仔獅子ちゃんと仔獅子くん
たからもの*
澄んだ青空に悠々と雲の群れが浮かぶ。
いつもと変わらぬ空を眺めながら寝っ転がっていれば、まだ見えねェけど微かに雷車が近づいてきてる音がした。
「さーて、やるか.........だるくてねむいけど」
欠伸ひとつかいてうんと背伸びして向かった先はここまで長旅してきた木の葉の衆の下。
自己紹介と簡単な挨拶をすれば何故か女子が騒ぐ。
加えて、引率の先生の一人がオレがちょっと年上だけど既に上忍であることと、雷影の息子であることを述べれば男子も騒がしくなった。
特に、修学旅行委員だというやつの目の輝きようが凄い。父ちゃんと母ちゃんが言ってたやつはこいつだとすぐに分かった。
「なぁなぁ!むすこの兄ちゃんってばさ!」
「馴れ馴れしいわよ、あんた。むすこさんでしょ、むすこさ・ん!!」
「はは。別に良いって」
「むすこさん!こいつ、入学式の時にどうやって来たと思います?」
「雷車脱線させて、しかも七代目の顔岩に突っ込んだんですよ」
「おーおー.........ド派手なことやってるな、ボルト」
全然誉めてないのに過去にやったといういたずらの数々を得意気に話してたそいつはにかっと笑った。
━━━うずまきボルト。
こいつとは"影の息子"という共通点を持ってるから初めて会うにも関わらず、お互い親近感がある。
「むすこの兄ちゃんはさ、その......」
「あー.........オレも父ちゃんとは色々あったな」
父ちゃんのところを案内し終えて、移動中にボルトがぽつりと溢す。
七代目さんほどこんつめて仕事するような人じゃないけど、やっぱり里長ってのは忙しい。オレが遊んで欲しかった時も、修業つけて欲しかった時もその他色々.........仕事が理由で何度もすっぽかされたもんだ。
それがたまりたまって、ボルトみたくいたずらする代わりにほぼ毎日父ちゃんには喧嘩腰だった。今思えば里長の子というプレッシャーと、父子として普通に甘えたいのに構ってもらえず寂しくて拗ねてたんだ、あの時は。きっとこいつも同じなんだろう。
「.........オレの場合、中忍試験で父ちゃんと打ち解けたんだけどさ。お前もそのうち分かるって」
すっかり弟ができた気分になったオレはそいつの頭をくしゃりと撫でる。そうすれば持ち前の笑顔を見せてくれたからオッケーだ。
街中を案内すると、写真を撮ったり、店を眺めたりと各々自由に行動し始めた一同。そんな中、一際目立ったのはどこにでもある駄菓子屋に一直線に向かう男子の群れだ。
「絶対当ててやるってばさー!!!」
ボルト含め連中が手にしたのは激忍絵巻━━━通称、"ゲマキ"。人気を博してるカードゲームだ。
何を隠そうオレもユーザーの一人。どうやら、国も里も違えどこのくらいの年齢の、特に男は必ずといっていいほどする共通の遊びらしい。
自里でも買えるのに、ここでわざわざ買う理由は一つしかない。
「SSR目当てか?」
「......!むすこの兄ちゃんもやってんの!?」
「まあな」
「じゃあ........."あの"SSR、持ってるんですか!?」
「おー、一枚だけ持ってるぞ」
そう言えば全員が羨望の眼差しを向けてくる。
一軒目は玉砕で二軒目にオレが当てた店へと案内することにした。
「ダメだ......全然当たんねェ......」
「オレも......」
「ボクも......」
「デンキ!もしかして当たる確率わざと低くしてるとかねーよな!?」
「そ、そんなことないよ。その人をカード化した瞬間、各地で売り切れ続出中なんだ。買えるだけでもラッキーだよ.........今じゃ転売も酷いし」
"あの"カードは当たる確率が低いという噂は本当みてェだ。
カードを作ってる本社の息子までもが持ってないとすればいよいよSSRどころじゃないレア物になる。
その人の出身地であるここ雲隠れの里が最も当たりやすいなんて噂が流れて、各地からわざわざ買いに来るやつがいるくらいだ。
里中の店を案内しまくるも、やっぱり当たらない。
「「「はぁ......」」」
「まぁ、そんなに気を落とすなよ」
「それはむすこの兄ちゃんは持ってるから言えるんだってばさー.........」
「むすこさん!!是非売ってください......いくらでも買いますから......」
「でた、金持ちの本性........」
財布を開けて黒い笑みを浮かべるデンキに苦笑する。
いっぱい持ってればこいつらに交換してやったって良かったけど、生憎オレが持ってるのは一枚だけ。
「すみません.........いくら積まれてもあれだけは譲れねェんだ」
「「「??」」」
あの一枚は何がなんでも譲れない。
レアだとかチートだとかじゃなくて、オレにとって<めちゃくちゃ大事なもん>だから絶対、譲れないんだ。
そんなに大事にする理由を知らないから当然ボルトたちは首を傾げて不思議そうにする。
「まー......ここにいる間、いくらでも付き合ってやっからさ」
「おう!頼もしいってばさ!」
「ちょっと!むすこさんを独占するなー!」
「そうよそうよ!」
「離しなさいよー!お兄ちゃんはあちしたちと行動すんだから!」
「むすこの兄ちゃんはオレたちとこれから遊ぶんだってばさ!!」
「女子のくだらない話に付き合わせるなんてできないしね」
何故か男子と女子の間に火花が散る。
片方をボルトに、もう片方をチョウチョウに引っ張られるというだるすぎる展開に盛大なため息をついた時だった。
「とても賑やかだと思ったら.........モテモテじゃないの、むすこ」
「「「.........!」」」
ふわりと笑いかけるその人に、さっきまでの騒ぎが嘘のように木の葉の衆がしんと静まり返った。
そして、
「ネムイさーん!」
「久しぶりね、チョウチョウ。すっかりカルイ似の美人になっちゃって」
オレの腕を引っ張るのをやめてすっ飛んでったチョウチョウの抱きつきを受け止めたその人に主に男子が驚愕した。
そりゃあ無理もない。
だって、つい今さっきまで話題の人だったから。
「「「......SSR!??」」」
「.........?SSR??」
「ゲマキのことだよ。母ちゃんはSSRっていう超レアカードになってんだ」
「「「母ちゃん!!!?」」」
説明すれば首を傾げてた母ちゃんは、思い出したかのようにぽん、と手を叩いた。
「ゲマキ.........あぁ!むすこがよく遊んでるあのカードゲームね。へぇ、私そんなレアカードなんだ」
「じゃ、じゃあ.........あなたが.........パパが言ってた雲隠れの"雷獅子"ネムイ様なんですか......!?」
「.......!あら。君はリー君の子ね?そっちはいのちゃん、シカマル君、サクラちゃんにナルト君の子じゃないの」
未だに母ちゃんに抱きついてるチョウチョウを抜かして親の名前を言い当てられた連中が固まる。そして母ちゃんの名前を聞いて女子も騒ぎだした。
「もしかして、むすこさんがカードを大事にしてる理由って.........」
シカダイが何かに気づいてニヤつくと、他の連中までニヤつき出した。
「むすこの兄ちゃんってば、大好きなんだなー、かあ.........」
「黙っとこうな、ボルト」
不思議そうに首を傾げる母ちゃんにバレぬよう、言い切る前にボルトの口を手で塞いでやった。
(大好きな母ちゃんのカードなんだ)
(宝物を渡せるわけねーだろ)
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