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向日葵の君
待つ人5

「ちょっと座りてェんだが」

いつまでも部屋の入口で立ったままくっついている状況もどうだろうと、土方は茜の肩を掴み声をかけた。

「あ、お茶いれますね」

茜は新しい湯呑みを取り出しお茶の用意を始める。
ろくに吸わないまま短くなった煙草を灰皿に捨て、ふとテーブル上を見ると使用済の湯呑みが二つ。
土方の眉がピクリ動いた。

山崎のヤツか。
見張っておけとは言ったが、俺の部屋で二人で茶を飲めとは言ってねェぞ。
ったくあのヤロー。

軽く苛立ちながらライターを擦る。

「はい。どうぞ」
「あ、ああ」

こうして自室に戻ってお茶なんか口にしてみると、改めて帰ってきたんだと実感した。
そういえば茜と会う前までは、いつも大きな仕事の後はどんな心境だっただろうか。
もう思い出そうとしても思い出せない。
先のことを考える時はいつも茜がいて、いつの間にか茜がいる生活が当たり前のものになっている。

嫌ではない。
むしろ彼女と会うまでの自分を薄っぺらく感じてしまう程なのだから。

「……さん。土方さん?」
「あっ? ああ、何だ?」
「どうかしたんですか? ぼんやりとして」
「いや。帰ってきたなって、ちょっと和んでたんだよ」

和むか……。

煙を吐き出した土方は、自分で言っておきながら信じられないような思いがした。
そんな感情、自分は持ち合わせていないと思っていたが、持ち合わせていないのでなく感じたことがなかっただけかと一人で納得する。
今こうして自室で茜のいれてくれたお茶と共に二人で過ごしていると、和むや落ち着くといった言葉がぴったりだった。

「なぁ。お前、今こうしていてどうだ?」
「どうって?」
「深く考える必要はねェよ。和むとか落ち着くとかいろいろあんだろ」
「ああ! どっちもですね」
「お前も和むか?」
「はい!」

やけに嬉しそうな表情で、土方は満足気に頷いてみせた。

これからだって危険が付き纏うのはしょうがない。
だがいつだって茜が迎えてくれる場所があるのだと、そう思うだけでも今までより強くなれる気がする。
後は茜がどう思っているかだ。

「あのさ、昨日までちゃんと眠れてたか?」
「うーん……。まぁ、少しは」

やはり眠れぬ夜を過ごしていたのか思い、土方は胸が痛んだ。

「これからも何度だって同じような状況はあるだろう。もっと酷いことがあるかもしれねェ。……それでもお前大丈夫か?」
「また、前と同じ話ですか?」

茜の表情が固くなった。

「いや違う。今なら想像も易いだろうから聞いてんだ」
「私なら大丈夫。それよりも土方さんの支えになりたいです」

とうとう俺も年貢の納め時か……。

土方は覚悟を決め煙草を消した。

「これからも俺の帰る場所でいてくれるか?」
「はい! 喜んで!」

どこかの店で聞いたような威勢のいい返事に、一世一代のプロポーズが通じていないことを知り土方は脱力する。

「どうかしましたか?」
「いや、何でもない。ありがとうな」


遠回しすぎたか。
それとも茜にはまだ早かったか。

わざわざ説明する気にはなれず、土方は肩を落として新しい煙草に火をつけた。

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