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向日葵の君
待つ人1

たったこの数日間で、真選組のムードは一気に緊張感に包まれだした。
土方が話していたことが現実となったのだ。

茜は土方が前もって公園で話をしてくれた意味を、今やっと理解することになった。
屯所に来て以来、見たことがなかった真選組のただならぬ様子を目の当たりにすれば、今回の仕事が命を賭けたものになるという土方の言葉も大袈裟ではないと茜にもわかる。

最後に土方と会った日、彼が最後に言った言葉は何だったか。

何度思い出そうとしても、どうしても思い出せないことが悔しかった。
「おやすみ」だったような、「またな」だったような。
もしかすると、もっといい加減な言葉だったかもしれない。

もし会えないまま土方が出発してしまうとわかっていたならば、例えどんな小さな言葉でも全て心に刻み込んだはずだ。
本来なら漏らしてはいけなかったかもしれない情報を、わざわざ前持って知らせてくれていたというのに、軽く考えていた自分を後悔しても遅かった。


 * * *


いよいよ土方達が出発する日が来た。
物々しい雰囲気で屯所を出て行く土方と一度も目が合うこともなく、茜はただそっと見送ることしかできなかった。

土方には副長という立場がある。
出発前に別れを交わすことすらできない。

屯所内は一気に静けさに包まれた。
隊士が出払っている分だけ仕事が少なくなるのが却って落ち着かず、普段通り動いておかなければならない、そんな気がした。

やっぱり私、甘く考えていたのかもしれない。
もっと深刻に受け止めていればよかった。
いや、考えたくないから逃げていただけだったのかも。 

少し手が空いた茜は、縁側に腰掛け考える。

『先のことはわからない』

そんな当たり前の言葉なんて、きっと土方さんは聞きたかったわけじゃないのに。

『じゃあお前は俺が死んでも悲しまねェとでも言うのか!?』

例え誤解だったとしても、一瞬でも彼にそう思わせてしまったことが今更悔やまれてならなかった。

「土方さん……」

呟くと泣きそうになるが、泣いちゃいけないと指先で目頭を拭う。
土方だけでない。
優しい局長、よくここで昼寝をしていた沖田、他にもよくしてくれる真選組の皆が無事であるように。
茜は見上げた冬空に祈った。


 * * *


二日後の夕方、待機組と交代する隊士らが一旦屯所へ戻ってきた。
彼らの話によると、今のところ大きな動きはなく怪我人もいないそうで、話を聞いた茜はホッと胸を撫で下ろした。
とはいえ土方らは片が付くまで戻ることはできないので、いつ会えるかわからないが。
自室で眠れない夜を過ごす茜は、少しは良いことを考えてみようと、先のことに思いを巡らせてみた。

土方が無事に戻ってきたら何て言おうか。

こんなに胸が張り裂けそうなほどに苦しいことを、土方には言えないなと思う。
今回だけじゃない、また同じような状況はこれからだって何度もあるはずだ。

私なんかのことで、あの人を不安にさせてはいけない。
いつだって笑って迎えられるように。

作り笑いの練習をしていたら涙がこぼれ落ちた。

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