お義兄さんと呼んで(弟/臨也) 「げっ」 「人の顔を見て第一声が『げっ』なんて凄く失礼だとは思わないかい?」 たまたま静雄が離れ(今目の前にいる人物を追いかけていったのだが)一人ぶらぶらと廊下を歩いている道中に、楓は嫌な笑みを浮かべた来神最悪の問題児に出会してしまった。 「臨也か…」 「どうも、貴方の兄の恋人折原臨也です」 「恋人じゃないだろ」 「おや?俺と高瀬先生との関係を君はどこまで知っているのかな」 「どこまでって…」 第2ボタンが緩められはだけた臨也の鎖骨から、赤い跡が目に入る。紛れもなくあれは兄の残した跡であろう。 「兄さんは特定の相手を作らない」 「それは本人からの情報?」 「そう。めんどくさいって」 「へぇ」 愉快そうに臨也は目を細めた。 なら椿も自分以外の相手にまだ本気ではないのだ。現在地点では、皆同じ位置。それなら後は、いくらでも自分へと愛の天秤を傾けられる。傾けさせる自信が臨也にはあった。 「それは有力な情報提供ありがとう」 「……どうも」 「まぁいずれ、俺のことをお義兄さんって呼ぶ日が来るのは近いよ」 「…絶対に来ない」 「それは何故?」 「ただ単に俺が呼びたくないから」 臨也は盛大にため息を付いた後、我が侭だね、と毒づいた。まぁそんなところがあの人と似たところで嫌いではないのだが。 「あとさ、もうちょっと隠れる場所にした方が良いと思うんだよね。シズちゃんって案外独占欲強いんだ」 「は?」 「俺と同じの、いっぱい付いてる」 「っえ…!」 ばっと楓は自分の首に手を当て、顔を赤らめた。見られた。一番見られたら厄介そうなやつに見られた。 「可愛いね。でも高瀬先生の方が照れた時のギャップが激しくて可愛いかな」 「…最悪。消えてなくなりたい」 「そうして貰えるとこっちも助かるよ。君は少し邪魔だから」 「臨也が喜ぶなら死ねない」 「死んでよ、楓」 あくまでも、臨也は楽しそうな表情を変えない。そして、楓も無表情に臨也を見つめる。いつものことなどだ。このやり取りも、何回もしてきた。 「………あと15秒でしず来るよ」 「思ったより遅かったな。やっぱり200人斬りはそれなりに時間かかるか」 まだ何も見えない廊下の奥を見つめ、臨也が呟いた。 「またね、楓」 「またなんて来ないでほしい」 「ツンだなぁ」 呆れながら、臨也は窓を飛び越え、消えていった。 >>>アトノマツリ (ーДー) (2010/03/13) [*前へ][次へ#] |