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ただ飲ませたいだけ(兄/臨也)
「…折原、またお前か」

はぁ、と額に手を当て高瀬椿は頭を抱えた。目の前に立つ超ド級の問題児のニコニコした表情に腹がたつ。

「いやだなぁ先生。会いに来ただけじゃないですか」
「…帰れ。今すぐ地球の元素となって帰れ」
「素直じゃないところも魅力的ですよ」

と、勝手にずかずか部屋に入りソファに堂々と奴は座った。
せっかく他の先生があまりいない数学準備室の奥でゆっくりしていたというのに、この来神の問題児が来ることによって椿の平和な日常が音を建てて崩れていくのを感じた。

「どうせ静雄から逃げてるんだろ」
「まぁ逃げ切れてはいないでしょうが、休憩もしないとアイツの相手は出来ないですから」

ポットにある湯をコップに入れ、コーヒーを作ってやると臨也は満足そうにそれを手にとった。

「本当にお前ら飽きないよな。仲良いんだか悪いんだか」
「悪いですよ。そんな楓みたいなこと言わないで下さい」
「楓か。アイツは喧嘩をするほど仲が良いって地で思ってるからな、お前らのこと」

ししっと幸せそうな笑みを溢し、椿は窓からグランドを眺めた。太陽の光にあたり、ふわりとした柔らかい髪が茶色に輝く。
まるで猫のようだと臨也は目を細めた。

「椿さん」
「ん?」

振り向こうとする背中を押さえ、臨也は椿の背中に寄りかかった。

「お、折原…!」
「可愛いなぁもう」

かぷりと後ろから震える耳を加え、右手で数学教師の癖に来ている白衣を避け太ももを撫でた。

「無防備に背中なんか見せるから悪いんです……っと」

充分に押さえていたはずの手が押し退けられ、逆に捕まりそうになった瞬間に臨也は後ろへと飛び去った。

「折原てめぇ…!」
「やだなぁ、冗談ですよ冗談。スキンシップの一つじゃないですか」
「たち悪ぃんだよ、てめぇのは」

椿は握り拳を作ったのをみて臨也は殴るのかと巳を構えたが、コツンとおでこをつついただけで、椿は机の前へと移動しパソコンを開いた。

「もうそろそろいった方がいいんじゃないのか?アイツが来る頃だろ」
「………ははっ、相変わらずアナタって人は面白い」
「は?」

あんなセクハラを受けて、怒りはしたものの頭をコツンとしただけで椿は臨也を許したのだ。笑いが噛み殺せない。
腹を抱え爽快にひとしきり笑うと、先程まで椿がいた窓へと向かった。廊下からずかずかと足音が聞こえている。

「先生、今度はゆっくりとデートでもしましょう」
「しねぇよ、ばか」
「いぃぃざぁやぁぁあああ!!」
「それじゃまた」
「おう」

笑顔を振り撒きひょいっと二階から飛び降たのと入れ違いに静雄が扉を蹴破って入ったのはほとんど同時だった。

「あいつッ!くそぉおおあのノミ蟲野郎ッ!」
「静雄」

今にも飛び出そうと窓に身を乗り出した静雄は椿のぴしゃりとした声で動きを止めた。

「椿さん」
「コーヒーいるか?」
「…入ります」

ずかっとソファに座った静雄を見て、幸せそうに椿は微笑んだ。



>>>アトノマツリ
臨也は巧みに兄さんの呼び方をかえてます。

(2010/03/08)

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