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お題SS小説
恋落し
*



突然、
同じ学科で同級生の猪俣が私に言った。
私達は仲良く一緒に食堂で、次の講義の課題をパソコンで打っていた。








【恋落し】





カチカチカチ、
カチカチカチカチ……





一定のリズムで猪俣がレポートを打つ。一定の心地よいリズムは、私の耳を通し脳まで響く。私は、この音が普通では出せないパソコンならではのこの音が結構好きだったりする。
猪俣はパソコンをブラインドタッチで打ちながら、ふと向かいに座る私の顔に視線を移した。




まだまだパソコンの苦手なブラインドタッチの出来ない私は、打つのを止め、猪俣の顔を睨む。……言い方は悪いが睨むと言っても、普通に見ている。ただ、他の人よりも少し目付きが悪いだけ。


「……何?」


「おお、こわっ」

睨んでいるように見える私の顔を猪俣は無表情で、しかしさもその急に睨んだように見る私にとても驚いたような声色で言った後、


またパソコンに視線を移した。そしてまたカチカチカチと、心地よい音を鳴らす。




「何よ、言いなさいよ」


「いや、なんかさー」



パソコンの画面から視線を動かさないまま猪俣が、小さく舌打ちをする。





「俺らって、課題課題の毎日で何の面白味もねーよなー。」



「それは、まだ1年生だからだよ。課題が終わったら、冬休みがあるよ。」



「冬休みがきたって、面白味もないなら、俺はいらないね。



あー、恋とか落ちてねーかなー」




ずっとブラインドタッチをしていた猪俣が、パソコンから手を離し、自分の頭の後ろに両手をつき、椅子を斜め後ろに傾ける。
ギシッと鈍い音がする。




「…落ちてたら、苦労しないわよ。」



私がピシャリと言ったら、ジロリとした目でこちらを見られた。猪俣から視線をそらす。






…そんなの、
誰もが望んいることだよ。それにもし恋が落ちてたらさ、それはきっと誰かの罠なんだよ猪俣。




私がため息を一つ吐くと、猪俣が「どうした?」と私の目を見る。下から覗くように見られ、内心どきりとする。



「…落ちてる恋より私はさぁ、恋の大安売りが良いなぁ、って。

そっちの方が間違いは少ないじゃない?高い物が安くなってるってことはきっと間違いは少ないよ。」



私が、自分の持てる最大限の笑顔を猪俣に向けると、その顔を見て、猪俣があからさまな大きなため息をついた。





「失礼だなぁ」


「近藤はさー、穏やかにお楽しみ袋の過ぎた頃まで待つみたいなこと言ってるけどさぁ、そんなんじゃクリスマスは、どうすんだよ。



ずっと一人だぜ?
聖夜に一人とか寂しいじゃんか。」








「私、そういう意味で言ったんじゃないから。


んークリスマスかぁー…
いつの間にかもうそんな時期まで来ちゃったんだよね。これじゃあ、大学の4年間なんてあっという間に過ぎちゃう気がするよね。



あー、誰か良い人いないかなぁ。」






「俺なら、1万円でクリスマス、お前の為に空けてやっても良いよ?」





ブラインドタッチをしたままカチカチカチと、音を鳴らして、突然猪俣が呟く。

驚いた顔をして私が猪俣を見ても猪俣はまだ視線をパソコンの画面から離さない。





「……なんか猪俣って、上から目線だよね」


少し嫌味っぽく言ってみたら



「だって実際は2つ上だし」

けろっとした声で猪俣が言う。


「……悪くはないけど、1万円って、高すぎだから。それなら落ちてる恋を私は拾うよ。



罠にいくらでもかかってやるわ、こんちくしょう」



「お前、自分から恋が落ちてるわけない、って言ったじゃねーかよ。」





「……だから何よ。
万が一、って可能性もなくはないでしょうが」


「矛盾しすぎ」



ブラインドタッチをしている猪俣の視線が急に優しくなる。無表情からの一瞬の変化。猪俣が私を見つめる。





これは、要注意。




こんな一瞬の変化を表情で表す時、猪俣が変なことを思いついた。そんな合図。




「俺、良いこと思いついた」




優しい表情で猪俣がパソコンを横にずらし、頬杖をつく、上目使いで私の顔を堂々と真っ正面から見てくる。





やはり嫌な予感だ。







「近藤は恋を拾ってやんだろ……?」



「…まぁ、落ちてたらね」



「じゃあ俺が落としてやるよ。」





「……は?」



何を猪俣は突然言いだすんだ?




「だから俺がお前に、



俺の恋を落としてやるよ
だから近藤、



拾え」





「は?」




頬杖をついたまま、
凄い優しい顔で笑っていた猪俣の唇が歪む。





「拾ってくれんだろー



なら、2人で幸せになってやろーぜ。」







それって……





「私が猪俣の罠に、自ら引っ掛かれって、こと?」



「ん」



歪んだ唇がゆっくり開く
「これでも、俺と近藤が幸せになれるように、俺が考えた、最善策よ?」




そんなのは、要らないよ








なんて言えなかった。
とても楽しそうに猪俣が微笑む。





……少しくらい、
その罠にはまってしまおうか






「わかった。
その恋、……私が拾う」







「そうこなくっちゃ。」





猪俣がわらう。
さすが近藤。口パクでそう呟く



私も笑った。




ああ、
これはまた大変なことになったな‥‥‥






…あり得ない展開に、
乾杯‥!



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「で、まずキスしちゃう?」


ニヤリと笑った猪俣が舌なめずりをする。


「‥は?」

私は逃げるようにゆっくりと後ずさりをした。




ああ神様、
クリスマスまでにどうなってしまうのか私は凄く心配です。





END.






お題サイト様:君色愛者
お題:「あり得ない展開に乾杯!」より






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あきゅろす。
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