[携帯モード] [URL送信]

カフェ『皐月堂』へようこそ(レナルキ他)
動き出した時間 後編 Side:METALMAMEMON
 深く頭を下げたままの俺に、人間の姿の二人のデジモンは戸惑いがちに声をかける。
「とんでもない! こちらこそ、うちのタネちゃんが本当にご迷惑をおかけして……」
「うちのリリちゃんも! 何てお詫びしたら良いのか……」
 俺は瞬きして顔を上げた。
 ――うちのタネちゃん? うちの……リリちゃん?
 どうやら、タネモンさんのご両親というのは俺の勘違いらしい。タネモンさんの父親には会ったことがあるから間違えようがないけれど、タネモンさんの母親にはまだ会ったことは無かった。つまり俺の目の前にいる二人のうち、女性の方はリリモンさんの母親らしい。
 ――タネモンさんとリリモンさんは従姉妹で、タネモンさんの父親の弟がリリモンさんの父親だったっけ……。どちらにしても! タネモンさんの父親は仕事を休んでまで俺に会いに来たんだ。何を言われるのか覚悟しなければ……。
 俺は神妙な顔をして二人を見つめた。
「メタルマメモンくん」
「はい」
 タネモンさんの父親は俺に問いかける。
「きみは嘘をついているんじゃないのか?」
 と。
 ドキリ、とした。心臓が止まりそうになる。
「嘘?」
「本当のことを話してくれないか? もちろん、DNSSの守秘義務に当たるようなことなら聞くことは叶わないとは思うけれど……」
 と言い出した。
「本当のことですか?」
 その時々で嘘を吐き続けてきた俺は、ますます心の中で身構えた。けれど、
「DNSSでは、メタルマメモンくんがおとりになって犯罪を阻止しようとした、と聞いたのだが?」
 と言われて面食らう。
 ――え? 俺が……おとり?
 うちの総代表やクソジジイ達が俺のためにそんな筋書きにしてくれているとは思わなかった。確かにそうしておけば俺が犯人達の共犯だったということにはならない。
 ――収監されることも覚悟していたけれど……。
 けれどもそれを『嘘』とタネモンさんの父親は勘付いているのか? そうか……どんな理由であっても犯罪に加担した俺がタネモンさんと一緒にいることは認めてはくれない、と?
 俺は膝の上の拳を握り締めた。武器では無くノーマルのハンドパーツを仮に着けているその手を見つめ、夢の中でのことを思い出した。
「あの……」
 混乱しそうになる頭の中で、状況を整理しようともがく。
 それなのにタネモンさんの父親は、
「きみの危険な任務をタネちゃん達も成り行き上、手伝ったと聞いたけれど……」
 と言ったので俺はさらに混乱した。
 ――ええ? ああ、それは……そうしてしまった方がいいのか……。
 とにかく今の状況に合わせて臨機応変な返答をしようとしたが、タネモンさんの父親は溜息混じりに、
「それは――全部嘘ではないのか?」
 と言った。
 ――全部『嘘』? ええと、そう考えるとどういう状況と思っていることになるのか?
 仕方なく俺は、顔にも声にも出さないように
「なぜそう思うのですか?」
 と訊ねた。自分であれこれ推測するよりも、まずこのデジモンの考えていることを聞き出した方が早いと思ったから。
「メタルマメモンくん。きみはタネちゃんのためにザッソーモンを倒そうとしたんじゃないのか? そしてタネちゃんはきみが危険なおとり捜査をすると知って……追いかけてしまったんじゃないのか? 手伝うというより邪魔をしたんじゃないのか?」
「それは……」
 俺はどうしても、ザッソーモンを倒したいと思った。ヤツが許せなかった。タネモンさんを苦しめたヤツの存在を永遠にタネモンさんの前から消したかった。
「それは?」
「……あ……いえ……」
 けれどそれは、タネモンさんのためだけじゃない。自分のためでもある。ヤツの存在を恨む自分がしたかったことだ。タネモンさんがそう願ったことじゃない……。
 そして――どうしても犯人達を『データ抹消』したくて、それ以上に関わり続けた。タネモンさんのため、とだけ言うのなら、ザッソーモンが死んだ時点で引き返せば良かったんだ。
 ――いや。あの時にベルゼブモン先輩がケガをしていたから、それは出来なかった……。
 振り返れば複雑な状況だったとあらためて思う。俺は返答に困り、
「それは……詳しいことは守秘義務ですから今はお答え出来ません。けれど、タネモンさんもリリモンさんも俺達の邪魔をしていませんから。本当ですからどうか安心して下さい」
 と言うしかなかった。
 タネモンさんの父親は、もしもタネモンさん達が俺達の任務を妨害したとしたら、その罪に問われることを懸念しているのだろう。人間達の警察組織で『公務執行妨害』というものがあるように、俺達の組織においてもそれに該当するものがある。悪質と認められ、リアルワールドから強制的にデジタルワールドに帰された事例もある。
「そうか……」
 タネモンさんの父親は、俺の口からそれだけでも聞きたかったようだ。安心してはいるものの、まだ複雑な顔をしている。俺がタネモンさんをかばっていると思っているみたいだ。
 ――父親、か……。
 タネモンさんが羨ましい。俺の義父は仕事が忙しかったから、記憶にもあまり残っていない。もしも死んだ義父のデジコアが奇跡的に見つかって修復も出来て、再び会って話が出来るのなら……そう出来たら良いのに……。
 タネモンさんの父親は、タネモンさんがまだ入ったままのダンボール箱を優しい眼差しで眺めている。自分の愛娘がダンボール箱に入っているというのも、ちょっとおかしな状態なのに、不快には感じないのか?
「タネモンさんには後で、ダンボール箱じゃなくてもっとちゃんとしたベッドを用意しますので……」
 俺は申し訳なくてそう言った。せめて球根型デジモン用のベッドを、と思ったけれど、タネモンさんの父親は首を横に振る。
「幼年期デジモンの時はずっとダンボール箱が気に入っていてね。妻と『ヤドカリちゃん』と呼んで笑いあったものだよ」
「『ヤドカリちゃん』?」
 ――たくさんあるダンボール箱を吟味したり?
 その姿を想像して思わず、くくっと笑ってしまった。
 タネモンさんの父親は親馬鹿なようで、
「恥ずかしがりやでね、ダンボール箱を被って公園に散歩に行こうとしたり、ね……」
 と思い出話を楽しそうに話す。なるほど、と聞いていると、
「あの……ところでメタルマメモンくん……」
 と、ちょっと言いにくそうに
「うちのタネちゃんはとても……親の私が言うのもなんだけれど、本当に良い子に育てたつもりで……」
 と言われた。
「あ……はい、もちろん……」
 ――それは俺も、とーっても良く知っていますよ!
 と、心の中で言ってみる。
「それで……その、タネちゃんのこと、真剣に考えて欲しいんだけれど……ダメだろうか?」
 と、言われた! まさかそう話を振られるとは思っていなかった!
「はい!? し……真剣? 俺はいつでも真剣ですけれど?」
 ――真剣? どういう意味だ? あの……それは、その……俺はそんなに不真面目にタネモンさんに接しているように見えるのか?
「そうかい? そうだったのか! それはとても嬉しい!」
 タネモンさんの父親はほっとした顔をした。
 リリモンさんの母親もとても嬉しそうだ。
「『あんなに人気者だったら……』ってとても心配したんですよ。義兄さんったら『どうしよう、どうしよう……』っておろおろして……」
 ――人気者?
 俺はますます首を傾げた。
「知らないのかい? まだ廊下にある花は見ていないのかい?」
 ――花?
 そういえば、さっきから花の匂いがするので気になっていた。センサーの機能が正常に戻ったから気付いたことだけれど、花畑でもこんなに匂わないんじゃないかと……。
 ――花畑?
 何だかとても嫌な予感がする。
「失礼しますっ」
 と言ってベッドから飛び降りると、ドアを開けて廊下へ走り出た。視界に飛び込んできた光景に、
「ぐは……っ!」
 思わず潰れた声を上げた。
 廊下の片側半分に、おびただしい数のバケツに入った花束の数々が並べられている――。
「まさか、これ……」
 俺が目を覚ますまで、タネモンさんは見舞いの花束の世話までしてくれていたらしい。
 ――っていうか、これだけの数があると、くれたデジモン達、人間達には悪いけれど三途の川の花畑みたいだな……。
 率直な感想は心の中だけで呟いた。しかもどの花束も、珍しいことにバラの花が全く見られない。通常の花屋ならバラは華やかになるから入れると思う。――だからつまり、ここにある花束は全て、ロゼモンさんに対抗意識を持っているデジモン達からの贈り物というわけだ。
「申し訳ありません……」
 俺は病室に戻ってタネモンさんの父親達に頭を下げた。
 ――そりゃ、自分の娘が彼氏宛てに届いた大量の花束の世話をしていたら不憫に思うだろう……。
 花は、医師からの指示でなるべく病室に置かないようにと言われたらしい。
「お見舞いにいただいた生菓子はタネちゃんがいただいたり、看護士さんや他の病室の方にお裾分けしたらしいよ。タネちゃんとはちゃんと話が出来ないから看護士さん達から聞いたんだけれど」
 と言われた。
「そうしていただけて良かったです。タネモンさんには後でお礼を言います。本当にご迷惑をおかけしました」
 俺はまた深く頭を下げた。同時に、ふと、
「タネモンさんも人気ありますよ?」
 と思ったことを言ってみた。
「え? そうなのかい?」
 どうやらタネモンさんの父親は、タネモンさんのファンクラブがあることなどは知らないらしい。
 ――それは平和なことだ。ずっと知らないままでいた方がいい。
 俺は心の中で深く溜息をつく。タネモンさんのあの過激なファンがこの優しいデジモン達に何もしないのは喜んでいいことだ。
「タネちゃんが退化して、言葉が通じなくて大変だろう? 私達も苦労してね……」
 と言われた。リリモンさんの母親も
「プープー言われても、ちっとも解らなくて……」
 と苦笑している。
「俺、さっき普通に話しましたけれど?」
 俺は首を傾げた。タネモンさんの父親達なんだから当然言葉が通じるものだと思ったのに、違うらしい。
「え? 本当っ?」
「本当に?」
 とても驚かれた。
「はい。幼年期・球根型デジモンの言語翻訳ソフトはインストールしていませんが、会話に不自由は感じませんでした」
 そう言うと、二人は顔を見合わせて大喜びしている。
「それは助かる! うちのタネちゃんは幼年期で過ごした期間が短かったから言葉の発達が遅くてね。今まで幼年期まで退化することもあまりなかったから……。せっかく様子を見に来ても言葉が通じなくて困っていたんだ」
「すごいわ! メタルマメモンさん!」
 そこまで言われ、さすがに、
「いいえ、たまたまだと思いますけれど……」
 俺は恥ずかしくなった。急いで話題を変えようと、問いかける。
「今回の事件で他には被害に遭われませんでしたか? ご親戚の方など、ご無事でしたか?」
 と訊ねると、
「実は妻が足を痛めてね……」
 という予期せぬ答えが返ってきたので驚いた。
「え? そうだったんですか?」
「ああ、でもほんのちょっとのケガで……すぐに直るだろうから心配はしないでいいんだ。それよりもきみのことが心配だったから……」
「俺のことですか?」
 意外なことを言われ、戸惑う。
「きみが大怪我しているのに、ご家族は誰もこちらにいらっしゃらないようだから……」
 俺は苦笑した。どうやら俺はとても不憫に思われていたらしい。
「いえ、俺は大丈夫ですから……。恐らく忙しいんでしょう。義姉のこともありますし……」
 ――どうせそのうち、クソジジイが来るだろうし……。
 タネモンさんの父親は少し表情を曇らせた。
「リリスモンさんのことだが、その、確かきみとは……」
 ――あ。それも言っておかないと。
「うちの祖父が義姉と俺を婚約させようと考えていましたが、義姉は元から俺のことはそういう対象には思っていなかったんです」
「そうだったのか……」
 タネモンさんの父親はようやく、心底安心した顔をした。
「以前会った時も感心したが、きみはとてもしっかりしているね」
「いいえ、そう言われるほどのことはありませんから。俺は……タネモンさんがいなかったら今、ここに生きていないと思います」
「メタルマメモンくん……」
「これは本当のことですから。俺はタネモンさんに本当に感謝しています」
 タネモンさんの父親は自分の娘を誉められて嬉しそうだ。
「メタルマメモンくん、これからもうちのタネちゃんと仲良くしてやってくれないか?」
 そう言われた。
「は……?」
 ――えええっ!?
 まさか、ここでそういうことを言われるとは思わなかった。落ち着け、と心の中で念じながら、ここでちゃんと言わないと、と思った。意を決して
「そのことですが、また日を改めてお話をしたいことがあるんです」
 と言うと、
「えええっ!」
「ええ――!」
 タネモンさんの父親も、リリモンさんの母親も突然声を上げた。丸椅子から立ち上がって、ベッドの上に正座している俺に詰め寄る。
「うちのタネちゃんはとても良い子なんだよっ!」
「メタルマメモンさん!」
 俺はその勢いに唖然として、返答に困った。
「あの、その……それはさっき、タネモンさんにも話をしたのですが……」
「ええっ!」
「そんな、ひどいっ!」
 ――ええ!って? 俺ってそんなにタネモンさんのことを真剣に考えていないように見えるのか?
「いえ、誤解しないで下さい。あの……後できちんとした形でご挨拶に伺うべきだと思いますし……。ええと……菓子折りとか持参して、とか……」
 ようやくそこまで言うと、タネモンさんの父親もリリモンさんの母親も、もっと驚いた顔をした。
「そ……それは本当?」
「まあ、良かった!」
 ふと、視線を感じた。
 ――ん? あっ!
 床の上に置かれているダンボール箱の蓋はいつの間にか開いていて、タネモンさんがこちらを見上げていた。
「おはようございます。あの……さっきの話は後でちゃんと続き話しますから……」
 タネモンさんは微笑み、
「ププゥ……ルー!(嬉しい……ありがとう!)」
 と嬉しそうな声で言った。
「そう言っていただけると嬉しいです」
 そう、俺は言った。
 が、


「許さ――――ん! わしゃ、大反対じゃ――――!」


 と、怒鳴り声が響いた。
「……!」
「え……?」
「あの……?」
 バーンッとドアを開け放ち、そこにクソジジイが立っていた。その後ろには、「あちゃー」と額に手を当てているDNSS関西支部総代表・メタルガルルモンが見える。どちらも人間の姿だ。
 ――ああ、まったく! こういう登場をするかもしれないとは思っていたよ! 予想の範囲内だ、クソッ!
 俺は、驚いているタネモンさんの父親、リリモンさんの母親ににっこりと笑いかける。
「申し訳ありません。――老人のたわ言です。どうぞ気にしないで下さい」
 心配して俺を見上げるタネモンさんにも、微笑みかける。
「いいえ――貴女は何も気にしないで下さいね?」
「プルッル?(ええ? でも……?)」
 俺は彼らに深く頭を下げた。
「……ちょっと失礼します。――タネモンさん、ここにいて下さいね?」
 彼らを病室に残し、俺はクソジジイを無言で睨み付けて追い出し、自分も廊下へ出ると、ドアを後ろ手にぴったりと閉じた。
 ふぅ、と息を吐き、吸う。その短い呼吸のうちに、俺の感情は一気に沸点を超えた。
「おい、クソジジイッ! どーいうつもりだっ! 邪魔すんなって何度言わせる!」
 クソジジイは目を血走らせる。
「何度でも邪魔したるわっ!」
「モウロクジジイは引っ込んでろっ!」
「引っ込んでいられるかっ! あの可憐なお嬢さんをオマエのようなバカ孫にまかせられるか!」
「上等だっ! そんなに俺が信用出来ないのかよっ!」
「今のそーいう性格のオマエのどこをどう信用しろと言うんじゃっ!」
「誰のせいでこーいう性格になったと思っていやがるっ! あの社名もあのキャラクターも、いいかげんに変更しやがれ、公私混同ジジイがっ!」
「甘ったれたヒヨッ子に言われとぅないわっ! 今回の事件で思い知った! あの純粋で可憐なお嬢さんの幸せを考えるのなら、とにかく大反対じゃ! 全身全霊で、仲、引き裂いたるぅっ!」
「んだとぉ、コラッ! オモテに出やがれっ! 三途の銭ぃ渡してやるっっっ!!」
 怒鳴り合う俺達に、
「やめろ。ここは病院だ」
 と、うちの総代表が仲裁に入った。
「何でこんなところにクソジジイを連れて来るんですかっ!」
 そう非難の視線を向けると、
「私もオマエにゲンコツ食らわせたいと思っていたからだ」
 と言われた。総代表の目は笑っていなかった。
「自分の命を粗末にする者に他者の命を守ることが出来ると思うか?」
 その言葉は俺の心に深く突き刺さる。昔、総代表が死んだ息子のことを話して下さった時に俺に言った言葉だったから。
「申し訳ありませんでした――」
 俺が総代表に深く頭を下げたので、クソジジイはとたんに焦り声で
「いや、待て……待ってくれ! このコはちゃんと反省をしているから……」
 と言い出す。
 ――まったく。いつまで経ってもジジイ馬鹿だな……。
 俺は心の中でそう言ってやる。
「オマエは本当にまっすぐだな」
 総代表は笑う。今度はちゃんと目も笑っている。
「これからどうするつもりだ?」
 問われ、俺はきっぱりと言った。
「俺を信じてくれたタネモンさんのために生きようと思います」
 総代表は大きく頷く。
「そうか……。――いや、わしはまだ全面的に賛成してはおらんっ!」
 クソジジイはそう言いながらも目に涙を浮かべる。
 ――幸せなヤツだ、俺は……。
「全て捨てるつもりでした。切り捨てるつもりで……出来ませんでした」
 俺の言葉を総代表は聞き、そして言った。
「そう思う自分と正面から向き合うことだ。――逃げるな」
「はい」
 俺はその言葉をしっかりと胸に刻みこんだ。自分の正直な気持ちに向き合うことは勇気が必要だ。けれど、俺を信じてくれたタネモンさんのために俺はそうすることを恐れてはいけない。
「そういえば、先ほど――俺は『おとり作戦』を遂行していたと聞きましたが……」
 そう言うと、総代表もクソジジイも笑った。
 総代表は、
「元気な顔を見てこれで一安心だ。すまんがもう戻らなくては……」
 と言い、クソジジイを急かす。デジタルワールドとリアルワールドの時間の流れの格差が安定しないので、すぐに戻らなくてはならないと言う。
 総代表から紙袋を渡された。中を覗くと服が入っていた。俺が気に入っているブランドの服だ。他に靴や靴下も入っている。下着はもちろん替えもあるようだ。
「見舞いだ。受け取れ」
「ありがとうございます」
 ありがたく受け取った。これで人間の姿になれる。
 クソジジイは改めてタネモンさんの父親達に挨拶をしてくれた。タネモンさんの父親達は心配していたが、少し安心したようだ。クソジジイが俺よりもタネモンさんの心配をしていることに恐縮していた。
 クソジジイ達、そしてタネモンさんの父親達がリアルワールドへ帰るというので病院の前まで出て見送った。
 リリモンさんの母親が
「うちのリリちゃんはまだ入院していて……」
 と病室がどこにあるのかを教えてくれた。重傷なのでまだベッドに寝たきりだと言う。意識はあるので、タネモンさんは毎日お見舞いに行っていたらしい。
「その……シードラモンさんというあのデジモンは、メタルマメモンさんのお友達なんですよね?」
「ええ、まあ…そうですけれど、会いましたか?」
「ええ、リリちゃんと同じ病室なので」
「え? そうなんですか?」
「それが……リリちゃんがいないと暴れ出すと言われましたけれど……」
「アイツがそんなご迷惑をおかけしているんですか!? 申し訳ありません!」
 俺は仰天した。リリモンさんの母親は大きく首を横に振る。
「リリちゃんを助けて下さったと聞きましたから、本当に感謝しています。暴れたり、記憶が無いのもウイルスのためだと聞きましたし……」
 隣で聞いていた総代表が難しい顔をして頷く。
「シードラモンのウイルスを取り除くためにはまだ時間がかかるらしい。出来ることなら記憶も戻せればいいのだが、まだどちらとも言えない状況らしい」
「そうですか……」
 リリモンさんの母親はとてもシードラモンを気にしている。なぜなら、
「うちのリリちゃんがシードラモンさんのことをとても好きみたいなので……」
 というわけで。
「シードラモンさんって、どんなデジモンなんですか?」
 訊かれて、俺はとりあえず、
「気が優しいヤツですよ。あと、勘がいい時もあります。シードラモンもリリモンさんのこと好きみたいですが……でもご迷惑なようなら、俺から説得して諦めさせますけれど……」
 アイツの部屋の散らかりよう、だらしなさを思い出した。アイツは確かに俺の一番の友達だ。けれど、とてもじゃないが自分の恋人の従妹に紹介したいとは……アイツには悪いが、やっぱり思えない。
 それなのに、
「ええっ! 迷惑だなんてちっとも思いませんから! リリちゃんがあんなにポンポン言う言葉を全部ちゃんと聞いてくれる方がいるなんて、私、とても感動したんですよ!」
 ――は?
「そうですか?」
「ええ、あんな素晴らしいデジモンがいるなんて! 感激です!」
 ――そんな風に言うと自分の娘の立場が無いですよ?
 俺はリリモンさんの母親に、リリモンさん達のお見舞いに行くことを約束した。
 彼らを見送ってから、俺はタネモンさんに提案する。
「これからまず、義姉上のお見舞いに行きませんか? その後にリリモンさん達のお見舞いに行きましょう」
「ピィプッ!(そうね! リリスモンさんもリリモン達も喜ぶわ!)」
「ファントモンのことも気になりますし……」
「プルゥ♪(とても食いしん坊のいい子よ♪)」
「食いしん坊? 食欲はあるんですね? それならいいですけれど」
「プップゥ……(きっとメタルマメモン、驚くわよ……)」
「え……? そんなに食欲あるんですか? そう?」
 話しながら病室へ戻ると、
「タネモンさん、ちょっとそっち向いていて下さい」
 と壁を指差した。
「プ?(どうしたの?)」
「人間の姿になります。そっちの方が便利ですし、タネモンさんを運ぶことも出来ますし」
「プゥ!(わぁ! 抱っこ? 恥ずかしい……)」
「でも便利でしょう?」
「ププゥ……(ええ……)」
 タネモンさんは不思議そうに俺を見上げる。
「プルゥ?(でも、どうして? そのまま人間の姿になればいいでしょう?)」
「形状の記録部分がすっ飛んでいて、衣類のデータ無いんですよ」
 言ったとたん、タネモンさんは病室の外へ全速力で逃げて行った。
「……外に逃げなくてもいいのに……」
 とりあえず、さっさと人間の姿になって服を着ることにした。



 看護士から許可をもらい、タネモンさんと売店で花を買うことにした。
 売店前で、ベルゼブモン先輩とロップモンさんにばったりと会った!
「なんだ!? オマエ、いつデジタマから進化したんだ?」
「今朝です」
「何っ!」
 俺の見舞いの後に義姉上のところにも顔を出すつもりだったという。それなら、と皆で義姉上のお見舞いに行くことになった。
「先輩もずっと入院していたんですか?」
「ああ、リアルワールドでずっと入院していた。おかげで体がなまった……」
 そう答える先輩の隣でロップモンさんが小声で笑っているのが気になる。
「何かあったんですか?」
 事情を聞いてみると、先輩は治療のために退化しなければならなくて、その間ずっとアイさんから隠れていたらしい。毎日のように見舞いに来るので大変だったという。
「どうしてです? 会えない事情でもあったんですか?」
「オマエはアイの性格を知らないからなぁ」
「性格?」
「知らんでいいことに首をつっこむな」
「はぁ……」
 花束を双葉で器用に抱えるタネモンさんも小声で笑っている。そのタネモンさんを抱え、腑に落ちなくて俺は首を傾げたけれど、誰もその訳を教えてくれなかった。


----------


《ちょっと一言》
 メタマメの話はずいぶん書きましたが、こんなハッピーエンド的な流れになったのも彼を好きだと言ってくれる方達のおかげです。
 ところで『デジモン公式超図鑑』だと、タネモンは「暗いところが嫌い」と書いてあるのに、地面に穴を掘って隠れる、という記述もあり、どっちなんだ?と思いましたが、『皐月堂』では「オバケ屋敷のような場所は嫌い」という程度かなと考えています。 いつか遊園地ネタとかもやってみたいです(笑)
 これからも見守ってやって下さい^^

[*前へ][次へ#]

15/71ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!