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向日葵の君
優しい人2

「土方さんは困りますか?」
「ああ?」

唐突な茜の質問の意味が掴めない土方は、片眉を上げ聞き返した。

「土方さんは気になられたんでしょう? 女の泣き笑いは疲れるっておっしゃってたし……」

不意打ちのような質問に土方は返事に困るが、茜は意外にも口元にいたずらな笑みを浮かべて、返事を待っていた。
それは作り笑いでも何でもなく素直に興味津々といった表情で、茜のその表情に気持ちが緩んだ土方は、珍しく軽い調子で答えた。

「ああ、困るな。女の泣き笑いも作り笑いも、俺は疲れる」
「それは土方さんが優しいからじゃないですか?」

土方は思わぬ言葉に指から煙草を落としそうになった。

「さぁな?」

何となく気恥ずかしくなった土方は、さっさとこの話から下りようと曖昧な返事でごまかすが、茜はまだ話を続けようとする。

「確かに土方さんのおっしゃる通り作り笑いなんです。笑ってごまかす癖がついてるんです」
「……」
「笑っていれば、大抵のことは何とかなるって思ってたんですけどね。中には土方さんのように見ていて疲れるって人もいたんでしょうね」

そう話す茜の顔に笑みはなく、ほんの少し寂しげに見えた。

「どうだろうな? いるかもしんねェし、いねェかもしんねェし。まぁ少なくとも無理して作り笑いなんかしなくても、ここにいる連中はお前を悪いようにしねェってことだけは確かだ」
「本当にそうですね。皆さんとても良くしてくださって……。私、運が良かったなって本当に感謝してるんです。あっ! これは心から言ってますよ!? この顔も作り笑いじゃないですから!」

両頬を押さえて必死に訴える茜に、思わず土方は笑い出した。
つられて笑う茜の自然な笑顔を見ると、十九という年齢がリアルに感じられる。

大人でも子供でもなく、不器用でどうしようもなかった頃のことを思い出してしまう。

「居心地がいいなら、怪我が治ってからもずっとここにいればいい」
「……」

土方の言葉に茜は驚いて目を見開いた。

「考えておけ」
「はい」


茜が出て行き、新しい煙草を取り出した土方は、部屋に残る湯上がりの甘い香りに今更気が付き手を止めた。

『土方さんが優しいからじゃないですか?』

手の平に残る細い足首の感触と共に、茜の言葉が思い浮かぶ。

俺が優しい?

何言ってやがる。誰が優しいもんか。

手の平を軽く握りしめながら土方は自嘲気味に笑った。


 * * *


部屋を後にした茜は、一歩足を踏み出すたび土方が巻いてくれた包帯を意識して、暖かい気持ちになっていた。
くわえ煙草で傷の手当てをしてくれていた姿が、頭に浮かんでくる。
目線を逸らして煙を吐き出す横顔も、素っ気ない低い声も、何故だか茜には胸に染みた。

きっと心の優しい人なのだと思う。
いつもどんな時も、笑ってごまかし流されていたことに、私が自覚するより早く気が付いた人。

彼が言ってくれたように、このままここにいさせてもらえるなら、そんな幸せなことはないのかもしれないと思うけれど。
悪い話ではないはずなのに、どこか乗りきれない。
運命が急転し過ぎて怖いのかもしれない。

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