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向日葵の君
かわいい人2

気まずい空気が流れだす。
泣きそうな顔で俯いている茜を見て煙草をもみ消した土方は、ふっと笑いをこぼした。

「別に怒ってねェよ」
「へ?」

てっきり土方が怒っていると思っていた茜は、間の抜けた声を出して顔を上げた。

「怒ってると思ったんだろ?んなガキみてェによ、ベソかくこともねェだろ。」

その声は少しからかうような響きを含んでいる。

「私……つい生意気な言い方してしまって」
「かまわねェよ、別に」
「なんで土方さんは、そんなに優しくしてくださるんですか?」

茜のストレートな問いに、土方は目を逸らして首を傾げた。

「別に優しくもねェだろ」

そっけなく返すが茜は、

「いえ、土方さんは優しいです」

と、大きく頷く。
何言ってんだと思うが、茜の姿が健気に懐いてくる子犬のようで、土方は少し気持ちが緩んだ。

「人に優しくしたことなんかねェし、優しいなんて言われたこともねェけどな」
「自分で自分のことを優しいなんて思ってる人を、私は信用できません」

さっき吸い終えたばかりなのに、もう新しい煙草を取り出そうとしていた土方は、茜の言葉に一瞬手を止めた。
「そりゃそうだ」と、少し照れ臭そうに笑う土方を見ていたら、茜は何故だか唐突に幸せだと感じた。

「土方さんは私のこと好きですか?」
「ハァ!?」
「私のこと気に入ってくれてたらうれしいです」
「ったく、次から次と…。一体お前は何言い出すんだよ」 

火をつけている最中だったライターを危うく落としそうになりながら驚いてみせる土方は、呆れたような顔で茜を見た。
思わず口にしてしまった言葉に、茜自身も驚いてしまう。

私、何言っちゃってるんだろ…。
いくら土方さんが優しいからって。

だが、どうせ子供扱いされて本気には受け止めてくれないだろうと、開き直ってみせる。
しばらく視線を空に漂わせていた土方は、答えを待つ子供のような茜の瞳に、深呼吸するように煙を吸って吐き出すと口を開いた。

「気に入ってる…そうだな。俺が連れて来たって責任もあるしな」

真面目な顔して答える土方に、あーやっぱりと茜は肩を落とした。

「責任って……それ気に入ってるじゃなくて気に病んでるんじゃないですか?私ちゃんと働いてますから安心してください」
「あー、それはわかってる」
「良かった」

微妙にズレてしまった話に茜は少しがっかりしたが、いつまでもこうしていられないと顔を上げた。

「私そろそろ行きます。いつまでも休んでたらサボってると思われちゃう」

時間を気にして話を切り上げると、土方もおかわりはいらないと言うので手早くテーブルの上を片付けていく。

「それじゃ、私はこれで失礼します」
「あ、待て」
「はい?」

盆を手に立ち上がっていた茜は、足を止め振り返った。
土方は腕をテーブルに乗せ、今まさに立ち上がろうとする不自然な体勢で茜を見上げながら口を開いた。

「中途半端に優しさなんて持っていたら、斬ったり斬られたり……こんな仕事はとても無理だ。非情なこともしてきた。優しい人間でも何でもねェ、俺は」
「……」

何の話かと首を傾げる茜に土方は、自分自身にも言い聞かせるように言葉を紡いでいく。

「けど悪い気はしねェな。お前の前でくらい優しい人間になってもいいかって、今はそう思う」

土方は何故だか満足げに頷き、優しく笑った。
その笑顔はどこか寂しげに映り、胸が熱くて、けれど少し痛くて。
考えるより先に口から言葉が出てしまった。

「私は土方さんのこと、初めて会った時から本当に優しい人だと思ってました。私、土方さんのことが好きです」

茜の言葉に土方は、驚いたように目を見開いた。

言い逃げなんて狡いとわかっているが、茜は頭だけ下げると、そのまま足早に部屋を後にした。

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あきゅろす。
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