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カフェ『皐月堂』へようこそ(レナルキ他)
その強き花の香に Side:PHANTOMON
(※第2部24読後にどうぞ。)


「その気持ちは……仲間を失ったからよ」
 そう言ったデジモンはアタシを見つめる。
 ぞっとするほど、ほんとに背筋が凍りそうになるほど美しい顔。強い光を湛える瞳、透けるような白い肌。聞くものを引きつける凛と響く声……。
 言葉を促されると、話す気になった。不思議だ。ずっと記憶の奥底に封じ込めていた、暗くどろどろとした恨みや妬みが、アタシを引きずり込もうと手招く……。


 ――アタシには無理だ。
 ロゼモンと一緒にいたいと思った。ロゼモンはバカみたいにお人好しで優し過ぎる。とても温かい……大切だと思う。メタルマメモンの気持ち、解る気がするよ……。
 アリスや留姫、アイ達と、もっと話がしたいと思った。アリスはアタシを運んでくれるって言ったよ。留姫はアタシに大切なきっかけをくれたよ。アイは……行動出来るように背中を押してくれた……。ありがと、皆、大切だ……。
 ――ダメだ。アタシは……。
 泣きたい? ううん、違う。ただ、悲しい。涙も出ない。
 どうして悲しいかって? ロゼモン達と一緒にいることなんか、無理だったんだと解ってきたからだ。
 ――バカだな。だいたい勉強したことなんかないのに大学とか羨ましく思って、さ……。


   ◇


 ――覚えているのは、暗い闇。
 何かを見ようと目を凝らしても何も見えない。けれど、徐々に目が慣れてきた。
 生まれて初めて見たのは、暗闇のように光の射さない部屋だった。
 ゆらゆらと何かが近付いて来る。近付いてきた明かりが見える。ゆらゆらと揺れている。
 ――それがロウソクというものだと知ったのは、いつだったっけ……。
 アタシを見つめる視線に気付く。小さい炎の向こうから見ている。
 アタシもそちらを見つめる。
「弱そうなデジモンだ」
 と言われた。
(弱そうなデジモン? アタシは……デジモン?)
「すぐに死にそうだな」
 つまらなさそうに、アタシへ向かって何かを吐き捨てた。
 ――ああ、そうだった。生まれて初めてもらったのが、優しい言葉じゃなくて侮蔑と唾だった……。
 とても悲しかったこと、今でも覚えている……。
(弱いから? だから好きになってもらえないの?)
 アタシがいる場所――鉄の入れ物だった。それが『オリ』というものだと知ったのは、ずっと後になってからだった。
 ――アンティラモンが知ったら、どんな顔するんだろ。知られたくない……。
 アタシ、ペンさえ持ったことない。字も知らない。箸さえちゃんと持てないんだ。
 ――持ったことがあるのは『黄金色の鎌』と『千里眼』。私が出来ることはデジモンを殺すこと……。
 それなのにロゼモンは――ケーキを食べようって言ってくれた!
 ……バカなアタシは『甘いものは好きじゃない』って考えるより先に言っていた。
 ――違うんだ、嘘ついたんだ……。ほんとは――アタシ、そんなかわいいもの、食べたことないんだよ……。
 ケーキがどういうものかは知っている。アタシを育ててくれた人間が食べているのを見たことがある。甘いんだってことは、他の人間達が話していたから知っている。デジモンは食べられないものだって思っていた……。
(どうしたら? アタシのことを『あの人間』は好きになってくれるの?)

『モット、タクサン、殺セ』
『モット、タクサン、――命ヲ砕ケ』

(やだよ、怖いよ……『助けて!』って言っているよ? 殺さなくちゃいけないの?)
(どうして? どうしてアタシのことバカにするの?)
(みんな、きらいだ! みんな、消えちゃえ! 死んじゃえ――――!)
 アタシはただ、抱き締めてくれる存在が欲しかっただけだ。悪いことじゃない!
 ――嘘だ。本当は解っていた。そんな言い訳、許されない。『命』を砕いた者には厳罰が下される。決して、許されない――。


   ◇


 『御主人様』――その美しいデジモンは、アタシが知らなかった大切なことを教えてくれた。

「どんなに理由を並べても、結局一番こだわっているのは『己の居場所がどこにも無い』というそれだけでしょう!」
「それは……でも……」
「そんなものは――元からあるわけが無いわ!」
「元から……って……」
「己の居場所を決めるのは己だわ! 反論出来るものなら言いなさい!」

 そう、アタシに言ったんだ。
 ――どうしてそう言い切れるの? どうして何でも知っているの?
 アタシの心、なんか……変だ。どうしてかな……すごく……心の底から、変な気持ちが溢れてくる――。
 ねえ、アタシは……貴女と一緒にいたいと初めて思ったよ。ロゼモンや樹莉に意地悪したからやなヤツだと思っていたけれど、きっとまだアタシが知らないことを教えてくれそうな気がするから……。

 『金髪』は優位に立っているように見せていても、焦っているのは手に取るように解る。
 ――もう、皆を苦しめたくない。
 アタシに大切なことを教えてくれた美しいデジモンは、アタシのことを抱き締めてくれる。『金髪』が始動させた機械が起こす重圧からアタシを守ってくれる。

 ――何の香り……?

 紫の衣から漂う香り。なんだろうと思って気付く――あの花だ、と。
 いつか、雪の中で咲くその花を見たことあるよ。とても強い花だって、その時、思ったんだ。
 ――『御主人様』は、あの時見た花みたいだね。強くて凛としていて……綺麗だね。
 優しいその場所から抜け出す気持ちが固まった。
 ――ありがと。アタシを抱えていたら、ロゼモンはメタルマメモンに追いつけなかった。ロゼモンは優しいから、アタシを放り出してまでそうすることはしなかったと思う。ロゼモンのお荷物にはなりたくなかったから、『ほんとにありがと……』ね……。

 ――御主人様……あの花のような御主人様……。もっと一緒にいたかったよ……。

 名前は知らない。
 威張って偉そうで。
 強くて、怖くて、恐ろしくて。
 ……とても美しい『御主人様』。
 アタシはとても惨めで醜い存在だ。だから余計に貴女が怖い。
 アタシなんかに興味を持つなんて、どうかしているよ、ほんとにね。アタシのどこがいいの……?
 アタシ、いつか……『御主人様』が話していた『ビー玉』、見てみたかった…………。


 ――ねえ、『御主人様』。どうか、皆を助けてあげて……。

 アタシ、生まれてこない方が良かったなんて思わない。存在する価値も無いなんて言わせない。
 誰にも負けたくない。自分の弱さにも負けたくない。――アタシは強い。強いんだ!
 今までだって強さを目指した。最後まで強いはずだ。アタシの力の全てを出し尽くして……守りたい――。

 どうか皆が、『御主人様』が……無事であるように……。


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《ちょっと一言》
 蛇足かな?と思いつつも、ファントモンのあの場面から想像してみました。

 文中に出した花について。
 『雪の中で咲く花』は、ファントモンが名前を知らないという設定なので名前は書けませんけれど、『梅』です。(PC用サイトでは該当するページの壁紙が『梅花』模様なので読者には解るようになっています。素材サイト様からお借りしているとても綺麗な壁紙ですv こちらケータイ用サイトでは軽量化のため壁紙設定していませんので解らない!と気付き、ここでこっそり教えます^^)

 ……あまり書きますと今後の展開が解ってしまい面白くないので、この辺りまでにしておきますね^^
 今後どうなっていくのかご期待下さいv
 いつも読んでいただき、本当にありがとうございます! 明日からはまた、第2部本編の続きを掲載しようと思います(^_^)/

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