仔獅子ちゃんと仔獅子くん
タコのおじさんも負けてません(前)
「......何だ?」
いつも通り雷影室にて五代目......ダルイと仕事の話をしている最中だった。
妙に廊下が騒がしい......しかも、徐々にこっちに向かって来てると思えば、雷影室の扉が勢いよく開いた。
「よう、ダルイ、シー!元気に呑気に陽気にしてたか?♪」
相変わらずの調子のビー.........いや、それよりもビーの後ろからひょいと顔を出している、ここにいる筈がない満面の笑みを浮かべた存在とその友人たちの姿に盛大なため息をついた。
「パパ〜!!」
「......むすめ」
オレの元へ駆け出すそんな愛娘を受け止め、抱き上げるのはもう癖になってしまったらしい。
小さい腕を首に回して顔を埋めるむすめの喜ぶ顔がネムイにそっくりだ。
「相変わらず元気がいいな」
「ダ......!雷影さま!!こんにちは〜!」
「「「こんにちは〜!」」」
むすめの癖が出かけたことでダルイが笑い、空気が和んだのはいいが......それどころじゃない。
「......で、何でここに来たんだ?」
むすめもこの子たちも今頃いつもの公園で遊んでいる筈なんだが......それに執務中は余程の事がない限り来てはいけないことをむすめは理解してる。
降ろした娘と同じ視線になって問うとはっと何か思い出したらしい。
「パパ、雷影さま!このヘンなおじさん、知ってる人〜??」
「「変なおじさん??」」
むすめや他の子たちが指差した人物を見てオレもダルイも苦笑いした。
「ヘンなおじさんじゃねー!キラービー様だ、バカヤロー!コノヤロー!」
『よう!おチビ達...元気に呑気に陽気にしてたか?♪』
『おじさん、だあれ??』
『......!!オレ様を知らぬとは心外♪知ったらビビるぜ案外♪八尾がサビの、キラービー様だぜ!ア、イエー♪』
『『『...ビー様ぁ??』』』
『オイオイ...近頃の親の教育はどうなってやがんだ?オレ様の存在!扱いがぞんざい!』
『キラービー...ビー...パパとママからそんな名前を聞いたことがあったような......う〜ん......』
『(翡翠色の瞳..."あいつ"にそっくりじゃねーか...もしや、このチビ...!!)よう!お前の拳を重ねろ♪』
『??』
『おおお!!やっぱりお前が...これで確信!予想当たって安心♪お前がシーとネムイんとこの娘...むすめだな?』
『......!!どうして知ってるの?おじさん......魔法使い?』
『魔法使いじゃねーよ、忍だ!バカヤロー!コノヤロー!』
『忍...じゃあパパとママのお友達??』
『まあ、そんな感じだ!』
『...むすめ、このおじさん怪しすぎるから嘘かもしれないぞ』
『そうだよ、証拠もないし!』
『まだオレ様を疑うってか......いいだろう!あそこにいい証人♪それでお前ら承認♪』
「なるほど......それでここに来たってワケっスね」
子どもたちが信じられないのも無理はない...特にむすめのように大戦後に生まれた子どもたちはその名実を聞くことはあっても、ビーに会った事などない。
ビーは大戦後、自由に放浪するようになって里にはほとんどいなかったからな。
雷影であるダルイからきちんと紹介されればさすがに信じるとビーは思ったのだろう。
「ビーさんはな.........」
ダルイと話途中だったが、まあ......これも執務の一つか。
ダルイが話終えると思惑通り、子どもたちは納得した様子でこの話はこれで終わりだと思ったが.........一人の子が無邪気にこの場で"最もタブー"な事を言ってしまった。
「じゃあさ!ビー様とネムイ様......どっちが強いかな〜」
((まずい))
これがとてつもない爆弾だということを知っているのはオレとダルイだけだ。
ビーが余計な返答をする前に何とかしないとな......。
「さ、むすめ......後で迎えに行くから皆と一緒に公園で遊んでろ」
「......はぁい」
何か言いたげなむすめだったがぽんと頭を撫でれば頷いて、友人たちと一緒に部屋を後にしようとする。
...はぁ......なんとか......
「まぁ......オレ様だろうな!」
「!!」
......ならなかった、か......
むすめの中で最強なのはあくまで母親のネムイ。これだけは絶対に譲れないのだ。
しかもむすめはこの話だけはやたら火がつきやすい......今のビーの発言は火をつけさせるどころか見事についた火に大量の油を一気に注ぐに相応しかった。
部屋から出るのを止め、ビーの方に振り向いたむすめのその顔は明らかに不機嫌でダルイと共に盛大なため息をついた瞬間だった。
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