飲み込む。甘い。隣に顔を向けるとまだ自分を見つめているエルザと目が合い、レギュラスは口を開く。


「大丈夫、食べれるよ。」


エルザはしばらくレギュラスを見て、そしてミルクティーを見て、両手でカップを持って恐る恐る口をつけた。目を閉じてタピオカを噛むその顔は険しいが、次第に表情も和らいでいって、遂にその目は輝きだした。


「お、おいしいです!」


そう言ってあっという間にミルクティーを飲み干すエルザを見て、レギュラスは少し笑った。その滅多に見せない笑顔は、ミルクティーに夢中なエルザは気付くことはなく、エルザがレギュラスの方を向いたときにはもうその笑顔はひっこめていて、「何?」といつもと変わらない口調で言った。


「いえ、あ、ありがとうございました。あとすいませんハンカチ、弁償します。」

「いいよ、ハンカチ位何枚も持ってるから。」


ありがとうございます、と言って、今までの自分の言動を思い出したのか、少し顔を赤くさせてうつむいたエルザの頭を、レギュラスはなんとなく撫でた。
その髪の毛はやわらかくあたたかで、こんな後輩も悪くないなぁ、と思いながらレギュラスは撫で続けた。


泣き虫おっちょこちょいと世話好き

「あ、制服にケチャップつけちゃった。」

・・・やっぱり嫌かもしれない





タピオカ好きな人ごめんなさい。




.

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!