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向日葵の君
指輪3

 * * *


パトカーの助手席で煙草を口にした土方は、片目をつむって箱の中身を確認してみる。
案の定中身は空で、今くわえているのが最後の一本だった。

「おい、車止めてくれるか?」
「あ、はい」

自販機を見つけたので運転席の隊士に声をかけた土方は、車が路肩に停車するなり「ちょっと待ってろ」と車を降りた。
足早に自販機に向かい新しい煙草を購入する。
また車に戻りかけた土方だったが、なんとなくこのままぷらぷらと歩いてみたい気になった。

「悪ィ。先戻ってくれ。俺は歩いて帰るわ」

パトロール中とはいっても、後はもう屯所に戻るだけ。
さぼりと言われればそれまでだが、鬼の副長相手にそんなこと言える奴はまずいない。
たった一人言いそうなのがいることにはいるが、奴自身が相当なさぼり魔なので話にならない。

まぁ気分転換だ。

わざわざ自分に言い訳するには理由がある。
今日が休みの茜が、買い物に行くと言ってたのを思い出したからだ。
どこへ行くのかはっきり聞いたわけではないし検討もつかないが、もしかしたら茜がふらついているかもしれない町を歩いてみたい。
何となくそう思っただけだ。

当たり前のことだが、簡単に茜の姿を見つけられるわけもなかった。
道行く若い娘に反応しながら、土方は屯所に向かってゆっくり歩いていく。
茜と休みが重なることはそう多くはない。
一人で過ごす休日は大体買い物に出掛ける茜は、土方からすれば随分と買い物好きに見えた。

屯所に来て約一年。少しずつ物を揃え身を飾っていき、今ではすっかり年相応の綺麗な娘だ。
出会った頃は化粧っ気もなく短い髪で、それでもそんな茜と恋に落ちた土方だったが、変わっていく姿もそれはそれでいいと思っている。
強いて言うならば派手過ぎる女は好みでないので、着飾るにも限度を持ってほしいと願ってはいるが。
だがそれも中身が茜である限り許せそうだ。

吐き出した煙を何気なく追った土方は、目の端にとらえた色に思わず足を止めた。
最近茜が気に入っている着物の色。

「……」

視界から入ってきた情報に脳がついていかず、思わず足が釘づけになる。
こぢんまりとした甘味処、通りに面した窓際。
そこでテーブルを挟んで向かい合っているのは紛れもなく茜だった。
相手は顔なんて見なくてもわかる。白い頭の男、万事屋だ。

通りに突っ立ちガラス越しの店内を睨みつけている土方の姿は、傍目からは異様だろう。
だが今はそんなことどうでもいいとばかりに、二人を凝視する。
すると茜が不意に手を動かし顔の横で広げた。
一瞬何やってんだ? と疑問に思ったが、すぐに指輪を見せているのだと理解すると、今度は何見せびらかしてんだと少々腹立たしくなる。

茜の前でしか見せない部分が、よりによって銀時に漏れてしまうのは勘弁してほしい。
だが茜は土方の位置から見ても何かをべらべらと口にしているようには見えず、ただ微笑んでいた。

その微笑みが銀時に対してのものでないことが伝わる。
指輪を渡した夜と同じ、嬉しくてたまらないといった心から幸せそうな笑顔。

いつの間にか土方の眉間に刻まれていた縦じわが薄くなった。
茜が他の男と二人でいることより、他の男の前で自分を思って幸せな表情を見せていることの方がうれしい。
土方は少しだけ自惚れた気持ちになっていた。

新しい煙草に火をつけ、一つ大きく吸い込み煙を吐き出しながら一歩踏み出す。
そしてそのまま二人には目をくれず、通りを屯所へ向かって歩き出した。

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