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向日葵の君
餅を焼く人2

昨日は休みだったし、何となく二日連続で土方の部屋を尋ねる気にはなれず、結局土方とは会わないまま一日が過ぎた。
あまり間を置くと、次に会った時気まずくならないだろうか。
確かに屯所内にいるはずの土方と、今日もまだ会えないことが少し不思議になった茜は、土方の部屋の前を通ったついでに立ち止まってみた。
だが流れてくる煙は感じられない。

「……」

やっぱりいない。

再び歩き始める茜の前に、廊下の向こう側から土方が姿を現した。

「土方さんっ…」

声をかけてみて違和感に気付く。
まるでそこに茜がいないかのように、土方の視線が茜を捕らえることはない。
土方がそのまま茜の横を通り過ぎて、初めて違和感ではなく無視されているのだと気付いた。

目の前で閉められた障子戸。
三秒おいて茜は勢いよくその戸を開いた。

「土方さんっ!?」

勢いよく開かれた戸に土方が顔を上げる。

「一体何なんですか? なんで無視するんですか?」
「そこ閉めろ」
「え?」
「戸を閉めろって」

開けたままだった戸を閉めて振り返ると、土方はちょうど煙草に火をつけるところだったので、煙が吐き出されるのを待って茜は再び口を開いた。

「何で無視するんですか?」

今度はさっきよりずっと小さな声。
泣かれるのは面倒だなと思い直した土方は、やっと口を開いた。

「お前昨日、万事屋と何してた?」

茜の前ではあまり出さない不機嫌な声。

「何って、何も……」
「会ってたのは確かだろう。つーか、いつの間に知り合った?」

やっぱり沖田が匂わしていた通り、団子屋でのことで怒っているのだとわかり茜は少しホッとした。
やましいことなどあるわけもなく、勝手に土方が怒っているだけなのだから、きっとすぐに誤解も解けるはず。

「昨日たまたまお店で会っただけです」
「たまたま会ったってお前アイツと面識あんのかよ」
「いえ、前に土方さんと一緒の時に会っただけですけど。顔は向こうも覚えていてくれて、それで少し話しただけです」

頭の片隅では、きっとそういうことだろうなとは思っていた。
けれど目の前で並んで座る二人を見ると、頭の中がぶっ飛んでしまったのだ。

「何の話してたんだよ?」

だんだんと自分が情けなく思えてくる。
ただ二人でいたというだけのことで勝手に怒って茜を無視し、何を話していたのか教えろとまでいうのは、いくら何でも余裕がなさすぎる。

「何って、特には。土方さんのことを少し」
「あー? 俺のこと?」

そりゃ話の流れで自分の話題になってもおかしくはないだろうが、本人のいないところで二人の間で話題にされてると思うと、何となく気分が悪い。
茜はこっちが苛立っているのに動じる様子もなく、そのあたりに女の余裕を感じた。

「万事屋さんは土方さんのこと、悪い男じゃないって言ってました」
「……」

なんだよ。俺すげェかっこ悪ィじゃねェか

わざと苦い表情を作り煙草を消すと、茜は座ったまま一歩前に詰め瞳を覗き込んできた。

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あきゅろす。
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