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カフェ『皐月堂』へようこそ(レナルキ他)
本編12
 トンッと身軽に降りてきたその人影は、出現方法から間違い無くデジモン。けれど完璧に人間の姿で、高校生ぐらいの男の子だった。黒いジャケットを羽織っているその人は、真っ直ぐにこちらへ歩いて来る。
 ――アイドル並みにかっこいい……!
 さらに驚くことに、ファントモンが
「メタルマメモン……」
 と呟いた……!
 ――この人……っていうかデジモンがメタルマメモンさん? ロゼモンさんの彼? えー? いったいいくつ歳、離れているの? ロゼモンさんが大人っぽく見えるから? それとも、メタルマメモンさんが若く見えるから、年齢離れているように見えるのかしら?
 私の手をアリスが引いたのでそちらを見ると、アリスも驚いている。
(かっこいいよね?)
 小声で囁くと、アリスは、
(うん、そうね。でも……変だわ)
 と囁く。
(変? どこが?)
(どこ……って言われると、上手く言えないんだけれど……)
 アリスは頷く。
(なんとなく……)
(なんとなく??)
(ううん……気のせいかしら? もうちょっと考えてみるわ……)
 アリスはそう言ったきり、囁くのをやめてメタルマメモンさんをじっと見つめる。
 メタルマメモンさんは私達に軽く会釈する。なぜ私達がここにいるのかを問い詰めたりする前に、
「事情は後でお聞かせいただければかまいません。――失礼します」
 と言った。
 ――うわ、大人〜。
 思わず心の中で呟く。話し方も作った笑顔も、動作も何もかもが大人びている。
 メタルマメモンさんはロゼモンさんの傍に急ぐ。ファントモンが横に移動して道を開けても、そちらを見なかった。膝をついて、
「大丈夫ですか? 気分が悪いんですね? ――人間の姿に戻れますか?」
 と、ロゼモンさんに話しかけた。
「あ……う、ん……メタルマメモン……?」
 ロゼモンさんは、まるで夢から覚めた子供のような声で、メタルマメモンさんの名前を呼んだ。
「平気……」
 促されるままにデジモンの姿から人間の姿に戻ったロゼモンさんは、無理に笑おうとする。
「無理をしないで下さい。俺には何も話したくないというなら、そう言っていいんですよ。それでかまいませんから……」
「そんなことないわ……」
「俺は今、ここにいます。貴女の目の前にいます。それは解りますね?」
「うん……」
「話を聞いていますから。何か言いたいことはありますか? 心に浮かぶことでも何でも、何か言いたいことはありますか?」
 メタルマメモンさんの声は静かに促す。優しい声だった。
 ロゼモンさんは、メタルマメモンさんを見つめ、訊ねた。
「……この機械は『先生』が造ったの?」
 メタルマメモンさんは、小さく頷く。
「ええ、そうです。不完全な機械でしたので、後から俺が手直しをしました。だから俺が造ったとも言えます」
「そう……」
「貴女が怖がると思って、話しませんでした」
「ありがとう……」
「いいえ、当然のことですから」
 ロゼモンさんは安心したようで、そっと息を吐く。伏し目がちに、
「『先生』のデータがまだこの場所のどこかにあるの?」
 と訊ねる。
「誰が? ――――誰が? 誰が……そんなことを言いましたか?」
 メタルマメモンさんの声が徐々に、静かに凄みのあるそれへ変わる。
 驚いてロゼモンさんは顔を上げる。急いで首を横に振る。
「怒らないで……」
「答えて下さい。誰がそんなことを貴女に言いましたか?」
「それは――――あの……ここには……いないわ」
 ロゼモンさんはそう言った。
「いない? どこにいるんです?」
 私はメタルマメモンさんを見つめた。あんなに優しそうに見えたのに、今はとても――底知れぬほど恐ろしく見える。
「来る途中で会ったの……」
 ロゼモンさんはファントモンを庇うつもりで、適当なことを言おうとした。
 けれど、
「アタシが言った!」
 ロゼモンさんの言葉を遮り、ファントモンは言った。
「ごめん、こんなに怖がるなんて思わなかったんだ……!」
 ファントモンは一気に言うと、再び「ごめん」と言い、メタルマメモンさんとロゼモンさんに向かって頭を下げた。
 メタルマメモンさんは声の調子は変えず、ファントモンに話しかける。
「覚えておいて下さい。愚かな好奇心は――身を滅ぼします」
 ファントモンは、ごくりと唾を飲んだ。
「――そうね。それに……アンタはこのデジモンのためなら何だってやるでしょうね?」
「愚問ですね」
 表情一つ変えずにメタルマメモンさんはそう言ってから、ロゼモンさんに話しかける。
「確かに残っていましたが、ザッソーモンのデータは残らず処分しました」
「処分……?」
 ロゼモンさんはその言葉に、怯えた顔をする。
「こないだみたいに? あの……? そんな恐ろしいことを? 貴方達が……?」
「貴女が気にかけることではありません」
「でも……」
「ロゼモンさん。貴女が怖い思いをすることはもうありませんから、安心していいんですよ。――怖いと思うことはまだ他にありますか?」
 そう、メタルマメモンさんは促し、訊ねた。
「……何も……」
 ロゼモンさんは怯えた顔のまま、首を激しく横に振る。
「何も……何も無いわ……」
「――それとも、俺の方が怖いですか?」
 と、メタルマメモンさんは付け加えた。
「――?」
 ロゼモンさんはびくりと肩を震わせた。
 メタルマメモンさんの、その表情からは凄みは消えていたけれど、他のどの感情も浮かんでいない。まるで本心を隠すような……そんな表情だと私は思った。
「メタルマメモン……?」
 ロゼモンさんは、まるで幼い子供のように驚いた顔をしていた。けれど、すぐにいつものように鮮やかな花のように微笑む。
「……ごめんなさい……」
「貴女が謝る必要はありません」
「それでも言わせて。いいでしょう?」
 メタルマメモンさんの瞳に、ほんの少しだけ戸惑いが浮かぶ。感情を表に出さないようにしたまま、ロゼモンさんを見つめる。
「そう……。……そうですね。貴女の気が済むようにすればいい。俺にはそれを遮る権利はありませんから」
 そう言って、メタルマメモンさんはロゼモンさんから目を逸らし、立ち上がる。
 ロゼモンさんは嬉しそうにメタルマメモンさんを見つめている。
「『脳』――いや、メタルマメモン……」
 ファントモンは、メタルマメモンさんに話しかける。
 メタルマメモンさんはファントモンのその姿をあらためて見て、
「ひどいケガですね……」
 と、心の底から心配しているといった様子で話しかけた。
 けれどファントモンは、
「それは社交辞令なの?」
 と、わざと明るい口調で訊ねた。
 メタルマメモンさんは
「社交辞令だと思いますか?」
 と訊き返した。
「アタシが話しかけるまで、アタシのことは眼中に無かったじゃない」
 ファントモンはそう言う。責める口調じゃなくて、あくまでも明るい。
「……ええ、否定しません」
 メタルマメモンさんは穏やかに言った。
「社交辞令か……アタシ、優しくされることってなかったから、勘違いしていたよ。アンタの性格、ようやく本心も解ってきた。アタシ、鈍感だから……」
「……」
「アタシ、『金髪』の正体を知ったよ。アンタに伝えようとしたら『金髪』が現れてね、アンタは『知っている』って」
「……『知っている』?」
「答えて欲しいんだ。つまり、――アンタは最初からアタシ達を……!」
 そう、ファントモンは早口に言った。
「そこまで知ったのなら、ここに何をしに来たんですか?」
「メタルマメモン――」
「知った時点で、逃げればいい。それとも何か企んでいるんですか?」
 メタルマメモンさんの静かな声に、また凄みが加わる。先ほどよりずっと強いそれが緊張を伝える。
 ――怖い……!
 殺気って、こういうものなのかと驚いた。
 ファントモンはそんなメタルマメモンさんの変化を間近に見ても、その明るい口調を崩さない。
「アンタにとって、一番の目的は何?」
 と訊ねた。
 メタルマメモンさんの殺気が増す。
 ファントモンは、メタルマメモンさんを見つめる。
「アタシは、」
 ファントモンは、ロゼモンさんの方をちらりと見る。
 ロゼモンさんはファントモンと目が合ってちょっと戸惑いながらも、微笑む。
「アタシはね、――アンタがあのデジモンのことを大切に思う理由が解ってきたよ」
 そう、ファントモンは言った。
「ロゼモンさんのこと?」
 メタルマメモンさんはファントモンを見つめる。殺気はそのままに。
「アタシはずっと、『デジモンの魂狩り』をゲームのように楽しんでいた。アタシは女っぽくないから、男は誰も相手にしてくれない。女もアタシをバカにして笑う。そんなヤツらの魂を狩り、砕いて遊んだ。
 だから――『心臓』が『大量に殺戮を楽しめる』と言ってきた時、面白そうだと思ったのさ……」
「……」
「笑っちゃうよ、マジで! ロゼモンと話したら、調子狂ったよ! バカ正直過ぎるんだもの! ――でも、嫌じゃないんだ。不思議でさ……心が軽くなったみたい。そしてどんどん……今までこだわっていたことがどうでもよくなっていく……」
 ファントモンは、自分の無くなった半身を眺める。
「あ〜あ……こんなになっちゃった。アタシったら――何考えているんだろ、何をやっているんだろ……バカだったなと思う……」
 私は聞きながら……寂しい気持ちで心がいっぱいになった。ファントモンは、とても後悔している……。
 けれどメタルマメモンさんは、
「それで? 言いたいことはそれだけですか?」
 と感情のこもらない声で言った。
 その言い方に、ファントモンは怯んだ顔になる。けれど、
「ねえ! メタルマメモン、頼みたいことがあるんだ!」
 意を決した様子でファントモンは、メタルマメモンさんに懇願する。
「絶対に危害を加えないと約束するから、もう少し、あのロゼモンっていうデジモンと話をしたいんだ。それを許して欲しいんだよっ!」
 メタルマメモンさんは首を横に振ることもなく、無表情に一言、
「許可出来ません」
 と言った。
 ファントモンはそう言われることはもちろん覚悟していたみたい。声の調子を落とし、薄く笑う。
「……そう言うと思った。ヤバイもんね、ロゼモンって」
 メタルマメモンさんは、眉をひそめた。
「何か知っているんですか?」
 ファントモンは首を横に振る。
「何も知らない。アタシ達の仲間だったデジモンの名前を聞くだけで顔色悪くして暴走しかけた。――それぐらいしか知らない。究極体デジモンの暴走なんて、信じられない。恐怖だ。あのデジモンの名前はタブーなの? それなら言わないようにする。もう話題にも出さないよ。アタシも嫌いだったしね。――これだけ条件揃えたんだから、どう?」
 ファントモンはそう言った。
 けれどメタルマメモンさんは、
「許可出来ません」
 と全く同じように言った。
「こんなにお願いしてもダメ?」
「許可は出来ません。黙認も出来ません」
 メタルマメモンさんはなおもそう言った。


 それなのに、
「私はお願いしたいわ」
 と、ロゼモンさんが口を挟んだ。


「ロゼモンさん! アンタは黙っていなさい!」
 メタルマメモンさんは呆れた声を出す。
 そう言われたけれど、ロゼモンさんは微笑む。
「だって……ファントモンが私達の傍にいてくれたら、私は助かるわ。アイちゃんだけじゃなく、二人も増えてしまったんだもの。今の私には三人も人間の女の子を守るのは少しだけ大変なの。その少しの分だけでも助けてくれるのなら……そう思って、さっきね、私からお願いしたの」
「――本気ですか?」
「本気よ。だって、メタルマメモン。貴方はやりたいことがあるんでしょう? 私が押しかけてきちゃったことで、これ以上……なるべく、貴方がやりたいことの邪魔をしたくないの」
 さらっと、ロゼモンさんはそう言った。
 ぽかん、と、私の頭の中は真っ白になりかけた。
 ――ロゼモンさんって、……メタルマメモンさんが何をしようとしているのか知っているの? 知らないからそんなこと言えるのよね? それとも、知っていてもそう言えるの?
「ロゼモンさん……」
「あの時、言ったでしょう? 覚えている?」
「……」
「それだけでいいの。他にはどんな願い事も叶わなくていい。私の、たった一つだけの願いだから……」
「…………」
「私の願いは変わっていないわ」
「……お人好しも、ほどほどにして下さいね」
 メタルマメモンさんは苦々しそうな顔をして、とうとう、そう言った。
 ロゼモンさんの傍にいることを、許可された瞬間、ファントモンはとても嬉しそうな顔をした。
「――? なんだか……メタルマメモンさんと一緒にいることより、嬉しそうに見えるわよ?」
 思わず。こっそりと、ファントモンに話しかけた。
 ファントモンは笑みを漏らしたように感じた。
「うん。だって……なんだか、楽しいんだ。……変だね、アタシ……」
 私は、どちらかというと、そう言うファントモンの方が好きだと思った。――敵だったのに好きだと思ったりするのも変だと思うけれど。
「そういえば、そちらのお二人のこと、お訊きしていませんでしたね……」
 メタルマメモンさんは、ロゼモンさんに問いかける。
「牧野留姫さん。アリス・マッコイさんよ」
「名前は知っています。けれど、この場所にどうして連れて来たのかと……」
 メタルマメモンはそう言った。誰かを責める口調ではなくて、ただ単純に疑問に思った時の声で。
 ファントモンがそれに、溜息をついた。
「ごめん。アタシが連れて来たよ。――『金髪』に一泡吹かせるつもりだったのさ。でも、もうそんなこと、どうでもいい……」
「一泡? ああ、そういえば、『金髪』の正体を知らなかったんですか? どういうデジモンなのか……」
 メタルマメモンさんは訊ねる。
「デジモンの姿のことじゃない。――本性のこと、本当の目的のことさ」
「目的? ……詳しく話して下さい」
 突然、メタルマメモンさんの声が変わる。ピリッと、空気が振動したような気がした。
「そ、それは……」
 ファントモンは、その変化に戸惑う。
「話して下さい」
「うん、あの……」
 ファントモンは戸惑う。
「……『金髪』にアタシは殺されたんだけれど、復活して、『奇跡』――ウイルス感染させる力を手に入れたんだ」
「殺された!? ウイルスを? まさか、それでロゼモンさん達のいる場所に来たというわけですか?」
 メタルマメモンさんが殺気立つ。
「――ち、違う! アタシはロゼモン達にウイルスを感染させようとは思っていないから! 信じてよ! メタルマメモンは『金髪』がしようとしていることを知っていたんだよね? 『金髪』からそう聞いて、アンタはアタシ達を実験体にするつもりだったんだと思った。そうなの? 本当にそうなの?」
「実験体!?」
 私は息を飲んだ。ファントモンが急に力を増した時のこと、シードラモンさんのことなどが頭に過ぎる。
「メタルマメモン、それは本当なの? そんな恐ろしいこともしようとしていたの?」
 ロゼモンさんは驚いて声を上げた。
「……」
 メタルマメモンさんは答えない。
「メタルマメモン……嘘よね?」
 ロゼモンさんはなおも問いかける。
 けれど、
「――その話の続きは後で。急用が出来ました」
 メタルマメモンさんは突然、サッと踵を返した。
「メタルマメモン! 待って! 答えてよっ!」
 ファントモンがすがりつくような声を出した。
「どこに行くの?」
 ロゼモンさんも訊ねた。
 メタルマメモンさんは歩みを止める。けれど、振り向かない。
「出かけてきます。……ファントモンがいるのなら、少しは安全でしょう」
「出かけるって……」
 ロゼモンさんは戸惑う。
 メタルマメモンさんは、
「ファントモン。ロゼモンさんが先ほどのような状態にならないよう、気をつけてあげて下さい。それと、……ああいう状態の時に、不用意に――特に手首などを掴んだりしないように」
 と声をかける。
「解った……」
 ファントモンも戸惑いながら頷く。
「ロゼモンさん、――無茶なことはしないで下さいね」
 念を押すように、メタルマメモンさんはロゼモンさんに言った。
「すぐに帰ってくるの?」
 そう、ロゼモンさんはさらに訊ねる。
「少し……時間がかかるかもしれません」
 メタルマメモンさんはそう言った。
「待って! アンタがいないのにここにいたら、アタシ達はもっと危険な目に合うかもしれないよ!」
 ファントモンが声を上げた。
 メタルマメモンさんは立ち止まり、少し体を傾け、顔をこちらへ向けた。
「危険?」
「その『ウイルス発生装置』、キーワードでロック解除されるみたい! ねえ、何かプログラムが作動するようになっているの? アンタがそう設定したの?」
「え?」
 メタルマメモンさんが驚いて、今度は体ごとこちらへ向き直る。
「ファントモンの言うとおりだわ。さっき、貴方がいた時と同じことが起きたのよ。キーワードがいくつか設定されているか、私の声に反応したのか、それともそれ以外なのかは解らないけれど……」
 ロゼモンさんがそう言うと、メタルマメモンさんは眼を見開く。


 その時、唐突に金髪の男が現れた。皆、驚いてそちらに目を向ける。


 メタルマメモンさんも、驚いて声を発する。
「なぜ……!」
「私のことを探しているのかと思って、な」
 金髪の男は静かに笑う。両腕を体の前で組み、メタルマメモンさんに問いかける。
「話をしたいと思っているなら、ここでいいだろう? だが、ソイツらは邪魔だな?」
「……」
 メタルマメモンさんはゆっくり振り向く。探しているのはロゼモンさんのようで、すぐにロゼモンさんと目が合った。
「『ベルゼブモン先輩がアイさんを探しに来ています』――いいですね?」
 そう言われ、ロゼモンさんは小さく息を飲んだ。けれど、
「どこに行けばいいの?」
 と、いつもと変わらない調子で答えた。
「地下へ」
「地下? 地下室があるのね?」
 ロゼモンさんは訊ねた。
「ええ、そうです」
 メタルマメモンさんは片手を軽く、顔の辺りまで上げた。そして、
「ロゼモンさん」
 と呼ぶ。
「何?」
 ロゼモンさんは、メタルマメモンさんを見つめる。声をかけられることが嬉しいみたい。けれど、金髪の男が傍にいるから、そちらを警戒している。
 メタルマメモンさんは何か言いかける。けれど躊躇い、止めた。
「メタルマメモン? どうしたの?」
 ロゼモンさんは不安そうな顔になる。
 メタルマメモンさんは、微かな笑みを浮かべる。
「いいえ、何でもありません。――貴女はそろそろ、暴走しそうになっても感情を自分だけの力でコントロール出来るようになっています」
「そんなこと……無理よ。私、貴方がいないと……」
「大丈夫なんです」
「メタルマメモン……」
「自分を信じて下さい。込み入った事が起きていますから、俺が駆けつけることが間に合わないことも今後はあります」
「でも……」
「きちんとコントロール出来たら、何でも言うことをきいてあげますよ」
 そう、メタルマメモンさんは言った。
「え!? ええっと、あの……ほんと?」
 ロゼモンさんはたぶん、それが『ニンジン作戦』だとは気付いていない。嬉しそうに頬を染めた。
 メタルマメモンさんは、けれども……感情を表情には出さない。
「――くれぐれも気をつけて下さい」
 そう、言った。
「ベルゼブモンに何か、伝言ある?」
 ロゼモンさんは訊ねた。
「ベルゼブモン先輩には――特には、何も……」
 と、メタルマメモンさんが言ったので、ロゼモンさんが
「え? どうして?」
 と訊ねた。
「何も? 本当に?」
「ええ……」
「じゃあ、私には? 私には他に、言いたいことって、ある?」
「……」
 メタルマメモンさんは、そっと、唇を動かした。優しい表情を浮かべ、声に出さずに何かを言ったように見えた。
 ロゼモンさんは驚いて眼を見開く。
「――待って! これから、何が起きるの!?」
 弾かれたようにロゼモンさんが叫ぶ。
「――何も。ただ、話をするだけです」
 メタルマメモンさんが言う。
「嘘!」
 ロゼモンさんは、先ほどのように優雅な仕草はせずに、一気にデジモンの姿に変わった。
「っつ……!」
 体に少し負担をかけるようで、一瞬だけ苦しそうな声を出す。
「ロゼモンさん、無茶なことは……」
「それ、そっくりそのまま、貴方に返すわよ!」
 メタルマメモンさんは、ロゼモンさんを見つめる。
「……お人好し過ぎるって、何度でも言いますよ?」


 『金髪』が低い声で笑う。
「逃がしてやろうと思ったのになぁ……興味をそそるなぁ……」


 メタルマメモンさんが、明らかな殺気を放つ。
「何のことです? 事の次第によっては許しませんが?」
 『金髪』は背筋を伸ばすように大きく体を逸らし、そして、元に戻す。ゴキゴキッと、背骨から不気味な音が立つ。
「『牙を持つ者』はすでに手中にある。――そっちのデジモンも実験体には適しているようだ。一定以上の頭の良さは必要だ」
 そう、『金髪』は言った。
「『牙を持つ者』って、マスターのことですよね!」
 私は声を上げ、飛び出そうとした。
「手中って、どういうことなの!?」
「待って、留姫!」
 私の腕をアリスが抱えるように抱き締める。アリスは全力で私を引き留めながら、叫ぶ。
「どういうこと? ――ロゼモンさん!?」
 ロゼモンさんが、アリスごと私達を押しのけるように進み出た。
「どういうことです? 私達だけが人質のはず。マスターは関係無いでしょう? マスターは私にとって兄のような存在なんです。――答えて下さい!」
 『金髪』は薄笑いを浮かべている。

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