燻るは煙か心か<前> (弟/静雄) 事件はいつも突然起きる。日常の中の僅かな歪みがふとしたきっかけで大きくなって爆発する。 俺は燻っていた火種をちょっと弄ってやっただけ。無事に火を起こすことが出来るのか、それとも消えてしまうのかは、それは火種次第。 さて、今回は――― ****** とある公園に、楓は呼び出されていた。休日はいつも静雄とのんびり家で寛ぐか、静雄がいない(主に臨也にちょっかいを出されどこかに行っている)ときは一人でごろごろと過ごしているのだが、一番会いたくない奴に呼び出しの電話が鳴った。 行きたくない。絶対に嫌な勘がする。あいつに呼び出されて禄なことなどない。 でも最後には結局「わかったから」と言ってしまい、公園へと来てしまった。 「やぁ、本当に来てくれるなんて君もつくづくお人好しだね」 「今すぐ帰ってもいいかな」 形の変わった遊具の上でまるで家のように寛いでいる臨也に、楓はため息を付いた。 「やれやれ。まだ一言めだというのに帰るのは少し早いんじゃない?」 「そ?」 「とりあえずこっち来なよ」 ぽんぽんと臨也は隣を叩き楓を招いた。おずおずと遊具をよじ登り臨也の元までいけば、いつもの凶悪そうな顔で笑っていた。 肌にあたる風が心地好く、案外気持ちが良い場所だなと楓は思った。 「君は、高瀬先生の弟だ」 「うん」 この男は何を改めて聞くのかと、目を細めた。 「俺は高瀬先生が好きだ。愛してる。人間以上に、ね。でも、その愛してる高瀬先生の弟だからといって俺はそれを楓の判断材料にはしないと思っていた。…むしろ君は数少ない嫌いな分類だね」 「それはどうも」 「でも気付いたんだ。もしかすると高瀬先生の弟であることが起因しているのかもしれない、と。そう考えると結局君は弟であるかぎり、俺の人類愛にも含まれずはみ出したままになるだろう」 ―――そろそろ、か。 臨也は喋りながらも耳をすませ回りの状況を読んでいた。隣に座っている彼の方が状況を読むアンテナが広いことは知っている。 だが、今回においてそれは全くあっても意味をなさない。 「だからさ。ちょっと君を好きになってみようと思う」 「ぅわ…っ」 楓は腕を引っ張られ、バランスを崩し臨也に覆い被さるような体制へと変わった。 臨也は笑う。入り口の前でこちらを見ている人物に。 目を見開いて固まったままの平和島静雄に対して笑う。 ―――さぁ、来いよ。シズちゃん。 近いて今すぐその握り締めた拳をふるう瞬間を想像する。 「しず…?」 臨也の視線にやっと気付いた楓が呟いた。 楓と静雄が目があう一瞬。 いろんな感情が静雄の心を這いつくばり、背を向き歩き始めた。 「ま、待てよっ!しず!」 遊具から飛び降り、急いで静雄を追いかける。走らず歩いていた静雄にすぐに追いつく。が、彼は振り返らない。楓はその背中が怖くなった。 「……静雄」 腕を掴もうと手を伸ばす。が、届く前に静雄が止まった。 「わかってる。お前と臨也ができてるとかそんなふざけた勘違いはしてねえ」 一番引っ掛かってた部分を答えてくれ、安心する―――はずなのに。 「悪いな。俺もよくわかんねえんだ」 ぐしゃと自分の頭を掻く静雄。 彼自身もまた混乱していた。 「だから、少し考えさせてくれ」 そう言って去る静雄を楓は何も言わず、何も言えずにただ見ることしか出来なかった。 ****** ―――へぇ。そう来たとはね。 臨也は遊具の上で真っ青な空を見上げながら緩やかに笑みを深める。 ―――わざととわかっても真っ先に俺のとこまできて殴る蹴るぐらいはすると思ったんだけど。 ―――お陰で長期戦となったわけだ。 火種から火はつくのか。消えるのか。 さて、今回は――― >>>アトノマツリ 続きます。 (2010/03/17) [*前へ][次へ#] |