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カフェ『皐月堂』へようこそ(レナルキ他)
策略 Side:GANIMON
(※今回はあのガニモンの話です。)


 桜が咲いている。
 ――綺麗だなぁ……。
 春の陽気の中、俺は一人歩いた。周囲には俺のように少し緊張しているヤツもいれば、友達と雑談しているヤツもいる。
 ――いい天気だなぁ……。
 快晴の空はどこまでも青い。
 俺は大学の門をくぐる。
 ――入学式は渋谷公会堂だったから実感湧かなかった……。けれどこうして大学の敷地内に入ると、俺もやっと大学生になったんだなぁって、ようやく実感が湧いてくるなぁ……。
 大学の校舎を見上げる。特にまだ友達もいないから、仲がいいヤツが出来るといいなぁ、とも思う。
 そんなことを考えていたら、
「ちょっと」
 と、後ろから声をかけられた。
 振り向くと、この大学の学生らしいヤツが俺を見上げている。高校生ぐらいの背丈だけれど、大学生らしい。人間の姿をしているけれど、もちろん俺と同じようにデジモンだ。
「そこ、邪魔なんだけれど」
「え?」
「邪魔だって」
 ――そうか俺、通路塞いでいたんだ。
 慌てて道を開けると、不安に思いながらそのデジモンの様子を窺う。だって、どうやらその態度の大きさから言って、上級生らしい。
 ――どうしよう……。
「何してるんだよ?」
 さらに言われて、慌てる。
「え? えっ? あの……」
「一年だろ?」
「あ……はいっ」
「ホールに移動しないの?」
「え?」
「僕も一年だから」
 俺はまじまじとそのデジモンを見た。俺よりずっと身長が低い、けれどずっと堂々としている。同じ一年生だとは思えなかった。
 気が付くと周囲から女の子達のキャアキャア言う声が聞こえる。このデジモンは、どこからどう見ても、芸能活動しているアイドルにしか見えないぐらい、顔もスタイルも服のセンスもいい。騒ぐのも無理ないかもしれない。
 ――羨ましいなぁ……。
 そう思った。俺、女の子から全然モテないから。俺みたいなダサいヤツに声かけてくれる女の子なんかいるわけがない。身長高くても、太っていなくても、なんかパッとしない感じだし……。
 けれど、
(――あれ?)
 と思った。
 すごく優しそうな顔しているのに、……あれ?
「あ、あの……」
「何?」
 俺は言おうかどうしようか迷いながら、身を屈めた。
「……あの子達はそんなに悪気があってのことじゃないと思うよ?」
 だって、すごく優しそうな顔しているけれど本当は不愉快そうに……思えたから。……なんとなくそう感じたから……。
 だから俺はそう言ったんだけれど。
「え……!」
 一瞬、驚いた顔をした。そして、
「……」
 不思議なものを見上げるような顔をして俺を見上げる。けれど、なんだかとっても怒っているみたいに感じる。
「あの、怒ったんだったら謝るけれど……」
 俺はそう言って、怒鳴られると思って身構える。けれど、
「……別に」
 と、そのデジモンは呟いた。そして、俺に話しかけてきた。
「あのさ、名前、何て言うの?」
「え? 名前?」
「ああ。名前」
「えっと……ガニモン」
「そう……よろしく、ガニモン」
「へ?」
 今度こそ、俺に向けてあからさまに不愉快そうな顔をした。
「……あのさ、何で『へ?』なの? 普通、こういう時って僕の名前を聞き返すもんだろ?」
「あ、ああ、えっと……すみません……」
 呆れた顔をしている。きっと『要領が悪いヤツ!』と思っているんだろう。
「あーもーいいや。メタルマメモン、だから」
「え? ああ、はい……」
 ――メタルマメモン、か……。そっか、完全体のデジモンなのか。すごいなぁ……。俺、まだ成長期だしなぁ。そろそろ成熟期に進化出来るようになるといいんだけれどなぁ……。
「ほら、さっさとしろって」
「は、はい……」
 慌てて、俺はメタルマメモンの後ろについて行った。


   ◇


 ――あの時に初めて、メタルマメモンと会ったんだっけ……。
 俺は自分の部屋で、ぼんやりとそう考えていた。
 同じ学部学科だったこともあって、なんとなくメタルマメモンとは友達になった。メタルマメモンはあまり友達を作りたがらないから、俺ぐらいしか仲がいいデジモンはいなかった。だから俺は『親友なんだ!』と思うようになったけれど、
 ――もう、親友じゃなくなっちゃったなぁ……。
 ほんの三時間ほど前に俺は、メタルマメモンに「絶交だ!」と言ってしまった。
「……だって……ひどいよぉ……」
 そう呟くと俺は鼻をかんだ。ゴミ箱がある辺りに、その後のゴミを投げる。入りきらないゴミですでにそれは溢れていて、その山の上をころころっとティッシュのゴミが転がっていく。
 それを見ていると、また涙がぼろぼろっと出た。
 ――ずっと親友だと思っていたのになぁ。
 ショックだった。
 ――ロゼモン様が自分の誕生日にわざわざメタルマメモンに会いに来るなんて、絶対、本命ってことだよなぁ……。
 俺は何十回目かの溜息をついた。
「いいなぁ、いいなぁっ! 今ごろデートとかしているのかなっ! 知り合いっぽかったし、誕生日だって知っていて、もしかしたらメタルマメモンは今日、ロゼモン様に会いに行くつもりで。けれどもロゼモン様がわざわざこっちに来ちゃって、『内緒で来ちゃったぁ!』とか『なんだよ、もう!』とか、そんなラヴラヴなのかな――――っっっ!」
 ヤケクソになって部屋でぶつぶつ言っているうちに、最後の方は声が大きくなってしまっていた。
 ――むなしい……。
 俺はまた、大きな溜息をついた。
 ずっとメタルマメモンが羨ましかった。顔もいいし、頭もいいし、話すの上手いし、いつも話題豊富で女の子にキャアキャア言われて、ずっと羨ましいと思っていた。メタルマメモンはアイドルみたいに思われるのってすごく嫌そうだったけれど、俺からしてみればどうしてそう思うのか不思議だった。
 俺が本当はロゼモン様に憧れているってことを話したら鼻で笑われてしまいそうな気がして、ずっと内緒にしていた。けれどメタルマメモンは関東にある兄弟校に移るから……俺、どうしても学祭の招待状が欲しくて……話したのに……。
「いつから付き合っていたのかな……?」
 ふと、それに気付く。
「……いつから? ……あ、……あああっ!!」
 とたんに、青ざめた。
 ――俺、もしかしてすごくひどいこと言っちゃっていたのかも! ずっと前から付き合っていたのなら、俺みたいなのがロゼモン様に憧れているなんて知ったら、絶対、ムカツクんじゃないか?
 俺はがっくりと肩を落とした。
 絶交言い渡されて当然なのは俺の方かもしれない……。俺と話をするのさえ嫌になるんじゃないか……? そうだよなぁ……だって俺、こんなダサイヤツだし……。
 俺はその場であぐらをかいた。また、溜息をついた。
 ――俺、いつだって、メタルマメモンのこと羨ましいって思ってばっかりで……それだけだったなぁ……。
 俺が友達らしいことした時って、――思い出そうとしても思い出せなかった。
 ――ええと、学食に一緒に行ったり、かな……。メタルマメモンが休んだ分のノート貸した時も『字が汚くて読めないっ!』って怒られたっけ。あの後、字だけは綺麗になろうってペン字とか習ったっけ……。
 自分の部屋を、ぐるっと眺める。
 ゴミも片付けない、何がどこにあるのかも解らない、汚い部屋だ。足の踏み場はすでに無くて、雑誌やら何やらを踏みながら生活している状態だった。
「……」
 掃除するの面倒臭いし、と思っていた。
 ――女の子が見たら、悲鳴上げそうな部屋だよなぁ……。メタルマメモンは、いつも部屋、綺麗にしているよなぁ……。服だって、髪型だって、……やっぱ、普段からカッコいいから、ロゼモン様だって会いに来ちゃうんだろうなぁ……。
 そう考えると、努力もしない自分が卑怯者に思えてきた。文句を言うだけ言って、何もしないヤツって、卑怯だと思う。
「自分が悪いんじゃないか……」
 俺は立ち上がった。
 ペン字を習った時は、努力の成果が出て綺麗な字が書けるようになった。友達に迷惑かけたくないし、役に立ちたいって必死だったからなぁ……。次の時にノート貸したら、メタルマメモン、驚いていたっけ……。
 放り出していたバッグから財布を探した。けれど見つからない。必死に探して、ようやく見つかったそれを手に、俺は雑誌の上を歩きながら玄関に向かった。
 コンビニへ。ゴミ袋などを買いに行くために。



 ――俺、どうしちゃったんだ?
 黙々と掃除を続けていた。金曜日の夕方から始めて、月曜日の朝になった。
 可燃ゴミのゴミ袋を回収場所に出して、自分の部屋に戻ってきてあらためて、その部屋を眺めた。
 ――何も無い部屋になったぁ……。
 必要なものなどほとんど無かった。本当にゴミの中で生活していたらしい。
 ――生ゴミだけはこまめに出していたから良かったのかもしれないなぁ。そうじゃなかったら虫が出たり、ヤバイことになっていたよなぁ……。
 自分の着ている服を眺めた。
 ――大学の帰りに服を買って来ようかな。ついでに髪も切ろうっと。
 そう思って、けれどすぐに考え直した。
 ――朝、行って来ようかな。どうせ大学は午後から行く予定だったから……。



 髪を切って、服を変えた。そうすると、だんだん自分が恥ずかしくなってきた。よく今まで、あんな色あせた服を着ていたなぁって思う。
 ――どうして今までこんな簡単なことがきちんと出来なかったんだろう。自分ってほんと、デジモンのクズだなぁ……。大学に行きたくないなぁ……。
 暗い気持ちで大学に行くと、タイミングが良いことに休講だった。とたんに明るい気持ちになって部屋に戻ると、そのまま掃除の続きをした。
 ――コンビニ弁当ばっかり買っているから、ゴミが余計に出るのかもしれないなぁ……。
 そう思えてきたので、自炊を始めることにした。けれど何をどう作っていいのか解らなくて、まずは料理の本を買いに行った。一人暮らし用の簡単な料理の本を買って、それを見ながらスーパーで食材買ってきて作ってみた。意外にも食べられるものが作れた。美味いかも。
 ――メタルマメモンは偉いよなぁ。自分で自炊して……。
 焼き豚いりのチャーハンを食べながら、何度もそう思った。
 ――今までメタルマメモンは、こんな俺とも友達でいてくれたんだよなぁ……。明日、謝ろう。俺の方が悪かったって、言おう。また友達になってくれるといいなぁ……。



 翌日。
 大学に行ったけれど、メタルマメモンに会えなかった。がっかりしていると、同期のヤツから声をかけられた。
「うっそだろ! オマエ…………………………………………ガニモン!?」
 名前を呼ばれるまでにずいぶんかかったので、俺は首を傾げた。
 ――そんなに俺、変わった?
「なんだよ、髪の色も変えたのか?」
「うん、変えたけれど……」
 床屋だって年に一回ぐらいしか行かなかった。思い切ってヘアサロンってとこに行ったら、面白がられてすすめられるままに髪の色も長さも驚くほど変えられた。ヘアサロンの人達も『ビフォー、アフターだっ!』って騒いでいたもんなぁ……。
 ついでにかけていた眼鏡も変えた。だって、髪型に全然合わなくなっちゃったから……ちょっと財布に痛かったけれど、バイト代貯めていたからそれが役立った。
 その日は一日、なんとなく皆が声をかけてくれた。特に、女の子から声をかけられたのは初めてだった。
「うそぉ、ガニモンくんって、チョー話しやす〜いっ!」
「ほんとほんとぉ!」
「驚いたぁ〜!」
 俺はとりあえず、にこにことしていた。けれど心の中では、首を傾げっぱなしだった。
 ――話? 会話になっていないんだけれど……? さっきから一方的に話しかけられて、質問されて……そればっかり……。
 最初は楽しいなぁって思っていたけれど、だんだん、ちょっと嫌な気分になってきた。
「そうかな? 俺、話しやすいかな……?」
 女の子達はとても楽しそうに笑う。
「メタマメくんより、話しやすい!」
「だってメタマメくんって、いつも忙しいからすぐにいなくなるんだもの」
「そうそう! 付き合い悪いよねぇ〜」
 俺は、カッチン、と頭にきた。
 ――それ、違うんじゃない? 自分の都合に合わなかったら『付き合い悪い』ってなるの? それ、ひどくない?
 そう思ったけれど……それを言うのはためらわれた。
「ごめん、俺もちょっと……そろそろ用事あるから……本当にごめん……」
 俺が言うと、女の子達はとびきりの笑顔で微笑む。
「ううん、いいの、いいのっ!」
「また、明日ね!」
「またね、ガニモンくん!」
 俺はそそっと、その場を後にした。
 ――なんだかなぁ……なんだかなぁ……。
 メタルマメモンの気持ちが、少し、解った気がした。そのまま帰宅しようとして、ふと、足を止めた。
 ――メタルマメモンがどうして今日休みなのか、さっきの女の子達に聞けば良かったかも……。
 引き返すと、ちょうどあの子達が歩いているのが見えた。追いかけながら声をかけようとして、……俺は立ち止まった。


「メタマメくん、GMNグループの御曹司だったんだって。凄いわぁ!」
「だから、うちらなんか相手にしてくれなかったのかもねぇ!」
「いっつも見下していたっていうかぁ! やな感じだったし〜」


 ――見下していた? そんなこと、一度も無かったよ? メタルマメモンは『うっとおしい』って思っていたり、興味が無さそうだった。けれど、誰かをそういう風に見下したりなんかしていなかった……。


「でもでもぉ、玉の輿じゃない、ねぇ?」
「ロゼモンいるし、うちらじゃ無理なんじゃない?」
 そのうちの一人が突然、
「私、ガニモンくんでもいいなぁ」
 と言った。
「えーマジ?」
「良くない? 良さそうじゃない?」
「そっかぁ……そうねぇ。ガニモンくんと付き合って、そのうちメタマメくんと仲良くなっちゃったり……するかもしれないじゃない?」


 女の子達に声をかけるのは止めた。特に走ったりもしないで、普通に歩いてその場を離れた。
 歩きながら思った。色々なことを思って、そして考えた。
 メタルマメモンが感情を表に出さないのは、きっとたくさん嫌なことがあったからなんだと……思い知った。
 あの女の子達のことは、とても腹が立った。メタルマメモンのこと、あんな風に言うなんて、とても腹が立って仕方なかった。
 ――また明日、あの子達と顔を合わせても……今日と同じように笑いかけることが出来るのかな……。
 校舎の外に出た俺は、緑の葉の生い茂る桜の木を見上げた。
 ――ロゼモン様じゃなくちゃだめなんだ、きっと……。
 ロゼモン様だったら、あんな裏表、絶対無い。いつも優しくて、きっと悪い感情なんか絶対無いと思う。メタルマメモンがロゼモン様のこと好きになったのは、きっとそういうことなんだ……。
 大学敷地内から出るまでの間、たくさんのデジモン達がメタルマメモンの嫌な噂話をしているのを何度も見かけた。それもショックだった。もう誰も信じられなくなってしまいそうだ。とても嫌な気分……。
 ――メタルマメモンも……こんな風に思っていたのかな……。
 悲しい。
 寂しい。
 誰も信じられないって、すごく寂しい……。



 メタルマメモンに会えないまま、日が過ぎていった。
 そろそろ、一週間が経とうとしていた。もうすぐ夏休みになってしまう。
 このままだと本当にメタルマメモンに会えないまま、俺達は友達に戻れないのかもしれない。
 ――やっぱり、ちゃんと会って謝らなくちゃ……。
 そう何度も思ったけれど、電話をかける勇気が無かった。
 ――本当にこれでいいの? 俺、本当にこのままでいいの?
 夏の日差しは強い。木陰や建物の影などを選びながら、歩いた。
 いつものように大学の帰りに、公園を横切る。池の横を通り、もう少し行けば家に着く。
 その時、俺の携帯電話が鳴った。
「?」
 新しく買ったバッグから携帯電話を取り出した。必要なものだけを入れることにしたら、バッグの中から物がすぐに取り出せるようになった。
 知らない番号だったけれど、同期のヤツでたまに携帯電話買い換えるヤツもいるからと思って、電話に出た。
「もしもし」
 電話の向こうは無言だった。いたずら電話かと思って通話を切ろうとしたら、
『メタルマメモンが憎いか?』
 と、声が聞こえた。
 ――何を言っているんだ?
「メタルマメモンのことを?」
『そうだ。憎いか?』
「……」
 ――誰かのいたずら?
「そうだとしたら?」
 わざと、そう言ってみた。きっと、メタルマメモンの悪口を言いたくてかけてきたに違いない。わざわざ電話番号を変えて? 名前も名乗らずに? 卑怯なヤツだ……。
 電話の向こう側の声が微かに笑う。嫌な気分になる声だと思った。
『髪型も服装も変わったオマエを、ガニモンだとメタルマメモンは気付かないだろう』
 ――え!?
「そんなことないと思う。メタルマメモンが俺だって、気付かないはずない! だってずっと一緒で……友達だったんだから!」
『試してみればいい』
「試す? 友達を試すだなんて、しちゃいけないことだ……」
 ――何だ? 試すって……?
 突然、
「他人の振りをして近付いてみるといい」
 話し声が携帯電話からでは無く、すぐ真後ろから聞こえた。
 ――え!?
 振り向くとそこに、金髪の男が立っていた。黒尽くめの服を着ている。喪服みたいだと思った。
 気味が悪いと思って身構えるより先に、相手が手をかざした。


 ――雷……!?


 とっさに顔を両腕で庇うように覆った。痛みも痺れも無かったけれど、強烈な電流が全身に流れた。
 ――って、えええっ? どうして痛く無いんだ?
 まだ微かに、自分の手や髪が帯電している。けれどそれもやがて消える。
 金髪の男がにやにやと笑う。
「進化させてやったんだから、ありがたく思うんだな」
「進化?」
「試してみるといい。進化し、強い力を身につけたはずだ」
 言われるままに、俺はデジモンの姿に変わった。
「……! こ…これは……!」
 言われたとおりだった。いつもの見慣れた姿では無かった。ガニモンの姿から進化したわけでもないのに、公園の池に映るその姿は、
「シードラモン……!?」
 それも、空中に浮いている……! 俺の周囲には水のような物質がまとわりついている。
「我々の研究の成果だ。水の中でのみ本領を発揮し、動き回ることの出来るディープセイバーズのデジモンがフィールドを選ばずに戦うことが出来る」
 ――研究の成果?
「我々は一つの目的のために活動する。――いわば、テロリスト」
 ――なんだって――!?
「我々は『バッカスの杯』で、このリアルワールドに住むデジモン達を排除する」
 腰を抜かしそうになった。
 ――テロリスト? そんなものがどうして日本にいるんだ? そういうのって、外国の話なんじゃないのか? それに『バッカスの杯』って言ったら、五年前に大事件になったウイルスじゃないか!
「メタルマメモンはやがて、『バッカスの杯』を完成させるだろう」
「メタルマメモンが!?」
「憎いと思うのならメタルマメモンを殺せ。犯罪者を殺しても、誰も文句を言うどころかオマエに感謝するだろう」
「殺せって……」
 ――メタルマメモンを?
 震えそうになる。
 ――恐ろしいウイルスを作り出すなんて、そんなことをメタルマメモンが本当にするのか……?
 メタルマメモンを『憎い』とまで思ったことは今まで一度も無いけれど、『バッカスの杯』を再び作るというのなら……、
「……」
 俺は人間の姿に戻った。
 ――止めなくちゃ。何が起きているのか……メタルマメモンに何があったのか解らないけれど、そんな恐ろしい事件を起こすなんて、絶対に止めなくちゃいけない……!
「俺は……何をすればいい?」
 金髪の男は満足そうに頷く。
「オマエはメタルマメモンを殺せばいい」
「けれど、メタルマメモンはアンタ達の仲間なんじゃ……」
「ああ。仲間だな。だが、そこまで必要じゃない。『バッカスの杯』さえ出来上がり、砂時計の砂が落ちればもう用は無い」
 ――『砂時計』……? どこかに巨大な砂時計でもあるのか?
 金髪の男を見つめた。
 その時、突然、他のデジモンの気配がした。


「こんなところに呼び出して、何の用です?」


 高速移動で現れたのはメタルマメモンだった……!
 メタルマメモンは俺をチラッと見た。俺が話しかけるより先に、
「こちらは?」
 と、メタルマメモンは金髪の男に訊ねた。
 俺は乾いた笑い声を上げそうになった。
 ――『こちらは?』って? 俺のことが解らないの!?
 別人のように冷めた声のメタルマメモンを見つめた。恐ろしいほど、不気味な気配を感じる。
 ――どうしちゃったんだよ? 何で……?
 そして、気付く。
 ――待てよ、もしかして……! さっきの電流で、俺のデータは他者からの識別部分も変わってしまったのかもしれない。メタルマメモンはサイボーグ型デジモンだから『そういうことは機械に頼る』って、ずっと前に話してくれた……! それしか考えられない。メタルマメモンが俺のことに気付かないはずは絶対に無い……!
 俺は金髪の男へは視線を向けない。メタルマメモンがここに来ることが計算通りのことなら、とても恐ろしいことさえ平気でやってしまうような、そんなデジモンなんだと思うから。
 ――俺を簡単に進化させて、識別データまで簡単に変えて、メタルマメモンのことさえ殺そうとしている……怖いデジモンだ……! 究極体なのか? もっと強いのかもしれない!
 そちらを見ることさえ、恐ろしくて出来なくなった。
 金髪の男は、
「我々の仲間だ」
 と、俺のことを紹介した。
「何か用があれば、コイツに頼むといい。雑用係が一人は必要だろう? 戦うことが好きな者ばかりでは困るだろう?」
 ――戦うことが好きなデジモン達? ……いったい、どれぐらい仲間がいるんだ?
 金髪の男の言葉に、
「そうですね」
 と、メタルマメモンは頷く。そして、
「よろしく。――名前は?」
 と俺に訊ねた。
 俺は――返事の代わりに言った。
「――ご命令を」
 声が震えそうになるのをぐっと堪えた。
 ――気付かないでくれ、頼むからっ!
「……」
 メタルマメモンは不満そうに目を細めたけれど、何も言わなかった。
 ――自分とは正反対のデジモンの振りをしよう。何か理由があるのならそれを聞き出して、メタルマメモンを止めなくちゃ。助けなくちゃ……!
 俺はじっと、友達の様子をうかがった。


-------------
《ちょっと一言》
 ガニモンについては多少なりとも設定を考えていました。どういうタイミングで書こうか迷って、第2部に移ってから書くことになりましたが、すっかり忘れていたキャラのことでしょうから賛否両論になるのは覚悟しています(苦笑)
 戦うのが好きじゃない、優し過ぎて……およそデジモンらしくないのです。

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