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カフェ『皐月堂』へようこそ(レナルキ他)
本編5
 翌日。
 お菓子の紙袋を忘れずに持って、早めに家を出た。
 一晩考えた結果、もうちょっと頑張ってみることにした。
 きっかけ作って、いろいろ話したりして。私の良いところが何かっていうのは良く解らないし自信もないけれど、でも、とにかくもうちょっとだけ頑張ってみよう。
 『皐月堂』に着いて、二階に上がると、
「……」
 またレナさんが眠っている。けれども今日は、テーブルに突っ伏して眠っていた。
 どうしようかと考えて、持ってきたお菓子の紙袋を静かにテーブルの端に置いた。私は音を立てないように女子更衣室に行き、着替えて戻って来た。
 レナさんは起きていた。紙袋を見つめている。
「あ、それ……もし良かったら、休憩時間にでも……」
 と私が声をかけるのと、レナさんのお腹が鳴るのは同時だった。はっきりとしたその音に私は瞬きをした。
「……今、食べますか?」
 レナさんが申し訳なさそうに頷いた。
 袋からお菓子の箱を取り出し、包装紙を解いて紙製の箱の蓋を開けた。
 レナさんに勧めると、申し訳なさそうに透明な小袋に入ったクッキーを取り出した。
 私は一階へ行き、マスターに頼んでグラスにお水を一杯もらおうとした。クッキーだけでは食べ辛いかもと思ったから。
 事情を簡単に話したら、差し出されたのはアイスコーヒーだった。
「これを持っていくといい。眠気覚ましにもなるだろうから」
「わぁ! ありがとうございます!」
「留姫も何か飲む?」
「いいんですか? それじゃ……アイスティーを……」
 私の分のアイスティーまでいただいてしまった。
 銀色のトレイにのせて、ガムシロップとミルク用の真っ白くて小さい陶器のピッチャーを用意しようと思ったら、マスターに言われた。
「アイスティーの分だけでいい」
「?」
「コーヒーにはいつも使わないから」
「そうなんですか?」
 ――アイスコーヒーは、ガムシロップもミルクもなしのストレート。こういうのがレナさんの好みなのね……。
 持っていくと、レナさんは二つ目のクッキーの袋に手を伸ばしていた。けれども封を開けずに迷っている。
「たくさんあるから食べてもいいですよ」
 アイスコーヒーとアイスティーをテーブルの上に置く。私も空いている椅子に腰を下ろし、アイスティーを飲んだ。ここのアイスティーは香りも良くてとても美味しい。
「朝食は食べていないんですか?」
「……昨日から食べていない」
「夕食から? どうして?」
 思わず訊くと、レナさんは私から目を逸らした。
 ……?
 何かまずいことでも言ったかしら?
 二袋目のクッキーも食べ、コーヒーも飲み終えるとレナさんは席を立った。
「助かった」
「お役に立てたなら」
「飢え死にするところだった」
「大げさですね」
 私は苦笑した。
 ――きっかけどころか、なんだかいい雰囲気になった〜! ママ、サンキュッ!
「ごちそうさま。行こうか?」
 レナさんはテーブルの上に置いていた銀のトレイを手に取る。腕で支えるように持つと、空になったグラスをのせた。私のグラスものせる。
「あの、私が持ちますから」
「いい。片付けるのは私がするから」
 と、それを持ってレナさんはドアへ向かう。
 私も椅子から立ち上がると、後に続いた。
 レナさんはドアを開ける前に言った。
「今度、お礼をするから。どこに行こうか? 考えておいて」
 ――え?
 私はその場に固まった。先に閉まった扉を見つめた。
 どういうこと? どこかに行く? も、もしかしてお茶とか、誘われた?
 ドアが再び開いた。
「どうしたの? そろそろ時間だけれど……」
「……はいっ」
 私は部屋を出た。



 バイト中、上の空にならないように、レナさんに言われたことについては考えないようにしていた。
ようやくバイトも終わり、二階に上がるとレナさんに声をかけられた。
「今から時間ある?」
「?」
「何か食べに行こうと思うんだけれど」
 あ、そう言えば。レナさんはクッキーしか食べていないんだった。それに、クッキーのお礼のお誘いかも!
「今からだと夕食ですよね……大丈夫です」
 必死に普通の笑顔を作り、私は頷いた。
 女子更衣室に急いで入り、私服に着替えた。今日は買ってもらったばかりのサマーワンピース着てきて良かった! 一緒に夕食! 顔が緩む……!
 更衣室から出る前に深呼吸をした。なんとか冷静になれ、私!
「おまたせしました。……あ。おばあちゃんにメール打ちますから」
 と手早くメールを打った。
 『皐月堂』の外に出ると、夏の空に西日の色が広がり始めていた。
 私の手を、レナさんが引く。
 見上げると目が合った。
「……もしかして、手を繋ぐのって嫌?」
 思い切り、私は首を横に振った。
「そ、そんなことないです。私……」
「樹莉達と休憩時間に話している時はもっと賑やかに話すのに、私と話す時は言葉が少ないから……」
 私は心の中で
 ――そりゃ、あまり喋ったらうるさい子って嫌われそうだし、そもそも七歳も年齢離れていたら何を話していいのか解らないんだもの!
 と、ツッコミを入れていた。
「べつに、私はいつも普通で……」
「それなら留姫は、本当は大人しくて……かわいいね」
 うそ――――!
 天地が引っくり返ったかと思った。
 ――もう一度! 今、言ったこと、もう一度! どういうこと? 私のこと、かわいいって? 言った? 今、言った? なんで? 大人しい? 大人しい女の子が好みなら、私、そういう子目指す――!
 レナさんはこちらを見ない。
 私は驚き過ぎて、レナさんの横顔を凝視した。
「これも冗談ですか?」
 なるべく平静さを装って、私は訊ねた。
「……冗談って?」
 レナさんは、私の視線に気付いた。
「だって、昨日……冗談って……」
「あれは……」
 レナさんがふいっと、私から目を逸らしながら呟く。
「……それなら留姫は、どういうつもりで初めてキスをする相手に私を選んだの?」
「え……それは……」
「年上の男の人をからかうのはそんなに楽しい? いつもそうなの?」
 どういうこと――――!?
 もう一回、天地が引っくり返ったかと思った。
「留姫はかわいいのに……誰かと恋をするのに興味があるからって――からかわないで欲しい」
 どうして? まるで私が小悪魔っぽいみたいなこと言って! ひどい! 私、そんな人の心を弄ぶようなことしないもの!
 ――急に具合が悪くなった。
 道にしゃがみ込んだ私に、レナさんの声が聞こえる。
 たぶん、考え過ぎたから。頭がパンクしたんだ。
 ダメ。苦しい。具合、悪い……。
「大丈夫?」
 私は死にそうになった。もうダメだと思った。
 ――私が大人しい子だったら、好きになってくれますか?
 ダメ。怖くて訊けない。拒絶されたら、――本当に死んじゃうかもしれない。もう、息が出来ないぐらい苦しい……。
「平気……」
 立ち上がろうとすると、レナさんが抱え起こしてくれた。



 あまり覚えていないけれど、こないだ立ち寄ったファーストフードショップにいつのまにかいて、私は作りつけのソファーに座って氷水を飲んでいた。
 私が具合悪くなった場所から、ここが一番近かったという。
 だんだんはっきりしてきた頭の中には、後悔がいっぱいだった。せっかく夕食に誘ってくれたのに、ファーストフードになっちゃうなんて……。しかも迷惑かけちゃって……。
 本当はすぐに駅に送ろうと言ってくれたらしいけれど、私が断固、拒否したんだと言う。
 なんだか自分が哀れだと思った。そこまでしてレナさんに好かれたいのか、と。もちろん即答で頷けるけれど。
「……」
 このまま、『恋愛に興味がある大人しい女の子』を演じてみるのもいいかもしれない。レナさんの好きなタイプは大人しい子みたいだから、そのうち、私を好きになってくれるかもしれない。
 レナさんの言っていることを整理してみると、つまり『私には興味がないけれど、気にしてくれている』ってことだから、かまってはくれるってことよね?
 ハンバーガーとフライドポテトを食べているレナさんは、私を気遣ってくれる。
「食欲がありそうなら、何か買ってこようか?」
 と。――どうしてこんなに優しいんだろう。
 でも、私はあまりお腹が空いていないから、ひとまずは残っているフライドポテトを分けてもらう。
 ――同じもの、食べている……。
 なんでこんな、ささいなことに幸せ感じるのかな。マジ、本気で好きになっちゃっているみたい……。
「外は暑いから、具合が悪くなるんだろうね」
「たぶん……」
「それならなおさら、どんなに頼まれてもうちには上がれないね」
「どういうことですか?」
「エアコンが壊れているから」
 うそぉぉぉ――!
「こんなに毎日暑いのに? 大変じゃないですか! 大丈夫ですか?」
「そう。だからバイト増やしているわけ」
「そうだったんですか……」
 レナさんが苦笑する。
「だいたい、むやみに男の家に来たがるものじゃない」
 一瞬迷ったけれど言ってみた。
「でも……レナさんは大丈夫でしょう?」
 彼はあっけにとられたようだった。
「『彼の家に遊びに行く』っていうの、一度やってみたい。『彼とデート』もしてみたい」
 一言、一言。レナさんの顔色を窺いながら言ってみた。
「そういうことは……好きな人とするべきだ」
 レナさんが複雑そうな顔で言う。
 それを言い返すには勇気が必要で。――テーブルの影で、握った両手に力を込めた。
「好きな人、いないもの」
 キツイ。好きな人を前にそれを言うのはキツイ。
「いないの?」
「いません」
 うわ〜、キツイ。苦しい。
「そう……」
 レナさんが、少し安心したように笑う。その笑顔に多少の疑問が浮かんだ。そんなに私に本気で好かれるのが嫌なのかしら? そこまで嫌われてはいないと思うんだけれど……。
「じゃあ、――『恋愛ごっこ』をしよう」
 レナさんが提案する。
「本当?」
「どこかに遊びに行ったり、しよう」
 ――やった!
 私は微笑んだ。
「嬉しい」
 たぶん、レナさんが好きそうな『大人しい女の子』っぽく。そういう子が『恋愛ごっこ』に喜んでいるってのは合っているかどうか知らないけれど。
 レナさんに駅まで送ってもらい、家に帰った。
 夜遅くに帰ってきたママにはお礼を言った。
「話すきっかけになった? わざわざ起きて待っていてくれたなんて、よほどいいことがあったのね?」
「うん、たくさん話せた!」
 話がとんでもない方にいっちゃったけれど。
「どんな人? その人、いくつぐらいの人?」
「それは教えないから! どうせ……失恋だもん……」
「失恋!? どうして?」
「子供は相手にしないっていうか……大学生からは高校生ってガキ扱いみたい……」
 ママは悲しそうな顔をする。
「そうだったの……辛いわね……」
「いいの。まだ知り合ったばかりだから」
 私は明るく、ママに向かって手を振った。
 自分の部屋に戻ると、バッグの中から生徒手帳を取り出した。中に二つ折りにした紙片――あのメモが入っている。
 取り出して、眺めて――私は大きく息を吸って、吐いた。
 ――よし、頑張ろう。
 私はまず、『大人しい女の子』とはどういうものか、真剣に考えた。



 翌日。
 『皐月堂』に行き、二階に上がるとレナさんがいた。なぜかまた机に突っ伏して眠っている。
 私は静かに女子更衣室に急いで、着替えて戻って来た。
 レナさんはまだ眠っている。
 私は音を立てないように隣に椅子を移動させて腰を下ろした。
 昨日聞いたことを思い出しながら、レナさんが寝不足なのは最近寝苦しい夜が続いているからじゃないの?と思えてきた。エアコン壊れているのなら、夜は暑くて眠れないのかもしれない。
 ……そういえば、バイト初日と翌日は駅で会ったけれど……。
 あの二日間は早朝、どこにいっていたのかしら……。
「――!」
 今、すごく、激しい想像をしてしまった。まさか、エアコン壊れているから友達の家に泊まりに行ったりとかしていた……り? お…女の人のところとか……?
 これは、聞き出さないと!
「る……?」
 レナさんが目を覚ました。
「おはようございます」
 私はにっこり微笑む。――大人しい女の子って、たぶん、こんな感じ。
 レナさんはかなり寝惚けている。
「……大丈夫?」
 私はレナさんを覗き込む。
 かくん、と、レナさんが私の方へ倒れ込む。
 ――ぎゃ!
 慌てて支えた。
「起きて――っ」
 レナさんが欠伸を噛み殺しながら目を覚ます。
「ごめん……」
「遅くまで起きていたんですか?」
「論文が……」
 大学生ってそんなに忙しいの?
「ちょっと無茶なスケジュール組んだから」
「そう……」
「時間?」
「あ、はい」
「行こうか?」
 寝惚け気味のレナさんに促されて立ち上がった。
 心臓がドキドキして止まらない。さっき、抱きつかれるかと思った。
 ――待って! あのまま抱きつかれてしまっても良かったんじゃ? もったいないことをしてしまったかも!?
 先に階段を二段ほど下りたレナさんがこちらを振り返る。
「どうしたの?」
「なんでもないです」
 わずかに微笑んで、私は言った。けれど心臓のドキドキが止まらない。
 ――振り返らないでよ! 階段下りちゃって、早く早く! 顔近くにあって……心臓に悪いから! ……ダメ……私、重症みたい……。



 バイトが終わってから、レナさんと『皐月堂』を出た。
「図書館に本を返しに行かなければならないんだけれど……今ならまだ間に合うから」
 レナさんが腕時計で時刻を確認して、言った。
「気にしないで。暇だから、ついていきたいの」
「そう? ああ、そういえば……」
 レナさんはふと、言った。
「敬語、やめようか?」
「?」
「『恋愛ごっこ』なら、私に敬語を使うのはおかしいと思うから。『皐月堂』の外では、敬語はやめよう」
「そう? そうね……そうしようかな?」
 ……と、微笑んでみた。
 心の中では気を失いそうなぐらいドキドキしていた。
 ――敬語なしって! そうきたか――!
「えと……じゃ、レナって呼んでもいい?」
「そうだね、それでいいよ」
「じゃ……腕、組んでもいい?」
「え? 腕?」
 私は強引に腕を絡ませた。
「ねえ、レナ。早く行かないと図書館閉まっちゃうから……」
「……あ、ああ……」
 レナ……って、呼んじゃった……。ドキドキする……。
 でも、敬語なしって――『大人しい女の子』が敬語を使わない場合は、どう言うものなの? 困ったな、どうしよう……。
 その場の勢いで絡ませちゃったこの腕を自分のものにするために、これからどうすればいいの?
 図書館までは少し距離がある。けれど、レナと話をしながらだとその距離もあっという間だった。
 図書館に着いて、レナが本を返したり選んだりするのを隣で見ていた。話題作りの参考にしようと思って、どんな本を読むのかと覗き見する。
 試しに、近くの本を手に取ってみた。
 ――難しい……!
 あまりの衝撃によろめきそうになった。印字された文字は普通の書体よりも古めかしくて、余計に難解に見える。
 ヤバイ。これは、マジでヤバイ。何が書いてあるのかさっぱり解らない!
 日頃、マンガや恋愛小説ばっかり読んでいたから。憧れの人が出来た時の
ために教養を身につけておくべきだった――! どうしようっ!
「? 留姫も地方の民話に興味があるの?」
「はい?」
 私は手に持っている本の表紙、背表紙を見てみる。――『日本の民話と伝承』……。
 そういえば、この棚は日本各地の民話や昔話についての本ばかり。
「……そ、うね、えっと……なんとなく……」
「だったら、こっちの方がいい」
 レナが渡してくれたのは――え、絵本?
「絵本……これって?」
 それは本棚にあった古い絵本だった。
「この話、好きなんだ」
「そうなの?」
 そう……。
「レナが本を探している間、読もうかな」
 ベンチに腰を下ろして、ちょっと読んでみた。
 ――『うりこひめ』か。
 読んでみたけれど、感想は一言だけ――マジで最悪な話!
 『瓜から生まれた瓜子姫、機織りをしながら綺麗な声で歌を歌う美しい娘は大切に育てられていた……』
 でも結末が――ひどい、瓜子姫が天邪鬼に食べられるなんて――! 挿絵がマジ怖い!
 レナが本を借りて戻ってきた。
「この話、ひどいっ」
「そう言うだろうと思った」
 レナが苦笑したので私は膨れっ面になった。
「騙したのねっ」
「そういうつもりじゃない。この話が好きなのは本当」
「嘘! だいたい、ラストに天邪鬼が村人に殺されたって、瓜子姫は戻ってこないし。バッドエンドじゃない」
「そっちは東日本で伝わる話がベースになっている。でも、西日本に伝わる話はもっとひどいよ」
「そうなの?」
「天邪鬼――あまんじゃくという言い方もされているけれど、現代だったら恐らく未成年略取、暴行、殺害……」
「――ひゃぁっ」
「つまり、留姫みたいな子は気をつけなさいということ」
 その言葉には、カチンときた。
「私は瓜子姫みたいに世間知らずじゃないもの」
「そう?」
「世間知らずじゃないったら」
 レナは私から絵本を受け取ると、本棚に戻した。
「さて、これからどうする?」
と訊かれた。
「とりあえず、閉館時間が近いから外に出ようか?」
 私は頷く。
 図書館から出て、近くの公園をぶらついた。
 自動販売機で飲み物を買ってもらった。
「奢ってくれるの?」
「うん。それらしく」
 ――『恋愛ごっこ』らしく。
「ありがとう……」
 私も、『大人しい女の子』らしく、お礼を言ってみた。
 木陰のベンチに腰を下ろすと、買ってもらった小さいペットボトルのお茶を飲む。冷たくて美味しい。
 レナは缶コーヒーを飲んでいる。
「今度、同じ日にバイトを休めるようにしよう」
「?」
「どこかに行こう、って。――ほら、クッキーのお礼」
「……!」
 ペットボトルを地面に落としそうになった。
 もしかして、デートってこと?
「あれって、そういう意味だったの?」
「どういう意味だと思ったの?」
「だって、ほら……夕食……」
「あれは私がお腹空いていただけ……」
 レナは恥ずかしそうに笑う。
「どこでも。映画でもテーマパークでも、水族館、美術館、博物館……どこでも」
「そ、そう?」
 突然そんなこと言われても困る……!
「美術館や博物館だと月曜日が休みのところが多いから……」
「うん……」
 正直言って、どこでもいい。誘ってくれるなら、どこでもいい!
「レナだったら、どこに行きたい?」
「そうだな……」
「本当は、美術館とか博物館とか好き?」
「ああ。最近は論文や課題やレポートで忙しいから行っていないけれど」
「そういうところの方がいいかも。外、暑いし」
「でも、映画でも涼しい場所という条件なら同じだね」
「映画……それもいいかも。映画か、美術館か、博物館のどれかにしよう?」
「じゃあ、そうする? 探しておこう」
 レナが微笑んだ。
 私はドキリとした。心臓が大きく音を立てた。
 この人の彼女になりたい。この人に好きになってもらいたい。振り向いてもらいたい。
 夕方が近付いてきて、私はまた、駅まで送ってもらった。
 このままずっと隣にいられたらいいのに――。

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