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燻るは煙か心か<中>
アレから何日も日が経った。楓は静雄と全く喋っていない。登校と下校も別々で、休み時間はほとんど静雄は教室にいなくて、楓はぼーっと教室で過ごした。
こんなに長い間、ギクシャクした関係になったことなど、今まであったのだろうか。いや、ない。
喧嘩でもしていたら謝ればいいし、なにか誤解していれば一生懸命誤解が解けるまで喋る。

―――静雄の気持ちがわからない。

こんなに近くにいたのに。
夕暮れの教室で、楓は一人考えるが何日も何日も考え続けても、泥沼から這い上がれない。

「随分こたえているみたいだね」

僅かに顔を見上げると、楓にとって数少ない友達の新羅が前の席に座っていた。
にこにことした顔をみて楓は自分も笑おうとしたが、止める。
楓の一つ一つの動作をみながら新羅は呟いた。

「楓はさ、静雄のこと好きかい?」

突然のことで戸惑いを隠せなかったが暫く考え、口にする。

「……好きだよ」

もう何度もこんなことになる前から自分の心に聞いていた質問。いろんなことを考え、煮詰めて、ドロドロになって出た答え。
もう否定など、出来ない。

「好きだけど、」

怖い。ずっと幼なじみとして傍にいて、静雄の隣にいた。幼なじみであれば、これからも竹馬の友として静雄の隣にいられるかもしれない。そして酔った時に少しだけ素直になって相手をしてもらう。
けれど、静雄に好きな人が現れた時。
そっと離れるつもりだったのだ。

「なのに、いざ離れてみればさ…」

こんなにも引き裂かれるような痛みが胸に溢れ息ができなくなる。辛い、苦しい、悲しい。

そんな姿を見かねて、新羅は楓の頭を緩やかに撫でる。

「なら、ちゃんとその気持ちを伝えるべきじゃないかな」

戸惑う楓の目を新羅は真っ直ぐに見つめ話す。

「このまま本当のことを言わないで離れていくより、いっそ言って砕けてしまった方が後を引きずらない。それで受け入れてくれるのなら…万々歳じゃない」
「新羅…」
「俺もね、好きな人がいるけれどいつか時期が来たらちゃんと言おうと思ってる。だからさ、その時は楓も俺を励ましてよ」

ね、と笑う新羅に、ようやく楓は笑うことができた。

「ありがとう、新羅」
「僕は何もやってないよ。ただ楓と話しただけ」
「それでも…感謝してる」

楓は席を立ち、鞄を握り締めた。

「俺、言うよ。静雄に」
「行ってらっしゃい」

―――行ってきます。



******



「なんで手出すのかな」

掃除用具入れから出てきた男に、新羅は特別驚かず、視線を送った。

「いつも真っ直ぐ家に帰る君が、わざわざ残って俺の遊びに関わるなんて全く君らしくない」
「別に僕からすれば二人がどうなろうとしったことではないさ」

ポケットに指しているペンを回しながら新羅は言う。

「ただ僕もね、君と同じことを思っただけ」

苦虫を潰したような顔をしている臨也に新羅は緩やかに笑った。



>>>アトノマツリ
続きです。

(10/03/18)

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