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カフェ『皐月堂』へようこそ(レナルキ他)
本編27
 多面体の輝きは徐々に広がり、私達を包み込む。
「わあ、綺麗……」
 樹莉がうっとりと呟いた。
 この輝きが、ファントモンがいる場所へと私達を運んでくれるなんて、不思議だった。
 そこには『金髪』と呼ばれるあのデジモンもいるはずだから、すぐに戦うことになるかもしれない……。それはとても不安だけれど、無闇に怖いと思わなくなっている自分に気付く。
 ――この光より不思議なのは、私の心が強くなっているということ……。
 ほんの数日前までとは違う。キュウビモンのことをここまで強く好きじゃなかったんだと気付く。今はもっと、ずっとずっと強い気持ちになっている。
 ただ守ってもらうだけじゃなくて、戦う彼の邪魔になりたくない。もっと――出来ることなら私は彼と一緒に戦いたい。
 私達の周囲に小さい球体が生まれ始める。たくさんあるその小さい球体はほのかな発光の点滅を繰り返しながら、私達の周囲を回り始める。少し早いスピードで、球体のそれぞれが別々に動く。最初はただ動いているだけだと思ったけれど、目がその動きに慣れてくるに従って、一定のリズムがあると気付く。
 波動のような光の中でふわりと体が浮くのを感じ、私は驚いて声を上げた。
「きゃあっ!」
 急いでキュウビモンの毛並みにしがみ付く。
「留姫、痛い……」
 キュウビモンが驚いて私へと振り向く。そうしながらも、
「これは……?」
 彼は同時に私が浮いていることを知り、自分も浮いていると解ると、キュウビモンはメタルマメモンさんに問いかけた。
「このまま我々は転送されるのか?」
 メタルマメモンさんは
「そうです」
 と短く答える。多面体の動きを注意深く見守っている。
 メタルマメモンさんの手を握っているロゼモンさんが、慌ててきょろきょろと周囲を見回している。
「私達は何もしなくていいの?」
「ええ、必要なことは無いです」
 私だけじゃなく周囲の皆もどんどん浮いている。もちろん最初からデジモン達は空中に留まっていた。けれどその時とは違い、平衡感覚が取れないみたいで、斜めになったりしている。
「なんか、気持ち悪―い!」
 リリモンさんは嫌な顔をしている。
「我慢して下さい」
 そう応えるメタルマメモンさんは、そんなこと言われてもなぁ……という顔だった。
 今度はドーベルモンさんが、メタルマメモンさんに訊ねる。
「本当に我々は何もしなくても『金髪』のいる場所へ行けるのか?」
 念を押すようにそう言われ、メタルマメモンさんは
「その場所へ行きたいという気持ちは必要です。ですがそれは多面体を持っているデジモンだけでいいんです」
 と言った。
 ドーベルモンさんはなるほどと頷き、リリスモンさんへ視線を向ける。
「その気持ちは余りあるほど、か……」
 リリスモンさんは、
「何か言ったかしら?」
 と、ほんの少し鋭い視線を投げる。けれど一瞬で、その手に持つ多面体へ視線を戻した。ファントモンを探すために、執念さえ感じる。
「そうね、リリスモンさんが一番、気持ちが強そうね」
 アリスも頷く。
 私は皆と同じようにふわふわと浮いたままでいた。
「いつ頃、移動出来るんです?」
 ウィザーモン先生が訊ねる。
「恐らく、そろそろだとは思います。これだけの人数ですし……」
 そう言い、メタルマメモンさんはシードラモンの様子を窺う。
「シードラモンは? 特に変わったことはありませんか?」
 リリモンさんは
「大丈夫よ」
 と頷く。シードラモンは自分の体が意思とは別の力で浮き上がっていることに驚いているけれど、暴れだしたりはしていない。リリモンさんやマコトくんが
「大丈夫よ」
「落ち着いて」
 と何度も声をかけているからかもしれない。
 やがて起きた光が弾けるような眩しさに、
「きゃあっ!」
 急いで皆、目を閉じた――――。


   ◇


 暖かく柔らかい――そこは天国なのかと思った。
 春の霞みがかかるような空が広がる。その空に淡いピンク色の雲。クリーム色や、薄いグリーン色のような雲も浮かんでいる。どの雲もマシュマロのように柔らかそう。わたあめみたいな雲もある。
 ふわりと暖かく、優しい風が吹く。春の風のようで心地良い。
 私の体は浮かぶのを止めたみたいで、キュウビモンの背中にすとんと落ち着いた。
「何これ……」
 私は自分の浮かんでいる空を見回した。私と同じように浮かんでいる皆は、誰も欠けていない。全員無事に来たと思うと同時に、どうしてこんな夢のような世界に来てしまったの?と驚く。私だけじゃなくて、皆、唖然としていた。
 花の香り、甘い果実の香り……。
 突然、ゆったりと香るそのそよ風を打ち消すようなベルゼブモンの鋭い声が響いた。
「『砂時計』だ!」
 ――え?
 夢のような色の空の下に、緑の森が広がっている。その森の中心部に、巨大な……驚くほど巨大な砂時計が存在していた。金色の四本の柱が森から空へと伸びるように立ち、それらが砂時計を支えている。
 砂が落ちていく音が微かに聞こえてくる。
「これがアイツらの言っていた……!?」
 ベルゼブモンの声に続き、アンティラモンは呆然と呟く。
「比喩か何かかと思っていたが、それそのものがあるとは……」
 巨大な砂時計は膨らんだ雫の形のガラスを繋ぎ合わせたような、どこにでもあるような形だった。けれどそんなありふれたものではないと、誰もが感じている。
 砂時計のガラスに突き刺さるように何本もの太いコードが繋がっている。それらの先は、砂時計の周囲の森に刺さっていた。
「あの砂時計から流れ出すエネルギーが森を作っているわ! どうして? ただの大きな砂時計にしか見えないのに、そんなエネルギーを作り出すなんて……!」
 戸惑い、リリモンさんが声を上げる。その言葉を、
「それだけじゃないわ。この空も作り出しているみたい……!」
 森の木々から時々立ち上るガス雲のような気体を指差し、ロゼモンさんは言った。
 キュウビモンが唸り声を上げる。牙を剥き、吼える!
「あの砂を良く見ればその正体が解る!」
 ――え?
 私は目を凝らして、砂時計の中の砂を見つめる。
 金色の飾りのついたその巨大なガラスの中を流れるのは、光をほのかに発する色のついた砂だった。様々な色のついた砂を見ていて、昔、デパートのおもちゃ売り場で砂絵遊びをしたことを思い出した。あの時の、テーブルに落ちた砂のようだった。黒や白、赤や青やオレンジ、黄色、緑色……。
 その砂が、砂時計の中心である細くなった部分を通過するたびに、強い光を発し、そして急に光らない欠片となってしまう。
 ――あの砂、ただの大粒の砂か石じゃないの? 宝石? それとも宝石の原石? 何かしら?
 私の耳に突然、ドーベルモンさんの声が飛び込んできた。
「あれは……デジコアの欠片だっ!」
 その声の大きさにまず驚いた。ドーベルモンさんがこんなに大きな声を出すなんて。そして、その言葉の重大さに気付く。
「なんですって……!」
 アリスがそう、悲鳴のような声を上げた。
 デジコアはデジモンの心臓のようなものだって聞いていた。それの欠片が、あの砂時計の砂なんて! そして、この森や空を作り出しているなんて……!
「ようやく辿り着いたこの場所が……こんな……こんなバカなっ……!」
 ベルゼブモンが、搾り出すような声を上げた。その腕に抱えられているアイちゃんが、驚いて彼を見上げる。ベルゼブモンの瞳が怒りで燃えるように輝き、その全身が感情を爆発させることを堪え、震える。
「あのデジコアの欠片の数を見てみろ! どうやったらこの数を集められるのか、考えてみろ!」
 まるで答えを求めるような、けれどそれを拒絶するような声だった。ベルゼブモンが苦しんでいるように思えた。
 マスターが周囲を揺るがすほどの声で吼える。
「まさか……五年前のあの時の、あの事件で死んだデジモン達の――デジコアの欠片か――――!」
 砂時計に飛びかかろうとするマスターの背から、
「きゃ――っ!」
 樹莉が振り落とされそうになる。
「「樹莉っ!」」
 私とアリスは慌てて叫んだ。
 その前に、アンティラモンが飛び出す。
「落ち着いて!」
「どけ――っ!」
 マスターは唸り、吼える。
「『消滅』と見せかけて、集められていたのか!? あの中には私の同僚と幼馴染のデジコアがあるはずだっ! 友人達のデジコアがあるはずだ! 許せるものか、決して……このようなことを許せるものか――――!」
 マスターはまるで気が狂ったかのように吼える。アンティラモンは決死の覚悟で叫ぶ。
「だからこそ! 我らがここに来たっ! あのデジコア欠片の数々を――我らと同じデジモン達の悲しい姿を救い出すために来たのだっ」
 息を荒く吐くマスターに、アンティラモンは必死に訴える。
「どうすればいいっ!」
 マスターは顔を歪め、まるで自分が傷を負ったように吼える。
「どうすればっ! 答えろ――っ!」
 ベルゼブモンが
「落ち着け。皆、我慢しているんだ。落ち着けって――」
 と言った。けれどそれはマスターに向けて言っている言葉というより、自分に向けて言っているように思えた。
「あんなに砕かれて――解放されたからって生き返るわけじゃねぇ! だがな、あんな姿になってまでこんな場所作り出すエネルギーとしてこき使われているんじゃ――許せねぇ……!」
 恐ろしく凄みのある声でベルゼブモンは吼える。
「……っ」
 アイちゃんがぎゅっとベルゼブモンの腕にしがみ付く。ベルゼブモンはイライラとしながらも、アイちゃんに
「悪ぃ……怖いか?」
 と声をかけた。けれどアイちゃんは頭を何度か急いで横に振ると、ベルゼブモンを見上げた。
「あんまりじゃない! ひどいわ、あんな砂時計に閉じ込められているなんて、ひどい! 私だったら絶対やだ! それにもしも! もしも私の友達があんな姿であんな砂時計に閉じ込められたら? 友達だけじゃないわ! もしも――ベルゼブモンがもしもあんなになったらきっと、私、嫌よ! 辛いもの……!」
 と、アイちゃんは涙を零し、じっと耐えている。
「……」
 ベルゼブモンはその姿を見つめる。
「後輩さん達はみんな、小さいデジモン達だったのよね? きっと……いつか会ったベルゼブモンの友達のデジモンみたいに小さかったはずよ……。それなのに、こんなことって……痛いのかしら……苦しいのかしら……!」
「ああ、そうだ。チビどもばっかりだった……。痛い……とかそういうのは、どうだろうな……解らねぇな……」
 ベルゼブモンの声が震える。それさえも、柔らかい風に包まれて運ばれていく。
 夢の世界のようなその場所が、一転して不気味な場所に感じた。暖かいと思った風も、今は不気味だと思える。デジモン達の命――デジコアを使ってまで作り出そうとした場所だと思うと、何もかもが恐ろしい……!
 ウィザーモン先生がぽつりと呟く。
「残っていたとは……」
 テイルモンさんが彼を見上げる。
「ウィザーモン?」
「デジコアが欠片だけでも残っているというのなら、もしかしたら……」
「何か方法があるというの? 心当たりがあるなら言いなさいよ!」
 テイルモンさんの言葉に、マスターが強い口調で問いかける。
「ウィザーモン! 方法が残されているのか? 助けられるのか?」
 ウィザーモン先生はマスターの方をちらりと見て、そして――リリスモンさんへと向いた。
「リリスモン」
 リリスモンさんはウィザーモン先生へ視線を向け、すぐにまた、砂時計を見つめる。その表情からは感情が消えていて、彼女が何を考えているのかは解らない。
「リリスモン。私は貴女の古い友人です。だから貴女に助言をしたいのです。どうか聞いて下さい」
 言い聞かせるようにウィザーモン先生はあの砂時計へと、自分の手に持つ杖の先を向けた。
「もしもファントモンに対する気持ちが本気で揺らぐことがないものならば、私の助言を聞き入れて下さい。あの砂時計の――デジコアの欠片達を助ける手助けをして欲しいんです。貴女の助けがあれば救い出すことは可能でしょう。そうすることで貴女は得をするでしょう? どうか、」
「何を言い出すのかと思えば――!」
 リリスモンさんは突然、ククッと笑う。すぐにおかしそうに高らかに笑い出した。
「ウィザーモン! さすがに貴方は私の性格を解っているわね!」
 そして突然、意地悪そうな顔になる。その美し過ぎる顔には似合う表情。
「先手を打つとはね。――私に助言? 遠まわしにしなくても、言いたいこ
とをはっきり言ってみたらどうなの?」
 リリスモンさんはウィザーモン先生に挑むような目を向ける。鋭い眼光に、
「――!」
 私は背筋が寒くなる。この威圧が、七大魔王と呼ばれる力……!
 けれどウィザーモン先生は怯まない。昔からの知り合いだって言うぐらいだから、慣れているみたい。
「どうか助言だと思って下さい」
「貴方――私がファントモンを救い出したらその後は協力しないとでも思っているの?」
「その可能性はあるでしょう。ファントモンに最悪の事態が起こっていた時には、貴女はファントモンを優先させるでしょう? だからどうか、助言だと思って聞き入れて下さい。最後まで我々に協力して下さい。お願いします!」
 ウィザーモン先生は必死にそう言う。
 私はそれを聞きながら、だんだん怖くなってきた。同じ七大魔王でも、ベルゼブモンはDNSSだから犯人を追っている。でもリリスモンさんにはそういう理由はない。義弟のメタルマメモンさんがいるとしても、ファントモンだけのために行動することもありえるんだわ……!
「条件でも私に出すのかしら?」
 リリスモンさんは強い口調で言った。
「義姉上……」
 メタルマメモンさんが心配そうに声をかける。
「義姉上、あのデジコアの欠片達の中にはファントモンはいないと思いますっ」
 そう言うメタルマメモンさんへ、リリスモンさんは鋭く、
「私に意見するというの?」
 と言った。
 ベルゼブモンが
「落ち着けって。義弟に噛み付くことねぇだろ」
 と声をかける。
「ベルゼブモン、アンタまでっ!」
「焦るな。この場所の数々の視覚、聴覚、嗅覚他のありとあらゆる情報は仕組まれたものだと気付けっ!」
 リリスモンさんは険しい顔から鋭さを消した。
「仕組まれている?」
「罠だよ、罠っ! 俺たちが焦って行動を誤るように…………そうとしか思えねぇ。今までいた場所を思い出せ。ああいうのが元々の『金髪』の趣味だったんだぜ? それが突然こうなった。――罠だとそう考えてもいいんじゃねぇか?」
「そう……」
「リリスモン。『金髪』はオマエの性格を充分解っている。そして……オマエもこの場所に来るのが二度目じゃねぇのか?」
 ――え?
 私も、そして周囲の皆もハッとした顔をする。
「だって、あの暗い洞窟のような場所で出会ったのに?」
 マスターの背から振り落とされないように頑張っている樹莉が、戸惑い呟く。
 リリスモンさんはイライラと溜息をついた。
「違うわ。私はこの場所の手前で逃げ出せたのよ。だから樹莉と出会うまであの洞窟のような地下で過ごさなくてはならなかった……。――それだけよ。それ以上のことはないわっ。あんな『砂時計』の存在なんて知らなかったのよ!」
 ベルゼブモンが、
「そっか。オレはてっきり、この状況を最初から知っていたのかと思ったんだ」
「どうして?」
「『金髪』が、オマエを遠ざけようとしているんじゃねぇかって思えてきたからだ」
「遠ざけると? どうしてそう思えるの?」
「いや、なんとなく。そう威嚇するように言うなよ」
 と宥めるように言った。
「誰もオマエに指図しようとは思ってねぇし、オマエがファントモンを見つけるのだって手伝おうって思っているんだぜ。――で、何か思いついたことがあるんだろ?」
 ベルゼブモンはウィザーモン先生に声をかける。ウィザーモン先生は頷く。
「そのとおりだと思います。『金髪』があの地下で、貴女をメタルマメモンのいる場所へ行かせたくないと、貴女はそう言い、私達もそう思いました。けれど今になって考え直せば、『金髪』はそう思っていたわけじゃないと思えてきました。
 当初、『金髪』は貴女のデジコアも砕いてあの砂時計のエネルギーに使おうとしたはずです。でもその前に、貴女をこの場所へ運ぶことの危険に気付いたんですよ」
「何が言いたいの!」
「『金髪』が貴女に来て欲しくなかった場所はメタルマメモンのいたあの場所ではない」
「!」
「ここなんですよ! 砂時計のあるこの場所へ辿り着いて欲しくなかったはずですっ」
 ――え?
「リリスモン、貴女ならあのデジコアの欠片達を助けられるかもしれない。貴女が助けられるのはファントモンだけじゃないんですよ。もっとたくさんのデジモン達を助けられるかもしれないんです!」



 皆が一瞬黙り、そして、
「嘘だろっ!」
「そんな都合の良い話があってたまるか!」
「本当か、それは!」
「なぜそうなる!」
「助けられるの?」
「すごいっ!」
「助けられるだなんて……」
 口々にそう言う周囲に、ウィザーモン先生は焦りながら、
「あ……ええと、ちょっと待って下さい、確信があるわけじゃなく……」
 と言った。隣でテイルモンさんが、
「アンタ、本気であのデジコアの欠片を助けられるっていうの? 粉々じゃない?」
 と訝しげな目を向ける。ウィザーモン先生は苦笑いしながら、
「すみませんね、疑われるようなことばかり言って……」
 と言った。そして、皆を見回して説明を始める。
「デジコアは本来、デジモンが生きるための『希望』や『意思』、『願望』などを失っている状態では再結晶してデジタマには戻れません。その時には空中に溶け『消滅』します。
 けれども、あの砂時計の中ではまだ『消滅』していない。それなら――」
 突然、
「それ以上言うのは止めて下さい!」
 メタルマメモンさんが話を遮った。
「何を言い出すんです! まさか、義姉上に……!」
 ウィザーモン先生はメタルマメモンさんに真剣な眼差しを向ける。
「今、貴方が思っていることは間違っていません。けれど、そうしなかったらあのデジコア達を助けられない!」
「冗談じゃない! あの数ですよ! 義姉上たった一人にあれだけの数を救い出せと言うんですか!」
 メタルマメモンさんは怒りに肩を震わせる。
「メタルマメモン。どういうことなの?」
 ロゼモンさんはそう言いながらも、リリスモンさんに
「お願いです。メタルマメモンのためにも、無茶なことはしないで下さい……」
 と消え入りそうな声で懇願する。
 リリスモンさんはロゼモンさんを見て、メタルマメモンさんを見て、言った。
「私がもしも『消滅』することがあっても、私の義弟なら強く生きなさい」
 その言葉にメタルマメモンさんは唇を噛み締める。周囲の皆も表情を固くした。
 皆――ううん、違う。変だ……ベルゼブモン、マスター、ウィザーモン先生は違った。彼らはお互いに顔を見合わせ「またか……」という顔をしている。
 ベルゼブモンは
「オマエが死ぬわけねぇだろ。あらゆる生命が滅んでも生き残っているようなオマエがっ」
 と、呆れたように呟く。
 その言葉にメタルマメモンさんはハッとした顔をする。
「大丈夫だと言うんですか?」
 リリスモンさんは厳しい表情から一転して、苦笑する。
「ベルゼブモン、邪魔しないで」
 ベルゼブモンは頭を掻く。
「この状況でゴッコ遊びしようとするその神経の図太さ、すげぇよなー」
 と言った。
「あの……ゴッコ遊びなんですか?」
 アリスが焦って問いかける。それにはリリスモンさんもさすがに
「私は丈夫なのよ。簡単には死なないわ。ゴッコ遊びというわけでもないわ……メタルマメモンの反応がちょっと面白かったから話を脱線してみたかった、それだけよ。ロゼモンもかわいいこと言うんだもの、余計にね」
 と、何事も無かったかのように言った。
 皆、「なーんだ!」という顔をする。
 ロゼモンさんはおろおろとしている。
「ゴッコ遊びって……脱線って……」
 そう言い戸惑うロゼモンさんに、ベルゼブモンが
(ああ見えてドラマ好きだから、そういうものの真似だ。いちいち気にすんな、適当に合わせるぐらいにしておけ。疲れるからよ〜)
 とロゼモンさんに小声で言った。
 メタルマメモンさんはそれでもリリスモンさんへ真剣な眼差しを向ける。
「ごまかそうとしていませんか? 本当に大丈夫ですか?」
 と問いかける。
「何をするつもりですか? 危険なことなんですか?」
 アリスも問いかける。
 リリスモンさんは不敵な笑みを浮かべ、
「ウィザーモンは、あのデジコアの欠片全て、私の力で仮死状態にしろと言っているのよ。その確約を取りたいというわけ」
 と言う。

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