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向日葵の君
鈍い人1

屯所で働き始めだいぶ経ち、随分と仕事に慣れてきたが、身長だけはどうにもならない。
茜が女中達の平均身長をかなり下回っているのは確かだが、どうもここの物干しは長身仕様になっているようだ。

今日もまた物干し竿と格闘し、やっと全ての洗濯物を干し終えたところで、茜は名前を呼ぶ声に振り返った。
ずっと後ろにいたのか、たまたま通りかかっただけなのかはわからないが、声で土方とわかったので笑顔で振り向いた。

「土方さん! お疲れ様です」
「どうだ、少し休憩でも入れねェか?」
「はい! これ片付けたらお茶をお持ちしますね」
「ああ、待ってる」

ポケットに手を入れ廊下を歩く後ろ姿を見送りながら、昨日一日のことを思い出す。
話したいこと聞きたいことは山ほどあるが、逆に触れない方がいいような気がして、何を話せばいいのか少し悩んでしまう。
そして昨日の夜の涙だけは、私の胸に秘めようと決めた。


 * * *


「お待たせしました」
「ありがとうな」

部屋に入ると土方は既に事務仕事の手を止め、テーブルの上で一服中だった。

「こっち来いよ」

二人分のお茶を並べる茜を急かすように、土方は自分の隣を叩いて茜を呼ぶ。
少し戸惑いながら隣に腰を下ろす茜は、煙草を左手に持ち替えた土方の右腕が肩に回されるのを横目で見た。

「昨日は出歩いて疲れてねェか?」
「大丈夫です」
「そうか」

耳を澄ませると微かに遠くで人の気配がする。
いつ誰が入ってくるかも知れない場所で、こんなにベタベタと引っ付いてくる人じゃないのに。
茜はいつもと違う土方に違和感を感じていた。

気を使われている?
なんで?

「土方さん、今日はどうかしたんですか?」
「何が?」
「なんか、近すぎて恥ずかしい…」

茜の言葉に、土方は鼻で軽く笑った。
くぐもった笑い声が耳のすぐ近くで聞こえる。

「……?」

不思議そうに茜が顔を上げると、優しい瞳と視線がぶつかった。

「俺達付き合ってたんじゃねェのか?」
「え? いや……それはそうなんですけど」
「こういう気分なんだよ、今日は。……イヤか?」

茜は小さく首を振った。
器用に左手に煙草を持って、煙を遠ざけるように吐き出す土方の腕の中で、茜はたった一つだけ後悔していた。

誰にだって過去はある。
ましてや土方の年齢ならばなおのことだ。
何も聞かなければ良かった。
そうすれば今頃何も疑うことなく、ただ幸せだったはずなのに、と。

「本当に私のこと好きで付き合ってくれてますか?」

私が欲しかったのは、「ごめん」なんて言葉でも、不自然に優しい態度でもない。
本当に私のことを好きでいてくれているという、確信だけだったのに。

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