燻るは煙か心か<後>※
急いで帰り、自分の家には寄らず制服で鞄を持ったまま静雄の家の前まで来た。
だけど。インターホンに何度も手を伸ばそうとするのに、押せなくて。
もしも会ってくれなかったら。もしも拒絶されたら。立ち直ることは出来るだろうか。
どうしよう。
迷いの心に支配され動けなくなった時、ガチャと扉が開かれる音に顔をあげた。
「楓さん…」
「かす、か」
出てきたのは静雄の弟で、楓は心を撫で下ろした。
「…家、入りなよ」
「うん…」
幽の温かい手が楓の耳を撫でる。
「兄貴、部屋にいるから」
と言って、靴を掃く幽に楓は首を傾げた。
「どっか行くの…?」
「……買い物。楓さんも食べるよね」
当たり前に聞いてくる幽に楓は目をそらす。
そうなれば、いいのだが…。
「大丈夫だから」
自信に溢れた声で言う幽に顔が綻んだ。
「うん…。ありがとう幽」
******
静雄の部屋の前まで来た。さっきまでは不安が募っていたが、幽にも励まされ、もう行くしかない。
手のひらを握り締め、ノックする。
そして扉はゆっくりと開かれた。
「…驚かないんだ」
「まぁ、な」
久しぶりに正面からみる静雄の顔に、胸がじんと熱くなる。
「しず、話したいことがある」
息を吐き、深呼吸をする。言うんだ。絶対に。
静雄は扉を大きく開け、部屋の奥へと行く。つられるように楓も中へと入った。
久しぶりに来た静雄の部屋は特に変わっておらず、見慣れたままだった。だけど、これが最後になるかもしれないと、必死に目に焼き付ける。
静雄は窓に腰掛け、楓を見ていた。
「俺がさ、酔った時のこと覚えて、る…?」
「あぁ…」
握り締めた拳がじわりと汗を掻く。
「最初は本当にそんな気なんて全くなかった…。本当に身体が火照って、シズに助けて欲しかっただけ。でも、いつからかだんだん好きになってどうしようもなくて…怖くなった」
じっと目を逸らさずに聞いてくれてる静雄。
「シズにもしも彼女ができたら、もう今まで以上に一緒にいられなくなる。それでも、その時が来るまではそっと心の片隅に思うだけにしようって…。だけどこんなことになって…」
じわりと目元が熱くなる。
ダメだ、まだっ終わってない。最後まで静雄に、伝えないと。
「俺は、シズが好きだよっ。好きっ。でも怖い…っ」
一度目を閉じてしまうと、瞼から涙が溢れてしまう。止めなきゃと思うのに、どんどんと流れ落ちてしまう。
「泣かせちまったな」
そっと静雄の指が楓の涙を拭き取る。
「そんなの俺だって同じだ。楓の本当の気持ちを知るのが怖かった」
滲む視界の中で静雄が柔らかく笑っていた気がした。
「でもさ、怖がってたら前に進めねぇ。だからちゃんと伝えたんだろ、楓」
「うん…っ」
がばっと静雄に抱き締められ、ベッドへとなだれ込んだ。
「俺も、楓が好きだ」
言い聞かせるように、呟いた。
「どうしようもないくらいに、な」
顔を上げさせ、唇を合わせる。今までしてきたどんなキスよりも甘く、とろけそうになる。
この幸せを逃がさないようにぎゅうと静雄の背に手を回す。
ずっとずっと好きだった。友情から、愛情に変わるなんて簡単だった。
こうしてなんの柵にも囚われずに抱き合えることが、嬉しくて涙が止まらない。
「もっと…していいか」
「あっ…、かすか、帰って…」
首筋に静雄の唇を感じる。
「当分、帰って来ねぇよ。帰って来ても、キッチンで料理作るだろ」
「…なんか、恥ずかしい」
陽が暮れてきたとはいえ、まだ電気をつけなくても明るいのだ。
いつもは酔った勢いでなりゆきでこんなことになっていたが、今は正気だ。羞恥心が沸き起こる。
しかし、静雄を見れば、安心させるかのように唇にキスを送られる。
「悪いが、止められそうにねぇんだわ」
ちくり、と鎖骨あたり痛みが走る。シャツのボタンを一つ一つ外され楓の白い肌が露になった。
「んっ…し、ずっ」
胸の突起を撫でられ、背を反らす。時折引っ掻いたり、摘まんだりされ、声が押さえられなくなってくる。
「声、もっと聞かせろよ」
静雄が楓の胸に顔を埋め、舌で胸の突起を愛撫する。優しく労るように、でも時折激しくしながら楓の熱を高めていく。
楓は太ももに静雄の熱を感じて、顔が赤くなる。
静雄も、感じてくれてるんだ。自分だけじゃない。静雄も、好き、なんだ。
今更思い出し、ますます楓は乱れる。
「し、ずっ…好き」
「ん…。知ってる」
そのまま楓の身体を這うように下へいき、楓の熱の中心へと到達した。
「脚、開いて」
「あ…っ」
おずおずと言われたように脚を開けば、その間に静雄は入り楓の太ももに触れる。
「もうぬかるんでる」
「誰のせいで……!」
楓の中心を撫でながらからかうように言う静雄に楓は眉を寄せた。
「俺、だよな」
ぎゅうと握られ、楓は息を詰めた。そしてゆっくり上下に手を動かし始めた。
「しずのっ、あっ、せい…!」
「…お前の声ヤバイな」
イキそうになるところで手が離され、近くにあったハンドクリームを出して手に絡め、楓の奥へと触れる。
「あっ…や、」
襞を一つ一つ伸ばし解していくと柔らかくなってきた。
一本楓の奥へと進める。
「熱いな…」
「あぁーっ…んっ!」
楓の柔らかい内壁が静雄の指を締め付ける。もっと、と言うように動く。そしてすぐにある一点を見つけだし、そこを強く押した。
「ああぁ!…や、なに…?」
「楓の良いところ」
重点的にそこを触ってやり指を増やしていく。解れた頃合いを見計らい、静雄は指を抜く。
抜けた喪失感に楓は喘ぎ、何かを欲しがるように蕾が伸縮しているのがわかった。
「しず、はやくっ」
「わかってる」
避妊具をつけ、楓の中へと挿入する。ゆっくりと丁寧に負担がかからないように奥へと進む。
「楓、大丈夫か…?」
「んっ…」
額や瞼、唇にキスをして、楓が慣れるまで待つ。
「しず、本当におれ、好きなんだっ」
「お前だけが好きなんじゃねぇよ」
首筋に赤い跡をつけ、静雄は言う。
「俺だって、楓が好きだ」
どちらともなく腰を動かし、快感に満ち溢れていく。あぁ、なんて幸せ。このまま死ねたらどんなに幸せなんだろうか。
指を絡め、舌を絡め。どこも繋がって。
好きなんだ。
******
「で、めでたく付き合うことになったわけ?」
顔を赤らめて頷く楓に、不機嫌そうな顔で臨也はため息をついた。
「全く本当に俺は君が嫌いだよ」
「うん。臨也大好き」
「気持ち悪い。鳥肌立つ」
「臨也に気持ち悪いって言われるなんて……ははっ」
駄目だこいつ、と目を細める。
今は何を言っても、笑って許すその態度が気にくわなくて臨也は頬杖をついた。
「君の言いたいことはわかった。早く出ていってくれないかな」
数学準備室で話を聞いていたのだが、これ以上楓といると頭が悪くなりそうだった。
へらへら笑いながら「しずが待ってるから」と余計な言葉を残し、出ていった。
「…椿さん。貴方の弟良いんですか、アレで」
臨也たちの会話を横耳にしながら聞いていた椿が、からからと笑う。
「まだ付き合ってなかったんだな、あの二人」
「大事な弟なんでしょう?」
丸をつけていた手をとめ、椿は臨也を見て口の端をあげた。
「俺が怒ると思った?」
「少なからずは」
「まぁ、静雄じゃなかったら怒ってたかもな。…ただ、お前が思いの外頑張ってたことに俺はびっくりしたんだよ」
「は…?」
くいくいと手招きされ、臨也は椿が座っている席へ近づく。
「案外楓のこと嫌いじゃないくせに」
ぽんと頭を撫でられる。
「俺は嫌いだよ。椿さんが興味を持ってる人間なんて、嫌いだ」
「はいはい」
臨也の背を優しく撫でながら、椿は緩やかに笑った
>>>アトノマツリ
終ったよ(・Д・)
(2010/03/20)
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