向日葵の君
かわいい人5
信じられない。
土方さんが私のことを好きだなんて。
気に入ってもらえているのは何となくわかってたし、だからこそ調子に乗って、好きだなんて口走ってしまったわけだけど。
でも…。
私が本気で土方さんを好きでも困らなくて、土方さんも私のことを好きで。
それは世間的には……。
「……おい。聞いてんのか?」
「はいっ!?」
ぼーっと物思いに耽り、呼ばれていることに気付かなかった茜は、慌てて顔を上げた。
「あの……」
「返事はねェのか?」
こっちは照れくさくてたまらないのに、なぜかぼーっとした様子で飛び上がるような反応を示さない茜に、土方は少しふてくされながら尋ねた。
「もちろんうれしいです! でもちょっとだけ信じられません」
興奮した声で話す茜は真っ赤な顔をしながら、信じられないと首を傾げている。
そりゃそうだろうと土方は思う。
自分でもまだ信じられないのだから。
時間がこうしたとは思わない。
きっと相手が茜だからなんだろうとも思う。
だけど最初会った時から、彼女の面影が消えていないのも本当だ。
だからこそ、泣かせたくないと強く思った。
「まぁいいじゃねェか。ゆっくり信じてくれりゃいい」
ほんの少し。
茜には土方の声が、表情が寂しげに感じて、何故だか胸が痛んだ。
思いが通じたはずでも胸が痛んだりするのだと、茜は初めて知った。
「私、そろそろ行きます」
「ああ、そうだな。呼び止めて悪かった」
立ち上がった土方は、床に置いた籠を持ち上げ茜に手渡した。
両腕で抱えたら前も見えなくなるような籠を、片手で抱え上げる姿に今度は暢気に見惚れてしまう。
「ではこれで失礼します」
名残惜しい気持ちを抑え背中を向けた茜は、障子が開きっぱなしだったことに初めて気が付き、慌てて土方を振り返った。
「ああ。誰も通らなかった」
茜が振り返った意味はちゃんと通じていて、 土方はそう言って頷いた。
そして数歩歩み寄ると、茜の目の前の開いていた障子を閉じた。
両手が塞がったまま、不思議そうに土方を振り返る茜の唇に、柔らかい唇が降りてくる。
「……」
「……」
土方の呼吸を近くに感じ、次に煙草の匂い。
「……!?」
再び障子が開かれ世界が明るくなる。
「またあとでな」
混乱して言葉が見つからない茜の頭を一撫でしながら、土方は軽く笑って言った。
[*前へ]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!