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カフェ『皐月堂』へようこそ(レナルキ他)
銀の共鳴 後編 Side:PHANTOMON
 急いだ。猛スピードで昨日行ったところへ行く。
 ところが、そこでルーチェモンは一人で待っていなかった。
「食らいやがれ――――っ」
 ベルゼブモンの声とともに、その両手のショットガンが次々に弾丸を放つ。
 弾道を見切り、優雅に舞いながらルーチェモンはそれを避ける。まるでかすりもしない。
「ボクは遊んでいる暇、ないよ」
 ルーチェモンは攻撃を仕掛けようとした。
「ルーチェモン!」
 オレは叫んだ。
 ルーチェモンはオレをちらりと見ながらも、しっかりとベルゼブモンへの攻撃を放つ。ベルゼブモンの周囲に閃光が煌き、大爆発が起きた。
「ベルゼブモンッ!」
 オレは真っ青になった。
 ルーチェモンはさっとオレの前に瞬時に移動する。
「ベルゼブモンはあれぐらいじゃどうもしないよ。――さあ、約束のもの、持ってきたよ」
 ルーチェモンはオレに、小ビンを差し出した。飲み薬のビンみたいで、中に緑色の泡立つ液体が入っている。
「これ? もしかして、飲むの?」
「ああ」
「飲んで大丈夫? どんな味、するの?」
 ルーチェモンは瞬きをした。
「味?」
「うん、味は?」
「さあ? メロンソーダじゃないか?」
「メロンソーダって、美味いの?」
「庶民の食べ物の味なんて知らないっ」
「そう? じゃ……」
 オレはそれを受け取ろうとした。けれど、
「どんな味がするのだろう……」
 ルーチェモンはオレに渡さず、じっとそれを見つめる。
「ルーチェモンも飲んでみたいの?」
 そう訊ねると、
「いや、別に……ボクは庶民が親しむ味なんかに興味はない」
 と、オレにそれを手渡そうとした。
 そこに、
「させるかっ!」
 とベルゼブモンが現れた。素早く奪い取ろうとしたけれど、小ビンは奪い取れなかった。ルーチェモンが先に、小ビンを持ったまま姿を消したからだ。
「逃げやがって!」
 ベルゼブモンは牙のような鋭い歯を剥き出して、低く唸るように言い放った。かなり恐いっ。
「ファントモンッ!」
「はいっ」
 逃げ腰になって返事すると、ベルゼブモンに睨まれた。
「アイツはろくなことしねぇんだぞ! 変なもの飲むんじゃねぇ!」
「でも……」
 その時、
「ルーチェモン様――――!」
 ロゼモンが二人のデジモンを連れてきた。銀色の鎧を身にまとったデジモンと、濃ピンクのバラのような色の細身の鎧を身にまとった騎士の姿のデジモンだ。
 オレ達からずっと離れたところに現れたルーチェモンが驚いて、
「デュナスモン! ロードナイトモン!」
 と声を上げた。
「それは危険な薬!」
「今すぐ、こちらにお渡し下さい!」
 ルーチェモンは
「ボクに指図するなっ! 無礼なっ!」
 と叫んだ。姿がまた、掻き消えた。
「くそっ! アイツ、どこに行きやがった!」
 ふわっと、上空に何かが過ぎる。オレもベルゼブモンも上を見た。
「口を開けろ、ファントモン!」
 ――へ?
 ルーチェモンは真上にいた。小ビンの中身を垂らそうとする。
「む、無理だよ、この距離からなんてっ!」
 そう言ったけれど、とにかく急いで大きく口を開けた。
「俺の弟に何しやがるっ!」
 メタルマメモンの怒鳴り声が聞こえた。
 ――え?
「何っ!」
 ルーチェモンの手元の小ビンが割れた。
「割ったのか!」
 ベルゼブモンが驚いて叫ぶ。
「触れないで! それは劇薬……」
 バラ色の鎧のデジモンが絶叫した。
 ――ええっ!
 とっさに、オレはベルゼブモンを思い切り押した。
「なにっ!」
 ベルゼブモンの声と同時に、何かがオレに降りかかった。
「ひゃ……あ?」
 オレは身を竦める。けれど、すぐに顔を上げた。
「何も起きないけれど?」
 なんだぁ……と思ったとたん。


 ――――ドクンッ。


 オレの中の、デジコアが大きな響きをたてた。オレにも聞こえたし、
「今の音は?」
 傍にいたベルゼブモンにも聞こえたみたい。
 ドクン、ドクン、とそれが聞こえるたびに、息が出来ないほど体が苦しくなった。
「おい……」
 ――何?
 体が重い。
 ベルゼブモンが目の前で叫んでいる。でも、何を言っているのか、聞こえない……。
 メタルマメモンの姿が見えた。
 そして、御主人様の姿も見えた。
 ――ご……しゅ……。
 オレは懸命になった。苦しいけれど、御主人様に心配かけちゃう。
 もしかしたらオレは、もう、このまま……。


 気が遠くなりそう。もう、何も解らない……。
 重かった体が、軽くなる。
 何かが、いる。オレと重なる、輝きがある。
(生きろ、と言ったはずだ。忘れたのか?)
 声が響く。オレの頭の中に……。
 ――メタルファントモン……。
(お前は生きることを望んだ。俺はお前の中で生きられればいい。それを――崩すのか?)
 ――そうだ。オレは、崩すんだ。
(保たれた……均衡……バランスを崩すほどの……エネルギーの崩壊……何もかも、を……)
 ――そうだ、オレは……オ、レ、は…………!
(そうか……そうだな。俺を作り出したのはお前だ。お前は奇跡を起こした。運命を…自ら……)
 メタルファントモンの声が……少し笑っているような気がする……。
(始まるのか……俺の……俺とお前の……新しい未来が……)
 オレの中で、銀色の光が、鳴る。
 響きあう、二つの音がある。
 煌き、瞬く、二つの輝きがある。
 ――違うよ。オレと、メタルファントモンと……そして……御主人様の、未来だよ……!


   ◇


 何度も名前を呼ばれた。
 ――聞こえているったら……。
 オレは薄く目を開けた。
「起きろ、ファントモンッ!」
 目の前に、知らないデジモンがいた。顔も体もガイコツで、不思議な輝きの黒。漆黒のローブをまとっている。
「も……」
 ――もしかして、メタルファントモン………?
 そう言いかけたら、メタルファントモンがオレから離れた。
 ――え?
 御主人様の腕が伸びてきて、ふわりとオレは抱っこされた。
「良かった……無事で、本当に良かったこと……」
 御主人様はオレに頬擦りをした。
 ――オレ、消えていないの? 消えると思っていたのに……。
 オレはメタルファントモンを見上げた。
「メ……」
 あ、れ? 声、出せない……。
「無理をするなと言っただろう」
「ごめ……」
「しばらくじっとしていろ。――御主人様、すまないが預かっていてくれないか?」
 御主人様は頬を染める。
「ええ、まかせてちょうだい」
 ――ほら。御主人様はメタルファントモンのこと、大好きなんだね……。
 すぐ近くで、ルーチェモンが怒鳴っている。
「これはどういう事態だ! ボクに解るように説明しろっ!」
 デュナスモンとロードナイトモンが
「だから危ないと……」
「内緒で持ち出すなんて……」
 と慌てている。そして、
「フッ……愚かな下僕どもどころか、愚かな我が成熟期の姿め!」
 と、冷たい視線を投げるデジモンがいた。ルーチェモンに似ているけれど、ずっと大人の姿だ。たくさんある羽も、左のほとんどは純白で羽根を生やす鳥のような羽なのに、右側の全てはコウモリのような羽だった。
「だ……」
 ――誰?
 御主人様は呆れたように溜息をついた。
「ルーチェモンが進化した姿よ。ルーチェモンのフォールダウンモード」
「ル……?」
 ――ルーチェモンが? だって、そこにいるよ?
「あなたとメタルファントモンのように、人格がほぼ別なのよ」
 ――ええ? それじゃ、もしかしてオレ達みたいに?
「メタルマメモンが薬ビンを破壊した時に、薬が手にかかって中途半端に分離しちゃったみたいね。そんな危険な薬、どこから持ってきたの?」
「おし、ろ……」
「そうなの? ルーチェモンの城? あの城って、本当に何でもあるのね……」
 オレはルーチェモン達を見つめた。ルーチェモン・フォールダウンモードは傲慢で、ルーチェモンとケンカを始めている。ルーチェモンの部下らしいデジモン達は必死になだめている。
「あれ、は……?」
 その近くに、大きな怪獣みたいなデジモンもいる!
「ルーチェモン・サタンモードよ。ルーチェモンの究極体の時の姿なの」
 ――おっきい!
「デュナスモン達がさっき、何かやっていたみたいだから、あのデジモンが暴れ出さないように手を打ったのでしょうね……。麻酔薬みたいなものだったのかしら? 助かったわ……」
 ――も、もしかして……とっても危険な、大変なことになっていたの――――?
 突然。
「我が愛しい、暗黒の女神よ!」
 ルーチェモン・フォールダウンモードは、突然、御主人様へ向け、サッとバラの花を一輪差し出した。
「変わらず永遠の美しさを誇る、輝ける貴女へ! この花を捧げよう!」
 オレは目を点にした。
「変……」
 素直な感想を言うと、
「無礼者!」
「無礼なっ!」
 と、ルーチェモン・フォールダウンモードと、ルーチェモンが同時に叫んだ。ああ、同じ存在だったんだ、と納得する。ルーチェモン・サタンモードは、ぼーっとしたまま。
「リリスモン! そのデジモン達は貴女の何なんだ!」
 ルーチェモン・フォールダウンモードは不愉快そうに言った。
 御主人様は瞬きをした。
「え? ええと……ただの……」
 何か言おうとして、けれど御主人様は突然、恥ずかしそうに俯いた。
「何でもないわ……」
 それを聞き、うむ、とメタルファントモンは頷く。
「俺達は、ただの……」
 メタルファントモンは言いかけ、オレに訊ねた。
「ただの……何だろうな?」
「ん……?」
 オレはちょっと考え、
「家族っ!」
 と答えた。だって……本当にそうだと思うから。
「ええ……あなたがそう思うのなら……」
 御主人様は嬉しそうに微笑む。そして、その視線をメタルファントモンへ向けた。
 メタルファントモンは、なんとなく苦笑しているように思えた。デジモンの姿のメタルファントモンからは表情は解らないけれど、そう思えた。
 ルーチェモン・フォールダウンモードも、ルーチェモンも、
「「家族……!?」」
 と呟くなり、ふらふらと去っていった。
「ルーチェモン様方! お待ち下さいっ!」
 デュナスモン達は慌ててそれを追う。ルーチェモン・サタンモードも忘れずに連れて、時空移動をかけたみたい。彼らの姿は完全に消えた。
 ルーチェモン達が去ると、メタルファントモンは大きく息を吐いた。
「どうなることかと思ったが……」
 御主人様の腕の中にいるオレを覗き込む。
「具合はどうだ?」
「具合……」
「辛かっただろう?」
「うん……苦しかった……。でも、今は平気……」
 そうか、と呟くメタルファントモンを見上げる。オレが苦しかったなら、メタルファントモンだって苦しかったはずなのに、オレのこと心配してくれる……。
 御主人様が、
「無茶なことして……」
 と、やんわりと叱る視線を向けた。
 オレはとても安心して、うとうとと眠りについた。



 目を覚ますと旅館の部屋だった。
「いきなり飯かよ?」
 ベルゼブモンが呆れるぐらい、オレは空腹を満たすべく、運ばれてきた大量のおにぎりを食べた。
 御主人様はオレの隣にいるメタルファントモンに話しかけている。久しぶりに会えたから、とても嬉しそう。メタルファントモンは人間の姿で、旅館の浴衣を着て胡坐をかいていた。どこも具合悪そうに見えないから、オレは安心した。
 メタルファントモンの人間の姿は、オレの人間の姿とは全然似ていない。もちろん、メタルマメモンとも似ていない。
 ――あ……片目なんだ? 片方の目……見えないのかな? それとも、ケガしているの?
 メタルファントモンは、片目を隠すように白い布を巻いている。それがとても……気になった。後で聞いてみようかな。どうしたの?って……。
 メタルマメモンとロゼモンもいて、皆がどんなにオレを心配してくれたかを話してくれた。
「じゃあ、昨日、皆起きていたの?」
「ああ。当然だ」
「ええ、さすがに私も目を覚ましたわ」
 メタルマメモンとロゼモンに続き、ベルゼブモンも、
「そりゃ起きるぞ。オマエ、気配消さなかったからな……」
 と言った。そして、
「見てると、腹、減ってきたなぁ」
 と言い出した。
「おにぎりは全部ファントモンが食べてしまったから、何か追加で持ってきてもらいましょうか?」
 御主人様が嬉しい提案をしてくれた。
「まだ食べられる?」
 オレはわくわくして訊ねた。
「もっと食べるのか? まだ昼前なのに……」
 メタルマメモンが呆れる。ロゼモンは小声で笑い、
「体力使ったからよ、きっと! 皆で早めの昼食にする?」
 と、ベルゼブモンに訊く。
「そうしようぜ!」
 とベルゼブモンは大きく頷く。
 そうだ!とオレは思いついた。
「こんな時こそ、あのおやつを……」
 皆で食べよう!と、急いで探したけれど、
「あ――!」
 オレは絶叫した。オレのお菓子の入った巾着袋が空っぽだった。
「まさかルーチェモンが?」
「いつのまに?」
 御主人様とメタルマメモンが顔を見合わせた。
「七大魔王のくせに盗人か?」
 ベルゼブモンはやれやれと肩を竦める。
「元気出して。また、何か別のものをあげるわね」
 とロゼモンが慰めてくれた。
「うん……」
 オレは空っぽの巾着袋を名残惜しそうにたたむと、ローブのポケットにしまった。
 ロゼモンがフロントに電話をかける。ベルゼブモンが寄っていき、メタルマメモンとそばの話を始めた。名産らしい。
「あの、御主人様……」
 オレは御主人様に訊ねた。
「オレとメタルファントモンのデジコアって、今、どんな状態?」
 御主人様はオレ達を交互に見て、
「全く同じ色のデジコアが二つ、綺麗に輝いているわ。それがどうかしたの?」
 と教えてくれた。
 オレは嬉しくなった!
「ああ、良かった! これでメタルファントモンは消滅しないんだよね♪」
 オレは、えへへっ♪と、メタルファントモンに視線を向けた。メタルファントモンは困った顔をした。
「どうしたの? ――揺れている? 地震?」
 カタカタッと、テーブルの上の湯のみなどが揺れている。
「何……?」
 地震ではなくて、御主人様が怒りで小刻みに肩を震わしていたからだった。
「あ……!」
 ――内緒だったのに、オレ、言っちゃった!?
 御主人様は俯いていて、フッと口の端を上げて頬をひくつかせた。
 ――わ、わわわっ!
 皆、ぎょっとして息をひそめ、御主人様を見つめる。
 御主人様はそして、突然、
「何ですってぇ! どういうことなの! 私に解るように説明しなさいっ! 今すぐにっ」
 と怒鳴った――!
「わっ!」
「きゃああっ!」
「やりやがった……」
 御主人様の声と共に、窓ガラスがバリバリッと割れた。テレビや電灯なども一瞬でショートして、恐らく旅館が全館、停電になってしまった。
「……御主人様には言うなといっただろう?」
 メタルファントモンは呆れながらそう言い、立ち上がった。
「ごめん……」
 オレはうなだれた。
 メタルファントモンは小刻みに肩を震わせている御主人様に
「大人は簡単に暴走しないものだぞ?」
 と言い、気遣うようにその肩にそっと触れようとした。
「うるさいっ!」
 けれど、御主人様はその手を払い除ける。
「お黙りなさいっ! ――ちょっと! どこに行くの!?」
「女将に謝りに行って来る」
 そう言われた御主人様は、怒りをすぐには静められないけれども、
「待ちなさい! 私も行きます!」
 と立ち上がって後を追う。
 部屋を出る間際、御主人様は振り向き、
「メタルマメモン。貴方達は自由に、何でも好きなだけお食事しなさいねっ」
 と言った。
「はい」
 メタルマメモンは頷く。
「追いかけないで大丈夫?」
 とオレが訊ねると、
「義姉上は財布を持って行かれましたから。ケンカが一段落したら、二人で何か食べてくるでしょう。きっと……」
 と言われた。
「そう? 全然気付かなかった……」
 オレは首を傾げた。
 ベルゼブモンが
「何だよ。ついでにデートかよ……アイツも素直じゃねぇなぁ……」
 と、ぼそりと呟いた。
 ああ、なるほど、とオレは納得した。御主人様とメタルファントモンが仲直りして、楽しくデート出来るといいなぁ!と、オレは思い切り強く、そう願った。


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《ちょっと一言》
 ・・・魔王だらけの温泉大会?(笑)
 書き終わってみると、大幅に書き足してばかりの話は魔王だらけ、出血大サービス! ・・・この後、どうなることやら・・・(^▽^;)
 
 補足ですが、ルーチェモンはリリスモンのことを「近所に住んでいた憧れのお姉様」と思っています。恋愛感情とはちょっと違うんです。
 ルーチェモン・フォールダウンモードはちょっとアレな性格になってしまっていますが、皐月堂独自の設定だと思って大目に見て下さい・・・(謝)

 分離しちゃいました!が、ファントモンもメタルファントモンも、今後とも温かく見守っていただけると嬉しいです^^

 追記:最近更新速度遅くなってしまいごめんなさい(謝) なるべく早めに更新するように頑張ります。

 あと、PCサイトでもやったことがあるのですが、先日からカプ&キャラ投票を行っています。さっそく投票して下さった方、コメント下さった方、ありがとうございます!
 複数のカプ、キャラに投票可能です。(同じキャラに何度も票を入れるのもOKです。そうしないと不公平かなと思いまして・・・)もちろん、一回だけの投票でもOKですのでお時間ある時にでもどうぞよろしくお願いしますv(願)

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