マシェリ
相も変わらぬやつ
徐々に日が伸び晴れ間が増え、あれだけ積もってた雪が嘘のように姿を消した。
地面から芽吹く若草色の野草や辺りに咲く薄桃色の小花が春の到来を告げている。
吹く風はまだ少しひんやりしてるけど、春の陽射しも相まって丁度いい。
そんな中ひたすら突っ走ってると、場面は見慣れた岩山地帯から森林地帯へと移る。
目の前に現れた太い枝を普通にかわして後ろに目をやった。
思わず苦笑したのは後ろに続く人物が危うくぶつかりかけたからだ。
「ふぅ......危ない危ない」
「......今絶対寝落ちしただろ、ネムイ」
「や、やだなぁ!そ、そ、そんなことないって!」
どんだけ慌ててんだよ......ったく、分かりやすいやつ。久しぶりに会ったこいつは昔とちっとも変わってねェ。
ネムイとはあの頃━━━アカデミーの頃からの付き合いだ。
なる気なんて更々無かったんだけどよ、オレたちは当時、アカデミーの名物生徒だったらしい。
何故かって?
『頑張ったんだけどねー......ダルイが眠そうにしてて』
『いやいや。お前がだるそうにしてるからだろ』
『.........で、結局だるくなって寝たんだろ。二人とも』
『『.........はい』』
担任、しかもアカデミー1おっかない先生から説教をくらうのが日常茶飯事だったからだ。
通称"鬼"と呼ばれる先生から漸く解放され、いつもの修業場所にオレとネムイが着いたのは今し方のこと。
先生の黒い笑みからして嫌な予感はしてたけどよ......案の定、先生が今回出した特別課題はオレとネムイの強敵だった。
紙切れを渡された瞬間、この先生にあの通り名は相応しいと納得する。
同じく顔が青ざめてるネムイと視線が合って、頷く。
こいつとは妙に気が合うから考えてることは多分、一緒だ。
『ということで......』
『『助けてください、シー先生〜〜〜!!』』
『ハァ.........』
オレらは「だるい」「眠い」を口癖に、授業態度で先生に怒られては毎回特別課題をだされた。
身体を動かすものであれば二人でさっさと片付けるものの、勉強ものとなれば話は別。
その度シーに救いを求め、毎度のことに呆れながらも、シーはオレたちを助けてくれたもんだ。
なんだかんだ面倒見のいいやつだからな。
「お〜......っと、っと!」
懐かしい思い出から現実に戻されればまたネムイが睡魔に襲われ出していた。
ぶつかりそうになればスレスレで避けてはうとうとし出し、足を滑らせれば持ち前の身体能力でひらりと身を翻してはうとうとし出す......ってな感じの繰り返しだ。
そんな姿に呆れるも、本人は全く気にせず笑みを見せた。
「ほら、"春眠暁を覚えず"って言うでしょー?」
「あー......そりゃ分かるな」
以前から見慣れた光景とはいえ、オレたちは今や上忍だ。
こいつがいつも睡魔に襲われやすい体質であることも、この時期は何時にも増してそれが強くなるのも知ってるけどよ、こんなんじゃ示しがつかねェ。
そう思ったのにまんまとネムイに乗せられちまった。
「任務さえなけりゃ昼寝したい気分だ」
「さすがダルイ!話が分かるね」
「あー、デスクワークじゃなくてよかった......こんないい天気にだるくてやってらんねーし」
「言えてる......そもそも私とダルイにそんなことさせたら任務にならないけどね〜」
笑うネムイにつられて頬が緩む。
そんな状況になったらオレは「だるくてやってらんねー」と言い、ネムイは「眠くて無理.....」とか間違いなく言うからな。
いや、でも弁明させてもらうとオレもネムイも任務となればあーだこーだ言いながらもやるよ。
どっかの真面目な同期ほど丁寧かつ迅速には到底無理だけどな。
「あ、そういえば!ダルイはアレ、出るの?」
「ん?あぁ、アレか。何もなければな......シーも出るってよ」
「ホント!?わぁ〜......楽しみ!」
その笑顔は今日一番のものだったと思う。
久しぶりに会ったんだ......もうちっとネムイと雑談に花咲かせたかったもんだけど、奴さんがそれを許してくれなかった。
「情報より多くねーか......?」
「......みたいだね」
四方八方から飛んできた暗器を難なく避ける。
残念ながらオレもネムイも感知タイプじゃねェから知らず知らずのうちに囲まれていた。
こっちは二人、対する敵は複数......だるいけど、やるしかねェ。
オレもネムイも構えた。
「......殺れ!!!」
敵が間合いに入るのを見計らって、十八番の水遁と雷遁の合わせ技でまず片を付ける。
続いて愛刀で戦いながらネムイの方へ目をやれば思わず感心した。
太刀筋が全く読めないし、それ以上に注目すべき点は"スピード"。
ネムイに翻弄される敵は印を結ぶ暇などなく、一人、また一人と斬りつけてられていくだけだった。
さっきまでの暢気で眠たそうな姿とは打って変わって、凛とした顔つきで戦うネムイにこんな状況だけど頬が緩む。戦闘になればスイッチが入ったかのようにがらりと雰囲気が変わるのも、相変わらずなやつだ。
「ふぅ......これで終わったかな?」
「みてーだな......」
静まり返った辺りを見回して、相当の人数を相手してたことに気づいた。
当然、相手の攻撃をすべて避けきったわけじゃねーし、チャクラもかなり使ったから身体が悲鳴をあげてる。
「任務完了ー!」
汗を拭ったネムイがいつもの調子に戻って笑った。
後は連絡鳥を放って里に帰るだけ。
ここまで来るのはなかなかだるい道のりだったけど、ネムイと雑談してれば帰りも退屈しなくて済みそうだ。
そう安心しきったのが迂闊だった。
「......!!ネムイ!!」
「おっと、動くなよ若僧!この女がどうなってもいいのか?」
敵に身動きを封じられ、喉に切っ先を向けられてるにも関わらず、ネムイは一切動じない。
オレに真っ直ぐ向けるその目は諦めの色じゃなく、寧ろ強い光がある。
「自分ごと殺れ」って言ってるんだろうけど、すみません......お前の願い通りにはしねェよ、ネムイ。
目の前のやつはずっと近くで息を潜め、オレらが疲弊しきった所を狙ってた、ってところか。多分こいつ一人じゃなく、周りにまだいる筈だ。やれるとしたらあと一発......一か八か。
「......!!」
「雲隠れのやつらはかなり絆が深いと聞いていたが......馬鹿なやつめ!!!」
刀を投げ捨てればネムイの目が見開き、敵がオレの行動を嘲笑う。
予想通り、茂みからオレに向かって敵が飛んでくる中、印を組んで敵に向かって放った。
「な、に......!?」
光線がネムイを避け、敵だけに向かえばネムイが解放された。
放ってる最中に迫ってきた攻撃を避けれず、激痛が走る。
オレにとどめをさそうと敵が次の手を打ってきた。
だるいから言わないでおく。
とどめをさされんのは.........お前だ。
「━━━━!」
そいつはいつの間にか間合いを詰めたネムイの正拳をもろに喰らって吹っ飛んでった。
音から察するに、骨を粉々に砕かれただろうな......南無南無。
今度こそ任務完了だ。
そう思ったら疲れがどっと押し寄せ、身体がふらつく。
「......!!ダルイ!!」
「悪ィ......ちっと、疲れた......」
僅かに感じたやわらかい感触と温かさと落ち着くような匂い。
それが心地よくて、一瞬で意識を手放した。
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