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向日葵の君
決心1

「お待たせしました」
「いやいやありがとう。さ、茜ちゃんも暖まっていってね」
「はい、ありがとうございます」

余程冷えていたのか、湯飲みを持つ手指がじんじんと痺れてきた。
熱いものはあまり得意ではない。
息を吹きかけ、ゆっくりと口元に近づけていく。

「トシとはどうだ?」
「えっ? あ、はい。まぁ何とか」

いきなり土方とのことを聞かれ動揺した茜は、熱いお茶が勢いよく口に入りそうになり、慌てて湯飲みを口元から遠ざけた。

「いい男だろう?」
「えっ? あ……、はい。」
「アイツは男の俺でも惚れるほどの本当のいい男だよ」

目を細め頷きながら得意げに話す近藤に、茜の口元が綻ぶ。

「こと女に対しては難しいところも見受けられたんだが……、茜ちゃんのことは初めて会った時から何か違ったんだと俺は思うね」
「……」
「見ず知らずだった茜ちゃんを連れ帰ってきて、あのトシが頭を下げたんだ。俺ァ内心驚いたもんだ」

話を聞きながら、この人も土方さんの昔の恋を知ってるんだと茜は気付いた。
近藤も沖田も知っている。
そう思うと何だか居心地悪いような妙な気がする。
茜は少し冷めてきたお茶を口にして、気持ちを沈めようとした。

「トシは茜ちゃんと会って変わったよ」
「近藤さんから見て、良い方にですか?」
「ああ」

近藤がそう言うのならそうなんだろう。
もう何も考えない方がいい。

「近藤さん」
「ん?」

それなのに、この人なら本当のことを教えてくれるんじゃないか。
そんなことを考えてしまう。

「土方さんは本当に私のことを好きで付き合ってくれてるのかなって、私……ずっと不安なんです」
「本気じゃない女と付き合えるほど器用な男じゃないよ、ヤツは」

予想以上に近藤はキッパリとした口調で答える。

「近藤さんがそう言ってくれるなら、私……信じます」
「いやいや、俺のことよりトシのことを信じてやってくれ」

そう言って近藤は大きく笑った。

私、土方さんのこと、ちゃんと信じてたかな…。
土方さんの気持ちをずっと疑ってきたのは私。
不安を口にすると簡単に崩れてしまうような幸せだと、私自身がそう思い込んでいるのかもしれない。

近藤の部屋を後にした茜は歩きながら考える。
何でも口にしてしまうくせに、どうしても聞けなかった不安。
今度こそちゃんと聞いてみよう。

茜は小さな決心をし、久しぶりに気持ちが晴れたようだった。


 * * *


「近藤さん、これ」
「おう、トシ。ご苦労さん。そこで茜ちゃんに会わなかったか? さっきまでここにいたんだが」
「いや会ってねェけど……」

仕上げた書類を届けにきた土方は、いきなり茜の名前を出され戸惑いながら腰を下ろした。

さっきまでここに茜がいた。
近藤さんと二人で、二人きりでいた。

近藤相手に少し複雑な気持ちになるのは、自分の心が狭いからなのだろうか。

「そうか。何だか少し元気がないようだったが……、心当たりはあるか?」
「いや? 特には」
「それならいいが」

そういやこの前、体調が悪いとか言ってたっけ? それで誘いも断られたんだった。
きっとそのせいだろうと土方は暢気に考えていたが。 

少し長居することになるかもしれない。

含みを持った近藤の言葉に片眉を上げた土方は、ゆったりとした動作で煙草を取り出し火をつけた。

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あきゅろす。
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