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カフェ『皐月堂』へようこそ(レナルキ他)
天邪鬼の恋月夜 Side:RENAMON
(※本編3〜5あたりの少々大人向け内容です。
 大人向けなレナルキが苦手な方は読まないでも大丈夫です。本編の展開が解らなくなることはないと思います。裏ページに持っていくほどの内容ではありませんが、苦手な方はダメだと思うので・・・謝)



「――あの子、知り合い?」
 言われて気付いた。――留姫がいることに。
 夏休みだから、昼過ぎのファーストフードショップの店内は混んでいる。その店内のずっと離れた場所に留姫は座っていた。ちょっと驚いた。
「同じバイトをしているけれど」
「同じバイトって? どれのこと?」
 論文資料の相談にのってくれたそのデジモンは、留姫に興味津々の様子だ。今は人間の姿でスタイルの良い女性に見えるが、私と同じデジモン……。
「この近くのカフェ」
 彼女に伝えると、
「ああ……」
 と、意味深な顔をされた。
「エアコン壊れたってドーベルモンに頼んで始めた、アレ、かぁ……。あのカフェ、デザート美味しいし、カフェ飯はボリュームあるし、最高よね! ウェイトレスの制服かわいいしね……ああいうの着てみたいのよね〜。私だとキャバクラっぽくなっちゃうから無理だけれど。あの子だったら似合うでしょうね、きっと〜」
 そんなことを言いながら、オニオンリングを食べている。
「――で、どんな感じ?」
「どんな感じって?」
「仲いいの?」
「――仲…って、まだ会って三、四日ぐらいしか……」
「そう? ふ〜ん……あ、これ、食べる?」
 オニオンリングを差し出された。
「いいの?」
「うん、余っているから。ところで――あの子、何歳?」
「確か……高一」
「若ぁ〜いっ!」
「バイトするのも初めてみたいだから、慣れるまでが大変みたいだけれど」
「ふ〜ん……。――あ、そこ」
「え?」
「そこはそっちのプリントの……うん、コピーしておいたから」
「すまない」
「いいわよ、別に。これぐらい」
 そう言うと彼女はまた、ちらり、と留姫の方を見て
「ねぇ、あの子ってほんとかわい〜! そう思うでしょ?」
 と言う。
「うん、まあ……」
「カメラ映えしそうな顔立ちね〜」
「そうだね」
「――何よ、その言い方は?」
「え?」
「あんなにかわいい子と知り合って、気にならないの?」
「それは気になるけれど……初日に泣いていたから余計に……」
「え? バイトで何か失敗したの?」
「グラス割っちゃって……」
「グラス?」
「私もバイト先で最初に食器壊した時は焦ったから、気持ちは解る……」
「そう……」
 ふ〜ん……と、私を彼女は見つめる。
「……で、あの子とこの後、約束していたの?」
「いや、別に……」
「そうなの?」
「ちょうど今、バイトが終わった時間なんだと思うけれど?」
「な〜んだ。つまんないっ! てっきり、これからデートなのかも!とか思ったのに」
「まさか……」
 私は苦笑した。
「もしもそうだとしたら、絶対にきみには知られたくない」
「私はそんなにおしゃべりじゃないわよ! ただね、レナモンが女子高生に手を出したんだ〜って思っただけ」
「――あの!」
「冗談よ。――っと、あ〜あ……あの子、かわいそ〜」
「え?」
「ほら、なんか、つまらなさそうじゃない?」
「――また何かあったのか……?」
「う〜ん、どうかしらね? 相談にのってあげたら? 私、そろそろ帰るから」
「ああ。ありがとう」
「たまにはうちのお店に顔出してよ? そうだ! あの子、連れてきて。カットモデルになってもらいたいなぁ……」
「でも高校生だから……」
「だって綺麗な髪しているじゃない? 艶があって……触りた〜い!」
「ああ。扱いやすい髪だったよ」
 一瞬、彼女は言葉に詰まった。
「――ちょ、ちょっと! なんで知っているの?」
「? 直してあげたことあるから、髪……」
「そうなのぉ!? もう部屋に連れ込んだのぉ!?」
「……変な想像するな。バイト先で、だ」
「あ――、なんだぁ……。――あ、ヤバッ……!」
「え?」
「私、帰る。――ほら、急いで。早くあの子、呼んであげなさいよ?」
 微笑み、姉御肌な大学の同期生――ロゼモンは席を立つ。
 ――なんだか、とても誤解されたみたいだ。
 私は苦笑した。
 留姫はかわいいと思う。留姫がバイトの面接に来たあの日も、そう思った。――でも年齢が離れているから、どちらかというと、妹に欲しいタイプだと思う。
 留姫は私が手招いたらひどく慌てている。こちらが気付いていないと思っていたらしい。――とてもかわいいと思う。だから、隣の席を勧めた時も、べつにそんな、やましい気持ちなんかなくて――。
「留姫は高一だったよね?」
 けれど――違った。すぐ近くに留姫がいて、とても落ち着かなくなる自分に気付く。確かに顔立ちもかわいいし、触りたくなるような肌だし、手も華奢だし、仕草も――ちょっと怒った時の顔もかわいい……。
 留姫の口から通っている学校の名が出た時、とても驚いた。その学校はとても有名なお嬢様学校だから。
 ――年齢差に関係なく、無理だ。
 バイトがなかったら一生知り会うこともないだろう。そう考えると、留姫に対しての気持ちが何か変わった。
 世間知らずなのかもしれない。グラスを割ったぐらいで泣くんだから。こういう気持ちがおそらく、『守ってあげたい』というものだのだろう……。
「駅まで送ろうか?」
 だから、自然にそう言っていた。



 『見てみたい』……か。
 風呂から上がり、フローリングの床に腰を下ろす。
 私は落ち込んでいた。私の住んでいるマンションの話になった時、留姫はそう言ったのだ。『見てみたい』と――。
 ――まだ知り合って間もない男に、それを言うか? それとも、私に対して何も警戒していないのか?
 何度も、何度も溜息が出る。自分の方こそ留姫は妹に欲しいタイプだと思ったのに、いざ、現実を突きつけられるとわがままなものだと思った。
 ――頭が冴える……。
 眠れない。気になってしまって眠れない……。
 壁に背を預け、目を閉じる。
 暑くて寝苦しいからではない。そんなことより、留姫のことが気になって仕方がない……。
 自分の、獣のような手を見つめ、溜息をついた。
 ――忘れるな、と。
 自分はデジモンなのだから。デジモンと人間との結婚は法律上認められてはいるけれど――世間知らずなお嬢様のことを気になってどうするというのだ、私は……。それに年齢も――。
 とにかく眠ろう。一晩経てば、こんな気持ちはきっと忘れる。



 明け方。
 夢を見た。
 留姫が私の前に立つ。――あの、バイト先の制服を着ている、いつもの留姫だ。
 私は、留姫の肩に手を伸ばして抱き寄せた。そして気付く。自分がデジモンの姿だということに。
 慌てる私を、けれど留姫は恥ずかしそうに見上げる。
「――して……」
 促されるままに、私は留姫の髪を結うヘアゴムを外す。背に手を回した。
 留姫は微かに震える。どうしようもなく、かわいいと思った。
 留姫の体を横たえると、少し怯えた目で私を見上げる。
 私は、留姫を見下ろした。
 留姫の唇が震えている。髪を撫でると、留姫は首を竦めた。頬を撫でると、くすぐったそうに小さい笑い声を漏らす。何度もそうしてから、留姫の手を取り指を舐めると、留姫はまた震える。
 私はゆっくり、留姫に覆い被さった――――。



 夢を見て悲鳴を上げそうになったのは初めてだった。起き上がると、冷たい汗をかいていた。
 ――何を考えているんだ、私は……!
 よろめきそうになりながらも立ち上がる。
 あんな子供に……夢の中で何をやっている! 信じられない! あんな……あんなリアルな……!!
 ――ああ、たぶん、願望なのかもしれない。この姿でも認めて欲しいと!
 ――バカな夢を見るものだ。シャワーでも浴びて冷静になろう……。



 家で二度寝したらバイトに遅刻しそうだと思ったので、私は早く家を出た。
 マスターがケーキを作るために早朝に出てきていることがあることは知っていた。私があまりにも早く『皐月堂』に顔を出したので、とても驚いていた。
 バイトが使う更衣室のある二階で、椅子を隅に持っていき、寄りかかった。
 しばらく眠っていようと思った。
 そして、懲りずに――また、夢を見た。やはり、留姫の夢だった。
 『皐月堂』に朝早く、留姫も来ていた。留姫が、眠っている私の顔を覗き込む――。
 ――ほんの少しの、柔らかい感触だった。
 私は、それが夢ではなく現実だと気付く。
 留姫が慌てて私から離れた。



 ――困った……。
 バイトをしながらも、留姫が気になってしょうがない。
 ――こんなに気になっているのに、まさかあんな事になってしまうとは……。
 とにかく、ちゃんと謝らなくては。留姫と気まずいままでいるなんて、耐えられない……。
 それなのに、バイトが終わってから聞いた言葉は、
「キスってどういうものか、ちょっと興味が……」
 だった。唖然とした。
 ――興味があるからしてみた? 私がその相手でもいいと? 初めてのキスなのに?
 そんなことを言われたから、思い切り期待した。少しでもその気があるのか、と。けれど……留姫は逃げようとした。
 ――私のことはそういう対象とは思っていないというわけか――。
 『守ってあげたい』と思った。けれど留姫は私にそれを望まないんだと思うと、苦しくて堪らない。それに――他の誰かにもこういうことをするような子なのかと思うと――!
 脅すつもりで言った言葉に、けれど期待が混ざってしまった。留姫は本当に逃げた。
 ――何をやっている……! 怖がらせてどうするっ!
 自分の気持ちを隠すことで精一杯だった。
「冗談だから……」
 そう、言うしかなかった。
 ドアの向こう側から、留姫は言った。
「そうですよね〜。私なんかじゃ、本気になりませんよね〜」
 ――――!
 怒鳴りそうになった。こっちの気持ちも知らないで――! 年上の男をからかっているのだと思った。そうやって他人の気持ちを掻き乱すようなことをする子なのだ、と――。
 けれど留姫は……私が着替え終わっても、しばらく待っていても、女子更衣室から出ては来なかった。
 私は居たたまれなくなって、『皐月堂』から先に帰った。
 帰宅しても、ずっと留姫のことが頭から離れない。何もする気にならない。食事を作る気にもならない。
 ――このまま、消えてしまいたい……。
 留姫のことを考え過ぎて、気が狂いそうになる。
 いつも寝室に使っている部屋に行き、フローリングの床に寝転がる。何度も何度も、溜息しか出ない。
 あんなにかわいい顔で……キスに興味があるだなんて――。言われたこっちの気持ちには全く気付かないで……!
 ――そのうち誰か他の男に騙されて酷いことをされるかもしれない――!
「――――ッ!」
 気付いたら、フローリングに大きな爪跡を作っていた。完全にえぐれている。……賃貸物件なのに……。
 ……辛い……。
 私は起き上がった。
 ――留姫は、好みの男がいるのだろうか?
 留姫が誰かとキスをする? 誰かと手を繋いだり、誰かの家に遊びに行ったり……?
 ――泣きたくなる。それは私ではないのだ、と――。



 夢を見た。
 美しい着物姿の留姫を、私は攫おうとする。
 留姫は怯え、泣き叫ぶ。
 逃げる留姫を、けれども私は――追い詰めていく――。



 最悪な夢だった。額の汗を拭った。
 暗い色。赤く燃える闇。生い茂る木々。深く暗い――静寂の世界。
 自分が好きな絵本――『うりこひめ』の世界だった。あの独特な世界観が好きだ。けれども……。
 ――『瓜子姫』を、どうするつもりだった……?
 あの残酷な絵の世界で、私は留姫に何をするつもりだった? 追い詰めて、追い詰めて――どうするつもりだった――?
 ――好きになってほしい……。
 焦がれる気持ちが湧き上がり、私は目を閉じた。どうして留姫にここまで夢中になっているのか……。
 ――どうすれば、私のことを好きになってくれる? 恋愛には憧れているみたいだけれど……。
 ふと、私は気付く。
 夏休みなんだから、どこかに遊びに行ったりしたいんじゃないか?と。二人で過ごす時間を多く持てば、もしかしたら少しずつでも、私のことを気にするようになるんじゃないか、と――。
 でも……拒絶されるかもしれないと思うと……怖い……。



 食事を摂る気力も無く、朝食も食べなかった。朝早く出かけた『皐月堂』の二階で、私は机に突っ伏した。
 ――あんな夢を見た後で、どんな顔をして留姫に会えばいいのか……。
 そう思いながらも寝不足でうとうととしていると、――気配がした。
 面倒臭く感じながらも起き上がると、目の前に洋菓子専門店の紙袋があった。いつのまにかテーブルの上に置かれていた。有名な店で、何度か食べたことはあるが非常に美味しかった。――それは、留姫が持ってきてくれたものだった。
 留姫に勧められ、そのクッキーを朝食替わりに食べていると、朝食どころか昨日の夕食も食べていないのは「どうして?」と聞かれた。私は答えられなくて目を逸らした。まさか――言えるわけがない!
「……」
 クッキーを食べ終わって思った。――これをきっかけにすればいい、と。
 留姫は私と話をしていて嬉しそうだから、昨日あんなことがあってもまだ嫌われてはいないと思う。
「今度、お礼をするから。どこに行こうか? 考えておいて」
 と。私は言った。

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