泣き虫メイデン/クロナ
ほら、同じ色だねって。彼女は淡いピンク色に染まった鋭い爪を掲げてみせ、容赦無くそれを僕の肌に食い込ませた。
ぎりぎりと腕に刺さった彼女の五本の爪と僕の肌との境から流れ出る血は赤では無く黒色で、彼女はそれを冷めた瞳で見つめていた。
「残念。クロナは肌が白いから、赤い血だったら混ざり合ってピンクになったかもしれないのに」
「ご…ごめん…」
「残念ね、本当」
そして彼女は手を離した後優しく僕の腕を手に取って、流れた血を舐め取っていく。彼女の赤い舌は黒に染まらない。
黒は、どんな色にも染まらない。
「阿修羅が、目覚めたからね…きっと」
「え?」
「私の体がおかしいのは」
手のひらを上にかざした彼女は楽しそうに、それでいて悲しそうに笑っていた。ずきんずきんと胸が痛む。何度も杭で心臓を打たれるような感覚。目の前が霞んだ。
「もう私、手遅れなの」
「なまえ…」
「狂気がここまできてる」
そう言って彼女は自分の首と顎の接続部分を横一文字に指でなぞった。尖った爪が彼女の白い肌を傷付ける。流れ出た血の色は僕と同じ、闇の色だった。
「私も…黒血だから、ピンク色になんて…ならないね」
彼女だって、前は普通のオンナノコだったんだ。でも、それでも、阿修羅は狂気をばらまくから。僕達が阿修羅を目覚めさせたから。
「なまえ…爪、同じ黒にしよう?」
「…うん…いいよ」
柔らかいコットンで包み込んだなまえの指先に、二度と色褪せない絶望と恐怖を誓った。
泣き虫メイデン
(爪痕だらけの腕にただひたすら塗り潰す)
;> 狂気でおかしくなってきているなまえちゃんに罪悪感を感じて離れられないクロナ
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