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カフェ『皐月堂』へようこそ(レナルキ他)
本編28
 ――仮死状態?
 リリスモンさんがあっさりと言ってしまうけれど、アンティラモンやキュウビモン達は
「いくら貴女が七大魔王の一人だとしても、無茶だっ!」
 と口々に言った。
 ベルゼブモン達は予想していたみたいで、マスターさえも黙っている。
 私やアリス、樹莉、アイちゃんとマコトくんには、その規模も大変さもいまいち良く解らない。
「それは難しいことですか?」
 私が訊ねると、
「そうね、上手くやらないと私は力を使い過ぎてしまうでしょうけれど、もしもあの数を助けるというならそれ以外に方法はないわ」
 と、リリスモンさんは言い、そして
「ちょっと時間をいただくわ」
 と言うなり考え込んでしまった。
「それは大変なこと? 仮死状態って、どうやってするの?」
 私が訊ねると、リリスモンさんは黙ってウィザーモン先生へ視線を向ける。ウィザーモン先生は頷き、考え事をしているリリスモンさんの代わりに私の質問に答える。
「リリスモンは毒を自在に生み出すことが出来ます。毒のプロフェッショナルだと言えるでしょう。その毒も微量を上手に使いこなせれば、麻酔の代わりにもなります。
 何らかの方法であの砂時計を砕いてしまったら、デジコアの欠片は次々に『消滅』し始めるかもしれません。そうなる危険のあるデジコアの欠片を集める方法を我々は知らないので、いったん『消滅』を始めた場合には手の打ちようがありません。
 けれどそうなる前にリリスモンの毒により仮死状態に導くことが出来るなら、全てをリアルワールドへ持ち帰り、再結晶させて再びデジタマへと導く方法を模索する時間を稼ぐことが出来ると思うんです」
 ウィザーモン先生の説明は解りやすいけれど、その規模には腰を抜かしそうになる。
 メタルマメモンさんが、
「あの数をですよ? 無茶です!」
 と言った。
 アンティラモンがリリスモンさんに問いかける。
「本当にそのようなことが可能なのか?」
 リリスモンさんはちらりとそちらに目を向けたけれど、小さく頷くだけだった。
 アンティラモンは静かに息を吐く。
「もしも……もしもそうすることが出来るのなら、ありがたいのだが……」
 ウィザーモン先生は頷く。
「そうするしかないでしょう。リリスモンもファントモンと立場は似ているのですから」
 メタルマメモンさんが、聞き捨てならない!と問いかける。
「どういうことです!」
 ウィザーモン先生はメタルマメモンさんに逆に問いかける。
「リリスモン達――貴方のご両親達が最初にウイルスに感染したと知れ渡った時、リリスモンに対してだけはどういうことを言われたのか、貴方は忘れていないはずです」
 メタルマメモンさんは、突然、
「忘れるはずがない!」
 と怒鳴る。ロゼモンさんが驚いて宥める。
「メタルマメモン……」
「全体の中の一握り程度だとは解っています。けれど、それでも――ウイルスの犯人だと最初に疑われたのは義姉上だった! 自分の身内が疑われることがどんなに悔しかったか……忘れるはずないでしょう!」
 ウィザーモン先生は頷く。
「古くからの友人にそのような不名誉な疑いをかけられているからこそ、私は『あのデジコアの欠片達を助けることにリリスモンの力が不可欠だった』ということになればいいと願います」
 そう言われ、メタルマメモンさんは首を横に振る。
「そんな……」
「堪えて下さい。必要なことです。この場には承認になるに相応しいデジモンも揃っています。究極体デジモンの証言が必要ですから――協力して下さい。サーベルレオモン、ベルゼブモン……ロゼモン……」
 メタルマメモンさんはロゼモンさんを見上げる。
「ロゼモンさん……」
 ロゼモンさんは微笑む。
「ええ、解ったわ。証明とするためには規定として、究極体デジモン三名以上の見届けが必要ですものね。『この名、この身、この心に誓い、真実であると見届けました』――だったわね?」
 メタルマメモンさんは俯く。
「すみません、お願いします……」
「貴方が究極体じゃないことは、貴方のせいじゃないはずよ」
「はい。うちの祖父も、俺は究極体に進化出来ないデジモンなのかもしれないと言っていました……」
「ファンロンモンのこととか色々な話を聞いて、私もそう思えてきたわ。いいじゃない、究極体じゃなくても貴方はとても強いもの……」
 そう励ますロゼモンさんは、ベルゼブモンに視線を向ける。ベルゼブモンも、
「これぐらいどうってことねぇよ」
 と、口の端をわずかに上げて答える。
 マスターもロゼモンさんの言葉に頷く。
「『見届け』に関する規定も、いつかは変わるのだろう」
 マスターの背中に乗っている樹莉が、
「その……『見届け』というのは?」
 と訊ねた。マスターは少し頭を上げる。
「樹莉。それに答える前に、私は謝るべきだろう。先ほどはすまなかった……」
 樹莉は
「平気ですから……」
 と、しっかりと答える。
「充分気をつけるから……。――『見届け』とは、我々にとっての証明書の代わりになる。一度言ったことは何があったとしても覆すことは出来ない」
「そうなんですか……」
「リリスモンがあのデジコアの欠片達を救うのなら、汚名を晴らすことになる」
 しばらく考え込んでいたリリスモンさんは、
「ありがとう。――仮死状態にする毒の配合、なんとかなると思うわ」
 と言いながら顔を上げた。
 ウィザーモン先生がホッと胸を撫で下ろす。
「良かった。貴女でないと出来ないことなんですよ」
「けれど失敗したらそれこそ、『わざとじゃないか?』って疑いをかけられそうね」
 リリスモンさんはそう言う。ウィザーモン先生は
「まさか、」
 と真剣な顔で、
「誰にもそんなことを言わせません」
 と言った。
 リリスモンさんは、
「さっきは……ごめんなさい」
 と言った。ウィザーモン先生は意外そうな顔をする。
「何のことですか?」
「カッとなってしまったわ」
 メタルマメモンさんに対してはベルゼブモンが『ゴッコ遊び』と言った意味が含まれていたみたいだけれど、その前のウィザーモン先生と話をしている時はそうじゃなかったみたい。
 そう言われ、
「何でもないことです」
 ウィザーモン先生は首を横に振り、真剣な眼差しを向ける。
「本来の貴女の感情を引き出してしまうほど、ファントモンの存在は重要だという証でしょう? それは悪いことではない……」
 その言葉に、リリスモンさんは視線を彷徨わせる。
「そうね……」
 ウィザーモン先生は、旧知の友の辛さを思い遣るように、
「ファントモンの存在は、貴女の心を不安定にすることもあるかもしれません。けれどそれだけじゃないはずです。
 ……メタルマメモンが、あの砂時計の中にファントモンのデジコアは無いと言いました。私もそう思います。この近くにいると思いますが、この場所も広い。探す時間がかかりそうですね……」
 と言った。
「どれだけ時間がかかっても探し出したいわ。その時間もあまり無いんでしょうけれど……。――ところで、エネルギーを抽出された後のデジコアでも再結晶出来ると思う?」
「難しいでしょうね……」
 ウィザーモン先生の言葉に、マスターとベルゼブモンが悔しそうに唸り声を上げたり、拳を握り締めたりしている。
「こうしている間にも、デジコアの欠片達からは次々にエネルギーが抽出されてしまう。けれど急いだところで、上手くあの砂時計を破壊出来なければ元も子もない」
 マスターがそう言う。その通りだと皆、頷いた。
 アンティラモンがリリスモンさんに
「そのことで話をしたい……」
 と話しかけた。決意を固めたというように見える。
「もしもあのデジコアの欠片達を助けられるのなら、我は……」
 けれどリリスモンさんは、
「お止しなさい」
 と言葉を遮った。
「リリスモンどの……」
「アンティラモン。貴方には元十二神将としての立場があるわ。軽率な発言は控えるべきよ」
「でも! 貴女がどのような行いをしたのかをファンロンモン達に伝えれば、きっと……」
「言わないで。それでも無理だった時――ファントモンと永遠に別れなければならないと解った時の私の心が受けるダメージを大きくしたいの?」
 それを聞き、アンティラモンは我に返ったみたい。
「……申し訳無い……」
 アンティラモンはうなだれる。
「いずれファンロンモンと交渉することもあるでしょう。けれど、それを有利にすることはあっても、決定的な交渉条件にはなりえないわ」
 と気丈に呟く。
「それでもファントモンのことは……」
 メタルマメモンさんがそう呟くと、
「貴方の気苦労を増やしてしまったわね」
 リリスモンさんは苦笑する。
「いいえ……」
 と言い、メタルマメモンさんはリリスモンさんの様子を窺う。
「何?」
「義姉上には、俺とファントモン、それぞれのデジコアの色が見えるんですよね?」
「ええ」
「似ていますか……? 俺の兄弟に近い存在だというなら似ているのかなと思って……」
 メタルマメモンさんの言葉は、自信が無さそうにも聞こえる。
「似ていると思う? いいえ、残念ね。似ていないわ」
「そうですか……」
「あの子のデジコアは不思議な色なのよ。ビー玉みたいな色。ほら、覚えている? 昔、貴方がどこかに無くした、あれよ」
 それを聞き、メタルマメモンさんは驚いている。
「覚えています! ……義姉上からゲンコツ食らったのはあれが最初で最後でした」
「ええ、私だってあの時だけよ。貴方のことを『クソガキ』だなんて汚い言葉で罵ったのは。幼年期デジモンを本気で殴ったから、おじい様には散々怒られたわね……。――不思議でしょ、あれに似ているなんて、ね……」
 ベルゼブモンが、げんなりした顔をする。
「究極体が幼年期を殴ったらダメだろーが!」
 リリモンさんがマコトくんに
(メタルマメモンさんの強さの秘密はそこにあったんだわ!)
 とこそこそと話し、マコトくんは
(大人が幼児殴ったらダメだよっ)
 と引きつった顔をしている。
 リリスモンさんは、
「さあ――これからどうやってあの砂時計を破壊しましょうか?」
 そう、皆に話しかける。
「ただ破壊することも難しいようだが、そうしてしまっても、あの中のデジコアの欠片達を確実に保護することを考えると……」
 マスターが砂時計を見つめる。
「また弱点探すのか……」
 ベルゼブモンは唸る。
 ところが突然、森の中の一部から閃光が放たれ、爆発が起きた――。



「何だ?」
「爆発したぞ!」
 地鳴りと共に、森の一部が崩壊し、地中へと陥没していく……!
「何が起こっているんだ?」
 キュウビモンが声を上げる。そちらを見て、私はその森から飛び出してきたものを見つめる。
「見て! ガイコツだわ!」
「また新たな敵?」
「ガイコツの死神……! あんな姿の敵と戦うのっ!?」
 漆黒のフード付きのマントを身にまとう、上半身だけの黒い鋼色のガイコツがいた! その腕は有るようで無い。腕の代わりに電気の流れがバチバチと絶え間無く流れている。その両手の先とそうして繋がっている。手はやはりガイコツで、長い柄の鎌を持っている。鎌の刃は金属じゃなくて、絶え間無く光を放つエネルギーが形を作っている。
 ガイコツの死神は、腰の位置から下は無い! エネルギーを供給する球体があって、中で稲光のような光がうごめいている。つまりそこから上半身のみが存在する――とにかくこれ以上ないほど不気味な姿だった。
 メタルマメモンさんが
「まさか……!」
 と声を上げる。
 ベルゼブモンが
「知っているのか、メタルマメモン!」
 と、ガイコツの死神を警戒しながら声を荒く怒鳴る。
 リリスモンさんも呆然と呟く。
「知っているわ……あのデジコアの色は間違いないわ!」
 リリスモンさんはその両手を戦慄くように震えさせて、見つめる。顔を覆うのかと思ったけれど、現実をしっかりと見ようと、キッと鋭い視線を向けた。戸惑いを振り払うように、そちらへ飛ぼうとする。
「義姉上!」
 メタルマメモンさんが高速移動をかける。その前に飛び出し、両手を広げる。
「落ち着いて下さい! 無闇に近付かないでっ」
「そこをどきなさい!」
「いいえ! とにかく落ち着いて下さい!」
 必死に請われて、リリスモンさんは、
「解っているなら、止めないで!」
 と怒鳴る。
「解っているから止めます!」
 メタルマメモンさんも譲らない。
「まだ存在するのなら良かったじゃないですか! とにかく落ち着いて下さい!」
 そう言われ、リリスモンさんは肩を震わせる。
「存在したわ。確かにそうだけれど……でも、ファントモン……! どうして――?」
「ええっ!」
 私は声を上げた。もちろん、皆、絶句している。
「ファントモン!?」
「何かの間違いでは?」
「どうしてあんなに恐ろしい姿に……?」
 アリスも
「――!?」
 とてもショックを受け、言葉も出なかったみたい。
 ドーベルモンさんが、その禍々しい姿をじっと見つめる。冷静に、
「推測にしか過ぎないが、進化をしたというわけではないようだ」
 と言う。けれど、冷静と戸惑いは別みたい……。
 また、同じ場所辺りで爆発が起きた。
「メタルファントモン! キサマ、よくもよくも――! 許さぬっ!」
 怒声が轟く。陥没した森から、巨大なデジモンが姿を現す! 木々を薙ぎ倒し、根こそぐようにへし折り、土や岩、泥を撒き散らす。
「『金髪』だ――!」
 皆が身構える。そこで、予想もしないことが起きた。
「あれは!」
「中から、出てくる……!?」
 巨大なそのデジモンの体が――背中が突然ひび割れたと思うと、ビリビリ、メキメキと不気味な破砕音を響かせる。姿は似ているけれど別のデジモンがヘビが脱皮をするように姿を現した――!
 あまりにも薄気味が悪いその様子に、私は思わず顔を背けた。
「やだやだ、何よ、あれっ! あれは何――!?」
 ウィザーモン先生が
「あれこそが、真の正体! 我が……我が友だった者、サイクロモン――――!」
 と叫んだ。
 脱皮したそのデジモンは、突然、膨れ上がるようにその体を四倍ぐらいの大きさに変化させた。
「なんだありゃ!」
 ベルゼブモンが鋭い声を上げる。
「サイクロモンは元は、私のいたデジモンの対ウイルス総合研究所にいました」
「えっ!?」
「マジか?」
「そんな……!」
 皆がそれぞれに驚いている。
「知り会ったばかりのあの頃は、まさかこんな事件を起こすとは思いませんでしたが、まさか主犯格だとは……。彼はデジモンの生体に関するあらゆるデータなど知識を有しています。自身のデータにそれを余すところ無く応用しているはずです。気をつけて下さい!」
 ウィザーモン先生は皆に注意するようそう促す。
 アンティラモンは愕然としている。息を飲み、そして声を荒げる。
「ファントモンが……なんということだ――!」
 マスターも頷く。ウィザーモン先生は
「あの渾身の攻撃の後では自身のデータを維持することさえ難しいはずだったのに、全く予期せぬことです。ウイルスを作り出す能力を無意識に応用してその姿を変える助けにしたんだと思います。
 私はメタルマメモンのことは『鋼の死神』のようだと思いましたが、メタルファントモン――あの姿は『鋼の死神』そのものの姿……。悲しいですね、こんなところが似てしまうとは……」
 と唇を噛み締める。
 アンティラモンは悔しくてたまらないみたい。
「メタルファントモンだと? 戦う力を欲してあのような姿になってしまうとは……ファンロンモン達が知ったらショックを受けるだろう……!」
 リリスモンさんは
「あのような姿に……」
 と呟く。ただ……だんだん、様子が違ってきた。
 メタルマメモンさんも、
「義姉上……」
 と心配そうに見ていたのに、「え?」と首を傾げ始める。
「あの……義姉上? 大丈夫ですか?」
 ところが、
「フフッ、上等じゃない!」
 と、リリスモンさんは突然、先ほどのショックはどこへ行ったのか、気丈に言い放った!
「リリスモン?」
「義姉上?」
 リリスモンさんは突如、高らかな笑い声を響かせ、周囲を驚かせた。
「見つけたわ――! ちょっとその姿は好みじゃないけれども、この私に二言はないわ! ――メタルファントモンッ、どんな姿になっても私の気持ちは変わりませんっ! この愛に誓って――――!」
 他の皆は唖然としてしまった。
「――えええっ!」
「あんな恐ろしい姿でも?」
「ガイコツですよ、ガイコツ! 正気ですか?」
「っていうか、上半身だけのガイコツよ! 怖い姿なのよっ!?」
 思わず言った私達の言葉に、リリスモンさんは大きく頷く。
「これは愛の試練!」
 また皆、一斉に「ええーっ!」と焦る。
「ええっ?」
「それ、違うと思うけれど……」
「こんなのが試練? ありえねーって!」
 そう口々に言われても、リリスモンさんは情熱的に言い放つ。
「いいえ、それに違いないわ! 私の愛が試されているとしか思えない! メタルファントモン! 必ず連れ戻すから――!」
「ひええっ」
「リリスモンさんってば……恐ろしい……!
「純情演歌路線まっしぐらだな、オマエ……」
「そう言われると、そう思えなくもないような……」
「マジヤバッ!」
「リリスモンさん……何か変なスイッチ入っちゃった?」
「洗脳されるな、気をつけろっ」
 皆がハラハラとする中で、メタルマメモンさんだけ、徐々に安堵の笑みを浮かべ、
「義姉上が生き生きとしている……!」
 と嬉しそうに言った。
「えーっと……喜んでいいの?」
 と、ロゼモンさんがハラハラしながら言った。
「ええ。とても意欲的ですから、万が一のことが起きてもデジタマに必ず戻ると思います。それならもうこの際、義姉上のやりたい放題、思う存分やっちゃってもいいと思うんですよ。どうせ俺じゃ止められないから」
「それはそうだと思うけれど……っ」
「もちろん可能ならメタルファントモンの姿ではなく、前の姿に戻って欲しいですね。あっちの方がまだ可愛げがあると思うから。自分より大きい姿の
デジモンが弟って、歓迎出来ないので。それにガイコツはちょっと……」
 メタルマメモンさんはそう答える。

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