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寒い寒い夜だった(兄/臨也)
寒い寒い夜だった。
息を切らして雪の中を掻き分けて走りようやく目的地に近づいたあたりで椿は止まる。
さっきまで真っ白だった道が、赤く染められて、いる。鮮血が、広がっている中に、立ち尽くしている少年が二人。一人は無表情に、もう一人はゾッと凍るような笑みだった。
育ててくれた両親が赤く染まり起き上がる気配もない。事切れているのだろう。

―――これが、俺が招いたこと。

ココに来る前にみた死体も全て、全て俺のせいなんだ。

「椿、待ってたよ―――」

狂気じみた笑みを浮かべた同じ年の少年は椿に触れる。
顔に血が付き、それを拭うこともしない。
俺が、悪かったんだ。お前を、一人にした俺が悪かった。

「―――恭」

少年の名前を呼ぶ。
笑みを深め、心底嬉しそうな顔をした少年を椿はじっとみた。



******



「高瀬先生…?」
「あ、あぁ…。折原か…」

廊下の途中で、浮かない顔を浮かべたまま窓の外を眺めていた椿が気になり、声をかける。驚いたように振り返り、臨也だと気が付くと、何処か安心したように椿は強ばっていた表情を緩ませた。

「浮かない顔つきですね。俺を目の前にしてるっていうのに」
「ちょっと、な」
「…?」

何時もならくだらない言葉遊びもある程度付き合ってくれるのに、何処か遠くを見つめたまま椿は気のない返事をする。

「昔のことを、思い出してたんだよ」
「昔のこと…」

臨也はある程度椿のことは調べてある。
情報を頭で引き出し、どの過去のことを思い出しているのかと考えている途中で、椿と目が会う。
ふわりと柔らかい笑みを椿は浮かべる。

「…なんですか」
「いや、別に?」

ぽん、と臨也の頭に手を置く。
妙に笑いを堪えている椿に眉を寄せた。

「言いなよ」
「…お前意外とさぁ、可愛いところあるよなぁ」
「…は?」

臨也の髪の一部に触れ、それをいとおしそうに撫でる。

「なんか折原が真剣に考えてる時、首かしげてるよな」
「…は!?」

一歩脚を引き、臨也は変な声を出した。

「だれが、なんだって」
「うんうん。可愛い」
「…可愛いなんて言われても…凄く心外です」

口を押さえ、何かを堪える。なんだこれ。まさか、可愛いなんて言われて嬉しい訳が、ない。

「照れんなって折原くん」
「…はい?!」

語尾にハートマークが付きそうなほどの勢いな椿にどこか冷静な部分で臨也は違和感を覚える。
もしかして…、無理しているのだろうか。

「高瀬先生だから照れるんですよ」

ほんの一瞬、困ったような表情を浮かべた椿はすぐに笑った。

「そりゃ嬉しいな」

いつものように頭を撫で椿は通り過ぎていった。



何かが蠢いて、何かを覆い隠して。
臨也は酷く冷静に、椿を見ていた。

「恭、ね…」

椿がぼそりと呟いた言葉を、繰り返し声にする。



>>>アトノマツリ
さてさて。

(2010/03/25)

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あきゅろす。
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