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カフェ『皐月堂』へようこそ(レナルキ他)
本編3
(※この本編3を読む前に、ぜひ第2部番外編2、3を読んでいただけるとより楽しめますv)


 ダメだ、と思った。
 キュウビモンが避けることも出来ず、巨大クワガタの『ハサミ』が迫ってきて……!
 けれど、


「――ッ!?」


 眩しい閃光が巨大クワガタを吹き飛ばした、と思った。
 衝撃で弾き落とされそうになる。
 ――キャアッ!
 バランスを崩しそうになり、キュウビモンの体が揺れる。私が落ちないように、背で受け止めてくれた。その背に急いでしがみ付く。
 長い毛並み越しに、強烈な光でまだ慣れない目を凝らして辺りを見回すと、そこに誰かがいる。
 ――誰かしら?
 黒い翼を持っている。
 ――デジモン? 敵!? 巨大クワガタを倒して……その後は私達を狙うの?
 逃げなくちゃ、と身を硬くした。
 けれど、
「キュウビモン! 『牧野』!」
 そのデジモンに呼ばれた。
「どうして? 私の名前を知っているの?」
「前に会っただろ?」
 ――前に?
 深い黒の翼、薄い金色の髪は無造作。黒い革のジャケット……赤い瞳が光りを帯びている……。
 確かに一度、どこかで会ったことがある。でも、デジモンだもの、えっと……、
「あっ! わぁ……!」
 ようやく思い出した。あの大きな病院で会った――あのデジモンだ。まさか私の名前を覚えているとは思わなかった。
 あの時とは違い人間の姿じゃなくて、完全なデジモンの姿――漆黒色の大きな翼を広げた姿は、まるで魔物のようだと思った。けれど味方だと知れば、そんなに怖くない。
 キュウビモンが顔をこちらに向ける。問いかけるような目をしている。
「前にちょっとだけ会ったの。ほら、病院でアンタが検査している時よ……」
 説明すると納得したみたい。
 ばさりと大きく羽ばたき、一瞬のうちにそのデジモンは私達の近くに来た。空中に留まったままの私達に、
「無事か?」
 と声をかける。
「ええ……」
 戸惑いながら頷いた。
 また、別のデジモンが現れた。今度はウサギのような姿をしているデジモンだった。仲間みたい。
「ベルゼブモン」
 そう呼ばれた漆黒の翼のデジモンは、そちらへ頷く。
「解っている。急ぐぞ。――おい。オッサン達はどこだ?」
 ――『オッサン』?
 訊かれた私は首を傾げた。
「レオモンのこと……一緒にいたのでは?」
 と、ウサギの姿のデジモンが言う。
「ああー、そうだったな。名前言わないと解らねぇよな」
 と、ベルゼブモンさんが頭をガシガシッと掻いた。
「そうだ。レオモン、だ。オッサン、どこにいる?」
 ――オッサン、オッサンって……。樹莉が聞いたら怒るわ。それとも、これってあだ名なの?
「マスターのことですか……ええと、はぐれてしまって……」
 そう説明したら、
「はぐれただと!?」
「それは大変!」
 と、額に手を当てたり、眉をひそめたりしている。
「マスターとは、かなり前にはぐれてしまって……」
「じゃあ、今はキュウビモンと二人だけ?」
「はい……」
 私たちがそんな話をしている間にも、また新たな巨大クワガタが飛んで来た。今度は二匹いる!
「アンティラモン」
 ベルゼブモンさんは、うんざりしたように顎で一匹を示す。
「そっちは任せた。オレはこっちだ」
「承知した」
 アンティラモンと呼ばれたウサギの姿のデジモンは、ふわりと空中を跳んで巨大クワガタの近くに降り、空中でトンッと軽く、巨大クワガタを蹴り上げた。その動きは身軽で、でも巨大クワガタは簡単に引っくり返った。
 アンティラモンさんは空中で軽く反回転し、巨大クワガタへ両手の平を向け、エネルギー弾のようなものを放った。巨大クワガタが地へと落下し、地響きが響き渡る。
 もう一方を、ベルゼブモンさんが迎え撃つ。私達から少し離れた場所に移動して、空中に出現した魔方陣のようなものへ向け、その右腕のブラスターを放つ。光は魔方陣で増幅されてさっきと同じように閃光となった。巨大クワガタがまた、データを散らし消えた……。
 戦い慣れているその強さに、私は少し怯む。もしかしてキュウビモンも本当は、あんな風に……。
 小さい鳴き声に、私はハッと我に返った。キュウビモンが背に乗る私を見つめ、小さく鳴いている。
「なんでもないわ……」
 そう言っても、彼は私の様子を気にしている。
「大丈夫。……ちょっとだけ、怖いなって思ったの……」
 そう小声で言った。キュウビモンは納得したようだった。大丈夫だと、小さく頷くその仕草が私を励まそうとしてくれる。
 ――えっと、このデジモン達だけじゃなくて……。
 キュウビモンのこともちょっと怖いのかもって思ったんだけれど、それを言ってしまったらキュウビモンが落ち込むと思って止めた。
 大好きなんだけれど、私はキュウビモンがどんな風に戦うのかまだ知らないから……。
 アンティラモンさんがこちらに戻ってきて、心配そうに問いかける。
「牧野さん、ですよね……」
「ええ……」
「怖い……我も……?」
 ――え!?
 ちょっと驚いた。けれど、良く考えてみたらウサギに似ている姿なんだもの、耳も良いのかもしれない。聞こえちゃっていたみたいで、しょんぼりしている。
「ええと……デジモンが戦うところは少し……」
 そう言うと、ベルゼブモンさんが深く頷く。
「まあ、そうだろうな」
「貴方が一番、怖く感じるんだけれど……」
 と、私が様子をうかがいながら言うと、
「オレ?」
 ベルゼブモンさんが少し嫌そうな顔をする。
「さっきのブラスター、とんでもない破壊力だったもの……」
「あーそうだな……」
「あの、ベルゼブモンさん……」
 ベルゼブモンさんはまた頭をガシガシッと掻く。面倒臭そうに、
「オレに敬語はいらねぇって。堅苦しいからよぉ……」
 と言う。
「そうだね。我のことも呼び捨てでかまわぬ……」
 と、アンティラモンさんも頷く。
「それなら……ええと、私も留姫、でいいわ。皆からそう呼ばれていて……。……ベルゼブモン、アンティラモンって呼んでもかまわない?」
「かまわねぇ。……おい、アンティラモン」
 ベルゼブモンはアンティラモンに問いかける。
「どうだ?」
 アンティラモンはほんの少しうつむき、耳を澄ましているみたい。
「……近い。前より、近付いたようだ」
「そうか。じゃあ、行くぞ。どっちだ?」
「――どこに行くの?」
 私は訊ねた。
「オッサン達のところだ」
 すぐにどこかに行こうとしたベルゼブモンを、
「待って……」
 と、アンティラモンが言い引き止める。
「どうした?」
「レオモンの居場所はだいたい解ったけれど、それはもっと遠い場所。近いのは……あの塔」
 彼方に見える塔をアンティラモンは指差した。彼方に黒い森が見え、その向こうに建物が小さく見える。塔、みたい。
「あれがどうかしたか?」
 ベルゼブモンが訊ねる。
 キュウビモンが耳を澄まし、とたんに唸り声を上げた。
「どうしたの? キュウビモン? ――あ、招待状……」
 私は急いで、あの招待状を取り出した。さっき、巨大な恐竜に追いかけられたりした時に、とっさにバッグにねじ込むように入れたことを思い出したから。
 招待状から伸びる光は、塔を指している。
「あの塔を指しているわ」
 ベルゼブモンが
「おい、それ、貸せ」
 と手を出したので、渡した。
 ベルゼブモンは軽く右手を、広げたままのそのカードの上に置いた。
「――!」
 そのとたんに、カードから光が溢れた。
 ――何が起きたの!?
 けれどすぐに、光は小さくなっていき、元のように、ただ塔を指し示すだけの光になった。
「……アイツは小細工が多いな。推理マニアかって、なぁ……」
 ベルゼブモンが呟く。その声に寂しさと怒りが混じっている。
「行くぞ」
 ベルゼブモンが飛ぶ。
 私達もそれに続いた。
 空を走るキュウビモンの背から、
「『アイツ』って?」
 と、ベルゼブモンに訊ねた。
「オレの後輩だ」
 と返事が返ってくる。
「後輩……?」
「『バッカスの杯』を完成させたらしい」
「え……!」
 私は驚き、キュウビモンが低く唸る。
「メタルマメモンだ」
 そうベルゼブモンが言ったとたん、キュウビモンが小さく鳴いた。相当、驚いている。知っているデジモンみたい。
「『バッカスの杯』なんてヤバイ物に関わり、アイツは『バッカスの杯』の元々の開発者と犯人達を抹殺するつもりだ。そして死ぬ気だ」
 キュウビモンはそれを聞いてさらに驚いたけれど、私ももちろん驚いた。どうしてそこまで自分を犠牲にしようとしているの……!?
「ロゼモンが追っかけていった。――不幸なことが起きる前に、必ず止める」
「もしかしてロゼモンさんの……?」
 ――ロゼモンさんには恋人がいたんだ……!
 キュウビモンが小さく頷いた。
「そんな……そんなことになったら……」
 ――もしも目の前で好きな人が死んだら……。例えば、私の目の前でキュウビモンが死んだら……。そんなのいやっ! そんなことになったら、悲しくて悲しくて……生きていられないぐらい悲しい……。
 考えただけで、泣きそうになる。
「そんな悲しいこと、起きて欲しくないわっ」
 キュウビモンも頷く。そして、アンティラモンへ顔を向けて小さい声で鳴く。
「――ああ、そうだ。我とベルゼブモンはDNSS『関東支部』総代表のウォーグレイモンから特別行動の権限を与えられている」
 アンティラモンはそう言い、
「やり過ぎないように派手にやれってことだ」
 とベルゼブモンは付け加える。
 ――は?
「な…何て今言ったの……?」
 慌てた私は、アンティラモンに助けを求める。
「ベルゼブモン……そう言う言い方は誤解を招く恐れも……」
 アンティラモンが急いでそう言う。
 私が
「私、勘違いしているみたいで……あの、それって……病院とかってこと、じゃなくて?」
 と訊ねると、
「はぁ?」
「病院?」
 ベルゼブモンもアンティラモンも、首を傾げる。
「ええと……、ウイルスのことで来たんですよね? 病院の関係とかじゃ?」
「ああ、それで……。我達はDNSSという組織で……」
 ――組織? あ……、
「それってもしかして、マスターが昔、仕事をしていたっていう?」
「そう」
「そこで働いているんですか? じゃあ私よりとても年上なんじゃ……」
 ちょっと慌てると、ベルゼブモンが事も無げに、
「オレ達はバイト」
 と言った。
「え? バイトなの?」
「そうだ。生活費と学費のために働いている」
「学費って、じゃあ……」
「キュウビモンと同期だ」
「我もそう」
 と、どちらも頷く。
 ――同期? 同じぐらいの、って考えてもいいのね?
 ちょっと親近感。でも、
「バイト――ええと、戦うことがバイトなんですか?」
 その部分だけ、ちょっと引っかかる。
「まあ、そういうことだ」
「はぁ……」
「なんだ、その顔は?」
「え? だって、何だかとても物騒な……」
「…………」
 私の言葉にベルゼブモンはふと、黙り込む。
「――まあ、当然の反応だな、それ」
 ちょっと黙った後に、何か考えながらそう呟く。
「ごめんなさい……」
 気にしたのかと謝ると、
「いや、いい。留姫は高校生なんだよな?」
「ええ、高一だけれど……」
「そっか……」
「?」
「あ――いや、何でもねぇから」
 ベルゼブモンはそれ以上、そのことを話したくないみたい。
 アンティラモンは、
「人間側でいう警察などと同じようなもので、規律で行動が制限されているから無謀な行動はしない。戦闘においても研修を重ねている。一般の人間やデジモンの安全を優先させるから――と、説明しても信じてもらえそうもない?」
 途中まで説明をしてから、私に問いかける。
「だって……だって、今は『特別』なんでしょう? 機動隊みたいな? もしくは自衛隊みたいな?」
 恐る恐る言うと、
「だったら、逃げ帰るのか?」
「え……」
「そうじゃねぇだろ?」
 と、ベルゼブモンが挑発するようにニヤリと笑う。
「それは……もちろん、そうだけれど……」
 ――だって、ここまで来ちゃったんだもの……。
 ベルゼブモンは、
「そういうわけで、事件解決と人質の救出などを急いでいる」
「他にもその仲間のデジモン達は来ているの?」
「今のところオレ達だけだ」
「ええ!!」
「安心しろ。応援部隊はよこすだろう。ただ、万が一の事態に備えてあっちでは対応に追われている。頭数が必要でな……」
 キュウビモンは心配そうな顔をする。
「――っていうか、そういう顔をするんだったらオマエもうちで働くか?」
 予想もしないことを言われて、キュウビモンはふるふるっと首を横に振った。
「絶賛大募集中だぞ。なかなか数を確保出来ねぇから、バイト料良いから。ちょっとでも気があると知られたら、うちの幹部連中が募集要項持って家に『ご挨拶』に来るぐらいだ」
 ――よほどのことなのかもしれないけれど、キュウビモンがそういう危険なバイトするのって……!
 そんなことが心配になる。
「まあ、考えておけよ? ――とにかく、オッサンが捕まるようなことは避けなくちゃならねぇ」
「え? どうしてそれが重要なの? だってマスターは強いんだもの。犯人達なんかに捕まることないわよ!」
「オッサンがサーベルレオモンに進化した時が、敵の狙いだ」
「サーベルレオモン? マスターも進化するの? どんな姿かしら?」
「バカデカイぞ。――その姿の時に、『バッカスの杯』の犯人の基礎データとコアを取り出せる」
「――取り出す、ですって……!?」
 息を飲んだ。
「じゃあ、マスターは……! だから、犯人達がマスターが死ぬのを望んでいるって……」
 ベルゼブモンが恐ろしい顔をした。
「誰がそれ言った!」
「マスターよ!」
「オッサン!? ……覚悟してやがるのか! 諦めが早ぇってんだよっ!」
 吐き捨てるようにそう言う。
「マスターが死ぬなんて、そんなこと、絶対させないわ!」
 私も言う。
 急がなくちゃと思っても谷は深く、切り立った崖のその場所を越えるのは時間がかかる。グランドキャニオンぐらいはあるのかもしれないし、それより大きいかもしれない。
「だだっ広い場所だな――」
 ベルゼブモンは何度も唸る。
 けれどやがて、
「止まって!」
 と、不意にアンティラモンが前方を見据え言い放つ。飛ぶのを止め、空に浮かんだまま身構える。
「来る」
 ――何が?
 とたんに、崖向こうの黒い森の上空に何かが浮かび上がった。巨大な……本当に大きいその姿は……!
「龍……!?」
 私は驚いて、キュウビモンの背から身を乗り出すようにそちらを眺めた。
「ねえ、見て! キュウビモン! 龍がいるわ……!」
 キュウビモンが低い唸り声を上げる。
「あれもデジモンなの?」
 ベルゼブモンも、
「何だ?」
 と、じっと様子を窺い、けれどすぐに
「シードラモン!?」
 と声を上げた。
「水の中で生きるデジモンが、なぜ空で自由に動ける!? それにデジモンと人間を背に乗せて……」
 アンティラモンが言いかけ、声を鋭くした。
「あれは――リリモンッ!!」
 言うのとほぼ同時に、アンティラモンの姿が消えた。
「――バカヤロウッ!」
 ベルゼブモンもカッとそちらを睨みつけ、姿を消した。
「何!? キュウビモン、私もあっちへ行ってもいい? 人間がいるって……樹莉かアリスかもしれないわ!」
 キュウビモンも、そちらに向かう。空を全力で走る。
 近付くにつれ、そのシードラモンというデジモンが水に包まれていることを知った。アンティラモンさんが言っていたけれど、本来は水の中で生きているデジモンみたい。水を周囲に漂わせながら空に浮いているなんて、不思議な姿をしている。体全体は青いけれど、頭の部分だけ金色の金属のようなもので覆っている。殻か、甲羅のようなものみたい。
 森は、黒い色を帯びる霧のようなもので覆われていた。黒い森から黒い巨鳥が次々に飛び立ち、シードラモンに襲いかかる。
 けれどそれをシードラモンは、口から放つ氷の矢で次々に倒していく。
 シードラモンの傍に、一緒に戦うデジモンもいる。まるで花の妖精のような姿をしている。人間の女の子に近い姿で、身長も私と同じぐらい。たぶん、歳も近いと思う。シードラモンより好戦的みたいで、
「撃ち落されたいなら、かかってらっしゃい!」
 と、両手で構える武器から放つ光弾で、黒い巨鳥を迎え撃つ。
 シードラモンの背には、氷の盾に守られながらも中学生ぐらいの男の子が振り落とされないよう必死にしがみ付いている。
「あの男の子、危ないわっ!」
 アリスや樹莉じゃなかったけれど、人間なのにこんな場所に来てしまっていること、戦うデジモンの背にいることに驚いて、私は心配した。助けてあげたくても近づけない。
 キュウビモンの体が大きく揺れた。
 ――きゃあっ!
 背にしがみ付く。キュウビモンはその九本の尾から青白い火の玉を放つ。シードラモンを攻撃する黒い巨鳥に当たる。黒い巨鳥のデータが砕けて散っていく。
 別の黒い巨鳥がすぐ傍に迫る。それをキュウビモンは身軽に避ける。その背から振り落とされないように、火の玉に当たらないようにと、彼の背中にしがみ付くことしか出来ない。
 不意に、私達の真横にもその巨鳥が飛び上がる。
「右っ!」
 私は悲鳴を上げる。
 キュウビモンが身を捻り、そのデジモンに襲いかかる。
 ――怖いっ!
 キュウビモンが巨鳥の翼の付け根に噛み付く。その巨鳥の顔が私の目の前に……!
 気を失いそうになりながらも、元が丈夫なのでそうならない。
 ――怖――いっ!
 せめて、キュウビモンが戦う手助けになるようにと、現れる敵の存在を次々に教えた。
 ベルゼブモンとアンティラモンも黒い巨鳥に立ち向かう。ベルゼブモンは先ほど使っていたブラスターを消し、代わりにブーツに装備していた2丁のショットガンを両手に構え、連射する。攻撃を避けながらもベルゼブモンは確実な攻撃を続けていく。次々に黒い巨鳥が羽根をまき散らす。
 アンティラモンにも黒い巨鳥は迫る。アンティラモンの両手は斧のように変化し、それで敵を粉砕していく。
 激しい戦いが続いたけれどベルゼブモン達が圧倒的に強いおかげで、攻撃してくる黒い巨鳥はすぐに数を減らし、やがて全て倒した。
 デジモンが死んでいく様子を見て胸が締め付けられた。でも、途中から気付いた。
「光になった後、卵の形になっていったけれど……ああなってしまうのは、またそこから生まれてくるってことなの?」
 キュウビモンは無言で頷く。
 ――それでも……悲しいわね。敵でも……悲しい……。痛いと思う。苦しいと思う。敵でも、やっぱり痛みがあると思うもの……。
 ベルゼブモンがシードラモンに向かって怒鳴る。
「セーバードラモンを一撃で倒すほどのヤツが、マコに何の用だ! ソイツをこっちによこせ!」
 シードラモンは、
「マコトくんのことを知っているんですか……」
 と、戸惑う声で訊ねる。
「違うんだ、ベルゼブモン! シードラモンは僕達を助けてくれたんだ。お姉ちゃんのところへ案内してくれるって――」
 その背にいた男の子がベルゼブモンに言った。ベルゼブモンの知り合いみたい。
「信じられるかっ!」
 ベルゼブモンは怒声を放つ。怒りで燃えるよう……。
 アンティラモンが、
「ベルゼブモン。待って……」
 と止める。けれど、やっぱり警戒しているみたいでシードラモンに問いかける。
「どうして彼らを助けた? 敵なのでは? 訳があるのなら聞こう」
 そう言われて、
「『関東支部』の……『魔王』、『戦斧』……」
 呟いたシードラモンの声は強張り、何かを振り払うように頭を左右に振った。
「貴方達はメタルマメモンを……『データ抹消』するんですか……?」
 アンティラモンが目を細める。
「そうするつもりはない」
 アンティラモンはそう言ったけれど、
「そうでなくても、そうなってしまうかもしれないんですよね?」
 と、シードラモンは言う。
「そんなことはない」
「それは信じていいことですか?」
 二人のやりとりにイライラしながら、
「――だったら、どうする? 俺達がアイツを殺すとしたら?」
 とベルゼブモンが言い放つ。その剣幕に怯えながらもシードラモンは真っ直ぐにベルゼブモンを見つめる。
「俺は貴方達と戦います……」
 そう、シードラモンは言った。

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