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髪の乱れは心の乱れ(弟/静雄)
廊下の一番突き当たりの目立たないところで、静雄は座り込んでぼやっと空を見上げていた。
隣には同じように壁にもたれ、ぼやっとした表情で空を眺めている楓がいる。
二人の間には会話はなく、ただ白い雲が流れるだけだった。
静雄は考える。

このぼんやりした少年、高瀬楓とはそれこそ生まれる前からお隣さんで小中高と今の今までずっと隣には楓がいた。
そんなに一緒にいれば普通は喧嘩も絶えないはずなのだが、何故か今までに静雄の暴力の被害者には一度もならなかったのだ。
もちろん怒ったことはある。が、それは注意というのか警告に近いものであって、静雄が楓を心配しての怒りだった。

「なんでだろな」
「ん?」

ふぅ、と静雄はため息をつく。それに気付いた楓はクエスチョンマークを付けて首を傾げた。

「考えて見たんだけどよぉ、俺お前を殴ったことねぇよな」
「あぁ、確かに」
「なんかてめぇの顔見てるとイライラが収まんだよ」
「それは初耳だ」

がやがやと昼下がりの廊下にはたくさんの生徒たちがはしゃいでいたが、その空間だけ切り取ったように時間がのんびりと流れていた。
楓が静雄の髪に触れる。

「あんま俺なんも考えてないからなぁ。だからじゃない」
「要するに楓がバカってことか」
「ははっ、そうかもしんない」

静雄の腕を引っ張り立ち上がらせる。静雄は軽く制服を叩いて塵を払うとくしゃ、と楓の頭を撫でた。

「お前は素直なだけだろ」
「ん?」
「聞こえてねぇなら別にいい」
「なんだよ、いえよ気になる」
「また今度な」
「うぅ…」

くしゃあともう一度撫でた後に楓のくしゃくしゃになった髪を見て静雄は密かに笑った。

「もぅ、あんまくしゃくしゃにすんなよな」
「癖だからしゃあねぇだろ」
「兄さんも人の頭撫でるの好きだよね、たいがい」
「あぁ、多分椿さんのアレみて覚えた気がすんな」

廊下の反対側には授業よりも早く来て生徒たちと楽しそうに雑談を交わしている白衣の数学教師、楓の兄が同じように生徒の頭を豪快に撫でているところだった。
楓たちの視線に気が付くと、椿は右手をあげ笑った。

「楓!髪乱れてるぞー!」
「うそ!」

一生懸命髪を直そうとしている姿に静雄は「仕方がねぇなぁ」と呟き、髪を元に戻してやった。

「兄さんありがとー」
「髪の乱れは心の乱れー」
「まだお前の兄さん叫んでるぞ」
「大丈夫。ほっとこほっとこ」

と、静雄と楓は教室へと帰っていった。

「ちくしょ、無視なんてちょっと兄さん寂しいぞ」



>>>アトノマツリ
静雄は幼い頃から兄を知ってるので、常にさん付け。

(2010/03/08)

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