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向日葵の君
迷い人2

「それで土方さんは何が言いたいんですか?」

肘から下を腿の上に乗せ前屈みになった土方は、斜め下から茜の表情を窺いながら口を開いた。

「もしもだ。俺がいなくなったらお前どうなる?」
「先のことは私にはわかりません」

茜は少し怒った声で、きっぱりと言った。

「土方さんはどうしたいんですか? 私がいると迷惑になるんですか?」
「そんなことは言ってねー」
「じゃあ何が問題なんですか?」
「問題とか、そういうんじゃなくて……」

仕事も茜も両方手に入れ、何とかやっていけるなんて甘く考えていたのは、ここのところ少し平和だったからかも知れない。
本来自分は危険な仕事についてるのだと改めて自覚した土方は、茜の存在にぶつかりあれこれ悩み始めていた。

いつ死ぬかもわからねェ俺が、お前を幸せにできるか?
そう言おうとして止めた。
また新しい煙草を口に入れる土方を横で見ていた茜は、最初の煙が吐き出されるのを待ってから口を開いた。

「はっきり言ってください。思ってること」
「別に何もねェよ。ただ……いつ死ぬかもわからねェだろ? 本当にお前を幸せにしてやれんのかねって、少し考えてただけだ」

結局は言わずに止めた言葉を口にしてしまった。

「私が幸せかどうかは私しかわからないんですよ!? 土方さんが決めることじゃないはずでしょう!?」

抑えてはいるが、きっと怒っているのだろう。
さっきから茜の口調が全部厳しい。

「俺はお前に辛い思いをさせたくねェだけだ」
「だからそれも……」
「じゃあお前は俺が死んでも悲しまねェとでも言うのか!?」

土方は大きな声で茜の言葉を遮った。
辺りは人気が少ないとはいえ全く誰もいないわけじゃない。
目の前の遊歩道を過ぎる人達は、ちらちらとベンチの二人を気にしながら通り過ぎていく。

「土方さんが本当に言いたいこと、何となくわかりました」
「何だっつーんだよ!?」
「一緒なんでしょ? 昔と、江戸に出てきた時と」

ここですぐに違うと否定しないのは、そうだと認めているようなもの。
何も言わない土方に茜は、小さく溜息をつき立ち上がった。

「先に帰ります。さよなら」

慌てて顔を上げると、一瞬だけ辛そうな表情が窺え胸が痛む。
追いかけようとしたが、答えも出ていないのにかける言葉もないと、結局思い止まった。
道は緩いカーブになってるので、すぐに茜の姿は見えなくなる。

確かに茜の言う通りだ。
結局俺は、何年経とうが何も変わっていなかったのかもしれない。
けれど茜が残した言葉が、情けないままの俺に答えをくれた気がした。

普通の幸せを手に入れてほしいと、あの頃も、そして今もずっと、相手の幸せを心から考えていたつもりだ。
だが本当は、ただ自分が苦しみたくないがための独りよがりな言い訳だったのかもしれない。
いつか相手から嫌気がさされ去って行かれるのが、本当は怖かっただけなのかもしれない。

茜の言う通りだ。
本当に幸せかどうかなんて本人にしかわからねェ。
今ここで喧嘩して茜に辛い思いさせてどうすんだ?

慌てて立ち上がった土方は、茜が歩いて行った道を追いかけ歩き出した。
歩幅の違いを考えれば、急ぎ足で充分間に合うだろう。

木枯らしの音を聞きながら、最近は記憶の底に沈んでいた彼女を思い出す。

普通の幸せを手に入れてほしい。
俺の願った幸せを手に入れることのなかったお前は、どんな幸せを願って生きていた?

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