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カフェ『皐月堂』へようこそ(レナルキ他)
本編30
 愛用するショットガンを連射しながらベルゼブモンは飛ぶ。ロゼモンさんに近付き、
「ロゼモン」
 バサッと一際大きく漆黒色の翼を羽ばたかせながら声をかけた。それから何度も羽ばたきながらその場所に留まる。
「アイを預かってくれ」
 銃撃音に身を竦めていたアイちゃんは驚いてベルゼブモンを見上げる。
「ベルゼブモンッ?」
 ベルゼブモンは抱えていたアイちゃんをロゼモンさんへ託す。
 ロゼモンさんはすぐに、ベルゼブモンが来たのはなぜか解ったみたい。
「了解。――アイちゃん、こっちへ……大丈夫だから……」
 ロゼモンさんはアイちゃんをしっかりと抱える。
 アイちゃんは戸惑い、ベルゼブモンを見つめているけれど大人しくしている。
「アイ。悪ぃが……」
 そう言われてアイちゃんは泣きそうな顔になるけれど、急いで首を横に振り、そして真剣な顔で頷く。
「ううん、気にしないで。あの魔方陣を出して戦うんでしょう? 左手じゃないとあれは出せないんでしょう?」
「ああ」
 ベルゼブモンは頷く。
「後輩さん達、助けなくちゃ!」
 アイちゃんに言われ、ベルゼブモンはサッと背を向ける。
「じゃあな……」
 ――あの砂時計の中には、ベルゼブモンの後輩だというデジモン達のデジコアの欠片もあるのね……。
 私はアイちゃんの言葉に、そしてベルゼブモンの怒りを帯びた眼光に――心が痛くなった。もしもあの砂時計を停止させても、すでにエネルギーが奪われた後だったら、もうその後輩達を助けられないかもしれない。ウィザーモン先生がそう言っていたから、間違いないことだと思う。
 それでも救い出したい。私もそれを手伝いたい。私だけじゃなく、皆もそう思っている――。
 ベルゼブモンはそのまま離れ、サイクロモンへと向い、右手に出現させたブラスターで急所を狙おうとする。
「下手に攻撃すれば、ウイルスを撒き散らすことになるな……」
 そう呟いたベルゼブモンはすぐには撃たず、目を凝らして敵を見つめる。また弱点を探しているみたい。ベルゼブモンの周囲を飛ぶ『ワクチンの光』はレモン色のまま。今のところ、サイクロモンからはウイルスは検知されないみたい。
 サイクロモンは嘲るように声を上げる。
「ああそうだとも! 我が体内のウイルスは無尽蔵! そんな付け焼刃のワクチンでは対抗するなど無駄だ。オマエら皆を狂わせるだろう――――!」
「うっせぇ、コノヤロ。オレらがそのぐらいの戦況引っ繰り返せねぇとでも思うんなら、読み違いもいいとこだぜ!」
「せいぜいほざくがいい!」
 サイクロモンがその隙を突くようにベルゼブモンへレーザーを発射させた。けれどそれをベルゼブモンは軽々と避ける。
「逃げても無駄だ――!」
 追撃するサイクロモンはベルゼブモンの姿を追う。けれどベルゼブモンの後ろから突然、アンティラモンが姿を現し、サイクロモンに飛びかかる。
「アンティラモン!?」
 サイクロモンは驚き声を上げる。
 アンティラモンが、その両腕を斧のように変化させて高速回転し、
「アシパトラヴァナ――――」
 サイクロモンに体当たりするように攻撃を加える。けれど、
「甘いなっ!」
「何っ!?」
 攻撃を受ける直前にサイクロモンの右腕が突然黒く変質した。金属のようになったその部分は、アンティラモンの攻撃を弾く。
「くっ!」
 アンティラモンは斧に変化させていた両腕を元に戻す。
「アンティラモンッ!」
「アンティラモン! 大丈夫か!?」
「アンティラモン――ッ」
 アンティラモンの両手から血が噴き出していた。アンティラモンは
「我に構わず攻撃を続けてっ」
 と皆に言い、左手の平を右手の傷に押し当てる。その場所が徐々に仄かな光を放ち始める。
「我は……我はこの手で、……守らなければならなかったものを守れなかった――」
 仄かな光はアンティラモンの傷を塞いでいく。
「――この両手は守るため――救い出すために刃にする。我は誓う――必ず、今度こそ守り、救い出してみせる!」
 サイクロモンはアンティラモンを嘲笑う。
「その手でか? やれるものならやってみろ! 無力な貴様に守れるものなど何も無い! だいたい、力の無い者を助けて何になるというのだ? この空間を作り出すエネルギーになるのなら存在する価値もあろうが?」
「貴様! 貴様だけは……我は許さぬっ!」
「せいぜいあがくがいいっ! そして絶望に沈め、愚か者が――――!」
 サイクロモンはさらにアンティラモンへと攻撃の矛先を向ける。その腕の爪を振り上げて切りかかる。
 それを、
「させるかっ!」
 マスターが飛びかかる。マスターの体を包む黄金色の光が、『ワクチンの光』を吸収しながら眩しく輝く。
「ネイルクラッシャー!」
 マスターは竜巻のようにサイクロモンの腕に前足で攻撃を仕かけた。その黒鋼色の爪がサイクロモンの腕に切りかかる。
「ギャ――ッ!」
 サイクロモンはその巨大な腕を振り、マスターを払い飛ばす。
「グォーッ」
 マスターはサーベルレオモンというデジモンでとても大きい姿をしているけれど、今のサイクロモンには敵わない。
 マスターは空中で横に一回転して留まると、その背中にしがみついている樹莉に
「大丈夫か!?」
 と声をかける。樹莉は
「ここにいますっ」
 と必死な声で返事をする。
「サーベルレオモン! 積年の恨み――晴らす時が来た!」
 サイクロモンは雄叫びを上げる。
「何だと!」
「また大きくなりやがった――!」
 とんでもないことに、サイクロモンの体がまた一回り大きくなった!
「五年前のあの時に貴様が邪魔をしなければ、リアルワールドのデジモンどもを残らず抹殺することが出来たのだ! あの時にもっとデジコアを集められたなら我が楽園はもっと早く完成できたものを――――」
 マスターが全身を震わせ、怒りの声を上げる。
「なぜだ! どうしてそこまで楽園にこだわる! どうしてリアルワールドに住むデジモンどもを殺そうと企む! 本当にこの場所を作るためだけなのか!? デジコアを材料にするため? 本当にそれだけなのか!? そんな下らぬことのためなのか!?」
 サイクロモンは吼える。
「我が願いこそ全ての理! それを理解出来ぬのか?
 ――デジモンはデジタルワールドのみで生きるべきだ! 争い、戦い続けるべきなのだ! リアルワールドと接触すればするほど、デジタルワールドのデジモン達は争わなくなる! 戦わないデジモンに存在価値などあるのか!? デジモンは戦い続け、死ぬために生まれる存在なのだっ! デジタルワールドは本来、戦いと死で満たされるべきなのだ!」
 アンティラモンの瞳に怒りが灯る。
「死ぬために生まれる存在など、ありはしない! 誰もが生きるために生まれるのだ!」
 サイクロモンは吼える!
「ではなぜ、死ぬのだ!? 答えてみろ、愚かなファンロンモンの手下よ!」
「――――許さぬ!」
 アンティラモンが全身から淡い桃色の光を放つ。
 マスターの全身の輝きが増す。
「愚かなのは貴様だ、サイクロモン! 死は確かに存在する。だがだからと言って死ぬために生まれるわけではない! 必ず、生まれる命には意味がある! それを解らぬのか――!?」
 サイクロモンは吼え、
「サーベルレオモン! 貴様とて同じ! 戦い続ける力を持つのに、何を言い出すのだ! 命が存在し続けることに意味など無いっ!」
 とマスターに言い放つ。そして攻撃を再開した。サイクロモンから放たれたレーザーは、マスター達を焼き殺そうとする!
「樹莉、つかまっていてくれ!」
 その攻撃を、マスターは大きく左に飛んで避ける。そこにサイクロモンがさらにレーザーを発射させる。それもさらに半回転してダッシュをかけて避けるマスター。そして、
「シードラモン――」
 サイクロモンを挟んで真向かいに――シードラモンさんがいる!
「シードラモン、いつの間にっ!」
 そのことに、サイクロモンが気付いた。
 マコトくんがシードラモンさんの頭の上から叫ぶ。
「シードラモン! 準備OK?」
「グルゥッ!」
「チャンスだ! 一気に近付いて! アイスアローをたくさん出す、あの攻撃をしようっ!」
 シードラモンさんは
「グルゥゥ――――ッ!」
 と唸り声を上げる。その体をしならせて水中を泳ぐように空を移動する。全身を包む水の膜が青い光を帯び、徐々に青い色が濃くなっていく。それと同時に、シードラモンさんの頭部を覆う氷の兜が変化し始めた。
「シードラモン?」
 マコトくんは驚いてきょろきょろと自分の周りを見る。マコトくんの体をサイクロモンの攻撃から守るように、氷の兜はその場所に透明な壁を作った。
「ありがとう、シードラモン!」
 マコトくんはぎゅっと拳を握り、
「大丈夫だよ、怖くないから! ここまで一緒に来たんだから、一緒に戦おう――!」
 その拳を前に突き出す。
「行くぞ!」
 シードラモンさんはマコトくんの声に呼応するように、唸り声を高める。
「グゥルルルゥ――――ッ!」
 シードラモンさんの周囲に、アイスアローが次々に生まれる。最初は小さな氷の欠片でも、どんどん大きくなっていく。
 マコトくんはリリモンさんに
「リリモンさん、気をつけて! こっちに、早く!」
 と声をかける。
「了解っ!」
 リリモンさんが急いでマコトくんのところに移動しようと羽ばたく。
 葉のような不思議な形の羽が羽ばたく音を、サイクロモンの聴覚は瞬時に捉えた。
「リリモン――!」
 サイクロモンは不気味な笑い声を上げる。
「シードラモンを操るのに便利な存在だったが――シードラモンが最初からメタルマメモンに憎悪を抱いていなかったと解った今、もう用は無いっ! 死ねぇええ――っ!」
 サイクロモンは顔を向けると同時に口から
「ハイパーヒート!」
 高熱のレーザーを発射させる。辺りの気温が瞬間、数度上昇した。
「リリモン、逃げろ!」
 ベルゼブモンが怒鳴る。
「きゃあ――!」
 気付いたリリモンさんは悲鳴を上げる。避けることも間に合わない! 焼き殺される――――!
 思わず両手で顔を覆う――けれど、
「?」
 そのレーザーは当らなかった。何かに当り、反射する! 反射した光は
「グワァアッ!?」
 サイクロモンにそのまま跳ね返った。サイクロモンは瞬時にその体を硬質に変化させて直撃を免れたけれど、顔には焦りの色が浮かぶ。
「なぜ? 何だ、それは! バリアーか!? リリモンの戦闘データにそんなものは無かったぞ!」
 サイクロモンはそう叫んだ。
「何で? 私、無事なの? ……って、あ――!」
 リリモンさんは、自分の目の前に出現している青い六角形を見つめる。
「え? えええっ?」
 ちょうどリリモンさんの姿が隠れるぐらいの大きさで、それは分厚い。目の前に浮かぶそれが守ってくれたみたい。
「何これ!? シールド?」
 リリモンさんは透明なそれを何度も瞬きをして眺める。
「きれーい! 宝石みたいな色ね!」
 思わず伸ばしたリリモンさんの指先がそれに触れると、突然、
「あっ!」
 それは消えた!
「消えちゃった!? 触っちゃダメだったの?」
 指先を引っ込めてリリモンさんは慌てている。けれどもすぐに、
「え?」
 空中に浮かぶ手の平に収まるぐらいの小さな欠片に気付く。
「縮んだ……の? うっそ……マジ?」
 サイクロモンは激怒する。
「ふざけるなっ!」
 再びレーザーを放つ。けれどそれもリリモンさんが驚いて声を上げる前に、その青い氷のシールドが大きくなり、攻撃からリリモンさんを守る。
「また大きくなっただと!」
 反射したレーザーは再びサイクロモンを攻撃する。けれど今度は予測し身構えていたので、サイクロモンはその全身を硬質化させて攻撃を完全に防ぐ。
「何、これ……? どうして? これ、何なの?」
 リリモンさんは再び小さくなったそれが怖くなったみたいで、一歩後方に飛び退く。けれど、
「きゃぁっ!?」
 その氷の小さな板も、リリモンさんの動きに合わせてついてくる。一定の距離を保ったままリリモンさんの目の前に浮かぶ。
「ちょ、ちょっとぉ! やだやだぁ……何でついてくるの? これ、何なの? どういうこと?」
 リリモンさんは両手を前に突き出して悲鳴を上げ、焦って周囲を見回す。
 ロゼモンさんが
「便利ね、それ! 氷みたいだから、それを作ったのはシードラモンでしょ?」
 と嬉しそうな声を上げる。
「シードラモン? これ……作ったの、アンタなの?」
 リリモンさんは驚いてシードラモンさんに訊ねる。
 シードラモンさんはリリモンさんと目が合うと、じっとリリモンさんを見つめる。
「マジ? じゃあ、これ……大丈夫かしら?」
 リリモンさんは、シールドのようなそれが安全なものだと解ると、とたんにむくれた。フラウカノンを振り上げる。
「あの〜ね? もう、びっくりしたじゃないのっ!」
 けれども、フラウカノンで殴ることはしない。振り上げたフラウカノンを下ろして泣きそうな顔になる。
「こんなの作って、大丈夫? 便利だけれど……アンタは疲れたりとか、しないの?」
 シードラモンさんはそれに対して、
「……?」
 何を言われているのか解らないみたい。
 ロゼモンさんはアイちゃんを抱えたまま、リリモンさんの近くへ飛ぶ。
「そのシールドがあるのなら、リリモンと一緒にいた方がアイちゃんも安全かしら?」
 リリモンさんは首を傾げる。
「うん……たぶん。だって、あんなに強力なサイクロモンの攻撃も跳ね返してしまったんだもの!」
「そうよね! ねえ、アイちゃんも守ってあげて……」
「了解!」
 ロゼモンさんがアイちゃんをリリモンさんに渡そうとすると、
「わぁ!」
 アイちゃんが急に、空中を指差した。
「ねえ、二つになっちゃいました!」
「二つに? 何のこと? あっ、本当に!」
 リリモンさんの前に浮かんでいた氷の小さい板は突然二つになって、ロゼモンさんとアイちゃんの前に浮かぶ。そして、
「わ!?」
 さらにもう一枚出現する。
「私とアイちゃんの分も? ありがとう、シードラモン!」
「ありがとうございます!」
 ロゼモンさんもアイちゃんも、びっくりしながらシードラモンさんにお礼を言った。
「シードラモン……こんなに作って大丈夫なの?」
 リリモンさんはシードラモンさんに訊ねる。そして周囲に気付く。
「アンタッ、いつのまに!?」
 その時には、シードラモンさんの周囲に出現したアイスアローの数々は、大きい結晶になっていた。
「グゥルルッ! ォオオオオオ――ッ!」
 その数は……かなり多い!

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