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向日葵の君
迷い人3

 * * *


「おーい。そこの小せェ女ァー」

突然けたたましく鳴らされたクラクション。
続いて間延びした声。
振り向くと、パトカーの窓から片腕を出した沖田だった。

「沖田さん」
「あれ。今日は野郎と一緒じゃねェの?」
「……」
「何してんでィ、こんなとこで」
「屯所に帰るんです」
「ハァ!? 屯所?」

沖田は運転席に座る隊士と顔を見合わせると、すぐに車を降りてきた。

「いい年して迷子かい。いいから乗れ。屯所はそっちじゃねェよ」

素っ気ない口調の沖田は、後部席のドアを開けると乱暴に茜を車内に押し込み、素早く助手席に戻った。

「おかしいなぁ、ちゃんと来た道歩いてたはずなのに……」

のんびりと呟く茜の声に、運転席の隊士の肩が小さく震える。

「どうせ野郎のことばっかで周りなんて見ちゃいねェだろうが」
「……」
「喧嘩でもしたのかよ」
「……」
「そんで道も知らねェのに一人で帰ってきたわけかい」

土方のことには答えない茜を無視して、沖田は勝手に話を進めていく。

「アンタもなかなかいい根性してんじゃねェか」
「副長もたいがい頑固ですけどねェ」
「土方さん頑固ですかね?」

二人が口にした言葉に、思わず茜は反応してしまった。
そんな場面に遭遇したことがないので、どうにもピンと来ない。

「頑固も頑固、大頑固者でさァ。考えてもみろ。世の中、醤油にソース、ケチャップってかけるモンはいくらでもあんのに、奴はマヨネーズにしか見向きもしねェだろ」

首をかしげる茜に、沖田はマヨネーズを例えに上げた。
丼にマヨネーズをとぐろ巻きにして、クールに箸を割る土方を思い出した茜は、小さく笑う。

沖田らが茜の前で土方の噂話に花を咲かせている間に、車は屯所へ近付いていく。

「あ……副長」

運転中の隊士が呟き、車は門の近くで急停車した。
一番に車を降りた沖田は、コツコツと靴音を響かせ土方の元へ向かっていく。

「迷子になってしょげてたぜ。しょうがねェから連れて帰ってやった」

両手をポケットに突っ込み不遜な態度の沖田に土方は、「おう」と一言だけ返した。
遅れて車を降りた茜は、まずは土方ではなく沖田の元へと向かった。

「沖田さん。どうも、ありがとうございました。」
「方向音痴は大人しく野郎の側にくっついとけばいいんでィ」

素っ気なく返した沖田は、茜の横をすり抜けるとまた車に乗り込んだ。
去っていく沖田を見送り残された二人は、目を合わせ軽く笑った。

「何やってんだ、お前は」
「土方さんこそどうしたんですか?」
「すぐ追い付くはずなのに姿見えねェからよ……」

目の前で煙草を消そうと取り出された灰皿が、吸い殻でいっぱいだった。
柱の影でどれくらい待っていたのだろう。
茜は胸が熱くなる。

「あの、ごめんなさい。私……」
「ん」

短い返事に茜は、上目使いで土方の様子をちらりと窺う。

「怒ってますか?」
「いや、怒ってない。目ェ覚めた」
「……」
「確かにお前が言う通り先のことはわからねェよ。だから、生きてる限りはお前を幸せにしてやる」
「土方さん……」
「くだらねェことで喧嘩してる場合じゃねェな」

そう言うと土方は、照れ隠しに茜の頭を強く撫でた。

「私、甘く考えてたんです。危ないっていっても命までは、って。土方さんの覚悟も何も理解しないで生意気なこと言って本当にごめんなさい」
「なぁ、お前の幸せって何だ?」

土方は茜の言葉には何も返さず、質問を投げかけてきた。

「えっ? 幸せ、ですか? 今、充分幸せですよ。土方さんといられて」
「じゃあ俺はもっと強くならんとな。簡単に死なねェように」
「私は土方さんが……いえ、真選組の皆さんが全員無事でいられますようにって祈ります」

仕事も茜もどっちもやっていくには、強くなる、ただそれしかない。
それ以上のことを考える暇があるなら、剣を振るってりゃあいい。

「帰るか」

茜の肩に手をやり屯所へと促す土方は、まとめ髪のうなじに目がいき、随分大人びたもんだと感心してしまった。

そういや今日は化粧もしっかりしてんな。
気付いてほしいだろうか?

そりゃ女なら気付いてほしいだろ。

「せっかく綺麗にめかし込んでたのに今日は悪かったな」
「気付いてくれてたんですか!?」

あまりに茜が嬉しそうな顔をするので、土方はとても今気付いたとは言えなかった。

門をくぐると土方は茜の手を取った。
別々の部屋に向かうため今日はここでお別れだ。
さすがに屯所の入口で下手なことはできない。
名残惜しさを伝えるように、土方は握った茜の手の平を指先で撫でた。

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あきゅろす。
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