再びの罠(兄/臨也)
これが、あのくそったれな感情だと気付いた時にはもうすでに遅かった。まさか自分がそんな感情を持つことになるとは想いもしなかった。
俺は人間が大好きだ。愛して愛して止まないが、所詮人類愛であって彼らに何も見返りなど期待していない。あえていうならば、少しは俺を楽しませてくれればいい。
だが、これは一体なんだ。
手に入れたい、独占したい、だとかそんな風に思っている自分にヘドがでる。心が掻き乱される。
そんな自分の感情を確かめたくて肌を合わせれば、もっと症状は酷くなった。
―――あぁ、深みに嵌まっていく。
俺と一緒に落ちて貰えますか。
椿さん。
「おい、臨也」
げし、と椿の足がソファでうつ伏せになり雑誌を読んでいる臨也の背中を捉えた。
「マッサージしてくれるんですか。嬉しいなぁもう。優しくお願いしますよ」
「このまま踏み潰してやろうか?あぁ?」
「シズちゃんじゃあるまいし」
すこぶる機嫌が最悪な椿はげしげしと何度も臨也の背中を踏みにじった。素足なだけマシだった。
「SMプレイに目覚めたんですか。悪くないですよ。ただ俺が蹴られる側というのが面白くない」
「ムカつく。すげぇムカつく」
仰向けにさせられ首もとを捕まれる。
そして、タコ殴りでもするのだろうかと考えていたのだが、臨也の予想は大きく外れ。
―――臨也の胸に顔を押し付け、抱きついてきた。
「やっぱり無理、きつい」
「…椿さん」
臨也は、椿の髪に触れる。柔らかい髪の感触にまるで猫を触っているような気分になる。
「珍しい。貴方がそんな弱気になるなんて」
「……知ってるくせに」
「なんのことですかね」
「惚けやがって」
睨む椿だが、若干目が潤んできている。その表情を見て満足そうに微笑んだ。
「いざや!」
「ちゃんと言葉にしないと伝わりませんよ」
何も言わず、睨み続けていたがとうとう椿の方が折れた。
「………お前の盛った薬で身体が熱い。何とかしろ」
「はぁ。酷く可愛げがないですね。まぁ、及第点としますか」
椿の脇を撫でながら、臨也は笑う。
「一緒に落ちますか、椿さん」
>>>アトノマツリ
ω
(2010/03/16)
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