向日葵の君
告白2
「全部聞くか? そっちの方がスッキリすんだろ」
やけにサバサバとした口調で、土方は口を開いた。
全部聞いて後で後悔しないだろうか。
世の中聞かない方がいいことはたくさんあって、これだって聞かない方がいい話に属するような。
「そんな顔すんなよ」
土方は固い表情で迷う茜の頬を、軽く握った拳で柔らかく触れ笑った。
「昔の話だ。俺や近藤さん、総悟達がまだ田舎にいたガキの頃のな」
まだ茜には迷いがある。
聞きたくない気持ちもある。
けれど土方は勝手に話し出した。
唇をぎゅっと結び耳を傾ける茜は、向かい合って横になっている土方が、珍しく煙草を吸わずにいることに気が付いた。
遠く風の音、戸の揺れる音、土方の声、それら全ての音が妙に耳に心地が良く感じる。
「まだ若かったしテメェのことだけで精一杯だ。斬って斬られて……こんな俺が女を守れるわけもねェ。幸せにできるわけねェって、最後は田舎に捨ててきた。簡単に言えばただそれだけのことだ」
「その人があの着物の?」
「ああ。俺はもう色しか覚えてなかったけどな。総悟からは同じもの着せて趣味が悪ィって言われた」
「沖田さんが?」
「あー…もう言っとくか。総悟の姉貴なんだよ」
もう今更隠してもしょうがねェと、土方はすっかり開き直ってしまった。
それに実際に話してみると、何とでもなるような気がしてくる。
一方茜は、「そっか、それで沖田さん最初突っ掛かってきたんだ」と、やっと合点がいった。
「沖田さんのお姉さんなら綺麗な人だったんでしょうね」
「ん……」
土方はここは言葉を飲み込んだ。
世間的に言えば綺麗だったし、茜と比べても多分そうだろう。
とはいえ、そんなことは言えるはずもない。
ここまで聞かされた茜は、特に不安を煽られることもなく、誠実な態度で向かい合ってくれてることが反って嬉しく思えた。
こんなふうに自分のことを長く話すような人じゃないのに、と。
「話してくれてありがとうございます。土方さんくらいの年になれば過去の一つや二つ……いや、土方さんならもっとたくさんあって当然なのに。勝手に不安になっちゃって」
この人は本当に私を好きなのかなんて、不安になってる自分の方が彼のことを信じていなかったのだと、茜は気付く。
土方は伸ばした腕で茜の肩を引き寄せた。
目に見えて晴れやかな表情に変わる茜を見ると、顔に出過ぎだと少し可笑しく思える反面、この続きを聞けばどんな反応を見せるだろうかと、少し怖くもなる。
そっと肩に触れた手で体を引き離すと、不思議そうな瞳が向けられた。
「どうしたんですか……?」
「まだ少し続きがある」
「え?」
すぐに顔に出てしまう茜は、案の定一瞬で表情を曇らせる。
風の音は、まるで効果音のように強くなった。
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