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向日葵の君
待つ人4

しばらくして再び足音が近付いてきた。
今度こそと茜と山崎は目配せを交わし、微かに漂ってくる煙草の煙に山崎は二度頷いてみせた。

障子戸が開き姿を現した土方は、山崎が言った通り風呂に入ってきたようで、髪の毛がまだ濡れている。
次の瞬間、立ち上がった茜は何も言わず真っ直ぐ土方の胸に飛びついたので、これには土方も山崎も驚いてしまった。
煙草を指に挟んだ右手と空の左手を宙に漂わせている土方に気付いた山崎は、気を利かせ部屋を出て行こうと「失礼しまーす」と声をかけると、土方は赤い顔で頷いた。

ピシャリと戸が閉まる音を確認した土方は、胸に抱き着いている茜の背中に力強く左腕を回した。
茜は泣いているわけではなく、ただ強く胸に顔を埋めているだけ。

何か口にした方がいいとは思うが、全く言葉が出てこない。
こうなりゃ茜の気が済むまでこのままでいいか。

久しぶりに感じる茜の温もりを確かめるように抱きしめる。
煙草は吸ってもいないのに指の間で灰に変わり、大きめの灰がポトリと畳に落ちた。

あーあ……。

汚れてしまった畳に目をやる。

早く顔見てェな。
これも一旦捨てちまいたいし。

「そろそろ顔見せてくれよ」
「……ん……」
「見せろって」

そっと肩を掴んで引き離し、まだ俯いて頭しか見えない茜に声をかける。

「お帰りなさい」
「ああ。ただいま」

見上げた茜は一生懸命に笑っていた。
久しぶりに聞く心地のいい優しい声に、次第に茜の笑顔がほぐれていく。

「心配しただろ? 安心しろ、この通り無事だ」
「そんなたくさん包帯巻いて無事だなんて…」
「こんなの怪我に入るか。かすり傷だ」

茜は包帯の巻かれた左手を両手に取った。

「土方さん。こんな時でも気を使わせてごめんなさい。私が余計な心配しないようにって、それでここに呼んだんでしょ?」
「いや……まぁ、そうだな」
「さっき沖田さんが来たんです。戻ってきてすぐに。これが俺達だって。血だらけで驚いたけど見てよかった」
「……」
「私、どこかずっと甘く考えてたこと、待ってる間後悔してたんです」
「こんな危ねェ仕事してる男には嫌気がさしたか?」
「違います!」

驚くほど見当違いな土方の言葉を、茜は強く一蹴した。
あまりにピシャリと言い放ったので、気迫負けした土方はそれ以上は黙っておくことにする。

「土方さんに余計な気を遣わせたりせずに、少しでも支えになれるように、もっとしっかりしないとってそう思ったんです」

充分しっかりしてるだろと一瞬思ったが、それはこらえて健気な思いを受け止めることにしておいた。

「茜、ありがとうな」

茜に掴まれている左手を引き寄せ、再び胸に抱いた土方は、これを聞いたらもう迷うのはやめようと決めた。

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あきゅろす。
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