暴犬の付き人(弟/新羅?)
静雄の地を這うような叫び声が来神学園に響いた。それを初めて聞いた者なら何事かと窓の外を見るだろうが、すでにそれが日常化した来神の生徒達は皆ため息を溢すだけで、特別動くものはいなかった。
別にわざわざ見なくても、わかるのだ。
―――グランドで起きている惨劇に。
楓はくぁ、と欠伸を噛み殺しグランドの端に設置されてるベンチで、まるでテレビを見ているかのように眺めていた。
「毎回思うけど、止めなくていいのかい?」
「いいのいいの」
新羅は隣に座って同じように二人のいたちごっこを眺めていた。
あくまで楓は干渉しない。特に静雄と臨也の関係に対しては。
「悔しいけど、静雄の相手はアイツしかいないから」
「凡人な僕たちはこうしてみてるくらいしかやることない、か」
「新羅が凡人なんて笑う」
「まぁ君も案外非凡な存在だから、凡人と言ったのは間違いだったね」
彼は静雄とはまた違った意味で池袋最強だと新羅は思っていた。彼に呼び名を付けるとするなら、「天に愛された者」とでも言おうか。本人自身は自分の能力に対してお金には困らない程度であまり役には立たないと思っているみたいだが、それはとんだ思い違いだ。
彼の能力を利用すれば、世界を歪めることなど容易いだろう。
幸い、一番悪用しそうなヤツがそれに気付いていないことが唯一救いなのだが。
「臨也も変なところで抜けてるよね」
「アイツは俺に興味は持たないよ」
楓を横目に眺める。その表情は変わらず、退屈そうに静雄と臨也のやり取りを見ていただけだった。静雄の傍にいないときの楓は幾分感情の起伏が下がってどこか退屈そうにしている。
その顔からは何も察せず、新羅は問いかけた。
「なぜそう思うんだい?」
その言葉を聞いた楓は僅かに口の端をあげた。
「何でだと思う?」
色素の薄い茶色の瞳が、新羅を真っ直ぐ見つめる。その瞳に吸い込まれそうな感覚に陥り、慌てて目をそらした。
「質問を質問で返すなんてズルい」
「ごめんごめん」
ししっと楓が笑い、新羅は心を撫で下ろした。楓の目は魔力を持っている。絶対に持っている。だから僕のせいではないんだセルティ!とブツブツと呟く声が聞こえてきた。
「臨也はさ、今忙しいじゃん。兄さんや静雄のことで」
「中学の時よりは悪い意味で満喫してると思うよ」
「うーん…。何て説明したらいいかな」
顎に手をやり暫く考えたがこれと言って思い浮かばない。
「まぁ、簡単に言うと俺の勘」
「あのいつもの勘?」
「ははっ、それそれ」
楓はベンチから立ち、鞄を二つもって新羅を振り返った。
「じゃあ、そろそろ静雄連れて帰るよ」
まるで飼い主のような言葉だと新羅は笑った。それならきっと楓の中ではあの二人の関係は犬のじゃれあい程度だと考えればなるほど、納得する。
「だけど、あの二人が犬って…」
やっぱり楓は感覚がずれてるんじゃ…?
>>>アトノマツリ
(`ω´)
(2010/03/10)
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