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向日葵の君
考える人3

土方の部屋からは外にまで煙草の煙が漏れていて、彼がまだ起きていることを教えてくれる。
微かに漏れてくるテレビの音。

一体何を見ているんだろう?

未だ見たことのない土方のプライベートを想像して、茜は微かに微笑む。

「誰だ?」

流石は土方だ。
部屋の外の気配に気付いたようで、鋭い声が投げかけられた。

「あの、茜です」
「ええ!? お、おぅ……。ちょっと待て」

中からは土方の慌てた様子が窺え、ドタバタと畳を踏み締める音に続き、テレビはプツンと切られた。

「おい、入ってもいいぞ」
「お邪魔します」

土方の声に茜はそっと襖を開き、声を潜めながら部屋に足を踏み入れた。
土方も寝る支度を済ませていたらしく既に寝間着姿で、奥には布団が敷かれているのが見える。

「なんでそんなとこ座ってんだよ」

枕元の灰皿を手にしてテーブルについた土方は、襖の前で正座する茜を見て言った。

「あっ、はい。私……土方さんに話があって」
「なんだよ、改まって」

茜は深く息を吸いこむ。

「あの、私やっぱり心の準備がつかなくて。それに……準備ができましたなんて、のこのことここに来られないというか、なんか違うって思ったし」

取り出した煙草とライターを右手と左手に持ったまま、土方は目を丸くしてポカンとした表情を浮かべている。
それは普段鬼の副長なんて呼ばれている彼とは、まるで別人のような表情だ。

「それに土方さんは、単純にゆっくりと一緒にいられるって理由で部屋に来いって言ったのかもって、さっき気付いて」
「ハァ? さっき!?」
「あ、はい。だから私が心の準備なんて言った時に笑われたのかなと」
「で、それをわざわざ言いに来たのか?」
「はい。ごめんなさい、こんな遅くに」

煙を吐き出す土方は、笑いを堪えているような、少し照れているような表情で茜を見た。

「まいったな」

部屋に呼んだ意味くらい通じてると思っていたし、その上で気長に待つのもいいかと思っていたが。
まさか本人が決心つかないだの決心ついても来れないだの、わざわざ面と向かって言いにくるなんて。

コイツにかかればムードもクソもあったもんじゃねぇだろっ!?

煙を吐き出すと肩を落とし火を消す土方に、入口に座ったままの茜が不安げな瞳を向けてくる。

「土方さん?」
「とにかくそんなとこ座ってねぇでこっちに来い」

そっと立ち上がって隣に腰を下ろそうとする茜の手首を、土方は思わず引き寄せて膝の上に誘った。

「え、え? 土方さんっ?」
「お前のことだ。思い立ってすぐに来たんだろ?」
「えっ? あ、はい」
「本当おもしろいな、お前は」

膝の上で戸惑う茜を抱き寄せ囁く。

「土方さん、お酒でも飲んだんですか?」
「酒? いや、飲んでねェけど。匂うか?」
「いえっ! そうじゃなくて。なんか酔ってるみたいなんで」

膝の上で居心地悪そうに頬を赤らめる茜を前にすれば、おかしくなるのも当然だ。

「そうだな。おかしくなってるかもな」

そう納得するように呟く。

「茜」

いつもよりも低く甘く耳元で囁く声。
サラリとした髪に指を通す。

「本当に、私のことを好きですか?」

震える茜の声に土方の手が止まった。

「ああ」

もう考えたってしょうがない。
土方さんを信じるしかない。

優しく微笑み頷く土方に微笑み返した茜は、それ以上はもう何も言わず、ただ流されることに決めた。

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