向日葵の君
指輪2
* * *
「よいしょっと」
久しぶりの買い物だったため、ちょっと買い過ぎたようだ。
茜は一旦立ち止まり、両手に抱えた荷物を持ち直す。
再び歩き出した茜は、前方に立つ男の視線を感じて歩みを緩めた。
見覚えある男が誰だったかを思い出した茜の様子に、男の方も片手を上げて近付いてきた。
「よォ! 久しぶりだな」
「万事屋さん。こんにちは」
「すげー荷物だな。貸してみ。持つわ」
「あ、すいません。ありがとうございます」
片手分の荷物を預かった銀時は、左手に光った指輪を目敏く見つけていた。
「もう帰んの?」
「もうちょっと見て回ろうかなって思ってるんですけど」
「まだ買うのかよ。あー、時間あるなら団子かなんか食ってかねェ?」
好奇心からいろいろと聞き出したい銀時は、ちょうど都合良く向こう側に見える甘味処を指さした。
「あ、いいですね」
「じゃあ、行こうぜ」
前会ったのいつだっけな?
随分感じ変わったんじゃねェの?
隣を歩く茜をひそかに観察しながら銀時は、あれこれ聞き出すのが楽しみでニヤついてしまうのを何とか押さえていた。
「で? どうなんだよ? 上手くやってんだろ?」
足を組み斜めに座った銀時は、片腕をテーブルについて早速聞き出してみる。
「え? どうって……。まぁ普通です。普通に仲良く……」
「いやいやいや。ほら、それ」
意外とガードの固い茜がはぐらかそうとするので、銀時は人差し指を茜の手に向けた。
銀時の指が自分の左手に向けられていることに気付いた茜は、隠すように軽く手を握る。
「それ、もらったんだろ? アイツに。いやァ、そこまで話が進んでいたとはねェ」
「……」
「ほら、あの……記者会見とかでお約束のさ。こうやって指輪見せてくれよ」
恥ずかしそうに、でも嬉しそうに微笑む茜に銀時が顔の横で手を広げてみせると、茜はそっと手を上げた。
リクエスト通り顔の横で手の甲を銀時に向ける。
幸せそうな笑顔に目を細めながら銀時は、愛する男がそこにいなくとも、ただ思い浮かべるだけでこんな表情ができるということに内心衝撃を受けていた。
うらやましい話じゃねェか、おい。
「アイツちゃんとプロポーズしたんだよな? いや、黙って渡して来たとか? あー想像つかねェ! 何て言われたわけよ?」
「えーと、それは……」
またもや茜は、ただ微笑んではぐらかす。
「何? 焦らしてんの? ほら俺もさ、男として参考にしたいからさ」
「あー、まぁ、そういうことなら」
「じゃあ、質問変えるわ。場所はどこだよ」
「公園です。散歩ついでにお花見した時で……」
銀時の口車に乗せられ茜のガードが緩くなった。
似合わねェー!
吹き出したい気持ちをぐっとこらえる銀時は、もしこの場に土方がいたらきっと斬りかかりそうな勢いで怒るだろう感想を平然と述べた。
「へぇ。あの副長さんがねぇ。案外ロマンチストなんだねぇ」
「そうなんですよ。こう桜が舞い散っててね、私、一生忘れないです」
次第に茜のテンションも上がっているようだ。
「それで肝心の言葉は?」
「あー、それは勘弁してください。胸に大事に閉まっておきたいんで。でも土方さんらしい言葉でしたよ」
「あ、そう」
あーもう勝手にやっといてくれよ!
おめーら甘ェよ! さすがの俺でも甘すぎて食えねェよ!
自分から誘ったことすら忘れて心の中で盛大に叫んだ銀時は、少し落ち着きを取り戻したところで目の前の茜を見た。
幸せすぎるほど幸せなオーラは、いくら茜が隠そうとしても傍から見ればダダ漏れである。
男冥利に尽きるよな。女をこんなにも幸せにできるなんてよ。
最近は土方と会っていないので、頭に浮かぶのはくわえ煙草の不機嫌な顔。
「会ってみてェもんだねェ」
ポツリと銀時は呟いた。
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