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お題SS小説
真っ赤な声














『例えるならそう、山下さんの声は独特で、

目薬みたいなケースに入っている真っ赤な原色の液体を一滴、いや10滴さしてその水がぶあっと左右から押し寄せる感覚なんだ。
喋る度に押し寄せて脳内を麻痺させる。そうして僕はいつの間にか君にハマってる。山下さんの声は、そういう声なんだ』



2歳上だという同じ学科の先輩にお昼ご飯をコンビニで買いに行った帰り、告白された。さらさらと口から出る言葉はまるで小説の一文みたいな例えで理解するのが難しかった。

『…それはつまり、私に告白してくれているのでしょうか?』

白い小さな袋を右手に持ち左手にがま口の最近買った紫の財布を持ったまま目の前の人にそう言うと先輩は数秒沈黙してからすぐに優しい笑顔を向けた。


『ああ、これを告白て言うのか』と。

昔から変な人に私はよく好かれた。小学生の時は、近所の野良猫をいつも10匹以上引き連れてる人に、中学生の時は、両親が政治家で勉強にしか能がないような眼鏡君に、高校生の時はいつも授業中に寝ててヨダレを垂らしながらいつも学校にくる人に、

そしてこの目の前の人は信じられないくらい暑そうな格好をしていて私に告白をしてきた。今、初めて見た人だし、全身真っ暗で夏真っ只中の30度を超える日々を送る今日この頃で長袖にストールにハットを被っている。…暑くはないのだろうか。

対照的にお団子ヘアにオレンジのキャミソールにジーンズのショートパンツにミュールの私は多分今の私達を誰かが見たら間違いなく真逆だ!と言われる格好だ。


『あの、私、貴方のことを知らないんです』

『僕も山下さんの声しかまだ知らない。ただ今日、僕が山下さんの2歳上で同じ学科ということを知った』

『…先輩私は今誰かと付き合う気はありません。課題が沢山あって男女交際を楽しむ暇がこれっぽっちもないんです。

告白してくださったことはとても有り難いのですが、すいません。』

『山下さんの課題の大変さは僕がその学年だった時、痛い程に知っている。ただそれだけで僕の気持ちをさらりとかわそうというのは少し酷いとは思わないか?』

『そんなことを言われても…困るものは困るんです!私、今からお昼ご飯で急いでいるので…失礼します』

思った以上に引いてはくれなかった先輩の言葉を遮るように開いたエレベーターに乗り込む。
ゆっくりとエレベーターが私と先輩の間を閉じていく。先輩の長い睫毛が先輩の顔に影をつくる。あと20センチで閉まるというところで先輩の白い両手がエレベーターのドアを押さえて顔だけがエレベーターの中に入ってくる。


『それだけじゃ、僕は君の声を諦められない


拒否の言葉でも山下さんの声なら何度でも身体が反応するんだけどやはり否定の言葉より、君の肯定的な言葉が欲しい。
頭がもう君のその声を欲しているんだ。
君は、僕の前では友達のとき見せるような笑顔は見せてはくれないんだね』


早口で、でも全て聞き取れる良い声で先輩はそういうと顔と手をエレベーターから離した。ゆっくりとエレベーターが閉まり、目的の5階まで向かう。



『‥‥‥先輩の声だって、とても素敵な声じゃない‥』

小さく呟くとチンッと5階に着いた。友達が遅かったねーと私に向かって話しかける。ごめんごめんと謝って袋から小さなお弁当を取り出す。それから先輩のことを忘れてしまうように他愛もない話を友達としていると、

私の真向かいの友達が視線を上に向け、小さく息を飲んだ。気付いた時に遅かった。


私がゆっくりと振り向くと優しい笑顔の黒い格好の先輩がストールを私の首に巻きつけて自分の方に引き寄せた。


周りが息を飲んだ。
私は開いた口が塞がらないとでもいう顔で先輩を見つめた。




『山下さんが拒否をするから無理やり肯定させてみた』

そう言って先輩が笑う。
凄く変な先輩は凄く綺麗な顔立ちだった。顔がぼんっと真っ赤になり、

『さいって…』と言うと

また優しい笑顔で先輩が言った。
『山下さんの声が悪い』と。




呪文のように、
君の声は僕を縛り引き寄せる
そんな声を持っていても
君自身が拒否をするのは
どうしてなの


時間が隙間を埋めていくなら
順序が逆でも間違いではないのではないだろうか


君の声が危険で魅力的すぎるのがいけない

君の笑顔と声が、
僕をまた狂わせた。


そしてまた優しい笑顔で
先輩は笑うと

『山下さんが僕を好きになるようにまた来るね、』


低い声でそう言って静かに私達の元から去っていった。変な人に私はよく好かれる。


今回好かれたのは、全身黒ずくめの素敵ボイスを持った心が読めない詩的な人。








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あきゅろす。
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