[携帯モード] [URL送信]

カフェ『皐月堂』へようこそ(レナルキ他)
『花』ハ想ウ Side:ROZEMON
(※番外編「『外野』の行動 そして『爆弾』」の続きです)


 私はMP3を聞きながら、校舎の廊下を歩いていた。
 アンティラモンに頼み込んでCD-Rに焼いてもらった、メタルマメモンがパーソナリティを務めるFMラジオ番組……!
 外の天気は快晴。とてもさっぱりと晴れた空を廊下の窓越しに見上げる。
 たしか、関西方面は曇り……だったわ。
 天気や気温のことまでインターネットでチェックしたりして、完全にアイドルの追っかけ状態だけれど、でも、メタルマメモンは実際にいる。
 ――鎌倉に行った時、もっと話が出来れば良かったのに……。
 そう思っても仕方が無い。あまりしつこくして嫌われるなんて恐ろしい展開になったら、私、大泣きして立ち直れないもの……。
 廊下を歩いていくうち、アンティラモンを見つけた。私が声をかけるより早く、
「ロゼモン!」
 と呼ばれた。
「何か用?」
 そちらに行き訊ねると、携帯電話で電話をしていたらしく、それを渡された。
(誰?)
 アンティラモンの白い携帯電話を受け取り、私は小声で囁く。そうしつつ携帯電話を耳元に持っていこうとすると、
(メタルマメモン)
 と言われ、慌てて携帯電話を下ろした。
(ど、ど、どうして!?)
(訊きたいことがあるみたい。我を通さず直接話した方がいい)
(えええ――!)
 私はビクビクしながら電話に出た。もしもし、と言おうとしたら、
『アンティラモンさん。俺、ロゼモンさんのケータイ番号が知りたいんですけれどっ!』
 と、怒った声が聞こえた。
(えええー! 怒っているわよ!)
 アンティラモンに目で訴えると、
(そんなはずは……)
 とうろたえている。
『アンティラモンさん! 聞いていますか?』
 ――どうしよう! 私、何かきっと、怒らせるようなことをしちゃったんだわ!
「……こんにちは……」
 ――何で怒っているのかしら? ええと、隠し撮り写真を私が持っていることなんか、昨日の今日でバレちゃうわけないし……。
 必死に考えていると、
『すみませんっ!』
 と言われた。携帯電話の通話は切れた。
 ――これって、……嫌われた!?
「どうしよう! すごく怒っていたわ!」
「怒っている? どうして?」
 アンティラモンに電話を返すと、またかけようとするので止めた。
「少し時間空けて、私から連絡するわ。メタルマメモンの携帯電話の番号とメールアドレス教えてもらってもいい?」
「でも……」
「私、何か怒らせるようなことをしちゃったんだと思う。それなら私から連絡した方がいいでしょう? 貴方に迷惑かけちゃってごめんね」
「そんなことない。我が怒らせてしまったのかもしれないから……」
 私は自分の携帯電話をバッグから取り出し、メタルマメモンの携帯電話の番号とメールアドレスを登録した。



 予定していた講義を終えて、大学からバイト先のヘアサロンへ向かう。行くまでの間、そしてバイトからの帰り道、ずっとどういうメールを送ったらいいかしらと迷った。
 散々迷って、当り障りのない文章をメールしたけれど、すぐに返事は来なかった。忙しいんだと思ったけれど、とても気になっていたので、夜眠る時は携帯電話を枕元に置いて眠った。
 翌日になってもメールは来なかった。余計に怒らせてしまったのかもしれないと落ち込んだ。
 さらに翌日になっても連絡は無かった。やがて数日が過ぎ、さらにずっと日にちも経ってしまったけれど、メタルマメモンから連絡は無かった。急用じゃなかったのかもしれないと思って安心したし、本当は私のこと怒っているわけじゃないのかもとも思えた。きっと忙しいんだと思う……すごく寂しい。
 アンティラモンから教えてもらった情報を頼りに、図書館で時代小説を借りた。小説を真剣に読むのは中学以来だった。
 バイトの帰り、従妹のリリモンが、遠慮がちに私に訊ねた。
「ロゼモン……」
「何?」
「小説読むようになったんだ?」
「ん?」
「ほら……あの事あってから、本、読まなかったじゃない?」
「……やだ、変なこと思い出させないでよ」
 私はちょっと叱るようにリリモンに視線を向けた。
「ごめん! そんなつもりじゃないの、ただ……」
「メタルマメモンがこの作者の小説好きなんですって。だから読んでいるだけよ」
「そうなの?」
「そう。それだけ。私もあんな昔のこと忘れちゃったんだから、もう!」
 リリモンを小突くと、「ごめんね〜」と腕を絡ませてきた。
「甘えないで」
「けち〜」
 リリモンはかわいい。身長も普通ぐらいで、かわいい服もとても似合う。
 新宿駅でリリモンと別れ、私は地下鉄に乗った。
 さっきリリモンと話していて、中学の頃のことを思い出してしまった。



 中三の時――その時はもうすでに身長が高くて、クラスで『電柱』とか『ビル』とか言われて男子からからかわれた。言い返せなくて辛かった。
 それを止めてくれたのが、担任の先生――ザッソーモンだった。
 女の子達の間では「キモイ」とか言われていた先生だったけれど、いじめられていた私を助けてくれたし、面白い小説貸してくれたりして……将来、中学の先生になるのもいいかも!って思っていた。
 ――あの時までは……。
 放課後の教室で先生は――私に刃物を振りかざした。ずっと好きだったと言われた。もしもあの時、私が悲鳴を上げなかったら……見回りの先生が偶然通りかかってくれなかったら……。
 その後、学校を辞めさせられた先生がどうなったのかは、知らない……。
 ――今思い出しても、怖くて、怖くて、怖くて……!
 男の人が怖くなった。特に年上の人に対しては目も合わせられなくなった。今思えば、テレビの中のアイドルしか興味を持てなくなったのはそれがきっかけだった。怖くて外に出られなくなって……家の中でテレビばかり見ていた。
 高校に進学した頃、今までの自分を変えたくてヘアサロンに行った。ほんの二時間後、鏡に映った自分に驚いた。綺麗になるのが楽しくて、そんな楽しさを私に教えてくれた美容師さんに憧れた。
 美容師になるって言ったら、親に猛反対されて家出した。行く宛ても無くて、従妹のリリモンの家に行ってしまった。あの頃は、自宅から一歩出てしまえば家出だと本気で思っていた。無茶な子だった……。



 図書館で借りたその本は、江戸時代が舞台の人情話だった。ドラマ化されていたので、レンタルショップでDVD探してそれも見た。わりと面白かった。
 いつの間にか梅雨になり、家の中にいることも多かったけれど、活字に慣れないせいか本の方はなかなか読み進められなくて。返却日も迫ってきた。
 返却日になって、貸し出し延長の手続きを取った。ちょっとかっこ悪いと思って、聞かれてもいないのに「忙しくて……」とか言ってしまった。
「忙しくても返却日にちゃんと延長手続きに来てくれて助かります。そういえば、今日は珍しいですね? 普段はコンタクトレンズを使われていたんですか?」
 図書館司書のもんざえモンに、眼鏡のことを言われた。
「ええ……使い捨てのを。眼鏡って似合わないから嫌だけれど、コンタクトレンズの買い置きを切らしちゃって……」
「そうですか? 似合いますよ?」
「お世辞はいいわよ。でも嬉しいわ。ありがとう」
 私は笑顔でお礼を言った。
 図書館を出て、一人、歩いた。
 眼鏡は……中学を卒業した時を境に、あまり使わなくなった。
 先生に「かわいい」と言われたことを思い出したくなかったから。当時使っていた眼鏡も、他のものも何もかも、泣きながらゴミ袋に詰めて捨てた。あの時、『自分』さえ、どこかに置き去りにして逃げ出したんだと思う。
 ――珍しく晴れているんだから、外で本を読もうかしら?
 近くのベンチに座り、読み途中の本を読むことにした。今日、バイトは休みだから、時間に余裕はあった。
 ――メタルマメモンはこの本、どれぐらいの速さで読むのかしら?
 そんなことを考えていたら、
「こんにちは」
 と声をかけられた。
 ――え?
 顔を上げたら、そこにメタルマメモンがいたので驚いた。読んでいた本を落としてしまったら、拾ってくれた。
 ――恥ずかしい! やだぁ……なんで今日に限って! コンタクトの買い置き切らすんじゃなかった――!
 本のことを話しかけられて、さらに顔から火が出そうなぐらい恥ずかしかった。
 茶封筒を渡された。アンティラモンからと言われ、中を確認したら「写真部に行って奪い取ってきて!」と頼んでいた、私の隠し撮り写真だった。
 ――まさかこれ、見られてないわよね?
 学祭の時の恥ずかしい写真の数々だった。けれどメタルマメモンは、封筒はノリ付けされていなかったのに、中を覗くこともしなかったみたい。安心した。
「ありがとう……」
 優しいなぁって、思った。けれど、学祭の時の写真だと話したら「見たい」って言われた!
 ――え〜! どうしようっ! 断ったら嫌われる? でもあまり写真って見られたくない……。
 迷ったけれど、恥ずかしくなさそうな写真を選んで渡した。出店の人気投票で優勝したら温泉に行けるから、皆に『出店の宣伝のためだから!』と無理矢理ミスコンにまで引っ張り出されて……あの水着審査の写真なんか、絶対に見られたくない! 本当に恥ずかしかったんだから……。
 メタルマメモンの大学のことを知りたいと思って学祭の話をしたら、いつも用事が重なって参加したことはないと言われた。会話のネタにならなかったので残念に思ったら、うちの大学の学祭を案内することになってしまった。
 ――メタルマメモンはきっと、派手なことする人はあまり好きじゃなさそうだから、昨年のミスコンに出たってことは内緒にしようっと! よし、今年は絶対に、何があってもミスコンになんか出ないわよっ! 学祭が楽しみ〜!
 と、嬉しくてたまらなくなった。
 ふと、彼の手に気付く。左手の平に赤黒い傷があった。心配して訊ねると、すぐに治るからと言われた。
 ――料理の時に? 嘘! 料理作る時にそんなところ切らないでしょ? それに火傷も? まさか、バイトの時に? 本当はとても危険なことがあったんじゃないの……?
 心配になって訊ねようとしたら、不自然に違う話題を振られた。
「そういえば、その本……」
 ――本の話に戻っちゃった!
 慌てていると、今度、そのシリーズの他の本を貸してくれるという。
 ――話のきっかけになっている……!
 彼が好きな小説のシリーズだからと聞いたけれど、こうして話が出来ることが嬉しくて、
「その……貴方がこういうの読むって……だから読んでみようかなって……」
 そう言ってしまったら、殺人事件の真犯人をネタバレされそうになった!
 ――意地悪っ!
 からかわれたけれど、嬉しい……。やっぱり、テレビやコンサート会場でしか会えないアイドルよりいいと思った。
 ――リリモンぐらい可愛かったら、告白する勇気も出るのに……。
 もっと仲良くなれたら、私から告白されても嫌ったりしないかしら?
 それから、メタルマメモンが乗る予定の新幹線の時間まで東京駅構内のカフェで話をした。幸せで……時間よ止まれ!って心の中で何度も思った。
 帰宅してから、恥ずかしい写真やネガの数々をハサミで切り刻んで処分していると、
「これは……」
 ふと、手を止めた。
 何枚か、他のデジモンの写真も紛れていた。その中にベルゼブモンの写真が入っていた。まあ、私が少し写っているから私の写真とも言えるけれど。
 ――アイツに訊いても、どうせいらないって言うだろうけれど……。
 処分するなら自分でやってもらおうと、机の引出しを開けて手頃な封筒を探した。



 翌日。散歩ついでにとベルゼブモンの家に行ってみた。同じ沿線で二つ隣の駅、他のデジモン達と一度押しかけたことがあったので場所は知っていた。大学で渡そうかと思ったけれど、
 ――ついでにメタルマメモンのこと、情報収集しちゃおうかしら?
 なんてことも考えたので。
 マンションの近くで携帯電話に電話をしたら、出なかった。
 ――休日だから出かけているかも。写真は玄関のドアに備え付けてある新聞受けに入れておこうかしら。後で電話しようっと。
 私はベルゼブモンが住んでいる部屋の階に上がった。
 ベルゼブモンの家の前に、かわいい女の子が立っていた。肩につくぐらいの髪を左右に分け、耳の下辺りで結っている。結んでいるミントグリーンのリボンが似合っている。
 ――?
 私は首を傾げた。近所に住んでいる子かしら? でも……どうしてベルゼブモンの家の前に?
 その子と目が合った。
 けれど、
 ――え!?
 私を見て、その子は泣きそうな顔になった。
「……っ!」
 その子が足早に私の横を通り過ぎようとする。
 ――この子、もしかして――!
 女の勘、ってこういうものだと思いながら、
「もしかして、ベルゼブモンの彼女!? お弁当差し入れしている子?」
 咄嗟に言った言葉に、その子は立ち止まる。
 ――うわ――っ! アイツってば、こんなにかわいい子と!? 必死に隠す理由が解ったわ。これじゃあ、隠し通したくなる気持ちも解るわ。皆にからかわれるもの!
 その子は恐る恐る、私を見上げる。
 ――わぁ……子リスみたい! すっごくかわいー!
 一番警戒させない自己紹介はと考え、思い切って、
「初めまして。私、ロゼモンっていうの。よろしく。ベルゼブモンと大学が同期で……」
 この先は少し勇気が必要だった。
「彼の後輩とお付き合いしているの」
 ――言っちゃった〜。本当は、メタルマメモンとはそこまでの関係じゃないけれど……。
 でも予想通り。
 子リスみたいなその子は、ホッとした顔をした。
「初めまして……」
 『アイ』と名乗ったその子は、慌ててこちらに頭を下げた。
 ――どう見ても高校生には見えないんだけれど。中学生よね? ずいぶんしっかりした子みたいだけれど、世話女房タイプ? ふむふむ……。
 そんなことを思いながら、ふと、名案が浮かんだ。
「これ、アイツに渡そうかなって思ったんだけれど。アイちゃんにあげるわ」
「私に?」
「ええ。はい、どうぞ」
 アイちゃんは私が手渡した白い洋封筒を見つめる。
「中を見てもいいですか?」
「ええ、もちろん。もう貴女のものだから」
「私のものって、でも……ええっ!!」
 ノリで封をしていなかったその封筒を開けて、写真を取り出したアイちゃんはとても驚いたみたい。一気に耳まで真っ赤になった。
「昨年の学祭の時よ。中華風喫茶やったの。ベルゼブモン、すっごく嫌がっていたけれどかなり似合っていると思わない?
 今年の学祭、こっそり来ちゃったら? またこういうことするとしたら、アイツ、絶対に招待状くれないと思うから」
「招待状が必要なんですか?」
「ええ。うちの学校って特殊だから。もしもアイツがとぼけたら、私に連絡ちょうだい。招待状あげるから」
 バイト先で使っている名刺を渡して「じゃあね」と、手を振る。
 ――いいことをした後は気持ちがいい!
 と、思った。
「ありがとうございます!」
「いいのよ。アイツ、アイちゃんのお弁当ある時は大学さぼらなくなったもの。共同発表の時とか助かっているのよ」
 とたんに、アイちゃんが「ええ!?」という顔をした。
「さぼるって?」
「ん〜と。大学ってちゃんと出欠取らないこともあるのよ」
「そんな……! でも、さぼることは悪いことでしょう?」
 ――あら。言っちゃいけないこと言ったかも……。
「そうね。アイツが大学さぼらない方が周りも助かるかも。――私が話したこと、内緒ね?」
 そう、付け加えた。


《ちょっと一言》
 この話はとりあえず、今後の伏線のため…ということで書きました。学祭話もいつか書いてみたいです。

[*前へ][次へ#]

25/36ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!