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向日葵の君
待つ人2

「トシ、ご苦労さん」

屯所に戻る車が走り出すと、近藤は改めて労いの言葉を口にした。
「俺はアンタを信頼して任せてただけで何も特別なことはやってねェよ」
「いや、下準備の段階から細かい判断に至るまでお前がいなけりゃこうも上手くはいかなかっただろう」

真選組の被害は、怪我人が多数出たものの比較的軽傷ばかりで、深刻な事態は起こらなかった。
最悪の事態を常に想定していた土方は、内心はホッとしていた。
早く屯所へと気持ちが急いて、走る車のスピードが何だかじれったく感じる。

「早く会いたいだろう」
「あ? ……ああ」

無意識にカチャカチャと何度もライターを擦っていると、近藤が笑った。
そういやここしばらくの間、完璧に頭を切り替えていたために、茜のことを思い出すことがなかったなと気が付く。 
元来器用な方ではない。
茜のことを思いながら作戦を立てたり、ましてや敵陣に向かうことなど不可能に近い。

最初はわざと無理矢理茜を遠ざけていたが、徐々に頭の中は戦いのみに占められていった。
茜には悪いことをしたが、おかげで無事戻ることができるのだ。
後で存分かまってやろうか、そう考えると少し頬が緩んでくる。

「茜ちゃん、心配してるだろうな」
「どうだろう。意外に肝が座ってっからな」

あまり茜のことを話すと、運転している隊士もいる手前格好悪い気がして、土方は素っ気なく答える。

茜はどんな顔で出迎えてくれるだろうか。
笑ってくれるか、泣いたりするのか。

楽しい想像はそこまでだった。
煙草を消そうとして、ふと目に入った自分の手が血で汚れていることに気付いた土方は、手の平を広げてみた。
既に血が止まっていた傷口が開きかけ、慌てて手を閉じる。

他にも傷はいくつかあるが、こんなのはかすり傷で怪我のうちに入らない。
だがそれは自分達の基準でだ。
茜からすれば怪我には違いないだろうし、ましてや返り血を浴びたこの姿を見たらどう思うだろうか。

土方は運転席と助手席の間から大きく身を乗り出し、運転手に指示を出した。

「おい、屯所に無線つなげ。山崎が先に着いてるはずだから呼び出せ」
「は、はい!」
「お、おいトシ、どうした?」

急がねェと屯所に着いちまう。
恥も外聞もねェ。どうしてもアイツには見せたくねェんだ。

「どうしたんスか? 副長?」

スピーカーからと共に山崎の暢気な声が続く。
貸せとマイクを取り上げた土方は、すぅっと深く息を吸い込んだ。

「おい、山崎聞こえるか? 茜に伝言頼む」
「え? あ、はい。わかりました」
「今向かってるから俺の部屋で待ってろ、心配すんなって。俺が着いても出てこねェように、お前見張ってろ」
「えーと…? 土方さんの部屋へ移動させて部屋を出ないよう見張ってりゃいいんですね?」
「ああ、頼む」

スピーカーの向こうで沸き上がる賑やかな歓声をほんの一瞬拾って、ぷつりと無線が途切れた。
途端に静かなる車内。

「しまった…」

運転している隊士は無線のボタンに指を向けたまま、青い顔で小さく呟いた。
屯所だけでなく、全車両に無線をつなげていたのだ。

「あ? 何か言ったか?」
「いえっ! 何にもありませんっ!」
「おい、トシ……」
「あぁ、悪ィ」

必死のあまり、近藤に声をかけられていたことすら忘れてしまってた。

「見せたくねェんだよ。こんな血まみれの姿でアイツに余計な心配かけさせたくねェ」
「そうか」

腕を組んでいる近藤の肩が、笑いをこらえ震えているのがわかる。

格好悪いか? 俺。
けど女に余計な心配かけたり泣かせる方が、余程か格好悪ィだろ?

土方は窓の外に顔を向け一息ついた。

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