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カフェ『皐月堂』へようこそ(レナルキ他)
『彼』、再び 後編 Side:LILIMON
 気付くと、私はベッドの上に寝かされていた。今まで使っていた病室じゃなく、とても小さい。
 ――ううん、それは違う。むしろこれが本来の普通のサイズの病室だ。
 誰かの話し声が聞こえる。ロゼモンみたい。他にも誰かいるみたい。たぶん……メタルマメモンさんかも……。
 私は重い瞼を開いた。
 ――眠いよ……。
 すごく眠いけれど、とにかく起きなくちゃ。寝ている場合じゃない!
「リリモン……?」
 声がした。ロゼモンがベッドに身を乗り出すように、私の顔を覗き込む。
「リリモンさん! 大丈夫ですか? 俺達が判りますか?」
 やっぱり、メタルマメモンさんがいる。今は人間の姿。声……当たったわ……。
 そしてもう一人、デジモンがいる。
「リリ……」
 私の枕元から少し離れた場所に、彼は立っていた。
 ――どうして!?
 私は混乱した。一気に眠気が吹き飛んだ。
「なん…で……」
 私の声なのに、そうじゃないみたいに歪んで震えた。
「リリモンさん?」
 メタルマメモンさんが気付き、彼に告げる。
「リリモンさんは疲れているから、ゆっくり休ませてあげよう。疲れが取れたら、また一緒に話が出来るから。いいな? 解ったか? シードラモン?」
 その言葉は、私にショックを与えるには充分過ぎた。
 ――シードラモン? 嘘でしょう? 嘘じゃないの? 本当に?
 彼を外に連れ出して、すぐにメタルマメモンさんは戻ってきた。
「外に椅子があるから、そこに……。ベルゼブモン先輩もいるんですよ」
 と、私を安心させようと話してくれた。
 ぽろっと、涙が零れた。
「リリモンさん!?」
「リリモン?」
 メタルマメモンさんとロゼモンが心配して声をかけてくれるのに、私の目からは後から後から涙が零れる。
「どうしたんですか?」
 メタルマメモンさんに訊かれても、
「どうしたらいいの……」
 と言うしかなかった。
「え?」
「解らないの……」
「解らない?」
 ――シードラモンが『彼』だったなんて……!
 混乱した。頭の中がぐちゃぐちゃになる。
 ――私が失恋した相手だったなんて……!
 初めてシードラモンに会った頃、戸惑っていた彼の様子を思い出す。そういうわけだったから? 二度と会いたくない私を助けなくちゃいけなくなったから? ロゼモンの従妹だから?
 ――ああ、どうしたらいいっていうのよっ!
 私……ずっと、シードラモンの記憶が戻ればいいって思っていた。でも……でも、私と会ったことがあるってことまで思い出したら、もう、『リリ』って呼んでくれないじゃない! もう……こんなに仲良くなんかしてくれないじゃないっ!
 体を思うように動かせない私の涙を、何度もロゼモンはタオルでそっと押さえるように拭いてくれた。
「リリモンさん……。何か、とても事情があるようですね。落ち着くまで、シードラモンにはここに来ないように言いますから……」
 メタルマメモンさんはそう言い、外に出ようとする。
「待って……」
 呼び止めると、
「リリモンさん?」
 すぐにメタルマメモンさんは振り向く。
「私……彼のこと、知っているの……」
 思い切って言ってしまった。
「え? やっぱり知り合いだったんですか?」
 メタルマメモンさんは、ほっとした顔をする。けれど、
「私、振られたの……」
 と言ったら、メタルマメモンさんは目を丸くして、次には突然、怒り出した。
「何でっ! 訳が解らない! リリモンさんが振るんだったらともかく、アイツが振るなんてありえない!」
 烈火のごとく怒る、って、こんな時に使う言葉かも。とにかくメタルマメモンさんは今にも病室の外に飛び出してシードラモンに殴りかかりそうなぐらい、怒っている。そんなに私のために怒ってくれるなんて……と申し訳なくなる。
「違うの! ……彼は悪くないの……私がいけないの……」
「リリモンさん?」
「お願い、怒らないでっ! 彼は本当に悪くないの!」
 私は懇願する。
「どうしたらいいのか解らないの……知られたくない、思い出して欲しくない……。だって……私のところからいなくなりたくなるぐらい、彼は私のこと嫌いだったのよ……」
 メタルマメモンさんは近くに置かれていた丸椅子を引き寄せて座った。
「リリモンさん。――今の気分はどうですか?」
「最悪よ……」
 メタルマメモンさんは
「そう……」
 と頷く。
「そうでしょうね……俺の友人のことで悲しませてしまってすみません」
「メタルマメモンさんが謝ることないじゃない……私が勝手に悲しんでいるだけだもの……」
 八つ当たりするように言ったのに、メタルマメモンさんはそんな私の態度を怒らずに苦笑する。
「それでも……その悲しみの原因がアイツのことなら、やっぱり俺は謝るべきでしょうから」
 私は溜息を吐いた。
「ほんと、憎らしいほどメタルマメモンさんってデキの良いデジモンだわ!」
 そう吐き出すように言うと、私の気持ちはいくらか落ち着いてきた。
「八つ当たりして……ごめんなさい……」
 そう言うと、メタルマメモンさんはまた苦笑して、
「リリモンさんの良いところは、カッとなっても悪いと思ったらすぐに謝ることが出来るところだと思いますよ」
 と、年上らしいことを言う。
「謝るぐらいだったら怒らなければいいのに、とか思わない?」
「思いません。怒ることである程度のストレスを発散するものです。そういう風に出来ているんです」
「ふーん……」
 メタルマメモンさんって、私達の見えないところで怒っていたりするのかしら?
「それに、八つ当たりしてくれるぐらい俺のことを信用してくれるんでしょう?」
「……うん……」
 ほんと、その通り。
「今話せそうなら、話を聞きます。話せそうになかったら、後であらためて聞きますから。どちらでも気が楽な方を選んで下さい」
 そう言われた。
「うん……」
 私は考える。けれど、どっちが良いのか解らない。
「今、言うわ」
「では、聞きます」
 メタルマメモンさんは私を促す。ロゼモンもじっと私の話を聞こうとしてくれている。
「私ね、彼と会ったことがあるの……」
 ぽつりとそう言う。メタルマメモンさんはロゼモンと一瞬、顔を見合わせる。それから私に
「いつですか?」
 と訊ねた。
「いつ……かな? ええと……買い物に行った日なの……」
「買い物? いつ頃?」
「夏のバーゲン……新宿の……」
「そう? バーゲン……? 初めて会ったのがバーゲン?」
「違うの……買い物した後だったの」
「なるほど。それで?」
「荷物いっぱいで。私、彼とぶつかって、尻餅ついて……」
「え? 大丈夫でしたか?」
「ええ……彼が買い物したものとか持ってくれたの。その後、買い物して……お茶して……」
 私の話を聞いているうちに、メタルマメモンさんは変な顔をした。
「初対面で? 一緒に買い物するものなのですか?」
 そう言われ、私は顔を赤くした。
「手が痛い振りをしたの……だから……」
「ああ、なるほど」
 メタルマメモンさんは納得したようで大きく頷いた。
「アイツだったらそうしますね」
「……う、ん……」
「え? 怒りましたか?」
「ううん、違う。私、すごく反省したの。嘘ついて彼に買い物つき合わせて……それなのに彼は嫌な顔をしなくて……」
「そうでしたか……アイツらしい」
 メタルマメモンさんは苦笑いしている。
「それで? 今聞いた状況では、とてもリリモンさんが振られるとは思えませんけれど?」
「それは……」
 あの時の気持ちを思い出して、私は辛くなった。
「雨が……」
 今でも覚えている。あの、雨の日……。
「え?」
「雨が降ったの。だから……彼を傷つけた……」
「雨が降った? 傷つけたって……まさか殴った?」
「違うったら、もう! 私……雨が降ればいいって思ったの。彼に言ったわ。カフェで……そうしたら、雨が降って……」
「雨が?」
「とても激しい雨で、そこで雨宿りして……」
「それで? そんなに都合良く雨が降ったんですか?」
「ええ……その後に、私、それがとても力の強いデジモンのやったことだって思って、彼に言ったの。そうしたら……」
 ガタン、と大きな音がした。メタルマメモンさんが立ち上がったので、たぶん椅子が倒れたんだ。
「メタルマメモン……!」
 ロゼモンも呆然としている。二人とも、何だか様子が変だ。
「アイツが降らせたんですか? そんなに激しい雨を……自分の都合で!?」
 メタルマメモンさんは真っ青な顔をしていた。
「このことは、他には誰にも? まだ言っていませんか?」
 激しく言われ、私は驚く。
「ええ、もちろん……」
「じゃあ……」
 と、メタルマメモンさんが何か言いかけた時、
「『じゃあ』? どうするつもりだ、オマエは?」
 と、ぶっきらぼうな声が響いた。
「先輩!」
「ベルゼブモン……」
 私は驚いた。病室のドアが開いて、ベルゼブモンが大股でこちらに来た。ベルゼブモンの隣には彼がいる。彼は私達の緊張した顔を、不思議そうに見ている。
 ベルゼブモンは隣にいる彼をちらりと見る。
「廊下に一人ほっておくわけにもいかねぇだろ? 危険なデジモンだと位置付けるなら、どんだけ高いランク付けられるか解らねぇからな」
「危険?」
 私は何のことか解らなくて、問いかけた。
「『気象を含め自然災害を引き起こす恐れがあり、なおかつその力を自身でコントロールすることが難しい』――そういうことになる。まだ解らないか? リリモン? 体の構成データの書き換えだけじゃねぇんだぞ?」
 私の体は震えた。まさかの事態に、頭が真っ白になる。
「だって……それは……今さらじゃない? あの戦いの時だって、水を操っていたじゃない?」
「ウイルスにより力が暴走に近い状態まで強化されていたというなら、ウイルスが取り除かれている今、問題にはならねぇ。――だが、それ以前にもうそこまでの力を得ていたなら、話は違う。
 ――おい、シードラモン。ついて来い」
 ベルゼブモンは踵を返し、私達に背を向けた。
「先輩っ!」
 メタルマメモンさんが悲鳴のような声を上げた。
「何て声出すんだ? 落ち着きやがれ」
「だって……それじゃ……!」
「黙っていられるのならオマエもついて来い。それが出来ねぇなら、俺だけで充分だ――」
 メタルマメモンさんは肩を震わせた。
「いえ……大丈夫ですから。俺も同行しますっ!」
 私は彼らに体を向けた。激痛が走る。
「待って……」
「悪いが、これ以上の話は出来ねぇ」
「待ってったらっ! シードラモンをどこに連れて行くのっ!」
 ベルゼブモンは振り向かない。
「一時的に十二神将達に預ける。こうなった以上、オマエの前でうろうろさせておくわけにはいかねぇ。後は……四聖獣達やファンロンモンが決めることだ。もはやDNSSである俺達がどうこう出来る範囲を超えている。……悪く思うなよ、リリモン」
「ベルゼブモン――!」
 私は悲鳴を上げた。
 同時に大きな破裂音が聞こえた――。
「――!?」
「何だ?」
「今のは!?」
 私も含め、皆が身構える。
 メキメキという嫌な音も聞こえる。閉じているドアの隙間から、浮かび上がるように何かがこちらに侵入して来た! ううん、『浸入』だ。だって、それは水だったから――!
 ――まるで生き物!
 とっさに思った。そして、廊下に水道があったことを思い出す。
「オマエら。その場で動くなっ!」
 ベルゼブモンが鋭く叫んだ。そう叫んだベルゼブモンもぴたりと立ち止まり、動かない。
 ドアの隙間から入り込んだ水が、一瞬、空中で身構えるように静止した。水滴の数々が一気に凍り始める!
 ――うそっ! ベルゼブモンを攻撃するのっ!?
 水は氷へと変化し、一斉にベルゼブモンへ襲いかかる!
「やめて――――!」
 私は叫んだ。



 この場の全ての音が止まったようだった。無音だった。
 ぎゅっと閉じた瞼を開くと、ぼやける視界に、再生中の映像が一時停止されたような光景が見える。
「……!?」
 ベルゼブモンの周囲に、細い針状の氷が無数に向かったまま、止まっている――!
 私の体は小刻みに震えていた。
「これを……やったの? 嘘でしょう? シードラモン!」
 シードラモンは黙っている。驚いたり、動揺したり、憎しみや悲しみさえも無く、ただ、少し穏やかな、普通の顔をしている。
「リリモン、解ったか? これではっきりしただろう?」
 恐ろしい攻撃を受ける寸前だったのに、ベルゼブモンは全く動じていない。
「無意識のうちにリリモンの声に反応して、俺を攻撃したぞ。――どうだ?」
 私はようやく、ベルゼブモンが何をしようとしたのか気付く。
 ――部屋の外に、誰かがいるの?
「確かにこの目でしかと見た。――見事なものだ」
 ドアが開き、青い衣をまとった老人が姿を現した。中国風のその服は刺繍が施され、豪華だった。
 四聖獣のうちの青龍――チンロンモンだとすぐに解った。
「リリモン、怯えなくともよい」
 そう言われた。
「確かに危険極まりない。だが、シードラモンをリリモンから離すことはもっと危険だと我は判断する。ファンロンモンにはそう、我自ら申し上げよう」
 私は全身から力を抜いた。ベッドに沈み込む。
「良かった……」
 ベルゼブモンの周囲に出現していた氷の針は瞬時に消えた。ベルゼブモンは何事も無かったかのように首を鳴らし、
「面倒のかかるヤツラだぜ」
 と言った。
「お主も見事! リリモンの行動も予測して、動かないという究極の構えを貫くとは……さすが!」
 チンロンモンはベルゼブモンをそう誉めた。
「面倒臭ぇと思っただけだ」
 ベルゼブモンはわざとらしく言った。
「先輩……ありがとうございます!」
「ありがとう、ベルゼブモン! 助かったわ!」
 メタルマメモンさん、ロゼモンに続き、私もベルゼブモンを見上げる。
「ありがとう!」
 ベルゼブモンはひょいと肩を竦める。
「礼ならチンロンモンに言え。通りすがりでも異常な戦闘能力の増大に気付いて駆けつけるんだから……よ」
 態度が大きいわりにベルゼブモンはチンロンモンに感謝しているみたい。
「早急に、シードラモンがどれほどの能力を秘めているか調べさせよう。もちろんその場合は、リリモンに立会いを願うぞ」
 私は心配になって訊いた。
「シードラモンはどうなっちゃうんですか?」
「どうもならぬ」
「え……?」
「牧野留姫という人間の娘も言っていたな……我ら四聖獣がシードラモンのようにデータを変えた者を『処刑する』という、変な話になっておるそうだが、誰が言い出したのやら……」
「それじゃ……!」
「我らはそうなった者達が強大な力を悪用せぬよう、目を光らせるだけ。それ以上のことはせぬ」
「本当ですか?」
「しばらくは十二神将の誰かに教育係をさせよう。――さて、さて。夕飯の買い物があるので失礼する」
 チンロンモンはそう言い、穏やかな笑みを浮かべて部屋を出て行った。
「四聖獣が自ら夕飯の買い物って……そりゃ、無理があるだろーよ。もっとマシな嘘つけって……」
 ベルゼブモンが肩を竦めた。
「え? じゃあ……」
 ロゼモンがびっくりして訊くと、ベルゼブモンは頷く。
「こういう事態があるんじゃないかと、こっそり俺達の様子を見に来たんだろ? まあ、誰かの差し金かもしれんが」
「ええ? じゃあ、まさかファンロンモンが!?」
「ああ、その可能性もあるんじゃねぇか? タイミング良過ぎるからな……。けれど立場上、アイツらは表立って動くことは出来ねぇ。偶然だと言い張るしかねぇんだ」
 ベルゼブモンは頷いた。そして、
「……で? オマエはそろそろ、自分の記憶が戻ったことを言ってもいいんじゃねぇか?」
 と、言った。
 ――え?
 私は驚いてシードラモンを見つめた。
「記憶……戻っているの? じゃあ、今さっきの攻撃は? わざと……記憶戻っていないふりをしていたの?」
 彼は――とたんに、表情を崩して泣きそうな顔をした。
「何で解ったんですか……」
 メタルマメモンさんもロゼモンも、ぽかんとしている。
 ベルゼブモンはフンッと威張る。
「まだ記憶が戻らないなら、あんなわざとらしい小細工しなくてもいいだろ? 大根役者が。半べそかくな、情けねぇぞ?」
 ベルゼブモンは私をちらりと見て、
「俺達は席を外してやるから、言いたいことがあるなら本人に存分に言えばいい」
 と言った。
「先輩……」
 さっさと病室を出て行くベルゼブモンを、メタルマメモンさんとロゼモンが追いかける。二人とも、私のことをすごく心配している。
 ドアが閉まって、私はシードラモンと二人きりになった。
 シードラモンは泣きそうな顔のまま。まるで、あの日のように、
「すみません……」
 と言った。
「すみません、俺、記憶戻って……とても嬉しくて……それなのに、リリモンさんのことまた恐がらせて……あんな顔させるつもりじゃなかったのに……」
 私は、
「謝ること、ないじゃない……」
 と、ぽつりと呟いた。
「リリモンさん……」
「何よ、謝ればいいってもんじゃないでしょ? 謝って済むなら警察もDNSSもいらないでしょ!」
「す、すみません……」
「うるさいっ!」
 私はカッとなって怒鳴った。もちろん、同時に体がズキズキと痛んだ。
「う……っ」
「リリモンさん、大丈夫っ?」
「ほっといてよっ。『すみません』って、何よそれっ! 私の方が言いたかったわよ! 解らない? 突然帰られて……すっごく嫌な気持ちだったのよ!」
「す…すみま……」
「私、もっと一緒にいたかったのに!」
「え……」
「バカッ!」
 怒鳴りながら、私は自分にツッコミを入れた。無茶苦茶なことを言っている、と。心の中でもっと泣き喚いた。どうして私はいっつも、一緒にいて欲しいって思った相手に逃げられちゃうの?、って……。
 シードラモンはおろおろと、
「あの……俺も……」
 と口ごもる。
「何よっ」
「えと……」
「言いたい事があるならはっきり言って!」
「俺もあの時すごく……楽しくて……」
「嘘っ! 今さら信じないわよっ!」
「嘘じゃないんですっ」
「私のこと、振ったくせに!」
「振ったって……そんな、違うっ!」
「違う? 何が!?」
「だって、どうしていいのか解らなくなって……頭の中真っ白になって……だってリリモンさん、すごく…………かわいいから、その……」
 ――え……? ちょっと、今…信じられないこと言われたみたいだけれど!?
「嘘だ!」
「嘘じゃないですからっ」
「嘘つき!」
「違う、俺は……今なら俺のこと、す……好きになってくれるんじゃないかって……」
「ふざけんじゃないわよっ! 信じられないってば、そんなこと!」
「じゃあどうしたら信じてくれるんですか? 俺……俺……何でもしますからっ」
「だったら今すぐ! キスしなさいっ!」
 私は彼を睨み付けた。
「ひぇ――!?」
 彼は絶句して、更におろおろとする。
「え……あの……そ、そんな……」
「私のこと、ちょっとでも好きだって思うのなら、今すぐにキスしなさい! それぐらい出来るでしょ?」
「む…………無理……」
「無理ぃ!?」
 彼は、コクコクッと何度も頷いた。
「じゃあ、嘘なんでしょ!」
「ちが……ちがぅっ……」
 彼は、ふるふるっと首を横に何度も振る。
「今すぐっ!」
「そんな……!」
「じゃないと、嫌いになるからね!」
「そ……!? うぅ……!?」
 彼は顔を真っ赤にして、私に顔を近づける。
 私はちょっと強引過ぎたかなと思いながらも、ドキドキしながら目を閉じた。とたんに、
「やっぱり無理――――っ!」
 と、彼は叫んで、病室から猛ダッシュで逃げた。



 数分後、
「おーい。オマエ、何言ってコイツいじめたんだ?」
 ベルゼブモン達が戻ってきた。メタルマメモンさんが、べそをかいている彼を引きずっている。
「何があったんですか?」
「どうしたの? ケンカしちゃったの?」
 メタルマメモンさんもロゼモンも、私と彼を交互に見る。
「好きならキスして、って言ったら逃げたの。失礼しちゃうわっ」
 憮然としてそう言うと、ベルゼブモンは私に対して呆れた顔をして、メタルマメモンさんはシードラモンに対して「アホか……」と呟き、ロゼモンは顔を真っ赤にして両手で頬を押さえた。


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《ちょっと一言》
 リリモンの方が攻めっぽいなぁというイメージがあるのでこんな話になってしまいましたが、これからもシードラモンをおろおろさせてしまうことと思います。
 今後もお楽しみに^^

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