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向日葵の君
指輪5

「こっちに来い」

握った左手を強く引き寄せ茜を受け止めると、土方は今がまだ昼間で休憩中だということが悔しくなってしまった。

俺だって誰にも見せたくねェよ。
チクショー、万事屋に見せた笑顔がもったいねェ。

この笑顔は俺の、俺だけのもんだ。
他の誰かに簡単に見せてもらっちゃ困るんだ。

土方は頭の片隅で冷静に部屋の外の気配に耳を澄ませながら、渦巻く独占欲を茜にぶつけてしまう。

「土方さ…ん…」
「大丈夫だ」

不安げな声の茜に耳元で強く囁く。
だが廊下の軋みに動きを止めた。
早足で近付く足音に慌てて離れた二人が息を飲んでいると、足音はそのまま土方の部屋を素通りしていった。

黙って見つめ合っていた二人だったが、先に茜が笑い出した。
苦笑いを浮かべた土方は煙草に火をつけ、最初の煙を吐き出すと、

「そろそろ本格的に進めるか」

そう呟いた。

「何をですか?」
「何をじゃねェよ。不自由なんだよ、いつまでもこんな……コソコソと」

別々の部屋を行ったり来たり。
足を運ぶ茜は今更周りに隠しているわけでもないが、それでも誰かに会ってしまうのは気まずいので、常に気配を潜めながら部屋を行き来していたのだった。

「一緒に暮らせるってことですか?」
「ああ。ってオイ!?」

大きく頷く土方に茜が飛びついた。

「危ねェだろうがっ! 火ィついてんだぞ!?」
「嬉しい! 土方さん、ありがとうございます」

何とか無事だった煙草の灰を落とすため、そっと茜の身体を引き離す。
トントンと叩いて灰を落とし、再び口に入れゆっくりと煙を吐き出した。

「もう後戻りできねェからな。覚悟決めろよ」
「覚悟なんて決めなくても……私にはこれからも土方さんしかいません」
「俺だってとっくの昔からそうだ」

甘い雰囲気に流され、口から自然と言葉が出てしまう。
ますます仕事から遠ざかっていってることに気付いた土方は、わざわざ煙草を左手に持ち替え右腕で軽く茜の肩を抱いた。

「そろそろ仕事始めるから。続きはまた、夜にな」

さっさと土方が腰を上げたので、茜も手早く湯飲みを盆に戻し部屋を出る。
廊下を歩きながら土方の言葉を繰り返し思い出しては噛み締める。

何であんなに格好いい言葉がポロポロ出てくるんだろう。
自分は何て幸せ者なんだろう。

誰に聞かれたって絶対喋るもんか。
私だけの土方さん、誰にも教えたくない。

盆を両手に抱えたまま、茜は一人微笑んだ。




'10.10.24

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