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カフェ『皐月堂』へようこそ(レナルキ他)
雨のち晴れ! 後編 Side:LILIMON
「ごめんね……」
 しばらくして、彼がようやく顔を上げた。池の水はもう音を立てていなかった。
 私はほっとして、大きく息を吐いた。
「ごめんね、怖がらせちゃったよね?」
「違うー! 平気よ、へっちゃらだってば!」
「でも、ごめん……肩こったよね?」
 わざと明るく言いながら退こうとする彼の腕を、私は左手で押さえた。
「どうして謝るのよ……」
「だって、嫌な気分にさせちゃったから……」
「アンタだってそうじゃない!」
「俺は……平気……」
「嘘っ!」
「本当だから……」
「――ちょっと、顔! 顔が見えないわよ! 私の目を見て、話して!」
 私は左手を離した。けれど、彼はいつもするように私の正面に移動してくれない。
「嫌だっ」
 彼らしくない、少し強い口調。そんな言い方すると思わなかったから、びっくりした。
「そんなに嫌? 嫌なら、別にいいわよ……」
「ごめん……」
「だからぁ! 謝ることなんかないんだってば!」
「うん、でも……ごめん。今、きっと……ひどい顔……俺、しているから……」
 再び彼は、私の肩に額を乗せた。
「穴があったら入りたい……」
「え?」
「リリモンさんに……知られちゃった……」
 ――あ……さっきの女の子達のこと?
「あの子達って、同期なの?」
「うん、大学の同期だけれど……」
「ふーん……」
 心がズキズキ痛むけれど、
「けっこうかわいい子達じゃない?」
 と言った。
「え? そう思うの?」
 彼はいぶかしげに訊ねる。
 ――あれ? ああいう子達が好みなんじゃないの? 違うの?
「俺は……あの子達、ほとんど知らないから、かわいいかどうかも良く解らない……」
「知らない子達なの?」
「うん、ほとんど話したこと無かったから」
 ――ほとんど? それ……変じゃない?
 私の頭の中にはクエスチョンマークがいくつも浮かんだ。
「どうして? ほとんど話したことないのにお見舞いに来てくれたってこと?」
「あの子達、他人は外見でしか判断しないみたいだから」
「外見? ああ、ぺちゃくちゃ言っていたわよね? ええと……シードラモンって、イメチェンしたの? それでシードラモンのこと『かっこいい!』って思って……」
「良く解らないよ。あの子達、何考えているのか……俺には……」
「……そんなに怒るほど?」
「うん……」
「前って、どんなかっこだったの? イメチェンって、髪型変えたの? 服のブランドとか?」
「……」
 彼は黙っている。
「ちょっと……暗くない? どうしちゃったの? ――あ、解った! 眼鏡でしょ? 眼鏡! 顔の印象、全然変わるもん! ね? 当たりでしょ?」
「……」
「えっと……違うの? 私、全然勘違いしている? それとももしかして、答えたくないの?」
 不安になって訊ねると、
「そうじゃなくて……」
 と言われた。
「そうじゃないの?」
「だから……その……」
「何よ? はっきり言いなさいったら! あの――怒っているわけじゃないのっ。聞いているから、だから……」
 泣きそうになった。
「ばかぁ……」
「リリモンさん!?」
「言ってよ。言いたくないなら、そう言って! ねえったら!」
「ごめん……言うよ。不安にさせてごめん……」
 彼はぼそぼそと、
「俺、ほんとは……ずっと、…………すっごくダサいヤツで……」
 と言った。
「え……? ダサイ?」
「リリモンさんだって、そういうヤツと仲良くなんかしたくないよね……」
「え? どういうこと? 意味不明……。ちゃんと話してよ」
「意味不明って……そのままの意味だよ。俺はずっとダサイヤツで……」
 私は首を傾げた。私の肩に額を乗せたままの彼の頭に、そっと寄りかかる。
「今はダサくなんかないじゃない? 前は違うの?」
「うん……」
「信じられないもん。そんなこと言われたって……。だって、今は、けっこう……イイ感じだと思うけれど?」
 彼はまた、ぼそぼそと、
「俺、色々ダメで……部屋もスッゲー散らかってて……。大学二年に東京の校舎から奈良の校舎に移ったんだけれど、入居してから掃除したことなかった……」
 と言った。
 私は
「ふーん……」
 と相槌をうち、そして、
 ――え? 確か……メタルマメモンさんって大学三年生、よね? それって……!
 と気付いた。
「うっそぉ! 一年半、掃除したことなかったのぉ!」
 衝撃的な事実! 想像も出来ない! がばっと寄りかかっていた頭を起こし、無理に首を捻った。横目で彼を見ると、彼はちょっと頭を持ち上げて私を見る。
「……」
「……」
 一瞬、お互いに黙ってしまった。
「……マジ?」
「……うん」
「え……冗談でしょ?」
「冗談じゃなくて……すみません……やっぱり変だよね、軽蔑するよね……」
 すぐに彼は元のように私の肩に自分の額を乗せた。
「本当に? 一年半?」
「うん、それぐらい……」
「うん、って……。ゴミは? ゴミ出しは?」
「生ゴミ以外、したことなかった」
「えええっ! 可燃ゴミ、溜まるじゃない?」
「部屋の中にあった。……生ゴミは出していたけれど……」
「そんなに広い部屋だったの!? 雑誌、読まなかったの? 片付けないの?」
「傍に置いていて……そのうち、踏んでた……」
「えええっ!? 踏んでいたの! ゴミ、床に積もっていたの? ……服は? クローゼットは?」
「洗って、乾いたらそのまま着ていたし……そのうち、アパートの床が抜けるかなぁ……とか、思ったけれど……」
「ちょっと、嘘ぉ……」
 シードラモンの告白の数々に絶句する。
「生活能力ゼロってこと? ウッソォ! 信じられない! すっごく真面目でしっかり者っぽく見えるけれど?」
 彼は、ぼそぼそと
「うん……あの……それじゃダメだって思って……色々、変えて……」
 と言った。
「ダメって? 誰かに言われたの? 何かあったの?」
 そこまで凄かった彼のダメ生活に、いったい何があったの!?
「ロゼモン様が、メタルマメモンに会いに来たから……」
 ――え?
「ロゼモンが? 何か言われたの?」
「まさか……ロゼモン様と話したこともなかったよ……。だから、俺……ロゼモン様のこと、ずっと憧れだったから……メタルマメモンのこと、スッゲー羨ましいって思って……。絶交だ!って、言っちゃった……」
「そっか……」
 そう言うのが精一杯。ショックだ。辛い……。
 ――ロゼモンのこと、そんなに好きだったの……そっか……。
「うん……。――でも、気付いたんだ。俺は何も努力したことないって。女の子がどういう男好きなのかって、そんなこと知ろうとしなかったし、努力もしなかった。メタルマメモンはいつもきちんとしていて、だから女の子にもモテるんだって思って……」
「……」
「俺だって変わったら、女の子と仲良く話とか……そんなことも出来るかなぁ?って思ったんだ。それで……」
 私は深い溜息をついた。
「それで? ああいう女の子達もいるって、知ったわけ? いいの? あの子達に怒りの鉄槌とか、したくならないの?」
 彼は
「怒りって……そんな権利、俺にはないよ……」
 と、また、ぼそぼそと言った。
「俺だって、外見だけで判断しちゃうことってあるから……。自分でもそうなのに誰かを怒るなんて卑怯だと思う……」
「そう……そう思うんだ……」
 あんなに卑怯なこと言われたのに? あーもう、そんな風にどうして思えるのよ? 自分だってやっちゃうから? それとこれとは別だ!と思わないのかしら?
「リリモンさん、お願い……メタルマメモンは知らないと思うから、あの子達のことは内緒にして欲しいんだ」
「え? どうして?」
「知らなくてもいいことなら、知らないままがいいと思うから……」
「そうね……」
 私はだんだん不安になってくる。
 ――私は? 私は……どう見えるの? シードラモンが仲良くしたいって思った『女の子』になれそう? 私は乱暴だし、すぐに怒鳴るし……ダメ?
「ね……ねえ! 質問してもいい?」
 我慢できなくて、私は早口で言った。
「うん……いいよ。聞いているから」
「私のこと、『ウルサイ』って思う?」
「うるさい?」
「うん……そう思う?」
 彼はぼそぼそと、
「思わないよ……」
 と言った。
「リリモンさんは、賑やかで明るくて……楽しいよ、すごく……。誰とでもすぐに仲良くなれて、誰のことでも一生懸命考えて……。言ったことはすぐに行動出来るし、勇気があるし……」
「えー! そう? やっだぁ、誉め過ぎ! 私のこと誉めたって何も出ないわよ」
「何もいらないよ」
「え?」
「俺は何も……あの、ううん、そうじゃなくて……」
 彼は視線を伏せた。
「ごめん……あの、リリモンさんの話、さえぎっちゃったね。続き話して」
「私? ああ、えっと……私、その……えっと……」
「ん?」
「『おせっかい』、『口から先に生まれてきた』、『黙っていればかわいいのに』、『暴力女』……まだまだあるわよ、えっと……」
「リリモンさん!? それって……」
「私は……すぐそう言われちゃう。誰かとデートするぐらい仲良くなっても、見た目と違って口うるさくてウザイって……。一緒にいると疲れる、声も聞きたくないって……。電話もメールもウザイって……」
「そんな! ひどい……!」
「だから……シードラモンもそう思っているのかなって……。ちょっとでもそう思うなら、私、今のうちに直さなくっちゃ……ウザイって言われる前に……」
 言っているうちに悲しくなった。
「思ってないよ! 信じられない! リリモンさんと、デ……デートとか出来るのにそんなこと言うなんて……」
 ドキッとした。
「え? そ……そう? 私、その……かわいいって言ってくれても、付き合うのは嫌なタイプなのかな? シードラモンはそう思わない? どう……?」
 ドキドキする! やだ、落ち着け、私っ。
「そんなこと思ってないよ! リリモンさんはすごくかわいいし、や……優しいじゃないか……」
「本当にそう思う?」
「思うよっ!」
「私、今年に入って十二回……失恋しているのよ?」
「十二回も? そんな、でも……羨ましいな……俺、女の子とデートなんかしたことない……。リリモンさんみたいなかわいい女の子とデートして、そんなひどいこと言うヤツっているんだ……」
「えっ? デートってしたことない?」
「うん。そういうの、憧れるけれど……」
「ふーん……」
 ――ねえ、それって、私のこと誘っているの? 言っちゃってもいいの?
「ふーん、って……馬鹿にしてもいいよ、別に……」
 彼はまた声が小さくなる。
「馬鹿になんかしていないったら。誘ってくれるのかな?って思ったの」
「誘…う?」
「デートよ。私とデートする?」
 思い切って言ってみた。
 すると、彼は小さく息を呑み、すぐに大慌ててで
「そんなつもりじゃ……!」
 と言った。
「え? 今のって、私とデートしたいっていうサインなのかな?って思ったんだけれど、違うの?」
「ええっ! 違うよっ! だって……そんな……いいの?」
「あーのーね? 私とデートしたいの、したくないの? どっちなのよ?」
「ええ? でも、俺なんかと……!?」
 ――わぁ、ラッキー! もう一押しでデートしてくれそうかも?
「うん、デートしようよ。ね? 退院したら、二人だけでどこか行こう? 入院で退屈していた分、パーッと遊びたいもの。リアルワールドで秋に公開予定だった映画観たいし、冬物の服を買いたいし。今年の冬は新しいコートとブーツ欲しいなぁって思っていたから、夏に出来たアウトレットモールにも買い物行きたいし。――そうだ、いいものがある! 遊園地はどう? チケットあるのよ、ペア券! 雑誌の編集やっている友達からもらったのよ」
 彼は
「本当?」
 と驚いている。
「ん? やっぱり遊園地がいいの? タダで遊園地って魅力的でしょ? ね?」
 彼は突然、強く私を抱きしめた!
「そうじゃないよっ。リリモンさんとなら、どこだって……。うわぁ……どうしよう……リリモンさんとデートなんて……」
「な……何よ、そんなに期待しちゃって……後で、つまんなかった、とか言われても責任もたないわよ? ――とにかく約束! いいわね?」
「俺なんかでよければ、ぜひ……」
「シードラモンだから誘っているんじゃないの!」
「え? 本当?」
「本当よ」
「うわあ……嬉しい……どうしよう……」
「だーかーらーっ! どうもしないわよ、これぐらい! それより、当日になってすっぽかしは禁止!だからね? 絶対よ?」
「もちろん! 絶対行くよ!」
 ――あ!
 私はふと足音と話し声に気付く。話に夢中になっているから、彼は気付かない。
 思い切って彼に言った。
「ねえ、ちょっと顔を上げて」
「?」
 彼は私が言ったとおり、顔をちょっと上げた。
 ――彼はさっき、ああ言ったけれど。私の怒りはまだ消えていないんだから。
 シードラモンはまだ気付いていない。あれから時間が経っていて、シードラモンがいなかったと知った彼女達が引き返してくる頃だと……。
「内緒の話、しない?」
「内緒?」
「うん」
「いいけれど?」
「ほんと? 嬉しい!」
「そう? 喜んでくれるなら俺も嬉しい」
 彼はとても嬉しそう。
「ねえ、私ね、ずっと……」
 もったいぶって、私は途中で言葉を区切った。
「ずっと?」
 彼は訊ねる。
「うーん……やっぱ、恥ずかしいから、ダメ……」
「恥ずかしい?」
「まあ、ねえ……小さい声でなら話せるわ」
「ん? そうなの?」
 彼はわずかに身を乗り出すようにした。
 彼の耳がすぐ近く。私はすかさず、キスをした。
「ひゃ……!」
 彼はがばっと私から離れると、左耳を押さえて私の前に走り込む。
「な、何をするんだよっ!」
 真っ赤な顔の彼に、
「キス」
 と言った。
「き……キスッ!?」
「そ。解らなかった? もう一回しよっか? 今度は頬にしてあげる。それとも唇がいい?」
「ひどい……からかっているの!? それとも、俺のこと……かわいそうだと思うから? そんな……ひどいよ……」
「かわいそうだとは思うけれど。私がしたいからよ」
「したいって……キスを!?」
「好きならキスぐらいしたくなるでしょう?」
「好きって……俺を!? 義理じゃないの、今のはっ!?」
「義理じゃないわよ。私、シードラモンのこと、大好きだから」
「えっ? え? ええええっ?」
 彼は大慌て。
 私は、――ちょっと意地悪なぐらい冷静だった。
「――アンタの後ろにいるデジモン達のことなんか、忘れちゃおう? 私、何回でもアンタにキスするわ。私のキスは本気のキスよ。いつだって私は本気だから。どう?」
「え……!?」
 シードラモンが驚いて振り向くのと、脱兎のごとく彼女達が私達の横を走り抜けて行くのは同時だった。
 彼女達が逃げるのを見送ると、彼を見上げた。
「……ごめん。強引なことしてごめんね」
「リリモンさん……」
「どうしてもはっきりさせたかったの。これであの子達、メタルマメモンさん達にも二度と近づかないでしょ?」
「……」
 シードラモンは、呆然と私を見下ろしている。
「やっぱり怒った?」
「あ……えっと、そうじゃなくて……」
「いいよ、怒っても。急にキスされたら迷惑だったでしょ?」
「え!? ええっと……その……違う、今の……本当?」
「本当って?」
「俺なんかのこと、す…………好きって……」
「うん」
「『うん』って!? 本当なの? 嘘だよね?」
 私は肩を竦めた。
「だからデートに行こうって言っているのよ。どうやったら伝わるの?」
「どうって……」
「もっと? キス以外のことなら伝わるの?」
「へ……!? ちょ、ちょっと、リリモンさんっっっ!?」
「私はシードラモンのこと、それぐらい好きよ。本気で好きよ?」
「そ……そんな……あの、でも……」
「私のことは? 今でもかわいいって思う?」
「う…ん、うんっ! 思うよっ!」
 彼は何度も頷く。
「ロゼモンの次でいいから、私のこと好きになって欲しいの。ダメ?」
 本気で、気持ちを言った。手が汗ばんだ。
「ええっ! ……えっと、それは……うん、俺……リリモンさんのこと……」
 彼は顔を真っ赤にする。
「ほんと?」
「……うん……」
 ――ほんとに? この場の勢いに流されているだけじゃなく? うーん……まあ、よしとしようかしら? 今は勢いだけでも、そのうち私のこと一番好きになってもらえればいいわ。ロゼモンには敵わないものね……。
「やっぱり、『リリ』って呼んで欲しいな……」
「え……それは……!」
「どうしてもダメ? 『リリ』って呼んでくれるなら、私も何か交換条件にしてもいいわよ?」
「交換条件?」
「うん」
「それは、でも……こうやって話が出来ればもう何もいらないっていうか……」
 彼はそんなことを言った。
 ――うわ!? そんな恥ずかしいことを素で言うわけ?
 それをからかうのはやめた。彼は気付いていないから。
「じゃあ……ずっと一緒にいてもいい?」
「ほんと!?」
「うん。シードラモンと一緒にいたいもの」
「わぁ……嬉しいな……」
 彼はとても喜んでいた。



 病室に戻ると、ロゼモンが来ていた。今日も人間の姿だった。また髪型変えてる……大きなロットで毛先を巻いたふわふわパーマ。
「ああ、帰ってきた! 良かった……せっかくお土産持ってきたのに、いないんだもの……」
 ロゼモンがにっこりと微笑む。
 私は心の中で溜息をつく。やっぱり、ロゼモンには敵わない。私の自慢の従姉だもの。今日も完璧に綺麗! 花の女王みたいな優しくて素敵な笑顔!
「ロゼモン一人で来たの?」
「ううん、メタルマメモンも一緒。ちょっと用事あるって……」
「メタルマメモンさんが用事って?」
「それがね、さっき入り口に花束が置いてあったの。それを見るなり彼ったら『リリモンさんはバラが入っている花束が好きだから。これは看護士さん達に差し上げましょうか』って」
 そう、ちょっと不思議そうにロゼモンは言った。
「花束……?」
「リリモンって、そんなにバラの花が好き? 私も好きだから嬉しいけれど……」
 そういえば。あの子達が持っていた花束には、バラの花は無かったような気がする。
 シードラモンも
「あ……」
 と小さく声を上げた。
 ――もしかして、メタルマメモンさんはあの子達のこと、前から知っているのかもしれない。ああ、でも……シードラモンがひどいこと言われていたことは知らないかも。内緒にしておいた方が平和よね。メタルマメモンさんが知ったらすっごく怒るかもしれないもの……。
 メタルマメモンさんはすぐに戻ってきた。人間の姿でスーツを着ていた。どこかに行った帰りにこっちに来てくれたみたい。
「お待たせしました。リリモンさん達も帰ってきたんですね」
 そう、メタルマメモンさんは何も無かったように言った。
「うん。シードラモンと散歩してきたの。今日はどうしたの? スーツなんか着て! 初めて見た! 似合うわ〜」
 メタルマメモンさんは苦笑する。
「ありがとう。静岡に行って来たんですよ。あそこの研究所から武器を勝手に持ち出しましたから。迷惑かけた関係各所合わせると相当な数、謝りに行かなくては……」
「大変なのね……」
「身から出た錆ですからしかたありません。自分の行動には責任を持って当然です……」
 謝りに行って気が楽になったみたい。メタルマメモンさんはあまり表情にも声にも感情入らないけれど……なんとなくそう感じた。
「ちょっと髪、切った?」
「え? ええ……これからこういう服の機会も多いだろうから、襟足などは切ってもらいました」
「ロゼモンに切ってもらったの?」
「ええ……時間かかって大変でしたけれど」
「そう?」
「ちょっと切るだけなのに、いちいちしゃがみこむんですよ」
 隣で聞いていたロゼモンが
「だって……」
 と顔を真っ赤にする。
 ――あー、はいはい。ごちそうさまでした、っと。
 見ているこっちが照れるようなラブラブぶりが羨ましい。悔しいので話題を変えることにした。
「ロゼモンから聞いたんだけれど、花束のこと、ありがとう。私、やっぱり花束にはバラが入っていた方が好きよ」
「そう。良かった」
「でもね。もうあの花束の送り主からは届かないと思うわ」
「え? ――何かあったんですか?」
 私はシードラモンを見上げた。
「んーと……内緒の話。――ね?」
 シードラモンは顔を真っ赤にして何度も頷いた。
「内緒? 俺に知られたくないことですか?」
 メタルマメモンさんは変な顔をしている。
「そうよ」
「そう?」
「あと。ついでに言うけれど」
「何?」
「私とシードラモン、付き合うことになったから。っていうか、これから一生、ずーっと一緒にいてくれるんですって。ラッキー♪」
 そう言ったら、シードラモンが突然、
「えええっ!? そういう意味だったのっ!?」
 と、声を上げた。顔を真っ赤にしている。
 メタルマメモンさんは
「なんだ? いきなりプロポーズしたのか?」
 と、珍しく顔に出るぐらいかなり驚いている。
「そんな……あの……!? リリモンさんっ!」
 おろおろしているシードラモンに、私はわざと瞳を潤ませた。しおらしい声で、
「さっきの言葉は嘘だったの……? 十二回目の失恋がキャンセルになった!と思ったのに……」
 と言った。
「ええっ! 十二回目って……」
「あの時よっ! 忘れたとは言わせないわよっ!」
「え! そんな……俺、何てひどいことしたんだろう……ごめん……」
 メタルマメモンさんは物凄い顔で睨み、
「リリモンさんに何をしたんだ?」
 と、シードラモンに詰め寄る。
「え!? それは、そうじゃなくて! ええっと……」
「真実を白状しろ!」
 メタルマメモンさんはシードラモンをじりじりと壁に追い詰める。
「さあ、白状しろ!」
「な、何もっ! ――リリモンさん、リリモンさんっ!」
 私はにっこりと微笑んで、
「えー? 『リリ』って呼んでくれなきゃ、助けてあげなーい♪」
 と言った。
 ロゼモンは、というと。驚き過ぎた拍子にタネモンに退化して引っくり返っていた。転がるようにようやく起き上がると、
「ププゥ?(本当なの?)」
 と、私に訊ねる。
「んー? 本当の話よ」
 私は本気。きっと彼となら何でも上手くいくような気がする。
 元気になったら、まずはデートしよう。行き先はどこでもいい。彼が『女の子』と行ってみたかったところへ行こう。
 でも、まずは! ――まだ完成していないあのジグソーパズルを手伝ってもらおうっと……。


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《ちょっと一言》
 この話は頑張って書きました。どんなに書いても中途半端な気がしてしまったのですが、載せますね(汗)
 リリモンがもうちょっとかわいく書ければいいのですが・・・力不足を感じました・・・orz
 この二人を好きになってくれた、見守ってくれた方へ捧げます。な気持ちで書きました^^

[*前へ][次へ#]

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