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向日葵の君
餅を焼く人1

 * * *

部屋に戻ってもなかなか眠れずにいた茜は、すっかり寝過ごしてしまい、昼近くになってようやく体を起こした。

「休みの日で良かったぁ……」

ホッとしながら這うようにして鏡に向かう。
鏡に映る自分はいつもと変わらないどころか、寝起きのせいで酷い顔。
何か劇的な変化を期待していた茜は、鏡を元に戻して欠伸を一つ。

少し体が怠いが、このまま寝ていては明日から余計辛いかもしれない。
お昼を食べたら町へ出てみることにしよう。
真新しい着物を着て、この前土方さんに連れていってもらった団子屋でお土産を持って帰ってこよう。


 * * *


「あっ!」
「あ…?」

団子屋についた茜は、店先の長椅子に座る見覚えある珍しい銀髪の男を見つけて、思わず声を上げた。
茜の声に顔を上げた銀時は、茜の顔を見てほんの少し反応を見せる。

「えー、と……? 誰だっけ?」
「あの……」

よく考えればこっちが勝手に顔を覚えているだけで、土方から紹介されたわけでもなく、おまけにこの男はあの時土方と言い争っていたはずだ。
何て名乗ればいいものか茜が戸惑っていると、 

「あー! あれだ、土方と一緒だった、よな……?」

茜のことを思い出した銀時は、気持ち良く手を打った。

「はい、そうです」
「で、どうなの? うまくやってんの?」

気安く話しかけ、少し体を端にずらすと茜を手招きする。

「あー。まぁ何とか」
「ふーん。アイツがねぇ」

頬を赤らめる茜を横目に、銀時は団子を一気に口へ入れた。

「土方さんの知り合いなんですよね?」
「あー、知り合いっつーかなんつーか……まぁそうだな。あっ、アンタ名前は?」
「茜です」
「俺は坂田銀時。ここいらで万事屋をやってんだ。まぁ、その関係で真選組の奴らとは少し関わりがあんの」
「そうなんですか」

銀時は座ったまま茜の側を向いた。

 「まぁ、俺ァ奴とは親しくしてるわけでもねェんだけど、悪い男じゃねェと思ってる。これって決めた女には真面目で優しいんじゃね?」

真剣な、けれど優しい目でそう尋ねる銀時は、

「どう? 優しいか?」

茜を小突き、茜は小さく頷いた。

「ったくよォ、聞いてらんねェなァ」

笑いながら銀時は、小皿にまだ団子を一本残したまま立ち上がった。

「一本残ってますよ?」
「んー、もう腹一杯。食っていいからさ」

食べ過ぎたのか、お腹をさすりながら去っていく銀時を見送った茜は、「いただきます」 と早速残った団子を頂いた。


 * * *


「女は怖くていけねェや」

聞き慣れた声に振り向くと、案の定隊服姿の沖田である。

「あ、沖田さん。お疲れ様です」

沖田は茜の声を無視して、先程まで銀時が座っていた場所にドカッと腰を下ろした。

「めでたく女になった途端に、万事屋の旦那と逢い引きたァ大したタマじゃねェか」
「何言ってるんですか!? そんなんじゃないです」
「いやぁ、随分といいムードに見えたけどな」
「本当に何でもないですって。お団子一本もらっただけで」

この店は真選組の行きつけなのか、店員が黙って団子の乗った小皿を沖田に持ってきた。

「沖田さんっ!?」
「んー?」

団子を頬張りながら返事をする沖田のスカーフを引きちぎりそうな勢いで、茜が大声を出す。
危うく聞き逃すところだった。

「なんで知ってるんですかっ!?」
「知ってるって何をでさァ」
「とぼけないでください。さっき言ったじゃないですか! お、女になったって……」

最初の勢いが次第に尻つぼみになっていく茜に、沖田はニヤリと笑った。

「ああ。それならみんな知ってるぜ」

みんな?
え? みんなって……ええぇ!?

本当か冗談かもわからないような口ぶりだが、確かめるのが怖い。

「アンタはそんなことより野郎への言い訳を考えた方がいいんじゃねェの?」
「……言い訳?」

ツケで払ってるのか、食べ終えた沖田は立ち上がると、そのまま勘定もしないで歩き出す。

「沖田さん?」
「あー俺、土方さんとパトロール中だったの忘れてたー」

独り言のように、けど茜に聞こえる音量で、わざとらしく沖田は言った。

土方さんと? 土方さんが一緒にいたってこと?

聞き返そうにも沖田は角を曲がってしまった後。
何だか疲れてしまった茜は、お土産のこともすっかり忘れて帰路を急いだ。

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