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マシェリ
酒で洗い流す



「......!早いな、二人とも」

「どっかの誰かの修業相手したからな......やたら美味くてさ」

「ね。修業して良かったでしょ?って、言ってるシーだって早いじゃん」

「誰かの飲みっぷりをみてたらつい、な」



シーがそう言えば笑いが起きた。

予想通り、オレとネムイが集合時間ギリギリに到着して全員が揃い、始まった宴会は数年ぶりに会うやつが殆どのネムイの登場に、ただの飲み会から瞬く間にネムイの慰労会へと変貌した。

まぁ、それも一時のことで、散々揉みくちゃにされ、ふらふらとこっちにやって来たネムイが合流して今に至る。

この三人で酒を交わすのは今日が初めてだ。酒が進むのは程好い疲労感もそうだけど、やっぱこいつらといると楽しいからもある。



「あぁ......最っっ高〜〜〜!!」

「おっさんかよ.......」

「今時は"おっさん女子"がいるんですー!」



あー、そういえば聞いたことがあるな。

白い泡と黄金色の液で二層になってる飲み物を細い喉を鳴らしながらさぞ美味そうに飲んでるネムイ。

清々しいほどの飲みっぷりは見ていて気持ちいいもんだし、シーの言う通りつられちまう。ほんの少し前に来た飲み物は早くも空に近づいていた。計算したわけじゃねェ......たまたまオレもシーも残りをごくりと飲み干した。



「同じのください、三つで!」

「お前三つも飲むのかよ?」

「まさか。私とダルイとシーの分だってば」



「あぁ、なるほど」と向かいに座る同期は納得したようだ。まるで分かりきったかのようにオレらが次も同じものを飲むと見越して手慣れたようにネムイが言った。

訂正しないってことは、シーもオレと同じくネムイの読み通りのものを頼もうと思ってたってことだ。



「お前らって本当に仲良いいよな」

「ふふん......何てったってスリーマンセルですから」

「"お騒がせスリーマンセル"のことか!」

「......言っとくが、騒がしかったのはダルイとネムイだからな」



シーが鋭く指摘すればまた笑いが起きた。

スリーマンセル、か。

オレとネムイが先生に叱られる度、呆れながらシーが助けてくれてたもんだから、常に一緒にいる三人組なイメージが周りにはあるのかもしれねェけど、ネムイが言うスリーマンセルに込められた想いはオレとシーだけしか知らない。

オレとシーとネムイ......正式に組んだものじゃないけど、どれだけこいつがこの三人で組むことを強く望んでいたことか。

暢気に酒を飲みながら、久しぶりに会う仲間と雑談に花を咲かすこいつは昔と変わらぬ想いを抱いてくれてるようだ。隣に座るシーもオレと同じ思いらしく、頬を緩ませてた。



「ネムイ〜〜〜!」

「なーに?」

「さっきの話し、詳しく聞かせて!」



やってきた数人の女子たちはほろ酔い状態ながらも目を輝かせてる。根掘り葉掘り質問攻めされるだろうことを全く分かってないネムイは腕を引っ張られるまま連行されてった。



「......だるいことになりそうだな」

「しょうがないさ......久しぶりに会ったんだからな」



まぁ、そうだよな。

女子の飲み会での話はそりゃあエグいとよく聞く。
そうならないことを祈りつつ、オレはオレで楽しむ。

少し離れた席で同性のみでできた輪に入り、談笑してるネムイ。別に盗み聞きするつもりじゃねーけど、四方八方から酒を交わしながら賑わう大音声の中で何故か鮮明にそいつの声が耳に入ってくる。

これが後に災いをもたらすなんて、オレは知る由もなかった。



「もうね.........姫様が超〜〜〜可愛くって!」

「「「..........。」」」



ネムイの予想外すぎる出だしに周囲は拍子抜けする。

あのな、周りのやつらは護衛してた主についてじゃなくて主の兄にあたる"噂の方"のことを話すのを期待してんだよ━━━と、ツッコんでやりたいところだ。

そうとは知らずにネムイは自分が護衛してた主、姫さんについて熱く語りだした。曰く、春先に咲く色とりどりの花のように可憐で天真爛漫な人らしい。姫様は最終的にネムイの事を"姉"呼びするまで至ったそうだ。

家族がいないネムイにとって自分を慕う姫さんは、妹のような存在になったんだろ。話を聞いてて容易にその姿が浮かんでいかにもこいつらしいと思ったし、雷影様の人選は完璧だったと心底思った。



「......で!!勿論噂の方にもお会いしたんでしょ!?」

「......??噂の方?」

「若様よ、わ・か・さ・ま」

「あー.......!」



漸く周りの期待を理解したネムイが「ごめんごめん」と平謝りしながら困ったように笑った。

噂の若さんとやらは聡く、物腰柔らかで、色白の爽やか......簡単にまとめると"中身も容姿もイケメン"らしい。

......って、どう考えても女子の妄想が産んだ理想像だろ、それ。女子の理想的なものを全部つぎ込んだハイスペック野郎なんて早々いるわけねーよ。
あ、でも隣にいるこいつが柔らかくなれば、かなり近い存在になるか......?



「何だ、ジロジロと」

「何でもねーよ」



まぁ、オレにとっちゃどうでもいい話だ。

ちらっとあっちを見れば女子たちの目はさぞぎらついてるんだろう。さすがのネムイも困ったようにしてる。自分があいつだったらだるくてやってらんねーな。



「うーん......まぁ.......噂通り、です......はい...」



突然黄色い声が上がって周りの連中が苦笑する。

へぇ......あいつから見ても若さんはそう見えるんだ。何かしっくり来ないっつーか.........面白くないっつーか。

男から見てどんなやつなのか、是非ともお会いしたいね。



「ねぇ!その若様の所に一番長くいたわけでしょ?何か無かったの?」

「え?何も無いけど?」

「信じらんない......あんた絶好のチャンスを捨てたワケー!?」

「絶好の、チャンス??」



意味が分からず首を傾げるネムイに呆然とする女子たちにはすまねーけど、必死に笑いを堪えた。

今までの反応からして玉の輿を狙うなんざ発想はこいつにはない。そもそもネムイは姫さんのことで頭がいっぱいだ。



「あんた、若様を見て何とも思わなかったの?」

「んー、そうだな〜......歳が離れてるせいか姫様の面倒見てる姿が父親みたいで、優しい人なんだなって思ったかな。っていうか私、姫様の護衛だからね。若様とは会うことはあってもあまり喋らなかったし......」

「うわっ、勿体無い.........そこはガツガツ行くべきでしょ!!」

「それでも雲隠れのくノ一かーーーっ!」

「はーい。ボスの命令通り、襲ってきたやつらは全員こてんぱんにして、無事、任務遂行ー!」



暢気に言うネムイに女子たちは謎のアドバイスやら指摘するのを諦めたらしい。

......が、女子というものは恐ろしい。



「はい、私の話しはおしまい!さて、と......私はあっちへ......」

「まだ終わってないわよ〜、ネムイ?」

「み、みんな......飲み過ぎだって。そろそろノンアルに......」

「あんたが久しぶりに帰ってきたんだから飲まずにいられないわよ〜〜〜」



いつの間にか酒に変わってたにも関わらず、ネムイは至っていつも通りだけど周りは既に出来上がってる。面倒になりそうだと察してしれーっと逃げようとするネムイだったけど、それは叶わない。

腕を掴んだ女子がにこにこと笑みを浮かべてる。

おお、怖っ......。

久しぶりに帰ってきたネムイは完全に標的にされていた。



「じゃあ話を変えるけど。最近、どうなのよ」

「どうって、」

「ああもう!男はいないか、ってことよ〜」

「いないよ」

「「「えぇー......」」」

「だ、だって!修業と任務で忙しかったし、恋愛してる暇なんて無かったから......」



早々のネタ切れに残念がる女子たちにはすまねーけど、ほっと胸を撫で下ろした。

......って、何安心してんだ、オレは。

けどそれは、一瞬で覆される羽目になる。



「でもさー.........好きな人とかー、気になる人とかくらいいるでしょ〜?」



これが爆弾投下だった。

杯に口をつけたネムイの動きがピタリと一瞬止まったと思えば、突然、動きの悪い機械のようにぎこちなく杯をおろす。当然、女子たちがニヤけだした。

それと同時に訳の分からん、心臓を鷲掴みにされたような苦しさを覚えた。

ネムイの頬がほんのり染まってるのは......酒のせいじゃねェ。



「あんたって本当に分かりやすい!」

「ち、違うってば!!」

「ふーん?で.........誰なの?」

「い、いないよ!!」



鮮明に聞こえてた筈の声が段々遠くなって遂には周りの賑わう声にかき消された。

どくどくどく、と心臓が脈打つ。

何、動揺してんだ......オレ。

何もかも忘れるように、手元にあった酒を一気に飲み干した。






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