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カフェ『皐月堂』へようこそ(レナルキ他)
タイトルもつけられないぐらい短いデート Side:LILIMON
(※第1部3の番外編)


 夏の日差しは容赦無い。
 ……あつぅ〜いぃぃ。
 じりじりと照りつけ、アスファルトで舗装された道路はそれを照り返す。私は時々、ハンドタオルで汗を拭いた。
 夏休みの新宿の街は、家族連れや友達同士、カップルが多い。
 けれど、私みたいに一人で買い物に行く場合もある。
 待ちに待った給料日。ようやく手にしたお給料。暑い太陽にも負けず、夏のバーゲンセールに行くべし!と私は拳を振り上げる。
 ……本当は、ロゼモンと買い物に行きたかったんだけれど。レナモンに講義資料渡してくるって言っていたから、その後に、とは、なんとなく言えなくて。
 従姉にべったりっていうのもダメかな〜って、最近は思っている。でもロゼモンと一緒にいると楽しくて、わがまま聞いてもらえて、居心地がいいんだもの。
「……」
 ロゼモンと一緒にいられる時間が減って寂しい。最大の原因は、ロゼモンに彼氏が出来たこと。応援はしているけれど、時々、ロゼモンの彼氏・メタルマメモンさんには腹が立つ時もある。本音は、素直に応援出来ない……。たまには私もロゼモン独り占めにしたいもん!
 新宿駅で下車するとミイシティで買い物して、周辺のデパートやショップで特にチェックしていたところを回る。一人だと買い物もちょっとつまらないなぁと何度も思ったけれど、仕方ない。
 やがて、私の携帯電話が鳴った。電話に出てみると、メタルマメモンさんからだった。ロゼモンに会いたいけれど、どこにいるのか?という内容だった。
「……」
 ちょっといたずら心が起きて、私は、
「男の人と約束あるみたい」
 と言った。
 メタルマメモンさんは、特に慌てた様子も無い。時々、そういう態度がムカツク――。



 一通りお店を回って、ついでに本屋に行こうかと歩いている時。
 CDショップから足早に出てきた人影と、
「きゃあ!」
 私は思い切りぶつかった。
 私の声と同時に聞こえたのは、
「わあっ」
 と言う男の声。少し訛があるその声の主も、私も、同時に路上に尻餅をついた。
「あぅ、っつぅ……いたた……」
 思わず変な声を出してしまうほど、私のお尻は打ち所が悪かった。両手に持っていたピンクやホワイトベージュのショップ袋のせいで、どんなに履き慣れたヒールサンダルでもバランスは取れなかった。
「すみません! 大丈夫ですか? すみません、あの、すみませんっ!」
 声の主に、私は怒鳴ろうとした。
「ちょっとぉぉぉ! 気をつ……………………」
 そこまで言って、私は相手を凝視した。
「…つ……けて下さい……!?」
 人間の男の姿でも、私と同じデジモンだとはすぐに感覚が知らせる。
 背が高い! 大学生ぐらい? わぁ、なかなかイイ感じのデジモン……!
 優しそうなそのデジモンは、私に何度も謝りながらアスファルトの路面の上に膝を付き、手探りに『何か』を探している。
「――あのっ! コンタクトですか!?」
 気付いて声を上げた。ロゼモンがドライアイ気味でよくコンタクトレンズを落とすので、そう頭に浮かんでいた。
「違います、眼鏡で……黒フレームで、先月買ったばかりで……」
「眼鏡! 探します! 私も探しますっ!」
 私は急いでショップ袋をどける。
「あっ!! あった!」
 好きなブランドのショップ袋の下に、それがあった。
「やだぁ! ごめんなさいっ! フレーム曲がってるぅ――――!」
 私は絶望に近い悲鳴を上げた。
「え? あった? 良かった〜!」
「良くないわ! 曲がっちゃって……」
 私はフレームの曲がった眼鏡を摘み上げる。高級ブランドのロゴを見つけ、心の中でさらに悲鳴を上げた。
「ものすごぉく、これ、高価なんじゃ……!?」
 私はおずおずとそのフレームの曲がった眼鏡を手渡した。
「あの、弁償します!」
 けれど、それを受け取って状態を確かめているそのデジモンは、
「いいです、大丈夫です」
 と、にこにこしている。
「でも!」
「補償期間内だから」
「え? 補償?」
「買ってからまだようやく一カ月が経つぐらいだから、無料修理が受けられると思います」
 そう、彼は言った。
「本当ですか!」
 全身から脱力した。
「あ〜良かったぁ〜!」
「心配するほど高いものじゃなくて、たまたま安くてお店の人に勧められたから買ったもので……気に入ってはいるんですけれど……」
「そうなの?」
「商品入れ替えのため、だと思います。一つ前の流行なのかも」
「ふ〜ん。私、眼鏡の流行はよく解らないんだけれど……」
「俺も。そもそも、そういうセンスってよく解らないから……」
「ん? そ、そう?」
 立ち上がった彼を見上げた。
「そういう風には思えないけれど?」
 初対面だけれど、彼の持つ雰囲気や話し方につられて、そう言った。
「そうですか? 店員さんが勧めてくれたもので……」
「はぁ……そうなの? 自分で選んだ服じゃないの?」
「ええ、そうなんです」
 お恥ずかしい、と言わんばかりに、彼は何度か頭を下げる。自分の服装にこだわりはないのかしら?と思いながら、聞いていた。
「あ〜。止め具のところが出ちゃっているから、掛けない方がいいのかなぁ……」
 彼は眼鏡を指で触って確認しながら、呟いた。
「金具が? 掛けない方がいいわよ? 顔、ケガしちゃうじゃない」
「うん、でも……これが無いとほとんど見えないし……」
 のんびりとそう独り言を言いながら、
「ああ、バンソウコウあったっけ……巻いておこうかな……」
 有名なバッグ専門メーカーのバッグから、彼はバンソウコウを取り出して眼鏡に巻きつけようとしたので、私は
「ちょ、ちょっとぉぉ! 待って!」
 とストップをかける。
「え?」
「貼るなら、せめて外から見えないようにしたら……」
 ――このデジモン! マジで? ブランドモノにバンソウコウ巻きつけるつもり!?
 私は自分のバッグから、持ち歩いているハサミを取り出した。小さいもので先が丸くなっている。撮ったプリクラを切る時に使っている。
 彼の眼鏡を受け取り、切ったバンソウコウを貼って、
「貼りっぱなしにしているとフレーム痛むと思うから、早めに修理に出した方がいいわよ」
 とアドバイスしながら渡すと、彼は
「ありがとう」
 と嬉しそうにそれを掛けた。そして私を見下ろす。
「………………………!!!!!」
 今までにこにこしながら話していた彼は突然、無言になった。
「どうしたの?」
 私はハサミをバッグにしまうと、ショップ袋を手に持ち、立ち上がろうとした。
「だ、だ、だ…………」
 私は首を傾げる。
「だ? だ?」
「大丈夫ですかっっっ!?」
「……………………はぁあ??」
「大丈夫ですか? ケガは? どこかケガは? どうしよう!!」
 突然、凄い剣幕で心配されて、私は面食らう。
「あ……はい、ぶつかっただけ……」
「ケガは、ケガは!? 打撲とか!?」
「え? あ、まさか、そんな……」
 私だってデジモンだもの。これぐらいで打撲なんかしない。
「そんなって、あのっ、痛い時はちゃんと言わないと!」
「どこも痛くはないわ」
 と、私は言った。もちろん打ったお尻は痛いけれど打撲というほどじゃない。ここでお尻のことなんか話題に出したら『お尻が!!』と絶叫されそうで怖い。
「そう? 本当に?」
「ええ、そうよ」
「あー! 良かったぁ……」
 彼はホッと胸を撫で下ろす。
「……大げさ……」
 思わず呟くと、彼は真剣な顔で、
「大げさじゃないです! 俺が前方不注意で、女の子ケガさせちゃうなんて!」
 そう言った剣幕に、ちょっとドキドキする。
「……えっと、本当にケガはどこも……」
 いつものパターンかな?と思う。私、わりと良くナンパされるから。でも付き合っても長続きしない……。


(リリモンってさ、ウルサイなぁ……)


 こないだケンカ別れしたヤツが言った言葉が、頭の中に甦る。
 何よ! 好きなら、いろいろ面倒見たくなるの、当然じゃない! 大人しく世話焼かせろってーの!
 ――そんなことは一度や二度じゃない。心の傷が広がる度に、私も売られたケンカは買うタイプなので、大ゲンカで別れることが多い。
「……あの、あの――」
 遠慮がちに声を掛けられた。私は顔を上げる。
「もしかして、――何か嫌なことがあった?」
 目の前の彼がそう言ったので、私は目を見開く。
「どうして、そんな……」
「なんとなく。怒っているように思えた……だから……。今は怒るようなことはないはずだから、何か思い出しているのかな、って……」
 彼はそう言いながら、私に手を差し出した。
 その手を慌てて掴む。引っ張ってもらい立ち上がるとワンピについた埃を払いながら、ちらっと彼に視線を送る。
「ケガ、しなくて良かった」
 彼はにこにこしている。
「うん、その……」
 私は言葉に詰まりながらも、何か言おうとした。ナンパされるんだったら、お茶ぐらいしようっかなぁ……。
 そう思ったのに、
「じゃあ……俺、これで……」
 彼は「じゃあ」に合わせて小さく手を上げる。
「え、ええ……」
 私もつられて小さく手を上げる。
 何度か頭を下げながら、彼は去って行く。


 ――冗談!? このシチュエーションでナンパされないって、それ、冗談でしょ!?


 見送りかけた私は、ガバッと我に返る。
 それでいいわけ? なんかとってもイイ感じじゃない? もうちょっと話とか、しなくていいの!?
「待って!!」
 声を上げたら、彼は振り向いた。
 私は急いで、両手に分けて持っていたショップ袋を左手に集め、空いた右手を振った。
「手! 手を捻ったみたい!」
 言いながら、
(痛い手を振るバカがどこの世界にいるのよっ!)
 と、自分にツッコミを入れた。
 バレバレな嘘だと思った。けれどそう言ったら、彼は慌てて戻ってきた。
「手? 大丈夫? 病院行きますか?」
 病院!?
 彼に訊かれ、私は内心、青ざめる。
「大丈夫……たぶん、今は痛いだけ。明日には治るかも……たぶん、たぶん……」
 しどろもどろにそう言った。
「本当?」
「うん、でも、今は荷物が、ちょっと……」
 口から次々と嘘が出る。
 けれどそれに、彼は深刻そうに頷く。
「そうかぁ……うん! もちろん俺が持ちます!」
 まさか簡単にそう言われるとは思わなかったので、私は唖然とする。
「用事があるんじゃないの?」
「本屋に行こうと思っていただけで……」
「え? 私も本屋に行こうと思っていたの!」
「じゃあ、一緒に行きますか?」
 と、話がまとまった。
「私、リリモン。ねえ、貴方は?」
 彼に名前を訊ねると、彼は黙ってしまった。
「……」
「名前、訊かれるの、イヤ?」
「……え? あの……」
「じゃあ、いいわ。訊かない」
「ええっ?」
 彼は不思議そうな顔をする。
「知らなくても、会話ぐらい成り立つじゃない?」
「そうだけれど……」
「だからいいの」
 と、明るく言った。
 本音は……ただもうこれ以上、誰かに『ウルサイ』って言われたくないだけ……。



 ……同じ本屋でも、フロア違うじゃない……。
 新宿にある大型書店に行った。エレベーターで、彼が欲しいと思っていた本を探しに移動する。彼が探していたのは環境科学の本だった。あと、海洋学に興味があるみたい。
「図書館で借りられるのならそうしたいんだけれど……」
 と言う彼は、大学三年だと言う。
 こっちでデジモンが通える大学って一つしかないから、ロゼモンの後輩ってわけね。同い年かな? 名前を訊かないと言ったのに、やっぱり気になる……。
「リリモンさんの探している本って?」
 言われて、私は首を横に振った。
「あの……私はやっぱり、また今度にするわ……」
 そう言うと、彼は心配そうな顔をした。彼は考えていることが顔に出やすいと思う。
「じゃあ、会計済ませたら何か飲みます? 喉渇いていませんか?」
「うん、じゃあ、そうする」
「すぐ戻ってきますから」
 一階の会計コーナーで彼が本を買うのを待っていた。
 私が欲しかったのはマンガの本だって言えないわ。呆れられそう。地下一階のマンガ専門フロアへ行きたかったけれど……。
 下りエスカレーターの入り口を眺めていると、彼が戻ってきた。
「行きますか?」
「ん? え? えええ?」
 彼が下りエスカレーターへ向かったので、私は追いかける。
「俺も探していた本があったこと、思い出したから」
 彼はのんきにそう言った。
 ――マンガも読むんだ? そんなの見向きもしないぐらい、真面目そうに見えるけれど?
 マンガ専門のフロアで、私は探していた少女マンガのコミックスと、文庫本を選ぶ。選び終わってから彼に訊ねると、彼が探していた本は無かったと言われた。
「……そう?」
 心の中では、かなり慌てていた。
 ――ちょ、ちょ〜っと、待て! それ、私に合わせてくれたの!? マジで? 優しい! このデジモン、マジで超〜優しい!
 ドキドキすると、
「明後日でした、本の発売日〜。予定表、見てきたんです〜」
 と言い彼は嬉しそうに笑い、それを聞いた私は前につんのめりそうになった。
「明後日が発売日? そうなの?」
「はい」
 彼はにこにこっと微笑む。その本、よほど楽しみみたい。
 何だか調子狂うと思いながら、私は選んだマンガなどを持って一階へ戻った。会計を済ませて本屋を出ると、彼と並んで歩く。
 近くのカフェに入る。
 私はホワイトチョコ・フラペチーノ。
 彼は『本日のブレンド』のアイスコーヒーを選ぶ。
 二階の窓際の席が空いていたので、そこに座る。
「荷物持ってくれてありがとう」
「いいえ、これぐらい当然ですから。手は? もう大丈夫ですか?」
「うん、平気……」
 私は頷いた。
 嘘をつくの、やめようと思った。彼と話していると、嘘をつく罪悪感が通常の五倍ぐらい重く圧し掛かるように感じる。この短時間で彼の性格の良さは、こっちが戸惑うぐらい解った。
「手、痛みが治まって良かったですね」
 彼は私の罪悪感も知らないで、にこにこしている。
 ――罪の意識で心がぺしゃんこに潰れそう……。
 そう思いながら、私も彼につられて、なんとなく微笑んだ。
「今日も暑いわね」
「そうですね」
「雨でも降ればいいのに」
「雨?」
「夕立でも降れば、涼しくなるかもね」
 世間話をしながらお茶を飲み始めたら、
「すみません、用事を思い出したので……すぐに戻りますから……」
 と、彼は席を立った。
「……」
 用事? 彼が残していったバッグが目に止まる。サイドポケットから携帯電話が覗いている。
(ケータイ残していった、ということは、トイレ? トイレぐらい、ごまかさなくてもいいのに……)
 一人でお茶を飲んでいると、窓に雨の雫が当たった。
「雨だ……」
 私は腰を浮かして、窓ガラスを覗き込む。新宿の街を歩く人の流れが、自然に急ぎ足になっていく。
 本当に降り始めた雨を眺めていると、彼が戻ってきた。
「ねえ、見て! 本当に雨が降ってきたわ。しばらく雨が止むの待っていようかしら?」
「……あ、はい……」
 彼は曖昧に頷く。
 彼の髪や肩が濡れていることに気付く。
 外にいたのかしら? ああ、もしかして、携帯電話は電池切れているのかしら? 公衆電話に行っていた、とか?
「雨が止んだら、出ますか……?」
 と、彼に言われた。
「え? そうね。雨宿りにちょうどいいわ」
 と、答える私は心の中で、一生雨が止まなければいい!!と思って、熱心にそう願った。
 雨はやがて夕立になる。しばらく雨が降り続いた。
 彼は穏やかで、聞き上手だった。話しやすい。誰かと話していてこんなに楽しいことって、そんなにない……。
 楽しいけれど、降り続く雨にだんだん不安になる。私、今日は傘を持っていない。折り畳み傘を持ってくるべきだったなぁ……。
「雨のこと?」
「え?」
「困った顔、しているから。雨が降っていると、やっぱり困ります?」
 彼に話しかけられた。
「ええと、あと一時間ぐらいしたら行かなくちゃいけないんだけれど……」
 彼は少しだけ、寂しそうな顔をする。
「はい、大丈夫だと思います」
「大丈夫……?」
「そろそろ止むと思います。風の流れが速いから」
「そう?」
 彼の言ったとおり、雨はそれから少しして、小降りになってきた。



 雨が止んだ頃に、私と彼は店を出た。
「駅に行きますか?」
 そう、彼は私に訊ねた。
「ううん、そっち」
 私は、通りの向こうを指差した。
「そっちの方にある店で働いているの。ヘアサロンよ」
「そうなんですか? 凄いですね〜」
「楽しいけれど手が荒れやすいから、ちょっとキツイのよね」
 そう話しながら歩く。
 ふと、擦れ違った人間の女の子達の会話が聞こえる。


「サイアク! なんでこの辺りだけ雨降っていたのかな? 新宿三丁目駅で
は降っていなかったのにぃ!!」


 ――――?
 私は我に返る。
 浮かれていたから気付かなかったけれど、さっきの雨は……デジモンの仕業?
 極狭い範囲とはいえ、雨を降らせることが出来るなんて。私が気付かないほど、気配を殺していたのかもしれない。よっぽど能力の高いデジモンなんじゃ……!
「……デジモンかしら?」
「え……ええ、そうかも……」
「怖いわ……」
「怖い……?」
「この近くにそんなデジモンがいるなんて、危険〜」
 焦ってそう言うと、彼は戸惑い、私を見つめる。
「どうしたの?」
「すみません、これ……」
 彼は持っていたショップ袋を私に差し出す。
「え? あ……ありがとう」
 私がそれを受け取ると、彼は突然、
「……すみませんっ」
 と言い残し、全力で走り出す。
「は? はあ?」
 一瞬、ポカン、と、私は口を大きく開けた。そして、
「ちょっとぉ!」
 彼の背中を追って走り出した。
「待って!」
 荷物が多いから、そんなに早く走れない。息を切らして走るのに、新宿の駅前は人が多過ぎて……!
「もうっ!」
 路地裏に飛び込むと、素早くデジモンの姿になった。ビルの上へ一気に飛び上がり、彼を探す。


 彼は、新宿駅から少し離れたところにある、雑居ビルの屋上にいた。壁に背を預けて座り込んでいる。息を切らしている。
 私が屋上の端に降り立つと、彼は驚いてこっちを見る。
「どうして? 何で逃げるの? 私、何か言った?」
 私は心の中で、ウルサイって言われたらどうしよう、と怯えていた。声が、手が……震えそうになる。
 けれど彼は、
「すみません……」
 と言った。彼は座り込んだまま、私を見上げる。
「俺、リリモンさんと話していて、とても楽しくて……」
 え……?
「怖がらせて、すみません……そんなつもりじゃなくて……。……すみません……本当にすみません……」
 そう言われ、私は何のことだか理解出来ない。
「すみません? どういうこと?」
 近付こうとして、突然、雨が降り始めた。
「きゃあっ!」
 激しい雨に、私はショップ袋を抱え込んでしゃがむ。ぎゅっと目を閉じた。



 雨が降っていたのはほんの一分ぐらいだったのかもしれない。ううん、違う、三十秒ぐらい?
 顔を上げると、雨は止んでいた。太陽が顔を覗かせる。今までの集中的な雨が嘘みたい。
 彼の姿は、どこにもなかった。ようやく、彼の言いたかったことが理解出来た。
「『すみません』……って、こっちのセリフじゃない……」
 びしょ濡れになったけれど、買ったものはビニール袋に入っているものばかりだから、きっと濡れていない。
「逃げることないじゃないの。しかもびしょ濡れ……雨宿りした意味がないじゃない……」
 私は呟く。
「雨は貴方が降らせたのね……」
 ――私、余計なこと言っちゃった。だから……。
 今年に入って十二回目の失恋だと、心の中で指折り数えた。


----------
《ちょっと一言》
 今回も、登場するお店などの名前はちょっと変えて遊んでいます^^

 リリモンとシードラモンのカプは、友人との話で後から出来ていったものなので、今回の話は今までの経過など調べ直した上で書きました。イメージずれてしまったらごめんなさい。

 リリモンは当初からこんなイメージで書いていました。恋に恋して空回りして、何でもハッキリ言うタイプだから周囲もリリモンに対してハッキリ言う。でも、リリモン自体はそんなに心が強い子じゃないです。いつも余計に傷ついてしまいます・・・そんなイメージ。
 わりと、どこにでもいるような女の子です。流行りの服に憧れたり、美味しいもの大好きだったり。強そうに見える女の子って、意外と外見そのままじゃないと思いますから。
 当初は無印に出てくるリリモンに近いイメージでしたが、全然別モンになっていってしまいました。

 対になる、シードラモン側からの話も書きましたが、そちらは別のキャラのネタバレも含んでしまうので、またいつかの機会にご覧いただけると思います。

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